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鉄道模型実験室   TOMIX カニ24-100形 補助動力車の調査

 

 先回、「KATO C62 2 と隠れ補機」として自作の補助動力車を製作したが、 “機関車のスピードに合わせるスピード可変装置付き” と言う説明文につられて、TOMIXの「カニ24-100形(M) 」を、編成させるセットが無いままに購入してしまった。 

 とりあえず、KATOの寝台特急「富士」(10-855)の編成に中に組む込んでみたのが、上の写真である。 この補助動力車の動力特性と分解調査を実施したので報告する。

 

● 車両の仕様

● スピード可変装置の機能

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 この製品の特徴は、補助動力車として必要な “機関車のスピードに合わせるスピード可変装置付き” の機能が組み込まれている事である。 左の写真の様に、連結面側の貫通ドア窓に調整用の黄色いボリュームが見える。 また、このボリュームを回転させる専用の調整ドライバーも付属している。 ドライバーは専用と言っても、ボリュームの溝に入れば何でも良いのだが、一応は専用品を付属させているのはメーカ側の配慮のようだ。

 説明書によると、このボリュームを右に回すと高速側に、左に回すと低速側に速度が調整される。 およそ3/4回転可能である。 連結させる機関車と、このカニ24を連結せずに、それぞれ単機状態でエンドレス線路で走らせ、その速度差が無いように調整して下さいとの事である。

 

 この説明書は、なかなか親切であり、的を得た操作方法と注意書きが記載されている。 例えば機関車の調整ポイントは、速度によって変化するので、パワーユニットのダイヤルを一定位置で行って下さいとのことであるが、その理由として、機関車とカニ24のギヤ比やモータの特性が異なるためと説明している。 確かにその通りである。 でも、勾配の有るレイアウトではその速度も異なってくるので、出来たら平坦部分で実施して下さいと追加すると、さらに万全であるが、そこまでは無理だったのか。 試走させるエンドレス線路を図示することで理解してもらうと言う配慮であろうか。 とにかく、速度調整は、単機での無負荷走行状態での速度を合わせる事が重要なポイントである。 しかし、ギクシャク運転しなければ、それほど厳密である必要も無いのだが、折角の機能を生かすには、こだわりたいところでもあろう。

 また、低速側で車両を長時間走行させると調整ボリュームに大きな負担がかかり、保護機能が働いて車両が停止する場合があるとのこと。 その際は、パワーユニットの電源を切り、しばらくたってから運転を再開してくださいとのことである。 低速側走行では、ボリュームの抵抗が大きくため、走行中に発熱する。 発煙・発火の危険な温度まで上昇すると保護回路が作動するようである。

 さらに、この車両の連結位置を機関車のすぐ後ろに連結することを推奨している。 この推奨位置以外に連結した場合には、条件によっては脱線するので気を付けて下さいとのことで、 二つの動力車間の押し合いや引っ張り合いによって、中間部の車両が脱線する事を警告しているのも、納得である。

 

● 構造

 
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 ボディーを外して、最初に目に入るので立派な放熱板である。 右の端部は調整ボリュームの側面に接触するように挿入されている。 次に、床板を外すとシャシーが現れるが、床板とシャシー間にはプリント基板が設置されている。 つやがあり、厚みのある黒い塗膜と、金色に輝く金属部分(金メッキ?)が目に付き、今までお目に掛った事の無い、なかなか立派な部品である。 右端には調整ボリュームが半田付けされており、左端には室内灯用の接触部が金色に輝いていた。 

 

 シャシーは、真中にモータを配置した動力機構を構成し、モータや台車を支持すると共に、モータと動力台車をジョイントで連結している。 モータの両側にあるフライホイールは、やや小振りであり、機関車の動力とのマッチングを考慮して、やみくもに大きな物を搭載しなかったものと推察する。

 次に、全部品の分解写真を下に示す。

 

 注目する部品として、プリント基板を説明しよう。  プリント基板の裏側を左に示す。この基板は、表と裏に配線が施され、半田付け部と接触部以外は、絶縁と保護のために分厚い塗膜が施されている。 さらに表と裏を導通させるスルーホールも何カ所か見受けられる。 裏側の左右の大きな接触部は台車から集電する部分で、台車のコイルスプリンが接触する。 中央部の四角い二つの接触部は、モータに通じるコイルスプリンと接触させる部分である。

 調整ボリュームは左の写真の様に、 約 7mm の角型の半固定抵抗で、「500 1B」の記号が見える。 基板の上で測定した実測抵抗は、0.4 〜 49.4Ωであった。 記号と実測値から、50ΩのBカーブ(直線)抵抗と判断する。

 この半固定抵抗のすぐ裏側には、基板にPTCと記されたチップ部品が半田付けされていた。 その端子間の実測抵抗は、2.4Ωであった。 この部品は記号より判断して、チップサーミスタと思われ、温度が上昇すると抵抗値が大きくなり、電流を低下させる保護回路を形成している様である。 この半固定抵抗と、PTCおよびモータは直列に配置されていた。

 

 この他、基板上の回路や記号を追って回路図を作成したものを右に示す。 テールランプとトレインマークを照らす照明用として、チップLEDが半固定抵抗と反対側の端部に半田付けされている。 その回路は、逆方向では消灯するためのダイオードと100Ωの抵抗とで構成されていた。 RとLは台車から集電するための接触部である。 でも、なぜ金メッキ?と立派な絶縁被膜が施されているのだろうか? 接触不良による発熱などの対策なのだろうか? 

 

● 動力特性

 何時もの様に動力特性を測定した。 測定は改良した傾斜台式測定台を使用して実施した。 ⇒ 鉄道模型工学 傾斜台の改良

 まず速度特性を見て見よう。

 調整ボリュームは右方向に最大に回した高速側の「max」と、左方向に最大に回した低速側の「min」状態で測定した。 走行は平坦路単機走行状態である。

 速度・電圧特性から見て見ると、無負荷走行車速Voと供給電圧Eとの関係は、

 min 状態: Vo = 26E - 139  走行開始点 Eo = 5.35
 max 状態: Vo = 39E - 78   走行開始点 Eo = 2.00

となり( 単位はVolt )、走り始めの電圧が大きく変化していると共に、速度勾配も少し変化している。

 このスピード可変装置では、例えば供給電圧 6Volt に於いてスケールスピードで、20 Km/h から 150 Km/h までも速度調整が出来る事を示しており、調整範囲としては充分であろう。 しかし、4Volt で80Km/h の速度しか出ないとすると、 前を走る機関車に追いつかない場合もあるので注意が必要である。 特に一昔前の車両は、かっ飛び走行の車両が多いので、最近の機関車と重連させるのが良いであろう。 実際に我がコレクションのEF81 119号機では、機関車が逃げて行ってしまった。

 また、低速側ではボリュームを回し過ぎて、電流が100mA近くも流れているの状態なのに停車している場合があり、うっかりすると発熱による模型車両の溶断の恐れがある。 電流が 0.1A、抵抗が 50Ωとすると 0.5 ワットの電力を消費している。 このために、放熱板やチップサーミスタを設けて、安全対策を行っているものと思われるが、安全を見込んで注意しておくのが良いであろう。

 電流・電圧特性では、モータ回転時において、単品では約 50mA 、Assy 状態では 100mA を消費しているが通常の車両と特に差異は無い。 即ち、モータは一般的な製品と思われる。 また、モータ停止中の電流と電圧の勾配から推定する抵抗値は、 min時では R = 6/0.105 = 57 Ω、 max時では R = 2/0.125 = 16 Ω である。 これより、モータの抵抗は、およそ15Ω前後と推定する。

 モータの抵抗値や、4Volt で80Km/h の速度設定などから考えて、スピード可変装置付きの補助動力車としては、速度設定をもう少し上げると共に、可変抵抗値を半分ぐらいにしても良いように思われるが、部品の共通化などメーカ側の制約も色々あるもと考えるられる。 

 

 次の牽引力特性を見て見よう。

 調整ボリュームのmaxとminを同時にプロットするつもりで、供給電圧を 6Volt に設定して測定を始めた。 しかし、その思惑は見事に失敗した。  min側が測定出来ないのである。 速度が遅く、かつすぐに力尽きて坂を登れないのである。 下りだけでも測定出来ると思われるかも知れないが、我が測定方法(傾斜法)では坂を上らない事には、下り坂を下れないのである。 このため、代わりに調整ボリュームの中央値にて測定した。

 ハイホンの1と2は、1回目と2回目の測定を示す。 牽引力・速度特性を見ると、そのバラつきがやや大きい事が気になるが、高速側と中央状態での特性形状が異なるのが気がかりである。 高速側はS字形状であり、中央状態では一直線状である。 何故だろうと考えてしまうが、さらに再調査を実施して、もっと調べる必要がある。

 また、粘着領域の牽引力は15グラム程度と推定するが、動力車としては大きい方ではない。

 次に、牽引力・電流特性では、調整ボリュームの抵抗値が大きくなると、同じ電流値でも牽引力は大きくなっている。 いや、抵抗値が小さくなると同じ電流でも牽引力は小さくなると言う方が分かりやすい。 牽引力はモータに流れる電流と比例すると言われているので、抵抗値が異なっても同じ電流なら同じ牽引力になるはずであると思われるかも知れない。 しかし、ここで注意しなければならない事は、その時のモータの回転数が異なる点である。 調整ボリュームの抵抗が少ないと、そこでの電圧降下が小さくなるため、モータの端子電圧が高くなり、モータの回転数はアップする。 そして、それに従って駆動機構の摩擦損失も大きくなり、車両の牽引力として発揮出来る力は低下するのである。 この事は、「動力特性の基本式の車両特性」や「抵抗挿入による特性の改善」でも記述しているので参照されたい。

 誤解の無いように、別の言い方をするならば、40Km/hで10グラムの牽引力が欲しい場合、上記の設定の様におよそ25Ωの抵抗を挿入して達成するよりも、モータの仕様を変更して、抵抗の挿入なしで40Km/h 時に10グラムの牽引力を発揮するようにすれば、その消費電流はグーと小さくなるはずである。  抵抗挿入によってモータの回転数を落とすのは、無駄なエネルギーを抵抗部分で消費させるので、効率の悪い設計なのである。

 

● まとめ

 補助動力車として、機関車のスピードに合わせるスピード可変装置付きの機能が組み込まれているこの車両の構成は、半固定抵抗がモータと直列に挿入されて回路で構成されている。 この半固定抵抗の抵抗値を調整することによって速度を変化させている。 そして、安全対策として、放熱板とサーミスタも設置されている。 また、何よりも立派なプリント基板を見ると、安心感が湧くのも小生だけだろうか。

 なお、牽引力の再調査と言う宿題が残ってしまった。 乞うご期待!