箱根登山鉄道1000形ベルニナ 1001号車

実車プロフィール

 箱根登山鉄道1000形は1981年、当鉄道としては45年ぶりの新造車として2編成4両が登場しました。 1990年秋頃、小田急10000形に準じたカラーリングに変更されました。
「ベルニナ」は、同鉄道と姉妹提携を結んでいるスイスの山岳鉄道レーティシェ鉄道のベルニナ線にちなんで付けられた愛称名です。

 

模型プロフィール

● メーカー: TOMIX 
● 発売年 : 2001年1月発売
● 購入日 : 2009年6月 新品購入
● 定価  :  \7,140.-

   

諸元と分解調査

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● この1001号車は、箱根登山鉄道1000形ベルニナ号(旧塗装)、品番: 2620 の動力車である。

2両はドローバーで常時連結されている。

● ヘッドライト点灯、トラクションタイヤ装着。

● 動力ユニットは黒色の紙カバーに覆われており、窓から見えないようしている。

  左の写真参照。

● 主要諸元

2両編成長さ
193mm
車体重量
69.5 グラム
台車中心間距離
57mm
動輪直径
φ D = 6.2
台車軸距離
12mm
ギャ比
i = 21.82

 

● 車体を外し、紙カバーを外した動力ユニットの状態を下に示す。 このユニットは、亜鉛ダイカスト(?)製のフレーム部材と、台車を保持するシャシー部材の二つの部材で構成されている。 そして、上側のフレーム部材は左右のフレームによってモータを挟んで保持している。 ウォームはかのスプリング・ウォームである。

● 上のフレーム部材を上と下から見た状態を下に示す。 モータやウォームの回転を検出する覗き窓をどこに設置しようかと思案したが、マーキング場所とその覗き窓を設置する場所が見当たらない・・・・・・・・・・。 スプリング・ウォームを保持する樹脂部材を削ろかとも思ったが、復元方法がないし補給品もなさそうであったので、結局はあきらめた。 今回は、モータの回転数測定はパスすることにした。

● 台車を保持するシャシー部材を上と下から見た状態を下に示す。 トラクションタイヤは内側の左右に装着されている。

● 左右のフレームの表と裏を下に示す。 黄色い物はウォーム軸に塗布されていたグリースである。

● モータとスプリング・ウォームと、それを保持する樹脂部材を下に示す。 モータの上に装着されている樹脂の支持部材には装着方向を示す矢印が記されており、再組付け時に組み付け方向を迷うことはない。 なかなか気配りされた設計である。

● 動力台車とその分解状況を下に示す。 台車にも1とか2とかの刻印があり、誤組付けを防止できる。 しかし、車両の1エンド側と2エンド側と思いきや、その反対であった。 1は後ろ側でトレラー車と連結する側であり、2が前方の台車である。

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● 動力台車を分解して、動力系の諸元を調査した。

 ウォームは、上記のようにスプリング・ウォームで、外径がφ2.05 のモジュールが m = 0.4 右ネジである。 ウォームホイールは、歯数が Z = 15 で、小歯車が Z = 11、m = 0.3 と一体に成形されている。 歯車はφ1.5×5.6mm のピンで支持する構成になっている。

 ウォームホィールの外径と歯数を測定した後でモジュールを計算すると、計算が合わないのである。おかしいと思って歯形を虫眼鏡で観察したが、いつも見馴れたインボリュート歯形ではないひょろっとした細長い歯形である。 時計の画車などで使われているサイクロイド歯形では?

 そうだ、噛合い相手はスプリング・ウォームで通常のウォームギヤでは無いのである。 形状的にはピン形状の歯車なのだ。 それに?合わせるためにこの歯型を採用したものと想定する。 そして歯筋はしっかりとネジレが施されていた。

 この小歯車の回転は、歯数 Z = 14 のアイドラギアを介して、動輪の Z = 16 のギヤに伝達される。従って減速ギヤ比 i = 15*16/11 = 21.82 となる。

 動輪の直径は、φ= 6.2mm であった。

● 黒いフレームカバーを下左に示す。 また、ヘッドライトユニットを下右に示す。 LEDを2個並列に配置した豪勢の構成であるが、回路はシンプルであった。

 

動力特性

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■ モータ単品状態での測定

 先回の実験でモータ回転数の計測装置の問題が解決したのであるが、このモデルではその回転をセンシングする方法が無かったので、この測定の実施を中止した。

 

 

■ 動力特性の測定

 有線式の動力特性測定装置を使用して動力特性を測定する。 しかし、重り車両をどうやって連結させるか思案した。 この車両は右の写真に示すように、固定式のドローバーで後ろのトレー車と連結させている。 トレーラ車に重りを積み込む方法もあるが、ピン連結方式のアーノルドカプラーを見つけたので、これを装着してみた。 下の写真のようにうまく連結できたので、この方法で測定を実施した。

● 測定実施日: 2016/6/30 & 7/1、 連結した重り車両: 106.2 グラム、摩擦抵抗 1.0 グラム。 尚、回転センサは取り付けられなかったので、モータ端子電圧測定用端子だけを取り付けている。 ヘッドライトは点灯状態で測定する。

1)速度特性:

 動力車の速度特性として、速度・電圧特性と電流・電圧特性を下に示す。

 モータの回転数を測定していないので限られたデータしか得られていない。 スプリング・ウォーム方式の独特の走行音を発しながら走行していた。

 走行特性はまずまずである。 電圧降下量については、集電機構の構造上、値が少ない特性を示していたが、後半から値が少し騒がしくなって来ているのが分かる。

2)牽引力特性

 スケール速度が100Km/h 前後になるような電圧値を設定して牽引力を測定してみた。

 最初に測定した供給電圧が4ボルト設定の時、速度のバラツキが大きくなり、測定後半ではたびたび停止してしまうトラブルに遭遇した。 最後には測定を中止してしまった。 原因は電圧降下のグラフを見れば一目瞭然である。 上に示す最後のグラフは、測定経過による値の推移を示したものであるが、速度特性時に示されていたバラツキの様子が、ここでは暴走してしまっているので分かる。 下り勾配ではバラツキが小さいものの、上り勾配では1ボルト以上も発生しているのである。

 測定車を止めて、車輪やレールのクリーニングを実施した。 車輪には、真っ黒とは言わないまでも、1mm程度の黒い筋が全車輪の全周に付いていた。 台車をシャシーより外し(ウォームより外れるので車輪を自由に回転できる)、車輪にクリーニング液を付けて津川洋行のソフト君タイプ2でゴシゴシと磨いた。 そして、翌日、5ボルトと6ボルトの測定を再開した。

 この車輪のクリーニング作戦は見事に的中し、データの揃った動力特性を得ることが出来た。 最近では遭遇しなかったトラブルであるが、逆にこのモデルは車輪が汚れやすい特徴を持っていると言えるのではないかと思っている。 そして、それはモータの特性が怪しいのでは? スパークの飛びやすい特性ではないかと疑っている。

 集電機構はピポット軸受け方式と違って、電圧降下の小さい特性を持っていると考えている。 メンテナンスさえ確実であれば、・・・・・・でも摩擦抵抗が大きいのだ。

 スリップ領域での牽引力は 約 20 グラム強ある。 これは、電気機関車の様に車室内まで詰め込んだフレームの重量の効果であろう。

 

3)考察

 2両編成の場合、総重量が 91.8 グラムとなり、トレラー車の抵抗が 1.5 グラムなので、1001号車の動力によって約 210 パーミルの勾配を登坂できることになる。 さすが登山電車ですね、 余裕たっぷりです。