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鉄道模型工学 KATO EF65の新旧比較

■ はじめに

 

 以前から気にしていたが、最近のKATO製品において、「フライホイール・サスペンション機構搭載動力で、スムーズな走行性を実現。」との説明を見かける。 その内容は、EF510 500 カシオペア色で、その一端を知る事が出来たが、他の車両ではどうだろうかと気にしていた。 今回、財布に余裕があったので、EF65-1000番台後期形を購入した。 これによって、KATOのEFシリーズは、やっと3台揃うことになったので、その性能を比較することにした。

 

■ KATOのEF65シリーズ

 

 小生の数少ないコレクションの中で、このKATOのEF65シリーズは、鉄道模型を始めた頃に購入した 3035-1 と、中古品で入手した 3002-2 と、今回の 3061-1 の3台だけである。

 しかし、KATOのEF65シリーズをネットで調べたところ、右表に示すように、30種近くもあるのには驚いた。 さすが人気機種である。 「Nゲージアーカイブス」を参考にすると、どうやら 3002-2 は2代目モデルで、3035-1 は4代目モデルのようである。 そして、現在発売それている 3060 と 3061 のシリーズは5代目モデルのようだ。

 そこで、このモデルによって、性能的にはどのような変遷になったのか、 わずか1台づつの調査ではあるが、比較することにする。 外装やディテールについては、既に方々がネットで報告されているので、ここでは、自分の興味のある構造と特性を重点に比較することにしよう。

 

■ 比較した車両達

 

 今回調査した車両は上の写真の3台で、その諸元を下に示す。なお、車体中央の天井に貼ってある黄色の線は、重心位置を示す細切りマスキングテープで、トライ中の円盤式傾斜台を使用した測定方法で使用するためのものでる。

品名 EF65 一般色 EF65 500 一般色 EF65 1000番台 後期形
品番
3002-2
3035-1
3061-1
車両番号
EF65-70
EF65-1124
EF65-1103
購入時期
2010年12月 中古ジャンク品購入
2006年9月 新品購入
2011年7月 新品購入
車両重量
132.9 グラム
90.7 グラム
89.7 グラム
前台車荷重
64.2 グラム
39.9 グラム
38.7 グラム
後台車荷重
60.8 グラム
39.8 グラム
39.4 グラム
連結面間距離
119.5 mm
116.5 mm
113mm
車体長
109 mm
110 mm
103 mm
カプラー
台車マウント カトーカプラーN
ボディーマウント ナックル
ボディーマウント ナックル
トラクションタイヤ
前台車前方左/後台車後方右
前台車後方左/後台車前方右
前台車前方右/後台車後方左
台車中心間距離
66 mm
67 mm
64 mm
台車軸距離
17.5 mm
17.5 mm
18.5 mm
動輪直径
7.6 mm
7.4 mm
7.4 mm
駆動系ギヤ比
17.875
19.0
17.0
フライホイール
なし
φ10.4×7.5 - 2個
φ9.9×9.0 - 2個

■ 構造の比較

 各車の駆動系構造を比較してみよう。 車体をばらし、部品毎に撮影した写真を切った、貼ったで作成してみが、カットモデルのような絵にならないかと努力したものの、無理があるようである。 その構造が理解出来れば良しとしよう。

◆EF65-70 の駆動系機構

 まず驚いたのは、内歯車式の減速ギヤである。 河合のB6機関車でもみられたが、減速比は大きく取れないのに、なぜ?と疑問となる。 内歯車は m = 0.3 の Z=26、モータ軸側の歯車は Z = 16 で、減速比は i = 1.625 である。 目的はモータ軸とウォーム軸をずらせるために採用したのではないだろうか。 動輪につながるウォーム軸は下に下げたいし、一方のモータ軸はその格納位置を確保するため、上の方に持って来たいとの意図から採用されたものと推定する。

 ウォーム軸は、フレームに保持された両側の軸受けで軸支されており、台車フレームに保持されたホイールギヤとかみ合っている。 そして、アイドルギヤを介して動輪の歯車に伝達されている。 動輪の直径はφ= 7.6 mm 動輪の歯車の歯数は m = 0.4、Z = 11であるため、モータから動輪までの減速ギヤ比は、i = 17.875 であった。

 ダイカストフレームは左右に分割され、かつ絶縁されており、台車からの集電方法は、ダイカスト台車とダイカストフレームとの直接接触による集電である。 従って全体の構成がシンプルである。

  

◆EF65-1124 の駆動系機構

 このシリーズの特徴は、フライホイールを採用していること、モータ軸とウォーム軸はジョイントで連結されていること、ダイカストフレームは一体的に作られていること、集電子を使った集電構造であること、さらにカプラーが車体マウントになったことなどであろう。

 モータ軸とウォーム軸は一直線に配置されているので、中間のジョイントは、軸のこじれ防止のために配置されたものと推察する。 ホイールギヤは、ウォームと噛み合う歯は、m = 0.4、Z = 19、アイドルギヤと噛み合う歯は、m = 0.3、Z = 17 の2段になっている。 動輪の直径はφ= 7.4 mm 動輪の歯車は m = 0.3、Z = 17であるため、モータから動輪までの減速ギヤ比は、i = 19.0 であった。

 集電子を使った集電構造の採用により、一体的に作られダイカストフレームは電気的な導電体の機能を持たせていない。 これらの機能とシースルーの運転台表現のために室内の空間が使われ、重りとしてのフレームの機能は減少し、車両重量の低下を招いたため、粘着領域での牽引力は小さくなっているものと思われる。

 

◆EF65-1103 の駆動系機構

 このシリーズの特徴は、モータの小型化、集電構造の変更、ウォームギヤ部と動力台車の構造の変更などであろう。 集電構造は「サスペンション機構」と宣伝している台車のローリング支持を兼ねており、フレームの底部両端に設けられた燐青銅の板ばねで、台車の集電子と接触させている。 ばねは柔らかく、車両のローリングにも良く対応している。これは、カント付き線路の出現に合わせて付与した機能ではないかと推察する。

 次に注目するのは、台車のウォームギヤ構造である。 モータと連結するジョイントの接続点を、台車の旋回回転の中心に持ってきており、このためにウォームギヤ部は回転中心の外側に飛び出している。 先回までのモデルでは、ウォームギヤの噛み合いガタで、旋回回転を許容してきたが、このモデルではジョイントの接続点が旋回中心となっており、機構的には合理的である。 鉄コレ用の動力など、TOMIX等で既に採用されている構成でもある。

 この台車の構造変更によって、動輪とウォームギヤ間が離れてしまい、ウォームホイールと動輪のギヤ間は、4個のアイドラギヤを並べている。 これらのギヤは、m = 0.3 で、動輪のギヤは、Z = 17 である。 このため、モータから動輪までの減速ギヤ比は、i = 17.0 であった。

 フレームは、集電構造の変更に伴い、再び左右分割形となり、電気的な導電体の機能は持たせている。

 

  

◆ モータの比較

 注目するモータを取り出して比較してみよう。

 
70号機
1124号機
1103号機
寸法
φ13.9×9.4×24.0
φ14.1×9.5×23.8
φ11.5×7.5×21.5
極数
5
5
3
スキュー角
0
0
25°
無負荷電流
70mA / 5Volt時
70mA / 5Volt時
35mA / 5Volt時

 二つの旧型のモータについて、樹脂部の形状が少し異なるものの、仕様的には同一ではないかと思われる。 また、70号機では、手で回してもコリコリした感じがする。

 新型の1103号機では、小型していると共に、強力な磁石の使用やスキューの設定などで、トルクの確保と電流の低減を実施している様子である。 設計陣では、低速の粘りとスムーズさを見て欲しいと思っているのかな? と推察するが、今の自分には確認する装置や実験方法を持っていない。

 

  

◆ ライト基板の比較

 次に、ライト基板について、比較してみた。旧形の70号機では、オーソドックスな電球式であるが、1124号機では、LEDに変更され、さらに最新の1103号機では、チップ式LEDに変更されている。 消費電流はまだ測定していない。

 

■ 速度特性

 次に、車両の速度特性を比較してみましょう。

 車速・電圧特性に於いては新動力の EF65-1103 号機の方が少し遅いが、大きな違いは見られない。 使い勝手は変わらない様である。 スケールスピード 80Km/h で走らせるには、およそ 4 Volt 近辺の電圧で充分である。 また、EF65-70 と EF65-1124 の特性は、ほとんど同じであり、フライホイールを追加したものの動力系の設計諸元に大きな変化は無いようである。

 次に、電流・電圧特性を見てみると、 EF65-1103 の新動力は消費電流がぐっと小さくなっている。 ちなみに、取扱い説明書での記述では、 EF65-1124 と EF65-1103 は、共に、“消費電流 DC12V時 : 0.36A” と記載されており、カシカマの時の様に、低消費電流の記述が無い。 編集ミスか、それとも自信が無かったのか。 せっかくの技術陣の努力が報われない様な気がする。

 また、EF65-70 と EF65-1124 はモータの非回転ゾーンでの特性が同じであるため、巻線抵抗が同じ、即ち同じ仕様のモータであろうと想定する。 それ以上の電圧領域では、各部の負荷抵抗のバラツキなどにより、電流値もバラツクので何とも言えない。

 

■ 牽引力特性

 次に、牽引力特性を見てみよう。

 電圧は、E = 4.0 Volt 一定状態でそれぞれ測定した。 この状態での負荷ゼロ状態では、速度・電圧特性に示されているように、EF65-70 と EF65-1124 の車速は、およそ 80Km/h でほとんど同じであるはずなのに、左のグラフに示すようにかなり異なっている。

このため、何度か測定し直したが、そのたびにバラツイテており、データの信頼性に疑問を挟んでいる。この車速変化は、測定条件の違い、チョットした負荷や内部の摩擦抵抗の変化、あるいはモータの温度など色々な要因が影響するため、測定データがバラツキ易い。 連続して測定している間は同じ傾向を示すが、測定の前後で既にバラツイテいることは何度も経験している。 いまだに、測定装置の問題なのか、車両自身の特性なのか判断出来ていない。

 このため、車速度の違いは、詮索しないことにして、その傾向、即ち傾きなどに注目する。 牽引力の勾配は大体3者とも同じようである。 これは、モータのトルクと回転数、および車両のギヤ比と動輪径の設定仕様で決まってくるが、鉄道模型としての使われ方と取り付けスペースの制約など、そのバランスを考えると同じ様な仕様に仕上がるものと想定する。 

 しかし、、粘着領域での牽引力は、車両重量と車輪の摩擦係数で決まってくるので、別の要因となる。一番古い EF65-70 は、すっしりと重い車両重量の影響により、およそ 40 グラム近くもあり、ダントツである。  1124号機や1103号機は、25グラム前後であり、一般的な値であろう。 牽引する客車など、より改良されて、その摩擦抵抗は少なくなってきており、通常時の牽引力としては充分な値と判断されているものと思う。 性能の重点は、低速走行時の滑らかな走行性などが重視されて来ているのではないか。

 次に、制動領域での特性に注目しよう。 旧型の70号機では、ウオームホィールを含めた動輪系の摩擦抵抗を示すロ点(動力特性の基本式の22式参照)が、10グラム以上もあり、モータ単品での消費電流が70mA程度しか無いことから、動輪系の摩擦によりモータにかなり負担が掛っているようである。

 また、1124号機の牽引力・車速特性では、特異な傾向をしめしている。 §3動力特性の測定結果と考察でも述べたが、右上がりの特性により、今の測定方法では上手く測定出来なかった。 そこでトライ中の円盤式傾斜台を使用した測定方法で測定してみた。 データには、まだ疑問点があるが、現在の方法よりは安定して測定することが出来ている。 このS字カーブ的な特性は、制動力が増加するに従って、動輪系の摩擦も増加するために生ずる現象と思っているが、電流値の測定グラフからもそれを証明している。 動輪系の摩擦によって、ウォームの歯面をこする抵抗や、ギヤ機構の摩擦が増え、モータ電流の増加と速度の低下を招いているのではないだろうか。 駆動領域ではモータの負荷が増加するのみで、特性的な変化は無いものの、逆効率ゼロのウォームギヤの影響でこのような特性を示しているのではないか。 しかし、70号機との違いはどこにあるのだろうか? と色々な疑問が湧いてくる。

 ともかく、新型の1103号機では、これらの問題も無く、低電流ですっきりとして特性を示しており、素姓の良さが伺える。このとが、低速での滑らかな走行を保障しているのだろうか。

■ フライホイールの効果

 フライホイールの効果を比較する簡単な測定を実施してみた。

 回転円盤を車速 10 0Km/h に合わせ、その速度と一致する電圧を設定した後、回転円盤を停止する。 すると、車両は円盤を一周してくるので、目標地点に来た時に、供給電源を切断する。 そして、車両が停止する距離を測定するのである。 その結果が、右のグラフである。

 70号機は、フライホイール未装着のため、供給電源を切断と共に停止するはずであるが、30mm 程度の空走距離を生じている。 目標地点の到達を目視して電源切断までの動作が遅くなったためか。 しかし、模型を楽しむ実際の運転操作時でも同じなので、「電車はすぐに止まらない」と言う事にしよう。

 フライホイール装着車は、すぐに止まらずスーと止まる感じであるが、測定してみると意外とその走行距離は短い気がする。


■ まとめ

  個別には幾度も分解した事があるものの、比較しながら分解したのは初めてである。 そして、それぞれの時代の電気機関車の構造が良く分かり、それを比較しながら開発技術陣の企画・設計意図を推定するのが面白かった。 設計変更には、それぞれ意味があると思われ、以前のモデルでの不具合や不満を解消し、よりニーズに合った仕様を追求していると思われるので、興味深々である。 

 この電気機関車の構造は、車両内のスペースをほとんど有効活用出来るので、理想的な駆動機構を追求出来るのではと思っている。 このため、鉄道模型の技術面での歴史を振り返ることになった。 しかし、それぞれのタイプの欠点や不満な点について、自分には解析出来ない。 多くの車両を入手し、それらを色々の状態で走らせて見なければ評価出来ないであろう。 鉄道模型の足を踏み入れてまだ数年しかたっていない小生に、評価を云々する資格は無いと思っているし、また、その財力も無い。

 そこで、このような構造面での解説や評価情報をネットで探してみたが、そのような情報を収集することは出来なかった。 雑誌等で掲載された事があるのではないかと思うが、鉄道模型の雑誌を集めているわけではないので、充分ではない。 少しばかりの資料を見る限り、鉄道模型の世界では内部構造を解説して例は、殆ど目にしない。

 本家のKATOさんのホームページでも、このような構造や技術面の紹介が見当たらない。 模型であるため、ディテールの追求も当然であるが、自分としては、苦労して開発した新しい技術などは、もっと紹介して欲しいものである。