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鉄道模型工学  トラクション・タイヤの有無を比較する (解析)

■ いきさつ

 無線通信のXBeeと赤外線通信を使用した測定方法の工夫により、新たに測定可能となったモータ回転数をもとに、動輪のスリップ率を計算し、トラクションタイヤの有無に依る特性の差異を検討してみることにした。 今回は測定されたデータをもとに、データやグラフを加工して、解析してみた。

  データ編  ⇒ 「トラクション・タイヤの有無を比較する (測定データ)」 を参照。

 

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■ 牽引力特性の比較

 データを比較する場合には、グラフを並べて眺める方法もあるが、同じグラフ上に重ねて表示させるとよりはっきりする。 そこで、右のグラフの様に、トラクションの有無による牽引力特性を同じグラフ上に表示させてみた。 4.5volt 時はデータがバラツイテいたので省略している。

 グラフをみると、トラクション・タイヤの有無によって、あまり差が無い事が分かる。 むしろ、トラクションが無い方が早く走る場合もあるのには驚いている。 しかし、

  1. 駆動側と制動側共に、粘着領域においては、トラクション・タイヤを履くとその効果は出ている。
  2. トラクション・タイヤを履くと特性が安定している(データのバラツキが少ない)ようである。

と言えそうである。 測定データ編でも述べたが、トラクション・タイヤによる牽引力アップは、ひとつの動輪当たりで、2倍の牽引力をアップさせているようであるが、全部の動輪をトラクション・タイヤに変更しているわけでなないので、25%のアップに留まっていると言える。

 

■ スリップ率の比較

 次にスリップ率を比較してみよう。 データ編で示したグラフを見ても分かるように、スリップ率の小さな領域では、供給電圧による差が殆ど無い様に思われる。 なお、供給電圧による差とは動輪の回転数の差を意味している。 そこで、これらのデータをひとまとめして、近似曲線を当てはめてみた。 但し、牽引力が大きくなるとスリップ率が回転数の差によって値が違ってくるので、ここでは牽引力が20グラム以下のデータだけを取り出して見た。 そのグラフを下に示す。

   

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 グラフには、これらのプロット点を近似させた近似曲線を、同時に表示している。 近似はEXCELに備わっている色々に式を当てはめたが、6次の多項式近似が最もフィットしていると判断した。 その時の近似式を示す。

トラクション有りの場合:

y = 0.0000000020 x6 + 0.0000000243 x5 - 0.0000011330 x4 + 0.0000009430 x3 + 0.0001160145 x2 + 0.0017050907 x + 0.0038593637      R2 = 0.9510544273

 

トラクション無しの場合:

y = 0.0000000007 x6 + 0.0000000623 x5 - 0.0000007160 x4 + 0.0000011673 x3 - 0.0000293245 x2 + 0.0033700686 x + 0.0071938334      R2 = 0.9346790552

 

 この式から見ると、6次項の影響は少ないようであり、3〜4次項の要因が大きい様に思えた。 この二つの曲線を重ねたものを左のグラフに示す。

 こうしてみると、牽引力の小さい領域でもトラクション・タイヤはスリップ率が小さくなっている事が分かるが、その効果(嬉しさ)は何かと問われると、返答に窮するのである。

      多少動輪が滑っても走行には何ら影響はないではないか!

 と言われれば、それまでである。 トラクション・タイヤを採用する理由は、やはりスリップ領域での牽引力アップが最大の目的であるとするならば、その通りなのかと解析してみる必要がある。

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■ 粘着係数の計算

 スリップ領域での牽引力を解析する場合には、“ 粘着係数 ” を取り上げるのが最適であろう。 そこで、粘着係数を計算してみよう。 鉄道車両や自動車など、駆動輪のある輸送車両では、その駆動力を解析する場合に粘着係数、あるいは摩擦係数と呼ばれる係数を導入している。 そして係数としては “μ” を使用し、μ係数とも呼ばれている。 さらにこの係数が表す係数カーブを、“μカーブ” と呼んでいる有名な特性である。

 その定義を説明している図として、右の図を紹介しよう。 出典は、「鉄道の車輪とレール」で、明星大学理工学部機械工学科 宮本昌幸教授の解説書から借用した図である。 このホームページは現在閉鎖されており、見る事は出来ないが、宮本先生は多くの鉄道関係の書籍を発行されているので、どこかで見る事ができるであろう。

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  これに習って粘着係数μの特性を計算してみよう。 とはいっても簡単なのである。 今まで表示してきたスリップ率のグラフに於いて、X軸とY軸をひっくり返し、牽引力(粘着力F)を車両荷重で割って、その数値をμとして、縦軸にすれば計算は完了なのである。 車両荷重は、トラクション・タイヤの有無によって変化しないので、牽引力表示と表示単位が異なっただけなのである。

  たったこれだけであるが、何だか高級な実験データになった気がする。  そのグラフを下に示す。 今回は、スリップ率が大きい場合も観察したいので、全データを表示させた。

 グラフをみて、最初に気が付くのは、右上に示した一般的なμカーブとは少し様子が異なっている点である。 スリップ率が 0.1 を超えるとμが最大になり、それ以後は下がって来るものと思っていたが、下がってこないのである。 右上がりに大きくなっているのである。

 小生は多少自動車工学をかじっていたので、このμカーブがABS制御の基本となっていた事を知っており、「重連特性 特性式と特性図」 の “車輪のスリップ状態について” では、一般的なμカーブ特性に従って説明していた。 その時に説明した推定特性図を左に示す。 右下がりのμカーブの場合は、最大点を過ぎると粘着係数が低下するので、牽引力も当然低下するはずである。

 しかし、今回のデータより、鉄道模型においては、この考え方が当てはまらないのではないかとの疑問が生じてしまった。 測定方法が悪いのかも知れないし、鉄道模型では、特殊なμカーブを呈するのかもしれない。

   

 そこで、駆動側だけを拡大表示してみた。 やはり、右上がりのカーブである!

   

 

 色々な問題点もある。 このデータは車両トータルで測定しているので、個々の動輪の状態を測定しているのではない事、即ち、牽引力によって台車にモーメントが掛り、それによって荷重移動が発生しているはずであるが、その影響を考慮していないのである。 即ち、各動輪の荷重が均等であるとの仮定で計算されており、実際的とは異なったデータとなっている恐れがある。 従って、今回のデータだけでは断定出来ないと思っている。

 しかし、牽引力特性を測定していた時、負荷を大きくして行ってもどこまでも粘っている牽引力パターンを示していたので、推定していたパターンと異なっていいることに気が付いていた。 この事は、μカーブが右上がりかも知れないという事を暗示しているので、疑っていた事象であるが、今回の解析でその思いがよりはっきりとして来たのである。

   【仮説】  鉄道模型の動輪のμカーブは、右上がりのカーブである。

 この仮説を照明するにはどうすればよいのかは今後の研究課題であるが、どの様な手段で追及していけばよいのかはまだ不明の状態である。

 さて、この問題はさておいて、トラクションの有無による差は、読み取れるであろう。

     スリップが大きくなってきた場合には、トラクション・タイヤの効果が出てきている。

と言える。

 

■ 電圧降下の要因は?

 今回の測定では、スリップ率の他に電圧降下量も測定しているので、その様子を観察してみよう。 左のグラフはトラクション無しの場合の速度特性グラフである。

 先回にならって、電圧降下量をプロット点の色分けで表示してみた。 電圧が高く、速度が速い場合には電圧降下量が大きくなっているのが分かるが、また、同じ電圧に於いて、電圧降下量が大きくなると速度が低下している現象を読み取れる。

 当然と言えば当然であるが、この二つの現象において要因と結果が異なっている事は確かである。 同じ電圧に於いて、電圧降下量が大きくなると速度が低下している現象は、電圧降下が原因で、その結果として速度が低下していると考えるべきである。

 一方、前者の現象はこの逆の関係と考える。 電圧降下量によって多少は速度低下はあると思うが、電圧が高く、速度が速い場合には電圧降下量が大きくなる原因が他にあると考えるべきであろう。 その原因となる要素は何なのかは不明であるが・・・・・・・・・。

 次に、牽引力特性グラフを右に示す。 同じくトラクション無しの場合であるが、供給電圧が高くなると電圧降下量が大きくなっているのが分かる。 それは牽引力が小さい場合にあてはまるのであるが、牽引力が大きい場合には、速度が速いからと言って電圧降下量が高いわけではない。 牽引力が小さく ( スリップ率が小さいのかも知れない) 電圧が高いほど電圧降下量が大きいのである。

 この現象は不思議だなと眺めているだけで、解析の糸口がいまだにつかめないのである。

 電圧降下が発生している場所は、レールと車輪の間と、車軸と車軸受の間と、台車の集電子の頭と台車支持用バネの間の3ヶ所だけあるが、前の2者が臭いと睨んでいるのである。 しかし、どうやって調べていけばよいのか、アイディアが湧かないのである・・・・・・・・・・・。

 例えば、

などのアイディアはどうだろうか? でも実験は結構めんどくさそうである!