HOME >> 鉄道模型工学 >  鉄道模型工学概論 > 
                  重連特性    目次 特性式と特性図 重連時の課題  実験データでの検証

鉄道模型工学概論 重連特性

§1 特性式と特性図

§1.1 重連時の力の関係

 

 まず、上図のように、A機関車を前補機、B機関車を本務機とする。 なお、複雑化を避けるために平坦路走行状態、即ち θ=0 の状態で検討する。 A機関車の駆動力を FA1 とし、カプラーに掛る牽引力を FAk とする。 また、 B機関車の駆動力を FB1 とし、前のカプラーに掛る力を FBkf 、後ろのカプラーに掛る力を FBk とする。 また、従輪などの走行抵抗をそれぞれ、RA2 と RB2 とする。

 ここで力の関係は、機械力学の基本にならって、受け身の力として考える。 駆動力の FA1 は、動輪が線路を蹴ることにより機関車としては前向きの力を受け、機関車を前進させる力を受けていることになる。 そして、後ろのB機関車からは、カプラーを介して引っ張られるため、 A機関車には抵抗力として機関車を止めようとする力として働く。 本来ならここでニュートンの運動方程式を持ち出し、 質量m と加速度αの関係から、 有名な F = mαの式を立て、 運動状態を記述する運動方程式に進むのであるが、 ここでは、A機関車が一定の速度で走行している定常状態のみを考えているので、加速・減速が無い状態を考えればよい。 ニュートンさんには遠慮してもらって、力のつり合いのみで解決できるのである。 また、力の方向は、図中の矢印の方向をプラスとして考えることにする。

 即ち、A機関車において、駆動力と抵抗力、および牽引力は釣り合うので、

    FA1 - RA2 =  FAk

となる。

 B機関車に於いては、自分自身の駆動力 FB1 と共に、A機関車が引っ張ってくれているので、そのカプラーからの力 FBkf も機関車を前進させる力となり、 また、連結している客車などの抵抗力がカプラーに FBk として掛っている。 B機関車に於ける力の関係は、

    FBkf + FB1 - RB2 = FBk

となる。

 そして、 A機関車とB機関車を連結するカプラーに働く力は、作用と反作用の関係にあるため、

    FAk = FBkf

となる。

 これらをまとめると

    (FA1 - RA2)+(FB1 - RB2)= FBk

となる。 これは、 本務機のB機関車と前補機のA機関車が力を合わせて、客車を引いている状態を示している。 そしてカッコで示して部分は、それぞれの機関車単体でのカプラーに掛る牽引力を示しており、 それぞれの単体での特性値を加算したものが重連時の牽引力特性となる事を示している。

 

 なお、ここではA機関車、B機関車としているが、新幹線などの電車編成に於いては、動力車Aと動力車Bとしてもよいし、多数の動力車を含む編成にも拡大して考察する事も出来る。

 

 また、鉄道模型の重連時の特徴として、次の二つの項目が制約条件となる。

制約条件 1

同じ線路上を走行するため、供給される電圧は同じである。

 このことは、牽引力・車速特性を考える場合に、その特性が固定される事を意味する。

制約条件 2

ひとつの編成として走行するため、編成内の車両の速度は同一である。

 連結機で連結されているため、前後の車両はそれぞれが、勝手に走ることが出来ないのである。

 ここで、DCC方式で運転されている場合には、制約条件1が対象外となると考えるかもしれないが、電圧で規制されなくても、DCC制御によって規制される特性があることを考慮すること。

 

§1.2 各車両の特性

 各動力車の特性式は、「鉄道模型工学概論 動力特性の理論と測定」に示した内容で表わされる。 A機関車、B機関車ごとに、サフィックスを付けて表示すれば対応できるが、ここでは、特性図を用いて検討を進めるので、式での表示を省略する。

 まず、平坦路走行時の牽引力・車速特性と牽引力・電流特性を思い出しておこう。

 

 

 

■ 車輪のスリップ状態について

 

 重連状態を検討するにあたり、不安定走行領域である、〔B〕の制動状態と共に、〔C〕のスリップ状態も重要な案件となる。 そこで、この車輪のスリップ状態について、もう少し考えてみよう。

 鉄道模型工学概論では、式(9)に示すように、車輪とレールとの間のスリップ率を考慮せずに検討を進めてきた。 でも、実際には駆動力を得るためにわずかな滑りが発生している。 自動車分野と同様に、実際の鉄道分野でもスリップ率と摩擦係数μとの関係を示す、「μカーブ」が測定されているはずである。 このスリップによって、右の特性図のように、車輪の回転数から換算した車体の速度は、実際の車体の速度より速めになっているだろう。 摩擦係数μが最大になる点であるハ点は、直線部の交点であるリ点より少し下がって近辺にあると推定する。

 ここで注目したいのは〔C〕状態の中間点である。 車速 Vx の時、 モータの駆動力により、点チの駆動力を発揮しようとする。しかし、 粘着限界により Fo の力しか牽引力として発揮出来ない。 すると、モータは負荷の下がった分だけ回転数を上げ、点リの状態となる。 車輪は点リの状態で回転し、車体は点トの状態で走行していることなる。 この速度の差は、車輪のスリップとなり、 レールと車輪の間をゴシゴシと擦っていることになる。 このゴシゴシ状態での走行が重連時に発生しているのである。

 通常の動力車が1台のみで運転している状態では、μカーブの特性により、中間点で保持される状態はまず無いと思われる。 滑り始めると摩擦係数μの最大点であるハ点から、 いっきに点ニの状態に落ち込むはずである。 中間状態では保持出来ないのである。 しかし、重連状態においては、連結されている他方の車両の影響で、この中間点の状態が保持されることになり、ゴシゴシ状態が連続的に発生していると考えられる。 そして、重連時のバタバタ運動もこれに関連しているのではないかと注目している。

 

§1.3 重連時の特性

 重連時の場合、A機関車、B機関車の特性を上記の重連時の式に当てはめて計算すれば求める事ができる。 しかし、式がより一層複雑となり、式からその内容を読み取るのが困難となる。 そこで、式の内容を示した特性図を用いて検討する方が理解しやすいので、この特性図を用いて説明することにする。

  

A機関車とB機関車の重連時の牽引特性は、
  (FA1 - RA2)+(FB1 - RB2)= FBk
であるから、 A機関車とB機関車の特性図を重ねて、足し合わせばよいことは先に述べて通りである。

 制約条件1により、ある電圧状態ではA機関車とB機関車の線図は固定される。 そして、制約条件2により、速度が同じなので、同じ車速での値を加算すれば重連時の牽引力となる。

 左の図において、車速 V時には、A機関車はロ点の力 (FA1- RA2)を出し、B機関車はハ点の力(FB1- RB2)を出しており、合計するとイ点の力 FBk となり、これが重連時の牽引力となる。 牽引力にはプラス値の駆動状態と、マイナス値の制動状態があり、このプラス・マイナスを考慮しながら特性を足し合わせて行くと、左の図のように重連時の特性線図となる。

 

 

■ 重連機関車のみで走行している場合

  

 ところで、ここで客車などを引いていない状態を考えてみよう。 FBk がゼロの状態である。

 客車を引いていないのだから、
牽引力はゼロなんでしょう? 

と普通は考えてしまうが、どっこいそうはいかないのである。

 右図に重連している機関車のみで走行している場合の牽引力と車速の特性図を模式的に示す。 同じレール上を走行しているので、A機関車とB機関車は同じ電圧を供給されている。 そして、それぞれの機関車の牽引力がゼロの状態の車速は、それぞれ、VoA と VoB なる。 多くの場合、A機関車とB機関車の牽引力がゼロの状態の車速VoA と VoB は、

ピッタリ一致しないのである。

 速度が異なることは、 車両が離れていくことに他ならないのでカプラーでガッチリと連結されている車両の速度はピッタリ一致しなければならない。

    では、どうなるか? 

 A機関車とB機関車をつなぐカプラーに働く力は、作用と反作用の関係にあるためその値が等しく、 最初の図に示したようにその方向が反対となる。 即ち、一方が牽引側で、他方が制動側となる。 引張役とブレーキ役を演ずることになる。 特性図で示すと、プラスマイナス反対となる。 上の図のイ点の速度 Vo で、丁度、A機関車とB機関車の特性がプラスマイナス反対となり、その絶対値が等しくなっている。 この重連機関車は、この速度で走っていることになる。

 ややこしい事を述べているが、A機関車とB機関車の特性をそのまま加算したのが、前に述べた様に重連状態として示した線図である。 そして、この線図が二つの機関車が力を合わせて、他の車両を牽引したり、制動した時の状態を示すことになり、外への力がゼロのときが問題の重連機関車のみで走行している状態となる。

 すなわち、特性の異なる二つの機関車のみで走行している場合には、一方が駆動側になり、他方が制動側になることである。 引張役と引っ張られ役が発生することになる。

 外から見ると牽引力はゼロなのに、内部では引張やっこしている。

 前補機の方が早い場合には「引張やっこ」、 逆に前補機が遅い場合には後ろから押されるので、「押しやっこ」の状態となることは容易に理解できるであろう。

 

■ 負荷が掛っている場合

 この重連機関車に客車や貨車を連結して、負荷を掛けた場合には、重連特性の線図に沿って速度を変化させていく。さらに、それに合わせて、A機関車とB機関車の運転状態も変化している。 そして、負荷が大きくなると両方とも引張役となり、2台で力を合わせて駆動することになる。 ブレーキ側でも同じことが言える。

 また、概念図でも理解できるように、重連特性の線図は、重連させる個々の機関車の特性によって、そのパターンが色々変化することは、容易に想像される。 全体的には右下がりの線図であるが、途中では凸凹することになるであろう。

 

■ 他の特性線図について

 上記では、牽引力・車速特性図を説明したが、牽引力・電流特性図ではどうであろうか。

 残念ながら、A機関車とB機関車の特性図から単純に重連時の特性を求める事は出来ないのである。 電流値は、A機関車とB機関車の合計であることは明白であるが、牽引力の加算方法が簡単ではないのである。 牽引力・車速特性図から各車速毎にA機関車とB機関車の牽引力を求め、その時の牽引力を合計し、さらにその時の電流値を加算して特性図にプロットしていくことになる。 特性図上での作図が簡単には出来ないのである。

 また、無負荷走行時の車速・電圧特性図や電流・電圧特性図ではどうであろうか。 これも残念ながら特性図上での作図が簡単には出来ないのである。 客車などを引いていない無負荷状態と言えども、重連している機関車同士で「引張やっこ」や「押しやっこ」をしているので、既に無負荷ではないのである。  強引に求めるとすると、各電圧毎に牽引力がゼロの状態の車速VoA と VoB を求め、さらに牽引力・車速特性図を引き直して重連時の牽引力がゼロの状態の車速Voをチェックしていく必要があるのである。 さらに電流となると・・・・・・・・・。

 数式から求めるにしても複雑になるばかりだし、個別の特性図から簡単には作図は出来ない。 つまり、実測データで理解して行くのがベターと考えている。 その場合の考え方の原則として、

  1. A機関車とB機関車の車速は同じである。
  2. 供給する電圧は同じである。
  3. 消費する電流値はA機関車とB機関車の合計である。
  4. 重連時の牽引力(プラスとマイナスがある)はA機関車とB機関車の合計である。
  5. A機関車とB機関車が分担する牽引力の大きさのは、それぞれの牽引力特性によって決まってくる。

である事を念頭に置いておけば良いであろう。