HOME >> 鉄道模型工学 > 重連特性 重連時の課題

重連特性 重連時の課題

■ 重連時の課題

 

◆ 問題となること

  

 またまた同じような線図を右に示します。 ここで、緑の線は本来の安定した走りをみせる通常状態での走行を示し、 赤い線はスリップ状態の不安定な状態、 茶色は制動時の不安定状態を表現したつもりである。 そして、重連状態では、一方の機関車が不安定状態になっている場合にはだいだい色で示している。 すると、単独走行では緑の線の範囲が広いのに、 重連させると極端に狭くなっていることに気付いてもらえると思う。 一方が不安定な状態に陥っている場合が多いのである。

 無負荷状態のVo点では、 B機関車が制動側のスリップ状態で走行しており、 そこから負荷が大きくなるに従って、 B機関車が制動時の不安定状態を経て、 やっと通常状態に入る。 ここから、二台で力を合わせて駆動しているかと思っていると、 少し負荷が大きくなると、今度はA機関車が駆動側のスリップ状態に突入し、レールをせっせと磨くゴシゴシ状態での走行に入る。 でも機関車達は、重い貨車を引いて走っているのである。 前に進んでいるのである。 さらに負荷が増えると、B機関車もスリップ状態に入り、ここで初めてこの重連している機関車群は、走行不可能に陥る。 2台ともスリップ状態に入り、前には進めなくなるのである。

 ブレーキ側ではどうなっているのだろうか? 〔B〕状態がどうなっているのか良く分からないので、なんとも検討のしようがないが、不安定な状態で走行している様子である。 その状態は、良く観察して現象を把握すべきであるが、まだその観察方法も未解決のままである。

 このように、重連させることによって、 不安定ではあるが前に進んでいる状態での走行が、いろいろな場面で発生していることになる。 その状態ば動輪のスリップであったり、(未確認ではあるが制動力のふらつきもあるようである)として表れている。 これが重連時の不安定な状態を生じさせているものと考えている。

 この状態を避けるには、緑の線で示した安定走行の領域を拡大させる必要がある。

 

◆ 実際の鉄道車両では

 このような現象が実際の鉄道車両でも起こっているのであろうか? 否である。  動輪がスリップ状態で走行していると、車輪や線路がすぐに擦り減ってしまうと同時に、 滑り状態では安全走行がままならないはずである。 ポイント通過時には脱線の恐れもある。 鉄道技術者であれば、真っ先に解決しなければならない重要問題と想像する。

    では、なぜ模型でのみ発生しているのか?

 その原因は、使用しているモータ形式の違いであり、それは特性線図の形に現れている。

 直流モータには、大きく分けて直巻式と分巻式があり、その逆起電力の影響具合で特性は異なっているとのこと。 自分の専門分野では無いので、自信は無いが、概念的には上記の図の様であると理解している。 鉄道模型で使用されているのは、DCマグネットモータであり、分巻モータと同じ特性を示すとのこと。 分巻きとした界磁磁石部分を永久磁石に代えただけなので、その特性は同じ形態となる。 一方、実際の鉄道車両では、直巻式の直流モータが使用されている。

 グラフから分かるように、ある一定の速度状態において、分巻式ではモータ毎のトルクのバラつきが大きくなり、状態によっては制動領域にも突入することが分かる。 しかし、直巻式では、その特性は横に寝ており、そして、その裾野は富士山のようになだらかに長くのびているため、トルクのバラつきは小さくなり、制動領域にも突入しない。 このモータ特性の違いが、模型車両と実際の車両との違いの一つであると思っている。

 また、鉄道模型工学概論の牽引力・車速特性図に示すように、〔A〕状態のハロ間の勾配が立っており、スリップ領域に突入しないで安定して走行できる速度範囲が狭いのである。 一方で実際の鉄道車両の動力特性図を見ると、特性はなだらかに長くのびていおり、制動領域には制御回路を切り替えなければ突入しないので、安定して走行できる速度範囲が広いと共に、ブレーキ役を演じるモータも無いのである。 さらに、実際の車両ではスリップ領域に突入しないような電流制御など高度な制御技術が施されており、速度範囲の全範囲に亘って安定して走行できる様に制御されている。 さらに、最近ではVVVF制御や交流誘導モータなど進んだ制御技術などでも、この問題を解決していると思われる。

 また、逆効率が高い平歯車などの減速機構を使用すれば、DCマグネットモータを使用したとしてもモータを発電機として活用することにより、制動領域での安定した走行を確保することが出来る。 しかし、 いかんせん逆効率ゼロのウォームギヤ式減速機構を採用している限り、力の伝達が遮断され、不安定な走行にならざるを得ないと考える。

 すなわち、DCマグネットモータとウォームギヤ式減速機構の採用によって、問題の現象が発生していると考えられる。これは、鉄道模型を成り立たせる必須の構成要素でもあるため、鉄道模型では避けられない現象となってしまう。

 

◆ どうすれば良いのか

  鉄道模型の世界では、このような制約の中において、自分たちで運用を工夫するしかないように思われる。 これまで言われてきたノウハウと、ここで検討してきた知見をもとに考察してみよう。

 

1) 重連させる車両の速度を合わせること

 重連状態でも、安定した走りを見せる〔A〕状態の領域を広く確保するには、重連させる車両の速度を合わせることは最良の方法であろう。 そのためには、速度の合っている車両同士を選別する必要がある。 あるいは、動力車のモータに抵抗を直列に挿入して速度をあわせるなどの改造や、DCCシステムでは速度調整を実施する方法もある。

 ここで、2台の機関車で「引張やっこ」や「押しやっこ」をさせないためには、2台の機関車の駆動状態と制動状態を合わせることに他ならない。 この二つの状態の変換点は無負荷状態の時であるので、この時の速度を一致させることが重要である。 これは、機関車を単機平坦路で走行させた時の速度であり、この時の速度データを参照すれば良い事になる。

 しかし、2台の機関車の速度の変化具合は供給電圧によって変わってくるので、どの様な場合でもピッタリと一致させることは難しいであろう。 このため、供給電圧の使用域内に於て、単機平坦路での速度を合わせるようする。 多少のずれは許容されるのでそれほど神経質になる必要はないであろう。

 

2) 足の速い車両は前に置け

 重連状態の動力車は、連結部でお互いに「引張やっこ」か「押しやっこ」をしている。足の速い車両は前に置き、カプラーが安定する「引張やっこ」状態を確保すること。

 

3) 重連させる動力車は集中させよ

 動力車間では、必ず「引張やっこ」あるいは「押しやっこ」をしているので、その間にトレーラ車を入れるとその力によって車両が座屈したり、横転して脱線する恐れがある。 できるのであれば、動力車間にトレーラ車を入れないようにすることです。

 

4) 客車や貨物を引かせよう

 負荷を掛けた方が、理想的な状態で走行するので、客車や貨物を引かせよう。 重連車両だけで走行させるよりは安定した走りをみせるはずだ。

 

5) 速度特性の寝ている車両を探せ

 〔A〕状態の領域が広い車両は重連し易い特性と言えるので、このような車両を見い出すことも、奥の手か。 直巻式モータは特性が寝ているので、このモータを使った鉄道模型は無いのだろうか?

 

◆  DCCについて

 重連運転も簡単に出来ると説明している 「DCC」 について、勉強不足で (本当は、装置が高価で手も足も出せないのである。) 良く分からないが、重連させる車両の速度を機種を問わずに一致させることが出来るとのこと。

 これによって重連運転が容易に実現できるのは確かであろう。 しかし、「DCC」 の速度制御の説明を見ていると、モータの回転数を検知して電圧を制御し、どんな負荷の場合でも一定の速度で走るように制御しているという。 よくある自動制御のシステムと推察する。 しかし、その時の特性線図はというと、 制御の精度が高いほど、 もっとも恐れる「切り立った断崖」 の様な特性になるように思われる。 負荷が変化しても速度は全く変わらないのである・・・・・・・・。 実際の鉄道での状態と全く逆の状態となる。 重連時には、全ての車両の制御速度をピッタリと合致させる必要があり、少しでも狂っていると、 すぐにスリップ領域に突入してしまう恐れがあると思うのであるが、 実際はどうなであろうか? 適当に滑らせて走らせているのが現状だろうか。 自分には想像するしかない。

************  重連時の課題 (2011/4/23) を再編集 ********