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鉄道模型工学 傾斜台の改良

■ 傾斜台式測定の実施

 

 先回報告した傾斜台方式により、何台かの車両の牽引力を測定した。 その例を下に示す。

 今年の暮れにKATOが新構造の C62 を発売するそうなので、比較用として C62 を測定しておいた。 MICRO (C62-2)とKATO (C62-36) とは、牽引力の勾配が大きく異なっている。 モータのパワーの違いと思われる。 次にED系の4台の車両を測定・比較する。

 ED75-1001(KATO /3028)は、牽引力ゼロ近辺でのデータに疑問があったので、何度か測定しているが、S字カーブ的な特性を示している。 それも、牽引力がまだプラスの時点で、変曲点があるのはなぜだろうか? そして、 同じ構造ののED79-11(KATO /3031) とは制動領域でのパターンが少し異なっているのも疑問である。

 一方、ED75-710 と ED79-10 はTOMIX製なので、特性は異なっているが、さらにED79は古いスプリングウォーム構造なのでデータがバラツキ、途中で測定を中止している。 電圧や勾配はいじっていないのに、レールを一周してくるだけで、これだけばらついてしまうのは、測定方法が原因とは思われない。 この車体の特性と判断している。

 KATOの EF81 では、バラつきも少なく、綺麗に測定出来ている。

 

  

■ 測定上の問題

 データとしては意図通りの綺麗なデータを取る事が出来ていると評価している。 しかし、傾斜を設定するするために木片を一回ずつ入れ替える方法は、さすがに非能率であった。 そこで、最初のアイディアの様に連続的にリフト出来る工夫を考えることにして、ホームセンターをぐるぐる回って使えそうな道具を探した。

 そこで見つけたのは簡単なクランプ用の道具である。 用途は物を締め付けたり、広げたりする道具であるが、リフト用の装置として使用出来そうであった。 製品名は 「ラチェットバークランプ 300mm 」、株式会社ミツトモ製作所製で¥598.- である。

 レバーを一回クリックするとおよそ 5mm リフトし、心棒は鉄製のようで強度も充分のようである。 全ストロークは 300mm もあり、牽引側から制動側まで一気にリフト出来そうである。 ただし、レバーでは一方向のみしか移動出来ない。 戻りはリリーズボタンを使用する。

 

 

■ 改良した傾斜台式測定台

 さっそく木工作業に取り掛かったが、はじめに、完成した改良版の傾斜台式測定台の全体像を示しておこう。

  

 今回の方法でのポイントは測定台の剛性確保と考えた。 ラチェットバークランプを使用してのリフトでは、台を支える剛性は不十分であると考え、固定側での脚台の剛性でカバーすることにした。 測定部分は手前の直線路部分のみとし、その勾配を確実に確保する事を念頭に置き、検討した結果、測定台の支持を3点支持になるようにし、傾斜台の剛性アップに配慮することにした。

  

 このため、折りたたみ式はあっさりと放棄し、角材での補強を実施する。 また、台の長さはそのままで、幅を 200mm ほど短くしている。 金属棚材はそのまま流用し、新たに補強板も加えて、台の剛性を確保した。 固定側の脚は、先回の物を横幅はそのままの寸法で流用している。 その結果を右の写真に示す。

 ラチェットバークランプは「広げる」状態にし、L字形の木片の側面にネジ止めしている。 クランプのレバーをクイクイと操作すると心棒が伸びてきて、床に接触した端部が3点支持のひとつとなり、固定脚を中心として支持されている傾斜台が傾けることが出来る。  左下の写真が固定側を示し、右下の写真がリフト側を示す。 写真の中の赤色の部品が、クランプの端部である。  これらの結合はネジと蝶ナットを用い、収納のために容易に分解と組付けが出来るよう配慮した。

 傾斜台の傾斜は、台の側面に記入したケガキ線を物差しで測定して高さを測り、パソコン上で計算して傾斜角を求める方法をとっている。

 電圧、電流、速度を測る計測機は先回のものと同じであるが、配線を専用のものとして作り直した。

下の写真は、速度計の間を通過する模型車両でり、重り車両を連結させて測定している。 速度の測定ポイントは、道床から 25mm の高さにあり、電気機関車で言えば運転台の窓の位置にあたっている。 この先端が二つの測定ポイントを通過する時間を計測し、速度として表示している。 cm/sec で表示されるので、パソコン上でスケールスピードに換算してグラフ化している。

  

 今回もアナログの電圧計と電流計を使用した。 理由は、走行中の負荷変動により、電圧と電流が常に変化しており、デジタル表示ではタイムラグのため、読み取り難かったためである。

 また、線路の直線部はなるべく長く取るようにするため、S248 を2本つなげ、これにフィダー線を接続させている。そして、測定部の2本のS248は、ギャップ部分での走行抵抗の変動をさけるため、ハンダを使って連結部のギャップを埋め、ダイヤモンドヤスリや紙ペーパで磨いて、ギャップを感じさせない様に細工した。 ロングレールが欲しいね。 この効果が意外と上々で、ギャップ通過時の “電流値のピンはね” は、ほとんど無くなった。

 

  

■ 測定方法

 

 測定方法に改良前と同じである。 傾斜設定はレバーをクイクイと操作するだけでよいので、非常に楽になった。 ただし、一方向にしか操作できないので、右側を最低の位置にセットして、順次上げていく手順とした。 これは、最大牽引側から最大制動側まで、連続して測定することになり、測定意図とも合致している。

 

■ 測定結果

 実際の模型車両を走らせて測定してみた。 車両は、EF64-1032 号機である。 測定は非常にスムースで、能率よく実施することが出来た。 データも満足出来るレベルで取得出来ている。

 次に、S字カーブ的な特性を示している EF65-1124 号機を本務機とし、それよりも足の速い ED79-11号機を前補機として重連させ、S字カーブを有する特性の場合の重連特性を取ることにした。

 データはバッチリと取れたが、車速は EF65-1124 号機に合わせてもっと遅くなるはずでは? との疑問が湧いた。
(マイコレクションのEF65-1124 号機を参照されたし)。 そこで、このEF65-1124 号機単機でも測定した。

 測定結果は、見事に期待を裏切った。 特性パターが全く違うのである。 そんなバカな? と思いつつ、再度測定した結果を「2回目」として示す。 またまた異なっている。 この間は1時間も経っていないのである。 電流値はピッタリと一致しているのに、なぜ速度だけが 20Km/h も異なるのか?

 測定方法が悪いのか、動力特性として色々な形態をとるのか、

このEF65-1124号機の測定データの異常について、後日、しげしげと足回りを観察した結果、中間台車の車輪のひとつが軸受から外れ、回転不良の状態であった。 この車輪の不安定な走行抵抗がデータ不良の原因であると思われる。 修理後の再測定の結果を下のグラフに示す。 2回のデータの差異は無いと判断出来、測定データの信頼性がアップ出来たと考えている。 この件があってから、測定は2回実施するようにしている。

 

■ まとめ

 傾斜台を改良して測定作業を効率化することが出来た。 さらに、牽引力特性を連続的にバラツキを少なく押さえて測定出来るようになったと判断している。 これにより、懸案であった制動領域での特性を、より確実に把握できるものとして期待していた矢先に、上記のEF65-1124 号機の問題にぶち当たってしまった。

 測定方法の問題であれば、他の車両でも同様な現象が現れるはずである。 このため、いろいろな機種で複数回測定するようにして、この現象を把握していく必要があると判断する。

 また、構造的な問題も念頭に入れて考察するために、動力車の構造を系統的にまとめることも必要となって来ている。やれやれ、また課題が増えてしまった。