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§2 動力特性の測定方法
鉄道車両の動力特性を測定方法について考えて見よう。 自分の考えた理論が正しいのかどうかを証明しておく必要がある。 また、実際の鉄道模型車両について、その特性を把握しておくとことは、蒸気機関車などの動力車の多重連走行を楽しむ喜びが増えると思われる。 また、製品毎にばらついている性能や、調子のおかしくなった車両の状態把握のためにも、 車両の動力特性の測定方法を確保しておくのも良いのではないかと考え、チャレンジすることにした。
測定項目としては、牽引力と速度との関係を調べる必要があり、また、大切な模型車両には切ったり張ったりする工作を一切加えず、そのままの状態で測定できる事を大前提とする。 このような模型車両の動力特性を測定する道具は、今まで市販されていないと思われる。 それは、そのニーズが無かったのと、商売にはならなかったためではないだろうか。 このために、このような装置は自分で製作する必要があった。
アイディア1) 専用の測定車を作り、測定車を牽引させながら測定する。
カプラー部分で牽引力を計測し車輪の回転数などから車速を測り、そのデータを無線で飛ばす。⇒ 自分のホビーの技術力と資金力では実現不可能であり、このアイディアはボツとする。
アイディア2) 傾斜線路を走行させ、その時の車速を測定する。
直線の傾斜線路を往復走行させ、自車の車両重量や連結車両の重量による負荷から牽引力を計算する。 車速は、マーキング区間の通過時間から計算する。 直線線路の往復走行のために、TOMIXの自動運転装置を活用する。 ⇒ 実際にトライしてみたが、測定の手間が掛かる事、往復走行間に車両の走行特性がばらついて、データの信頼性が薄いように感じられた。
アイディア3) 自動車のシャシーダイナモのようなベンチテスターで測定する。
模型車両を定置させて、外部に設置した測定道具で必要項目を測定する測定する方法。 この定置試験方法は、自動車ではシャシーダイナモと言われている装置で実施されている方法で、自動車分野では一般に広く普及している。 しかし、シャシーダイナモのような円筒形の路面は無理なので、円盤上に設置した曲線線路を使用し、円盤を回転させながら、走行状態を再現し計測する。 ⇒ 実現出来そうだ。
製作するにあたって、実際の車両の試験方法を調べてみた。 小生は鉄道関係は詳しくないのでインターネットで調査した。 その結果、
(1) 蒸気機関車の定置試験台 : 横掘 進/木村 修 鉄道ファン(交友社)1981年7月号(243号) P100 - 106
(2) 今日の車両試験台 : 稲垣 茂 鉄道ファン(交友社)1981年7月号(243号) P107 - 111
(3) 鉄道車両開発・検査支援システムの車両試験装置 : 株式会社日立プラントテクノロジーのホームページ
(4) 新幹線の車両運動・制御研究の歴史と課題 : 明星大学宮本研究室のホームページ
などの資料を参考にした。 ここに示された定置試験台は回転する円筒状の円盤をレールの代用として利用するものであり、原理は自動車のシャシーダイナモと同じである。
一番興味があったのは(1)の資料であった。 大正3年、国鉄の大井工場の中に、この機関車定置試験台は設置され、C571号機や C581号機などがこの試験台に乗せられたとのこと。 昭和34年に閉鎖されたとのことであるが、その後、このような試験方法は、新幹線の車両開発でも応用されている。
この定置試験台について、(1)の資料を無断コピーさせて頂き、説明文を追加して図21に示す。やはり興味があるのは、車輪の支持方法であり、動輪と同じくらいの直径の円盤を用いて、レールの代用とし、駆動力の反力をブレーキ装置で受けている様である。 そして、機関車は引張力測定油圧ダイナモメータに連結され、動かないように固定されている。 想像するに、機関車が発生する大きな牽引力を油圧シリンダーで受け、その油圧を測定して牽引力に換算したものと思われる。 実際の試験中は、蒸気と騒音が大変だったろうと想像する一方で、高速走行試験時のロッドの豪快な動きを真近で見ることが出来たと思うと、鉄道ファン、いや、SLフアンなら是非とも一度は見てみたかったと思わざるを得ない。
鉄道模型における車両の試験方法はどのようなものがるか、先人達の工夫を追ってみた。 鉄道模型の動力性能を検討したサイトも含めて記載する。
この中で、 No 9 のGiants of the West さんの2006年11月25日付けブログの中で、機関車の効率の話があった。 その内容で興味があったのは、 『NMRAの会報中、一番興味があった記事は、Robert E.Higgins氏の連載記事で、 Motive Power Performance Review" 動力車実力測定報告とでも訳すのだろうか。 ありとあらゆる機関車の性能分析が10年くらい続いた。 起動電圧、最高速、牽引力、効率、騒音、スケール・スピードが測定され、簡単な感想とともに纏められていた。』 の記述でした。
そこで、その関連記事をインターネットで探したが、何もわからず諦めるしかなかった。 ブログに記載されている図を見る限り、傾斜を調節可能にしているレールに、速度計測用の光りセンサーかマイクロスイッチが細工され、電圧、電流などを計測しているように想像される。
自分が考える鉄道模型用の定置試験装置の条件として、車輪と接するレールをどうするかが最大の課題である。
この条件を満たす実験方法とその装置を検討することにした。
1) 坂路方式での実験
まず、上記の1と2の条件を満たす坂路方式で実験トライした。 坂路の長さは 180cm で、直線線路を引いた。 中央付近に 1m の間隔のしるしをつけ、手動で往復運転をさせた。動力車には鉄コレのトレーラ用台車を牽引させ、台車には重りをのせて牽引用の負荷とした。 測定は、定点間の走行時間を計測し、車両重量、勾配、走行時間から特性を計算した。 その後、TOMIXの自動運転ユニットを使用して往復運動させるなどの工夫をしたが、その面倒さに負けてこの方式を放棄した。
その時のデータの一例を右に示す。 電圧 4.0volt、6.0volt、8.0volt によって特性が右に移動していることが良く分かる。 しかし、負荷を変えるために運転をいちいち止める必要があること、往復運転のため、作動が停止してしまい、連続運転状態とは言い難いなどの課題も残っている。 でも、その特性は予想どうりの傾向を示しており、理論式の自信を強くした。
2) 円盤方式での実験
次にトライしたのが、円盤形状の路盤に曲線レールを設置した定置実験装置をである。 この装置は、こたつの天版を利用して作ってみた。 ベニヤ板製の直径 740mm の円盤を作り、KATOのR348-45°の線路を張り付けてエンドレスの線路とした。 中心軸は M10 のボルトと M12 のナットを用いた。 M12のナットの内径は10mmチョットあるので、適当なガタとネジ山による接触で、摩擦抵抗が小さくなるもとと想定した。 円盤はキャスター付きコロと固定コロを使用し、円盤を水平に受けるようした。 動力車の駆動力を受ける抵抗部材として、模型のモータを発電機として回せば負荷が調整出来ると考え、写真の様に工作した。 また、キャスター付きのコロを使用し、その回転軸の方向を斜めにすることにより負荷抵抗を調整出来ないかとも思って、作ってみた。 線路への給電は、集電機能のあるトレーラ車を用いて線路に給電する方法を取っている。 牽引力の測定は、プラ棒で片持梁式にし、そのたわみを図って力を計測すると言う原始的な方法を取ってみた。左上の写真は重りを使ってその力の校正を実施している時の写真であり、右下の写真は計測台車と目盛りの様子を拡大したものである。
しかし、これらの負荷抵抗の調整方法は見事に失敗した。 円盤が回らないのである。 小さな鉄道模型が発する牽引力はわずか数グラム、力の強い車両でも30グラムから、40グラムしかない。 この小さな力では、製作した円盤を回すことすら、出来なかったのである。 まして、負荷抵抗の調整など出来るわけがなかった。
すなわち、線路装置を回転させる円盤装置の無負荷の状態は、グラム以下の摩擦で回転させなければならない。 これはまさに精密機器の範疇となり、とてもホビーで手の届くものではなかった。 このことに気が付いて実験装置の工作をあきらめかかっていた。 考えが甘かったと反省すると同時に、鉄道模型の力がこんなに小さいのかと改めて認識した次第である。
でも、まてよ、模型の駆動力で線路装置を回転させるのではなくて、強制的にモータ等で回転させて測定出来ないかと考えるようになった。 丁度、モータも作った事だし、発電機としてではなく、駆動モータと使用してみようと考えた。 モータを駆動させて電車を走らせてみると、うまい具合に運転出来た。
牽引力測定部と連結させて走行させると、これがまた、問題となった。 プラ棒で作った片持梁式がしっかりとたわみ、ビューンビューンと振動を起こすのである。 電車はひどいギクシャク運動である。 負荷系のばね要素がまさに振動発生の原因となっている。 ばねはたわんでもらわないと力として測定出来ないし、ばねを柔くすると振動を起こすし、ばね式力測定方式はあきらめるしかないようである。 小さな歪計が欲し。
3) 測定方法の不安
さて、線路円盤を強制的に回転させて測定する方式では、気になる問題点がある。 それは、図9の牽引力・車速特性図において、測定する上で心配される特徴を示しているからである。 図11と図12の単機走行状態での測定は、指定の電圧を加えた状態での車速と電流を測定すれば良いので、何ら問題にはない。
しかし、図9の場合、クランク型の線図をしているので、
負荷を設定して車速測定するのか、
車速を設定して負荷を測定するのか
が問題となってくる。 ここで線図を単純化して図13に示す。この中で、負荷を設定して車速を測定するのが、「測定X」の方法で、速度を設定して負荷を測定するのが、「測定Y」の方法である。
自動車のシャシーダイナモや蒸気機関車の定置試験装置のように、車輪を載せ、道路の代用としたローラや、レールの代用とした円盤にブレーキとしての負荷を掛け、その反力として生じる車体の牽引力を測定する方法では、牽引力と速度の特性は問題なく測定できるのある。 しかし、今回はブレーキとして作用させる円盤を他の駆動源を使って強制的に回転させる場合には、様子が異なってくるのである。
線路装置を強制的に回転させて、一定位置にとどまっている車両の牽引力を測定する方法、 即ち、図13での「測定Y」の方法は可能である。 しかし、この状態では、ニハ間の特性は容易に測定できるが、ハロ間やロホ間では、負荷すなわち牽引力がばらついたり不安定となり、測定出来ない恐れがある。 わずかな速度設定の違いにより(あるいは測定誤差により)、ハ点からホ点のどこに位置するかが、大きく変わってしまうからである。
この間では、逆に、負荷すなわち牽引力をある値に設定して、車両が一定位置に留まるように、線路装置の回転速度を調整し、その時の速度を測定すれば、安定的に精度良く測定できる。 即ち、「測定X」の方法である。
もし、この二つの方法をうまく使い分け、かつ同一の装置で容易に測定できれば、線路装置をモータで強制的に回転させ、摩擦抵抗を気にすることなく、ホビーでの手造り実験装置でも測定出来ることとなる。 実験装置の製作に光が差してきたような気がした。
4) 実験装置の構想
円盤式エンドレスレール装置は、連続運転も可能であり使えそうである。 そして、被測定車を一定の位置に留まるように回転を調整し、その時の円盤の回転速度を測定すれば、被測定車の車速として測定出来る。 円盤の回転抵抗は大きいので他の駆動源によって駆動させる。 牽引力の測定のため、一定の負荷を掛ける方法として、いろいろアイディアを検討した結果、やじろべい方式に行き着いた。 その他、あれこれ作っては壊しの連続であったが、なんとかデータが取れるようになった。
その装置の内容を次に示す。 ⇒ 次ページへ