HOME >> 鉄道模型調査室 >  KATOの動力機構の変遷 電気機関車編 その3  その1 その2

鉄道模型調査室   KATOの動力機構の変遷 電気機関車編 その3

 

 KATOの動力機構の変遷 電気機関車編 の第4期の話を始める前に、関連する特許について見てみよう。

 2003年の秋、関水金属の加藤祐治氏の考案による鉄道模型車両に関する発明が特許庁に出願された。 会長様自らの発明である。 その発明は、2005年に公開され、2009年には権利として確立している。 特許庁関連のホームページによると、その内容は下記の通りである。

【技術分野】  車体と台車間にバネを効かせたサスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両に関するものである。

 

【発明の名称】 サスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両
【出願番号】 特願2003−383596    【出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【公開番号】 特開2005−143704    【公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【特許番号】 特許第4357272号
【登録日】 平成21年8月14日(2009.8.14)    【発行日】 平成21年11月4日(2009.11.4)
【氏名又は名称】 株式会社関水金属     【発明者】 加藤 祐治
【請求項1】 車輪体を回転可能に軸着してなる台車枠を備える台車を回動可能に配置してなる鉄道模型車両において、前記台車枠の左右に支持体を設け、この支持体に設けた突起部を車体の床部材に設けた弾性体に摺動可能に圧接し、前記支持体で車体を支持させるとともに、前記弾性体と前記突起部の支点位置Bと前記弾性体の前記車体に対する係止位置AのBA間の弾性体の弾性力が、前記支点位置Bと前記弾性体の車体に対する係止位置CのBC間の弾性体の弾性力よりも弱く、また前記弾性体の係止位置A及び係止位置Cは車体の前後方向に沿って、係止位置Aは係止位置Cよりも車体の中央側位置にあることを特徴とするサスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両。
【発明の効果】 この発明に係るサスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両によれば、左右の車輪をそれぞれ独立して上下動可能に支持するようにしたことにより、鉄道模型車両がレール上を走行している時にレールの継ぎ目による段差や凹凸を通過する際、鉄道模型車両全体が捻れを起こすようなことがなく、或いは車輪の浮き上がりを起こすことがない。 その結果、この発明に係るサスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両によれば、鉄道模型車両の脱線などの発生や、車輪の浮き上がりを原因とした集電障害による電動モータの停止等を防止することができる。

 記載されている多くの図面をみると、その内容は曲線通過時に車体を傾ける機構である事が分かる。 即ち振り子式車両に関する発明である。 しかし、発明の効果などを読むと、レールの継ぎ目による段差や凹凸を通過する際の脱線や集電障害の防止対策とも読み取れる。 実際に、出願時の【請求項1】の記述は、

【請求項1】 車輪体を回転可能に軸着してなる台車枠を備える台車を回動可能に配置してなる鉄道模型車両において、前記台車枠の左右に支持体を設け、この支持体に設けた突起部を車体の床部材に設けた弾性体に摺動可能に圧接し、前記支持体で車体を支持したことを特徴とするサスペンション構造を有する台車及び車体を備えた鉄道模型車両。

と述べられており、最近の殆んどの鉄道模型を網羅する内容となっている。 さすがにこのままでは特許として成立しなかった様で、BA間やBC間の距離云々の記述によって、発明内容が限定された権利となっている。

 従って、特許的な観点から見れば、新サスペンション機構は振り子式車両を実現するための機構と言えるが、実際的には柔らかなサスペンション機構を実現しているため、発明の効果で述べている様な、レールの継ぎ目による段差や凹凸を通過する際の脱線や集電障害の防止対策と考えるべきであろう。 最近のカント付きレールの出現に合わせて、鉄道模型車両全体の捻れを許容するメカニズムを実現したと評価したい。

 記載されている多くの図面をみる、考案したアイディアをそのまますぐに出願するのではなく、何度か設計・試作が実施されてようであるので、このアイディアは早くから検討されていたものと思われる。 そして、実際に製品化されて市場に出たのが、2009年であるので、10年近くも掛けてアイディアを現実の製品にしているご努力には、技術者の端くれとして、また、カトーファンとして、非常に感心している次第である。

 

第4期 新サスペンション型のモデル

 KATOの電気機関車の動力は、EF70が登場してからおよそ40年後に、フライホイール型から新サスペンション型に進化した。 このモデルでは、前記の特許に込められた思想を反映したものであるが、さらに、モータの小型化や動力台車の構造の変更なども実施されている。


 

 ■ EF65 1000 後期形

  電気機関車の最新シリーズの EF65 のひとつである。 2009年に発売された、EF65 500 (P形、 3060-1)、EF65 500 (F形、3060-2) に続き、発売されたもので、新サスペンション機構を搭載している。

 このシリーズの特徴は、モータの小型化、集電構造の変更、ウォームギヤ部と動力台車の構造の変更などであろう。

 集電構造は「サスペンション機構」と宣伝している台車のローリング支持を兼ねており、フレームの底部両端に設けられた燐青銅の板ばねで、台車の集電子と接触させている。 ばねは柔らかく、車両のローリングにも良く対応している。 これは、カント付き線路の出現に合わせて付与した機能ではないかと推察する。

 フレームは、集電構造の変更に伴い、再び左右分割形となり、電気的な導電体の機能は持たせている。 モータへの通電部品も改良されてている。 また、左右に分割されたフレームは、ネジによる固定方法は使用されておらず、カバー類での固定により組付けされる。

 次に注目するのは、台車のウォームギヤ構造である。 モータと連結するジョイントの接続点を、台車の旋回回転の中心に持ってきており、このためにウォームギヤ部は回転中心の外側に飛び出している。 先回までのモデルでは、ウォームギヤの噛み合いガタで、旋回回転を許容してきたが、このモデルではジョイントの接続点が旋回中心となっており、機構的には合理的である。 鉄コレ用の動力など、TOMIX等で既に採用されている構成でもある。

 この台車の構造変更によって、動輪とウォームギヤ間が離れてしまい、ウォームホイールと動輪のギヤ間は、4個のアイドラギヤを並べている。 これらのギヤは、m = 0.3 で、動輪のギヤは、Z = 17 である。 このため、モータから動輪までの減速ギヤ比は、i = 17.0 であった。 また、動輪の直径はφ= 7.4 mm である。 車速 V とモータ回転数 Nm の比は、 V/Nm = πD/i = 1.37 となり、動力機構は先回のモデルよりも少し増速仕様となっている。

 この1103号機で新しく採用されたモータは、小型していると共に、強力な磁石の使用やスキューの設定などで、トルクの確保と電流の低減を実施している様子である。 このモータの新旧比較について、「KATO EF65の新旧比較」に記載している。

 

 この新しいモデルは、EF65 を始めとして、 EF15、 EF81、 EF510、 ED16 などにも採用されている。 今後さらに拡大されていくものと思われる。