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鉄道模型工学  トラクション・タイヤの有無を検討する

 動力車のモータ回転数が走行中に計測出来るようになり、この測定値を使って動輪のスリップ率が計算できるようになった。 さらに、モータ端子電圧も計測できるので、レールからモータまでの電圧降下量も測定できるのだ。 そこで、トラクション・タイヤを装着した場合と、装着していない場合のスリップ率や電圧降下量などを比較観察してみよう。

 

■ 測定対象車両の選定

 測定車両として、下に示す KATO 製EF81-81号機を選定する。 今回の実験には、トラクション無しの状態を構成する必要があるが、このためには、他の機関車からトラクション無しの動輪を借用しなければならないので、テスト対象車と動輪借用車とは、類似のモデルである必要があった。

 このため、取り換える動輪として写真手前の動力ユニットの物を借用しようと考えたからである。 この動力ユニットは中古品をオークションで入手したもので、経歴は不明であるが、フレームは「3010」の刻印があるので、1989年に発売されたEF81系と思われ、台車の部品に「3023」の刻印があるので、1997年に発売されたEF64系の動力装置の様である。

 選定したEF81-81号機は品番が3021-1の古い機種であるが、上記の中古動力ユニットが履いている動輪と寸法を比較すると、同一であると判断したので、この動輪を使用して、トラクション・タイヤ無しのEF81-81号機を仕立てることにした。

 

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 動輪を取り出した時に、寸法関係をチェックしたものを上に示す。 車輪の路面は、トラクションの無い車輪は、φ7.4とφ7.3mm のテーパー状になっていた。  これは、 EF81-81号機とものと中古動力ユニット物とは同一であった。

 ついでに、トラクション・タイヤを装着している車輪も調査しておこう。 その寸法は、右の図の様な寸法であった。 また、トラクション・タイヤはノギスで測定すると幅が 1.1mm 、厚さが 0.3mm でああった。 外形は円形テンプレートのφ7.0mm の円の中に丁度はまり込む大きさであった。 このテンプレートは、0.5mm の鉛筆芯を想定しているので、実際の内径は0.5mm 大きいのである。 即ち、外形はφ7.5mmと読み取れる。

 トラクション・タイヤを溝にはめ込むと、上記の写真の様になり、外形はφ7.4mmであったが、弾力があるので正確には測定出来なった。 動輪の溝部にトラクション・タイヤを装着した場合、ゴム製のタイヤ部分が回らにように、溝の底面に緊迫力をもって装着するのでベターであるが、この車両の場合は、緊迫力がゼロですこしゆるゆるであった。

 長年の経年変化によって、緊迫力が無くなったと考えて、新品のトラクション・タイヤと取り換えるべきであったが、今回はこのまま装着して実験を実施することにした。 (実は部品表も無いので正規品のトラクション・タイヤ部品が不明であったのである)

 このように、中古動力ユニットの車輪を借用して、トラクション・タイヤ無しのEF81-81号機を仕立てた。 そして測定用機器を載せた測定車と連結して、以下の実験を実施した。 測定車は無線通信を使ったタイプである。

 車体重量: 99.7グラム、 測定車重量: 82.5グラム、 走行抵抗 1.2グラム 

 測定日: 2015年1月6/8日、  測定車の測定ユニット:モデル3、  スケッチ: New_Keninryoku_test5

 

■ 測定結果

 トラクション・タイヤを履いた正規の状態と、トラクション・タイヤを履いていない場合をそれぞれ測定し、いつもの様なグラフとして表示させた。 下に、それぞれを対照させて表示する。

◆ 速度特性

 まず、速度特性から見てみよう。 速度特性は、トラクションの有無によって殆ど差が無い様である。

  

  

 あえて言うならば、トラクション・タイヤが有る場合には、電圧降下量のバラツキが少なくなっているような気がする。

  

  

 注目すべきスリップ率に関しては、差異は無い様である。

  

  

 

 これはトラクションの有無とは関係ないが、 このモデルは速度のバラツキがやや大きい様に思われる。 電圧降下量もバラツイているが、電流値がバラバラしているし、モータ回転数と端子電圧の関係でも同様な傾向があるので、駆動機構の摩擦抵抗が不安定ではないかと推定している。

 

◆ 牽引力特性

 次に牽引力特性を見てみよう。 データのバラツキが大きいが、やはりトラクション・タイヤを履くと牽引力はアップしている。 なお、”M"を付与したデータは、スリップ率がゼロと仮定した場合の計算値をグラフ上にプロットしている。 実際の測定値との差が動輪のスリップによる変化なので、その状態を観察できる。

  

  

  

  

 トラクション・タイヤの有り無しで、粘着牽引力以外にも微妙に異なっている部分があるが、トラクション・タイヤの違いなのかは分からない。 次に、スリップ率を見ると、やはりトラクション・タイヤの影響を見る事が出来る。

  

  

 トラクション・タイヤを履くとスリップ率は少し小さくなり、粘りも出て来ている。 粘着領域での牽引力は、トラクションが無い場合では、約 20 グラム、有りの場合は約 25 グラムと判定する。 この値より、トラクション・タイヤの効果は、25/20 即ち、牽引力が 25%アップしていると言える。

     たったこれだけ?

と思われるかもしれないが、8個の動輪のうち、2個だけトラクション・タイヤを履かせたので、その効果は顕著には発揮されないものと思われる。

 各動輪に均等に荷重が掛っていると仮定して、簡単に計算してみよう。 トラクション無しの場合は、1個の動輪当たりに、20÷8 = 2.5 グラムの牽引力を出していると計算される。 トラクションを履いた場合には、6個の動輪がこの力を出し、残りの牽引力はトラクション・タイヤを履いた動輪が発揮したと仮定するならば、トラクション・タイヤの動輪1個では、 ( 25 - (2.5 ×6 ) ) ÷2 = 5 グラム と計算される。 即ち、トラクション・タイヤでは2倍の牽引力を発揮していることになる。

  でも、 意外と効果は小さいのだな・・・・・・・・・・・・・と言うのが感想である。

 今回のモデルでは、トラクション・ゴムの緊迫力が小さかったので効果が出なかった可能性も考えられるが、測定方法もあまり良くないので早急な結論は控えておくことにする。

 今回の測定方法では、粘着領域での牽引力を正確には測定出来ないと考えている。 このため、供給電圧の違いによる粘着力の違いを云々出来ないと思っているが、供給電圧の違いとは、動輪の回転数の違いに現れているので、速く回っている動輪 「ゴシゴシ」と レールを擦っている力と、ゆっくり回る動輪のそれとは異なっていてもおかしく無い様な気もする。

 この現象をより正確に観察するには、動輪とレールに速度差を与え、その時に発生する牽引力を測定すれば良いのであるが、今使用している測定装置ではこの方法を使って測定する事が出来ないのである。 このためには、以前使用していた回転円板式の測定装置なら可能となるのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 最後に、測定後の動輪の状態を下に示す。 左がトラクション・タイヤが無い場合で、右がトラクション・タイヤを履いていた場合である。

 動輪の路面は意外ときれいである。 スパーク屑などによって汚れているのではと思っていたが、かなりの滑り状態であったので、ゴシゴシと磨かれていたようである。 これだけピカピカであれば、電圧降下量も少ないと思うのだが、実際には1ボルト以上の電圧降下を生じている。 電圧降下はどこで発生しているのだろうか?

  次回は、これらのデータを整理して、粘着係数μなどを計算してみよう。

************  トラクション・タイヤの有無を比較する (測定データ) (2015/1/10) を再編集 ********