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鉄道模型工学 重連特性を考える

■ はじめに

 重連走行時の問題を理解するため、その特性を考えて見ることにしよう。 先に実施した基本特性をもとに、重連状態の特性を検討してみる。

 

■ 車輪のスリップ状態について

 

 重連状態を検討するにあたり、車両の牽引力特性における〔B〕の状態と共に、〔C〕の状態も大切な要件となる。 そこで、この車輪のスリップ状態について、もう少し考えてみよう。

 鉄道模型工学概論では、式(9)に示すように、車輪とレールとの間のスリップ率を考慮せずに検討を進めてきた。 でも、実際には駆動力を得るためにわずかな滑りが発生している。 自動車分野と同様に、実際の鉄道分野でもスリップ率と摩擦係数μとの関係を示す、「μカーブ」が測定されているはずである。 このスリップによって、右の特性図のように、車輪の回転数から換算した車体の速度は、実際の車体の速度より速めになっているだろう。

 ここで注目したいのは〔C〕状態の中間点である。 通常はμカーブの特性により、中間点で保持される状態はまず無いと思われる。 滑り始めるとハ点から、いっきに点ニの状態に落ち込むはずである。 中間状態では保持出来ないのである。しかし、重連状態においては、この中間点の状態が発生していると考えられる。 重連時のバタバタ運動もこれに関連しているのではないかと注目している。

 車速 Vx の時、モータの駆動力により、点チの駆動力を発揮しようとするが、粘着限界により Fo の力しか牽引力として発揮出来ない。 すると、モータは負荷の下がった分だけ回転数を上げ、点リの状態となる。 車輪は点リの状態で回転し、車体は点トの状態で走行していることなる。 この差は、車輪のスリップとなり、レールと車輪の間をゴシゴシと擦っていることになる。 このゴシゴシ状態での走行が重連時に発生している可能性がある。

 

■ 重連時の力の関係

 

 まず、上図のように、A機関車を前補機、B機関車を本務機とする。 なお、複雑化を避けるために平坦路走行状態、即ち θ=0 の状態で検討する。 A機関車の駆動力を FA1 とし、カプラーに掛る牽引力を FAk とする。 また、 B機関車の駆動力を FB1 とし、前のカプラーに掛る力を FBkf 、後ろのカプラーに掛る力を FBk とする。

 ここで力の関係は、機械力学の基本にならって、受け身の力として考える。 駆動力の FA1 は、動輪が線路を蹴ることにより機関車としては前向きの力を受け、機関車を前進させる力を受けていることになる。 そして、後ろのB機関車からは、カプラーを通して引っ張られるため、A機関車には抵抗力として機関を止めようとする力として働く。 本来ならここでニュートンの運動方程式を持ち出し、質量m と加速度αの関係から、有名な F = mαの式を立て、運動状態を記述する運動方程式に進むのであるが、 ここでは、A機関車が一定の速度で走行している定常状態のみを考えているので、加速・減速が無い状態を考えればよい。 ニュートンさんには遠慮してもらって、力のつり合いのみで解決できるのである。 また、力の方向は、図に示す方向をプラスとして考えることにする。

 即ち、A機関車駆動力と牽引力は釣り合うので、

    FA1 =  FAk

となる。 B機関車に於いては、自分自身の駆動力 FB1 と共に、A機関車が引っ張ってくれているカプラーからの力 FBkf が機関車を前進させる力となり、連結している客車などの抵抗力がカプラーに FBk として掛っている。 B機関車に於ける力の関係は、

    FB1 + FBkf  = FBk

となる。 そして、 A機関車とB機関車をつなぐカプラーに働く力は、作用と反作用の関係にあるため、

    FAk = FBkf

となる。 これらをまとめると

    FA1 + FB1 = FBk

となる。 これは、 本務機のB機関車と前補機のA機関車が力を合わせて、客車を引いている状態を示している。

 

■ 重連機関車のみで走行している場合

 ところで、ここで客車などを引いていない状態を考えてみよう。 FBk がゼロの状態である。

 客車を引いていないのだから、
牽引力はゼロなんでしょう? 

と普通は考えてしまうが、どっこいそうはいかないのである。

 右図に牽引力と車速の特性図を模式的に示す。 同じレール上を走行しているので、A機関車とB機関車は同じ電圧を供給されている。 そして、それぞれの機関車の特性はピッタリ合致する事は無いので、牽引力がゼロの状態の車速は、それぞれ、VoA と VoB なる。 速度が異なることは、車両が離れていくことに他ならないのでカプラーでガッチリと連結されている車両の速度はピッタリ一致しなければならない。 すなわち、A機関車とB機関車の牽引力がゼロの状態の車速VoA と VoB は、

ピッタリ一致しないのである。

 では、どうなるか? A機関車とB機関車をつなぐカプラーに働く力は、作用と反作用の関係にあるためその値が等しく、最初の図に示したようにその方向が反対となる。 即ち、一方が牽引側で、他方が制動側となる。 引張役とブレーキ役を演ずることになる。 特性図で示すと、プラスマイナス反対となる。 上の図のイ点の速度 Vo で、丁度、A機関車とB機関車の特性がプラスマイナス反対となり、その絶対値が等しくなっている。 この重連機関車は、この速度で走っていることになる。

 ややこしい事を述べているが、A機関車とB機関車の特性をそのまま加算したのが、重連状態として示した線図である。 牽引力側がプラス、制動側がマイナスとして計算するのは当然である。 そして、この線図が二つの機関車が力を合わせて、他の車両を牽引したり、制動した時の状態を示すことになる。 外への力がゼロのときが問題の重連機関車のみで走行している状態となる。

 すなわち、特性の異なる二つの機関車のみで走行している場合には、一方が駆動側になり、他方が制動側になることである。 引張役と引っ張られ役が発生することになる。

 外から見ると牽引力はゼロなのに、内部では引張やっこしている。

 前補機の方が早い場合には「引張やっこ」、 逆に前補機が遅い場合には後ろから押されるので、「押しやっこ」の状態となることは容易に理解できるであろう。 カプラーは「引張やっこ」では安定するが、「押しやっこ」では横に座屈し易く、その横力によって脱線する場合が多い。 SLの場合、先輪台車にカプラーが付いている場合が多いので、すぐさま脱線してしまう。 「前補機には足の速い車両を置け」の理由である。

 そして、負荷が大きくなると両方とも引張役となり、二人で力を合わせて駆動することになる。 この状態が理想的な状態なのである。 即ち、負荷を掛けた方が良いことになる。 ブレーキ側でも同じことが言える。

 なお、この特性については、机上の空論かも知れないので、実験データをもとにいろいろ検証してみる必要がある。

 

■ 問題となること

 上に記載した模式グラフを良く見てほしい。 緑の線は本来の安定した走りをみせる通常状態での走行を示し、赤い線はスリップ状態、茶色は制動時の不安定状態を表現したつもりである。 そして、重連状態では、一方の機関車が不安定状態になったいる場合にはだいだい色で示している。 すると、単独走行では緑の線の範囲が広いのに、重連させると極端に狭くなっていることに気付いてもらえると思う。 一方が不安定な状態に陥っている場合が多いのである。

 無負荷状態のイ点では、B機関車が制動側のスリップ状態で走行しており、 そこから負荷が大きくなるに従って、B機関車が制動時の不安定状態を経て、やっと通常状態に入る。 ここから、二人で力を合わせて駆動しているかと思っていると、少し負荷が大きくなると、今度はA機関車が駆動側のスリップ状態に突入し、レールをせっせと磨くゴシゴシ状態での走行に入る。 でも機関車達は、重い貨車を引いて走っているのである。 前に進んでいるのである。 さらに負荷が増えると、B機関車もスリップ状態に入り、ここで初めてこの重連している機関車群は、走行不可能に陥る。 2台ともスリップ状態に入り、前には進めなくなるのである。

 ブレーキ側ではどうなっているのだろうか? 〔B〕状態がどうなっているのか良く分からないので、なんとも検討のしようがない。 良く観察して現象を把握すべきであるが、まだその観察方法も未解決のままである。

 

■ 実際の鉄道車両では

 このような現象が実際の鉄道車両でも起こっているのであろうか? 否である。 車輪がすぐに擦り減ってしまうと同時に、 滑り状態では安全走行がままならないはずである。 ポイント通過時には脱線の恐れもある。 鉄道技術者であれば、真っ先に解決しなければならない重要問題と想像する。

 では、なぜ模型でのみ発生しているのか? その原因は、特性線図の形にあると断言できる。 鉄道模型工学概論の図9の牽引力・車速特性図において、〔A〕状態のハロ間の勾配が立っており、かつ、直流分巻きモータの特性を持っているからである。 スリップ領域に突入しないで安定して走行できる速度範囲が狭いのである。

 実際の鉄道車両の動力特性図を見ると、特性は横に寝ており、そして、その裾野は富士山のようになだらかに長くのびている。 制動領域には制御回路を切り替えなければ突入しないので、ブレーキ役を演じる車両が無いのである。 これは、昔の車両でのモータが直巻式であることがその理由ですが、 最近では交流誘導モータなど進んだ制御技術などでも、この問題を解決していると思われる。

 

■ どうすれば良いのか

  鉄道模型の世界では、このような技術は適応されておらず、自分たちで運用を工夫するしか無いように思われる。これまで言われてきたノウハウと、ここで検討してきた知見をもとに考察してみよう。

1) 重連させる車両の速度を合わせること

 重連状態でも、安定した走りを見せる〔A〕状態の領域を広く確保するには、重連させる車両の速度を合わせることは最良の方法であろう。 そのためには、速度の合っている車両同士を選別する必要がある。 あるいは、動力車のモータに抵抗を直列に挿入して速度をあわせるなどの改造や、DCCシステムでは速度調整を実施する方法もある。

2) 足の速い車両は前に置け

 重連状態の動力車は、連結部でお互いに「引張やっこ」か「押しやっこ」をしている。足の速い車両は前に置き、カプラーが安定する「引張やっこ」状態を確保すること。

3) 重連させる動力車は集中させよ

 動力車間では、必ず「引張やっこ」あるいは「押しやっこ」をしているので、その間にトレーラ車を入れるとその力によって車両が座屈したり、横転して脱線する恐れがある。 できるのであれば、動力車間にトレーラ車を入れないこと。

4) 客車や貨物を引かせよう

 負荷を掛けた方が、理想的な状態で走行するので、客車や貨物を引かせよう。 重連車両だけで走行させるよりは安定した走りをみせるはずだ。

5) 速度特性の寝ている車両を探せ

 〔A〕状態の領域が広い車両は重連し易い特性と言えるので、このような車両を見付けることも、奥の手か。 直巻きモータは特性が寝ているので、このモータを使った鉄道模型は無いのだろうか?

 

■  DCCについて

 重連運転も簡単に出来ると説明している「DCC」について、勉強不足で (本当は、装置が高価で手も足も出せないのである。) 良く分からないが、重連させる車両の速度を機種を問わずに一致させることが出来るとのこと。

 これによって重連運転が容易に実現できるのは確かであろう。 しかし、「DCC」の速度制御の説明を見ていると、モータの回転数を検知して電圧を制御し、どんな負荷の場合でも一定の速度で走るように制御しているという。 まあ、よくある自動制御のシステムと推察する。 しかし、その時の特性線図はというと、制御の精度が高いほど、もっとも恐れる「切り立った断崖」の様な特性になるように思われる。 負荷が変化しても速度は全く変わらないのである・・・・・・・・。 実際の鉄道での状態と全く逆の状態となる。 重連時には、全ての車両の制御速度をピッタリと合致させる必要があり、少しでも狂っていると、すぐにスリップ領域にしてしまう恐れがあると思うのであるが、実際はどうなであろうか? 適当に滑らせて走らせているのが現状だろうか。 自分には想像するしかない。

 

 だらだらと自分の考えを述べて来ましたが、さて、皆さんのお考えは如何でしょうか?