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動力特性の概要 動力特性の基本式 電気系

■ モータ特性

 動力源となっているモータの特性を考える。  鉄道模型用のモータは一般的にDCマグネットモータが採用されている。 その特性の例を右に示す。 横軸にトルク、縦軸に回転数や電流を示し、トルクと回転数は電圧をパラメータにして表示している。

 特徴的なことは、特性が直線的であること、ゼロスタートできること、また、トルクと回転数の関係は、垂下特性と言われている右下がりの関係にあることである。 そして、そのレベルは電圧によってコントロールすることができることである。

【特徴1】 特性が直線的であること。

 このことは、特性を考える上で、解かりやすく、かつ制御がしやすい利点がある。 特に、電圧と比例しているため、コントローラのつまみを回すことにより、モータのスピードを滑らかに速くすること、即ち、鉄道模型の速度調整がスムースにできる事を示している。

【特徴2】 ゼロスタートができること。

 電圧をゼロにしているとモータは止まっている。 ここから少しずつ電圧をあげると、モータはゆっくりと動き出す。 これは内燃機関と電気モータとの違いであり、 例えば自動車と電車の違いとを考えると理解しやすいと思う。 自動車では、はじめにスタータでエンジンを回しておき、 クラッチをつなげて発進する動作が必要である。 また、停車中もアイドリング状態でエンジンを回しておかなければならないのである。 これは、内燃機関がゼロスタート出来ないからである。

【特徴3】 トルクと回転数の関係が逆比例していること。

 

 このことは、内燃機関との大きな違いのひとつに挙げられる。 自動車用エンジンの性能曲線図を見ると、軸トルクと回転数の関係はほぼフラットである。 多少は凸凹しているが、回転数を変化させても、トルクは比例していない。 内燃機関の出す力は、ガソリンの爆発圧力をピストンの受圧面積で受け、クランクによって回転トルクに変換している。 即ち、回転数には基本的に関係無いのである。

 また、このエンジン特性のグラフは、一般的に、フルスロットルの状態での性能を示しておりで、燃料を最大に供給している状態である。 スロットルを半分に絞ると、トルクは燃料の供給量に比例しておよそ半分になる。 しかも特性の形はほとんど変化せず、縮小された形となる。

 一方電気モータにおいては、種類によっていろいろな特性を持っているが、DCモータにおいては図5のように、 回転数があがるとトルクは低下する。 低速回転になるほど大きなトルクを発生することができる。 これは、モータ内部で発生する逆起電力の影響だそうである。

(注記)モータ屋さんが使用する特性線図は、横軸をトルクに取っています。  しかし、自動車屋や鉄道屋さんの使用する特性線図は、横軸に速度系の特性(回転数、車速など)を持ってきています。それぞれ理由があるようであるが、自分も交通工学系の慣例に従って、横軸を速度系にとって説明していきます。

 この違いの意味は意外と大きいと思われる。 自動車や電車などは、スタートから加速するときに大きな牽引力(トルク)を必要とする。 これは、重い車両を加速させるために必要な力である。 だんだんスピードが上げ、一定の速度に達するとこの加速力は不要となるが、 こんどは空気抵抗や路面抵抗が上がってくるものの、それほど大きな力は必要としない。 従って、このモータの特性は、願ってもない使いやすい特性なのである。

 

 内燃機関の場合、この欠点を補うため、変速機が必要となってくるのである。 ギヤ比の異なる幾つかの減速機構を順次切替て、ロー、セカンド、トップといった様に切替えていく “ 変速機 ” が必要なのである。

 昔は、クラッチと変速レバーとドライバーの技能を必要としたマニュアル・トランスミッションしか無かったが、 今では、オートマチックやCVTなど、自動的に変速する機器が発達した。 しかし、変速機が必要であることは変わりない。

 一方、電気モータを使用する場合には、モータの特性をマッチさせる “ 減速機構 ” はあるが、 “ 変速機構 ” は必要ないのである。 これによって、電車の駆動機構は簡素になり、新幹線のように各車軸毎にモータを付けて大馬力を発揮させる芸当が可能なのである。

 

 実際の電車のモータと、模型用電車のモータには、重要な違いがあります。 同じ直流用モータながら直巻式モータと分巻式モータでの特性の違いです。 この違いについては後で述べることにします。

 

 話がそれましたが、モータの特性を見て見ましょう。 自分は機械屋なので電気のことは詳しくありません。 このため、いろいろな解説本を参考にしてまとめてみた。

 基本特性として、モータトルクを Tm 、コイル電流を I 、トルク定数を Kt とすると、
    (11)
で示される。 即ち、モータのトルクはコイル電流に比例し、直接的には外部電圧には依存しないのである。

 次に、逆起電力を e 、回転数を Nm 、逆起電力定数を Ke とすると、
     (12)
となる。 トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke は、同じ性質の係数で、Si単位で表示すると同じ値になるとのこと。
 また、外部電圧を E 、巻線抵抗を Ra 、ブラシ接触部の電圧降下を Eb とすると、
     (13)
そこで、式(13)に式(11)(12)を代入して整理すると、
     (14)
となる。 この式を変形して回転数 Nm を求める式にすると、
     (15)

となる。 この式より、モータの回転数 Nm はトルク Tm に逆比例し、電圧 E には比例することが分かる。Y 切片、即ち、Tm ゼロのときはモータが空転している時で、最高回転数にて回転することを示している。 また、モータ回転数 Nm=0 のときは、モータがストール状態であり、最大トルクを発揮している。 ここで、モータ屋から“車”屋に立場をかえて、X軸とY軸を交換する。 即ち、
     (16)

となる。

  この式で表わされるトルク・回転数の関係をグラフに示すと下の様になる。

 

 モータ回転数が Nm=0 、即ちストール状態のときは最大トルク Kt(E-Eb)/Ra であり、 Tm ゼロのとき、即ちモータが空転しているときは、最高回転数 (E - Eb)/Ke にて回転することを示している。

 そして、電圧Eの大小によって、特性線図は左右に移動することが分かる。

 また、この式(16)は、 Tm や Nm の正負にかかわらず成立するので、右に示すように座標の他の象限とも連続性を保っている。そして、トルクと回転数の方向によって、次の4っつの状態に分類される。

 第1象限: 正転のモータ領域
 第2象限: 逆転の発電領域
 第3象限: 逆転のモータ領域
 第4象限: 正転の発電領域 

 ただし、この特性はモータ自身の特性であり、供給される電圧と電流については、その電気回路の特性に制約される。

 

 

■ モータの関係式

 モータの関係式を別の観点から整理しておこう。 ここでは、モータなどの慣性を考えていない静特性を考えている。 また、モータのトルクについては、モータの内部回転抵抗を考慮するため、電磁気的に回転子に発生したトルクをモータトルク Tm とし、モータの出力軸から取り出せれるトルクを 出力トルク Tm' と呼ぶことにする。 これはモータ軸周りの損失トルクを考慮したのである。

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 ちなみに、モータの回転数を Nm を、外部電圧 E と、コイル電流 I を用いて表わすと、

           (17)

となり、モータの内部回転抵抗、即ちモータ軸損失を速度比例項と一定項で表わすとすると

 

    (18)

で表現でき、その値は、モータトルクと出力トルクの差として現れる。

 これらの関係を理解するために、ブロック線図で表現すると、右の図の様になる。

 このブロック図は、エネルギー伝達ブロックと理解すれば、より分かりやすい。 モータは、電源から電圧と電流のエネルギーを受けて、負荷に対して回転数とトルクを作用させるエネルギー変換装置である事が分かる。 逆方向に作用すれば発電機となるのことは、ご存じの通りである。

 そして、エネルギーは、負荷に応じて供給されることを覚えておこう。 電源は一定電圧を供給するが、電流はモータの負荷に応じて沢山流れたり、わずかしか流れないといった状況を呈するのである。 自分はこのことを 「のれんの腕押し」 と理解している。 腕っ節の強いお相撲さんでも、のれんを押していく時には、その力を必要としないのである。
  また、このエネルギー伝達ブロックは、モータに限らず、機械装置や油圧機器など、いろいろな装置やシステムに適応する事ができるが、特徴として、4端子ブロックとなることである。 エネルギーとして表現される、電圧×電流、回転数×トルク、速度×力、圧力×流量、・・・・・・・・・・・など、入力が2端子、出力も2端子の4端子ブロックである。

 上のイラストのように二つの式にまとめてみました。 ブロックの入出力部における4個の変数は外から測定できる変数ですが、よく見ると、それぞれの変数は関係式をはさんで、二つのグループに別れることが分かる。 即ち、電圧・電流と回転数、および、電流・出力トルクと回転数のグループである。 そして、前者は定数 Ra、Ke、Eb が関係し、下の変数とは独立していることが分かる。 また、後者についても同様に、定数 Kt、λm、Rm とが関係して上の変数とは独立している。 これは、前者が電圧に関する関係式であり、後者がトルクに関する関係式を示している。

 

■ 集電回路

 Nゲージの鉄道模型は、レールから電力を供給します。 この電力がモータ端子まで届くまでに集電回路を経由します。 この集電回路ではレールから集電された電力を不安定な接触部を介してモータまで通電する間に、電圧降下が発生します。 このため、動力車の性能に大きく影響を与えるので関係式として考慮しておく必要があります。 オームの法則を参考にして、集電回路の電圧降下は、供給される電流 Is に関係するとして、

        

とすることにします。 そして、この電圧降下によって、モータの端子電圧E は、供給電圧をEs とすると、

          (19)

となります。 ここで、電流は、右の線路 → プラス側集電回路 → モータと照明回路 → マイナス側集電回路 → 左の線路 と流れて電源に戻ってきます。  即ち、電圧降下はプラス側とマイナス側で同時に発生しますが、ここではその合計した値を示すものとします。

 

■ 照明回路

 動力車にはさらに、前照灯や室内灯などの照明回路が組み込まれています。 この照明回路はモータ端子と並列に、そしてほぼ同じ部分に接続されているため、この回路の電圧はモータ端子電圧と同等とみなすことができます。 そこで、オームの法則を参考にして、回路を流れる電流をモータの端子電圧E の1次式で表わすと、

        

とする事ができます。 定数のR3 とR4 は、実測値から求めます。 この照明回路は一般的にモータと並列に結線されているため電流が分岐されます。 このため、モータに流れる電流は、この照明回路電流が差し引かれた電流となります。 即ちモータ電流を I 、供給された電流を Is とすると、

        (20)

となります。