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鉄道模型工学 KATO製小型車両用動力ユニットの動力特性

■ 製品概要

 

 Bトレインの動力として重宝している、KATO製の小型車両用動力ユニットの動力特性を測定する。

 この製品シリーズについては、皆さんがご存じのごとく、下記の3種類がある。

品番 製品名 定価
11-105
小型車両用動力ユニット 通勤電車1
\2,100.-
11-106
小型車両用動力ユニット 急行電車1
\2,100.-
11-107
小型車両用動力ユニット 通勤電車2
\2,100.-

 種類は3種類あるが、台車のレリーフが異なるのみであり、動力部品は全く一緒であると判断している。 このため、動力特性は区別せずに述べる事にする。

  このユニットは、小型ながらボギー台車方式を採用している。 また、動力機構は、鉄道模型としては小型のカンモータを搭載し、片側の台車のみを駆動する構成となている。 その構成と部品を下の写真に示す。

 部品構成は簡素であり、何度も分解・組付けを実施してきた。 当初はモータの組付け方向を逆にして走行方向が反対になってしまったことや、集電板が反ってしまって通電不良になったこともあった。 また、キッズ達が扱う場合に、直ぐにウォーム軸のカバーが取れ、台車が脱落することがたびたび発生したので、針金で固定するなどの対策を実施した場合もある。

 

■ 動力特性のの要約

 幾つかのユニットの測定結果より、この小型車両用動力ユニットの特徴を要約する。

  1. 速度特性は、一般のNゲージ車両とほぼ同じ特性に設定してある。 このため、他のNゲージ車両と混在しても違和感がない。 電圧が 4.0 Volt 近辺でスケールスピードが およそ80 Km/hに設定されている。
  2. 製品のバラツキはあるものの、重連させるには問題の無いレベルと思われる。
  3. 標準的な状態では、粘着領域での牽引力はおよそ2グラムである。 しかし、動力台車側に重りにて加重する事により、10グラム程度まで増加させる事が出来る。 さらに、速度変化領域が増加するため、重連時の協調範囲が拡大するメリットもある。
  4. 制動領域でギクシャク走行とギューギユー音の発生がみられるが、加重させた車両ほど顕著である。
  5. 消費電流は非常に小さく、超小型モータの効果と思われる。

 

■ 動力特性の計測の方法

 

 速度特性と牽引力特性は、改良版の傾斜台式測定装置で測定した。 ただし、No.18 のDD351については、2010年の春、動力測定を始めた頃の初期に測定したデータである。

 負荷としては、Bトレのコンテナ車を使用し、コンテナの中に、水草の重り(鉛が主成分)や岩石系の粘土を詰めて重さを変えて搭載し、車両重量が 35.2 グラム、19.1 グラム、13.9グラムの3種類を用意した。 これを動力車両の牽引力の大小に合わせて使用した。

 また、通常1エンド側と呼ばれている前側をトレーラ台車側として測定しており、“前進”とは、駆動台車が後側にある走行状態を示している。 自動車では言えば、FR車、即ちフロントエンジン・リヤドライブ車の状態で走行しているものと、ここでは定義している。

 

■ 測定データ

 個別の車両構成と測定データは、マイコレクションの 小型動力車両 リストに示すページにて、それぞれ記載するので参照下さい。

◆ 車速特性

 まず、車速特性から測定した。 この特性は、平坦路単機走行状態での特性であるので、傾斜台を水平状態にし、動力車単体で走行させたものである。 この時の、供給電圧と電流、および速度を測定し、グラフ化した。

 車速・電圧特性から見て見よう。

 車速・電圧特性については、同一製品のために特性が揃っているのは当然と思われる。 特性の傾斜はモータ特性とギヤ比、動輪径などで決まるので殆んど同じである。 立ち上り点については、摩擦抵抗の要因が寄与するのでバラつが大きくなるのは止むをえないだろう。 前進と後進で異なっているのは、構造的な非対称性の影響かもしれないし、組付け具合や製品のバラツキかも知れない。 データ数が少ないので断定出来ない。

 電圧が 4.0 Volt 近辺でスケールスピードが 80 Km/h と一般的なNゲージの車両と同等の設定になっているのはさすがカトーさんである。 鉄コレシリーズとは異なり、フルスケールの車両との違和感が無い。

 

 次に、電流・電圧特性を見て見る。 超小型モータとのうたい文句のとおり、消費電流が非常に小さい。 およそ 20mAでNゲージでは、もっとも小さい部類である。

■ 牽引力特性

 次に、牽引力特性を見て見よう。 まず、牽引力・速度特性を下記に示す。 供給電圧は 4 Volt に統一している。



 

  

 表示スケールに統一性を欠くが、駆動力状態では当然ながら同じような特性を示す。 粘着領域での牽引力が大きく異なるのは、加重による動輪荷重が異なるからである。

 加重の無い標準的な状態では、およそ2グラム程度の牽引力であるが、重りを追加するこことによって、動輪台車を加重させると、10グラム近くまで粘着領域での牽引力を高めることが出来る。 動輪台車(リヤの台車)に掛る荷重と粘着領域での牽引力の関係を整理してみると、右のようなグラフとなる。 このグラフからも分かるように、加重による効果は顕著である。

 また、牽引力特性グラフにおいて、牽引力が大きい領域では、グラフの勾配が変化している様にも見えるが、まだ解析は不十分である。

 制動領域に入ると、データばバラツクようになった。 標準状態ではさほどでも無いが、しっかり加重した車両は顕著である。 この状態での走行中は、“ギュー、ギユー”と悲鳴を上げながら走行し、ギュー音が発生している時はブレーキが掛っているようであり、速度が低下している。 そして、速度が遅くなると音が止み、また加速する。 そしてまたギュー音が発生する。 この繰り返しによって、“ギュー、ギユー”と音を発生しながら、車体自身もギクシャクと走行し、坂道を下っている。 この結果、速度データもバラツクことになる。

 さらに、急坂になると、ギュー音は連続し発生し、ギクシャク走行は消えて一定の速度となっている。 この音の発生個所はどこだろうか? ウォームギヤ部だろうか? トラクションタイヤ部だろうか? 制動領域での運動解析のヒントにもなりそうである。

 また、NO.51と52では、後進時の特性を測定してみたが、殆んど同じであった。しかし、制動領域でやや異なった傾向を示しており、気にしている現象であるが、N数を増やして見なけらば何とも言えない。

 

 次に牽引力・電流特性を見て見よう。






 多少の違いは散見されるが、製品のバラツキ、調整のバラツキ、状態のバラツキなど、測定誤差も含めて考慮すると概ね似かよった特性を示していると言えよう。 制動領域で“ギュー、ギユー”音が発生していても、電流計の針は少し振れるものの、データ上は殆んど変化が表れていないのは何故だろうかと考えてしまう。 

 

■ 重連特性

 同じ小型車両用動力ユニット同士を使用して重連させて見た。

 単機走行速度がほぼ一緒だったので駆動側では何ら問題は無かった。 協調出来る速度範囲が広いので速度の差はかなり許容出来ると思われる。 一方で制動側ではギューギユー音を少し発生しており、ギクシャク走行も多少認められて速度のバラツキがあったが、走行には支障なかった。 電流特性を見ると、制動側の -5 グラムから -8 グラムにかけて膨らんでいるのが気になる部分である。 車両同士の力の干渉を起こしている様である。

■ まとめ

 Bトレ用の動力として、KATO製の小型車両用動力ユニットは有用である。 同一製品のために特性は揃っているの当然であるが、重連させても違和感が無い。 Bトレ新幹線では16両編成で4台の動力車を重連させているが、走行には問題はない。 ギクシャク走行とギューギユー音の発生がやや気になるが、問題無いと判断している。

 集電性能はチビ凸動力ユニットの2軸動力車と比べては格段に優れているが、それでもたびたびのメンテナンスを必要とする。 このため通電カプラーに幾度か挑戦したが、失敗に終わっている。 なにか工夫が無いものだろうか。 4台の動力車を重連させて16両編成を組む場合、ひとつでも集電不良を起こすと、たちまち走行不安定になってしまうからである。

 最近、バンダイ製の動力ユニットも発売されているので、比較検討を計画することにしよう。