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鉄道模型実験室 No.195  スタンダードSXとN-1001-CLの比較

 最近は、コアレスモータとPWM制御の関係について首を突っ込んでいます。 しかし、調べれば調べる程、いろいろな疑問が沸きだして来ている上に、自分の調査能力を超えた高い壁にぶち当たっています。 でも、簡単な実験から分かったことを、少しずつでも整理していかないと前に進めません。

 今回は、Nゲージ用の一般的なパワーユニットとして、先に導入したKATOのスタンダードSXと、TONIXのN-1001-CLを比較してみました。 比較の観点はコアレスモータなどのモデルの制御性、すなわち線形性を見てみることにしましょう。

 

■ 制御の線形性

 難しく 線形性 といいましたが、パワーユニットのダイヤルの回し具合と、操作するモデルの運転速度の関係が、ほぼ同等に変化するだろうかと言うことです。 例えば、コアレスモータ搭載車を N-1001-CL で運転した場合、低速での運転がしづらいと言われています。 ある人は、低速が効かないと言われる方もいます。 この様な表現をグラフを使って比較しようとするものです。

 

◆ 実験方法

 簡単な実験装置を下に示します。 先回と同じです。

 今までの観察では、観測したオシロ画面のハードコピーから、オシロが計測した値を読み取ってPWM制御のデューティ比データとしていました。 しかし、今回対象とするスタンダードSXのオシロ画面からは、デューティ比のデータが読み取れません。 理由は複雑な波形であるため、さすがのオシロも疑問符を付けてきたり、読取出来たとしてもその値が信用できません。 これは、2周波数方式のPWM制御だからと思っています。

 そこで、ダイヤル回りに目盛を書き込んで、その位置をデータとしてメモって行く原始的な方法を使いました。 その状態のパワーユニットを下に示します。

 モデルの速度計測は、簡易速度計測器 ビースピV を使用しました。 また、オシロによって波形の状態に異常がないかも同時にチェックしました。

 

◆ 測定結果

 測定対象のモデルとしては、KATO製のコア有モータ搭載車として、EF510-114号機は単機走行、Ge4/4-644とキハ58は3両編成で走らせました。 コアレスモータ搭載車は、28643号機とC56-144号機のSLと、Bトレコアレス搭載車No.71をそれぞれ単機で走らせました。

 

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 走行中のオシロ画面の一部を右に紹介します。 左側がN-1001-CLで、右側がスタンダードSXです。

 N-1001-CL は、コアレスモータ車特有の20KHz 波形を示しています。 黄色のCH1が電圧波形で、下から1番目の線がゼロ点です。 従ってパルスON時の最大は、12Vを示しています。 パルスOFF時は逆起電圧を示しています。 青色のCH2は電流を示しておりON時はプラス、OFF時はマイナスを示しています。

 一方、スタンダードSX はクシャクシャな波形ですが、右に示すのは綺麗に取れた少ないチャンスの画面です。 このユニットは、低周波と高周波により合成されたPWM波形なので、どのレベルの、どのタイミングで波形を捕まえるか、すなわち、オシロのトリガーの設定が難しいのです。 スクリーン右端にある小さな三角印がそのトリガーレベルを示しているのですが、パルスの立ち上がりがこのレベルを横切った時にトリガーが掛り、画面を表示するのです。 変化する波形に合わせてこのトリガー位置を変えて行かなくてはなりませんので、それを見つけるまでが一苦労なのです。 ある一点に固定すると変化する波形によってトリガ点のタイミングが異なってしまい、全体が見えなくなってしまうのです。 また、波形に時間的変化あると、フラフラとふらついた画面となってしまうのです。

 さて、苦労して測定した結果をグラフにまとめました。 コア有モータ車と、コアレスモータ車が綺麗に分かれましたね。

   

 N-1001-CL でのコアレスモータ搭載車は、目盛1では動かないものの、目盛1.5では 100Km/h となって飛び出しています。 この間はダイヤルを微妙に調整する必要があるのですが、今回の実験方法ではそのダイヤル位置が読み取れません。 しかし、このグラフから見て、低速が効かないと言われるのは、この調整が微妙であることを意味していると判断されます。

 一方、スタンダードSX では、コア有モータ車程ではないが、それらしく調整できていることが分かります。 ダイヤル目盛と車速との関係を示す勾配もあまり変わりません。このことは、コアレスモータ搭載車の低速運転が容易に調整出来ることを示していると考えられます。 これは、低周波と高周波による2周波数式のPWM制御方式の効果かも知れませんが、モータドライバの調査時に得られた知見から考えると、回路上の工夫もあるものと推察します。 

 

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 N-1001-CL では、波形観察が可能だったので、この時のデューティ比を読み取って、ダイヤル目盛との関係もグラフにしてみました。 右の左側のグラフです。 目盛とデューティ比は殆んど直線関係ですが、立上りの部分は外れています。

 以前に報告した「モータドライバとPWM制御 TOMIX製のパワーユニットN-1001-CL」(2021/5/21)にて、オシロから読み取ったデューティ比と車速の関係のグラフを右の右側に再掲載しました。

 このグラフと上のグラフを見比べながら考えると、もし、ダイヤルとPWM信号が比例関係にあれば、もう少し微妙な低速調整が可能であったと思われますが、所詮はデューティ比と車速の関係が非線形なので、無理ではないかと思われます。 即ち、制御回路の工夫が必要と考えます。

 

◆ まとめ

 制御の線形性と銘打ってコアレスモータ搭載車の運転のし易さを比較してみました。 スタンダードSX は、パルス幅変調方式(PWM制御)を採用し、スロー走行に対応しましたと説明されていますが、これは最近のSLでは標準となったコアレスモータ搭載車を意識しての記述と思われ、その看板に偽りがないことを示しているものと判断します。 KATOのスタンダードSX は、最近のコアレス搭載車にも対応したユニットであると言えるでしょう。

 そして、それを実現している方法としては、PWM制御に関してソフトとハードの両面での工夫があるように思われますが、これ以上は、我が知識では手も足も出ません。

 

 次回は、問題の発端となったアルプスの氷河特急 Ge4/4-644号機のライトユニットについて、コンデンサの有無を掘り下げてみたいと思います。

 

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 2021/6/10 作成