HOME >> 動力車の調査 > GM製コアレスモーター動力ユニット 名鉄1000系 (その2) 特性解析
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コアレスモータ動力ユニットを搭載した名鉄1000系電車の動力特性の測定データ「GM製コアレスモーター動力ユニット 名鉄1000系 その1」を使用して、「第4次特性解析 抗力係数に注目して解析する」(2019/6/26)にて報告した方法で解析した結果を報告する。
その解析方法の要約を下に示す。
■ 各種の定数を求める
動力車の数式モデルには、設定した定数の数値を同定する必要がある。 このために、測定データをもとに上記の解析方法を使ってそれぞれの定数を求めてみよう。
その作業の出発点として、右のグラフに注目しよう。 このグラフは、モータ電流をモータのモデル式からトルクに換算して縦軸とし、横軸はモータ回転数にして表示したものである。
このグラフは、単機走行時と牽引力測定時の様子を示したものであるが、牽引力測定時の最低トルクに注目すると、この値が単機走行時のトルクよりも小さい事がはっきりとわかるのである。 これは、遷移点の状態を示しており、ウォームギヤの歯面を境に、モータ側と動輪側の動力伝達が切れており、それぞれが独立して回転していることを示している。 そして、このデータよりその時のそれぞれの摩擦トルクが推定されるのである。 動力伝達が切れているので、摩擦抵抗の抗力項はゼロと考えれば、摩擦抵抗の速度項の示唆しているのである。
この現象を利用して、ウォーム軸(モータ側)と、ホイール軸(動輪側)のそれぞれの摩擦の速度項を推定しようとするものである。
◆ 電圧降下量の推定
まず、集電回路における電圧降下量を推定した。 供給電圧とモータ端子間の電圧差を計算するもので、測定データでは電圧パラメータ毎に表示したが、ここではまとめて同じグループとして表示している。
動輪トルクや電流量には何か関係しているように思えるが、あまりにもバラバラである。 それも、およそ 0.1〜0.6 ボルトも変動していては、まさにランダムとしか言いようが無い。 集電機構の不安定さによるものと推察するので、ここでは全体の平均を取って、0.35volt とすることにする。
◆ ウォーム軸と動輪軸の摩擦トルクの速度項の推定
上記の考察に従い、牽引力特性データより、摩擦トルクの速度項に算出した。 まず、下記のグラフに示す様に、各パラメータ毎に最低電流値を境として左右に分割表示して、それぞれの直線近似式を求める。 ウォームギヤの接触点にちなみ、右側が表歯面、左側を裏歯面と呼ぶことにしよう。
今回は、このデータを収集するために電圧パラメータを増やして測定している。 5ボルトから1ボルト毎に測定した。
この表歯面と裏歯面の近似直線の交点が遷移点であるので、この点の入力側トルク Tm' がウォーム軸の摩擦トルクを示し、出力側トルク Td が動輪軸側の摩擦トルクである。 表歯面と裏歯面との境であるので、抗力項はゼロ、即ち速度項を示唆しているのである。 そして、各パラメータ毎にこれらのトルクを算出し、その近辺の測定データよりウォーム軸回転数と動輪回転数を求めてグラフにプロットしたのが下のグラフである。
これら遷移点での値を直線で近似させ、この近似式がウォーム軸摩擦トルク Ta と、動輪軸摩擦トルク Tb を示している事になる。 そして、その勾配とy切片を求めると摩擦損失トルクの速度項の定数を推定できるのである。 測定点を増やしたことによって、これらの傾向をしっかりと読み取ることが出来たのである。
◆ 抗力項の推定
この動力機構の入力トルクである Tm' と、出力トルクである Td のグラフを再び下に示す。 このデータより、上記で求めた速度項を差し引いたトルク t1 と t2 を計算したものを下右に示す。 折れ曲がり点、即ち遷移点が原点近くに寄ってきているのが分かる。
このデータより、抗力項の摩擦損失トルク Tk を求めたものを下左のグラフに示す。 さらに表歯面と裏歯面に分類してその近似式を求めた。
この直線近似式より、抗力項の比例定数と固定定数を求めた。
◆ スリップ率のモデル式を求める
スリップ率の測定データの上にモデルの計算データを重ねて、プロット点が合致するように係数を探った。 その結果をグラフに示す。
駆動側と制動側のパターンがかなり異なっていることが分かる。
◆ モデル式の定数
こうして求めた定数を一覧表示示す。
寸法関係 | 動輪直径 D | 5.7 mm | 全減速ギヤ比 i | 12.0 | ウォームのピッチ円 d1 | - | リード L | 0.933 mm | |
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動輪荷重 Wo | 53.8 gf | 動輪系減速ギヤ比 i0 | 0.923 | ホイールギヤのピッチ円 d2 | - | ウォームリード角 tanβ | - | ||
モータ関係 | ke ( volt/rpm ) | 0.000824 | Ra ( Ω ) | 33.2 | Eb ( volt ) | -0.07 volt | 電圧降下 | 0.35volt | |
Kt ( gf-mm/A ) | 785.3 | Rm ( gf-mm ) | 0.296 | λm ( gf-mm/rpm ) | 0.000337 | ||||
損失関係 | ウォーク軸速度係数 λw | -0.00007 | ウォーム軸固定項 Rw | 1.58 gf-mm | 表歯面抗力係数 λk | 0.769 | 表歯面抗力固定項 Rk | -0.1725 | |
動輪軸速度係数 λd | -0.0006 gf | 動輪軸固定項 Rd | 11.6 gf-mm | 裏歯面抗力係数 λk | 2.03 | 裏歯面抗力固定項 Rk | 0.0 | ||
スリップ率 | 駆動 | k | -0.0012 | p | 0.45 | q | -0.01 | a | 0 |
制動 | k | 0.0035 | p | 0.35 | q | -0.02 | a | 0 |
尚、スリップ率モデルのn の項は駆動が 3 で、制動が 2 としている。
◆ 測定データとモデル式のマッチング具合の検証
上記の定数を使って計算した結果と測定データを同じグラフに示して、そのマッチング具合をチェックした。
マッチング具合も問題無いレベルと思われる。 これは、設定したモデル式と推定した定数が実際にマッチしていることを明示している。
■ 考察
動力機構の特性を表示する計算式とその定数が明らかとなったので、これらの定数から何が言えるのか、この車両個体の特徴は何か、どこが問題なのか、どの部分を変えるとどの特性が変化するのか、等々の検討が可能となるのだが、この検討項目がまだはっきりしないである。 個体毎のデータ数がもっとたくさん必要なのである。
◆ 全体の摩擦損失の内容
取りあえず、全体の摩擦損失の内容をグラフ化してみた。 下のグラフ。 グラフの見方については、「抗力係数に注目して解析する」を参照してください。
この動力伝達機構の摩擦損失は、入力軸側の速度項や動輪軸側の速度項は非常に小さく、摩擦損失のほとんどは抗力項が占めていることが分かる。 これは動力伝達機構がシンプルであり、抗力項はウォームギヤ部での摩擦損失と考えることが出来る。 そして効率は、ウォームギヤとしても平均的な約20%程度であった。
◆ 動力車としての摩擦係数について
今回注目している点は、全体の摩擦係数が駆動側と制動側で様子が異なっている点である。 今までは、ボギー台車方式の動力車においては蒸気機関車モデルとは異なり、駆動側と制動側では同じようなコロガリ摩擦係数、即ち、μカーブ を描くと考えていたが、この考えを改める必要があると気が付いた。
それには、台車マウントとボディマウントによるカプラー位置の違い、トラクションタイヤの装着位置、そして台車とボディーとの支点位置、などが関係してくるようである。 このGM製のコアレスモータ動力ユニットは、動力伝達装置をシンプルにした代わりに、電圧降下量の不安定さと共に、何か新しい問題点を秘めているような気がしてならない。