HOME >> 鉄道模型工学 >  動力特性の比較 > 傾斜台式測定法

鉄道模型工学 傾斜台式測定法

■ はじめに

 

 鉄道模型工学概論の動力特性の理論と測定において、今後の装置改善のために、アイディアのひとつとして提案していた「傾斜台を使用した測定法」(下図)について、その検討を実施したので報告する。

 実際の自動車や鉄道車両などの動力測定装置として、シャシーダイナモや定置試験装置が使用されている。 これらは路面や線路が回転し、車両側が保持されている状態で、速度や牽引力を測定している。 その方法を真似て、鉄道模型でも動力測定として線路を回転させる回転円盤方式を採用してきた。

 しかし、回転円盤の摩擦抵抗の問題により、円盤を強制的に回転させる必要があったため、測定上の制約が発生していた。 円盤を強制的に回転させ、走行速度とバランスさせることにより速度を測定する方法は、やはり限界があるようである。 今まで以上の信頼性のあるデータを確保しようとすると、「動力特性の測定方法」で悩んだ時点に戻るしかないと判断した。

 そこで、アイディアBとして示していた、傾斜台を使用した測定台を検討してみた。 車両に掛る負荷に応じて、車両自身が速度を決めるので走行上の不安定性が解消されるのではないかと考える。

 

  

■ 速度計測の方法

 まず要となる速度の計測方法を検討していたら、手ごろな測定器を見つけてしまった。 理化学ショップの「BeeSpi(ビースピ) -簡易速度計測器-」である。 悩んでいた速度計測の問題がいっぺんに解決してしまった。 ネットで検索中に、2009/8/6 の トレトレ記事に紹介されていた事も分かり、 さっそくネットで入手した。 品番:54032、 価格 : 2,940円(税込) である。

 ミニマム速度は、cm/s のスケールで、0.5Km/h のスケール速度まで測定出来るので充分である。 

 

 

■ 傾斜台の製作

 車両を連続走行状態に保ちたいため、円形のエンドレス線とした。 使用線路はKATO製を使用することにし、標準曲線路の R282-45°を8本使用する。 測定部は直線路とし、S248+S62F+S186 の 496mm を取っている。 このため、縦方向の長さは 1100mm 以上が必要なため、800mm×1200mm のベースを作る事にした。

 しかし、このサイズでは保管するには場所をとるため、二つ折りに出来るように工夫した。 1820×910×4 のシナベニヤから 1200×400 2枚に切り出し、回りを 12×30 の角材で補強する。 この補強材は、裏側に設置するのが普通であるが、 模型車両の転落防止壁としても生かそうと表側に設置した。 そして、中央部に蝶番を取り付け折りたたみ可能にした。 そして、中央部はスライド線路を用いて、取り外し可能とした。 線路は裏面から木ねじで固定している。 給電のためのフィーダー線路は、上り坂と下り坂のそれぞれの中央部に設けている。

 

 台の裏面は、いろいろ考えた末に、物置の奥にしまってあった金属棚材を活用することにした。 鉄製で溶接構造のため、ねじれ剛性も高かったので利用することにした。 台とは、さらに横木を介して取り付けることにし、M4のボルトと蝶ナットで組み付けるようにしている。 分解も簡単である。

 この横木には、直径1インチで 910mm 長さの丸棒を4等分し、下の写真の様に内側から木ねじで取り付けてある。この丸棒の下にブロックを差し込んで傾斜角を設定するためである。 

 その傾斜角を与えるために、いろいろなサイズの木片を用意した。 丸棒のスパンとブロックの高さで、傾斜角が計算できるのである。

 次に、計測装置であるが、今回はアナログの電圧計と電流計を用意した。 理由は、走行中の負荷変動により、電圧と電流が常に変化しており、デジタル表示ではタイムラグのため、読み取り難かったためである。 回転円盤方式では走行状態がほぼ一定に保たれており、デジタル表示でも充分読み取れる。 今回の方式では、線路を一周する間に上り坂と下り坂があり、さらに直線部と曲線部など、負荷が常に変動することになる。 測定部分はわずか496mm の直線部だけのため、そのタイミングで読み取れるように練習が必要であった。

 二つのフィーダー線路からの配線を分岐コネクターに接続し、電流計を通ってパワーパックに差し込めるように配線を加工した。 分岐コネクタの残りの接続口を利用し、電圧計に接続する配線も加工した。 専用配線の半田付け加工もだんだんお手の物となってきた。

 装置全体は下の写真の通りである。 我が狭い書斎はフローリング床であり、ビー球を転がしても勝手に転がらないので、水平はしっかり出ているものと安心している。

 測定後は、収納に便利なように折りたたむ事が出来る。 まず裏側の補強部材や横木を分解し、荷作り用の緩衝材(プチプチ材)で保護しながら、枠の中に収納する。 スライド線路やネジ類も小箱に入れて一緒にしておく。 そして右の写真の様に折りたたんでしまう。

 そして、側面に設置したセミ型のパッチン錠でロックすれば、1200×400×70 のすっきりした箱になってしまい、物置の片隅にでも保管出来る。

 

  

■ 測定方法

 測定方法について説明する。 

手順(1) まず、供試車両の重量を測定しておく。 測定は、エー・アンド・デイ社製のコンパクトスケール HJ-150 で、測定範囲は 0.2g 〜 150g まて± 0.1g の精度で測定できる。

 さらに、重り車両の重量と走行抵抗を測定しておく。 走行抵抗は、以前紹介した右の写真の様に、傾斜線路を設け、車両が転がり始める傾斜角から算定している。

 重り車両は、金属の塊と化していた EH10 の2エンド車両を利用している。 (KATO 305 EH10 中古ジャンク品: 「S系電気機関車の改造工作」 参照) 台車はコロガリ抵抗を少なくするため、GMキットの台車を利用し、 1mm のプラ板などを使って細工した。 フレーム内の空間には、水草の重りを詰め込み、精一杯の重量を稼いだ。 その結果、重量は、85.0 グラムとなるも、走行抵抗は、わずか0.5 グラムと抑えることが出来た。

手順(2) 馴らし運転を実施する。 供試車両のモータを温めるため、3分程度の走行運転をしておく。

  

手順(3) 台の下にブロックを差し込み、傾斜勾配を設定する。

手順(4) 供給電圧を設定する。 走行場所によって電圧が変動するので、右の様に、速度計を通過する時の電圧が、設定値となるように調整すること。

手順(5) 車両通過後、速度計のリセットボタンを押し、測定可能状態にし、車両が1周してくるのを待つ。 この間に電流計の変化を睨んでおく。

手順(6) 車両が速度計を通過する時の電流値を読み取る。 そして、速度計の数値を読む。 速度計は計測した数値を表示したままなので、後からゆっくりと読み取る事ができのである。

手順(7) 読み取ってそれぞれのデータをパソコンのExcelに打ち込みグラフ化する。

 

■ 測定結果

 実際の模型車両を走らせて測定してみた。 車両は、EF58-60 号機である。 この車両は制動領域での測定方法に問題ありと考えていた車両である。

 “制動側での測定は安定を欠き、測定に苦労する。 制動状態の中間部は、円盤の回転速度と車両の走行速度のバランスが安定せず、データが取り難かった。 レイアウト上での走行は何ら異常は見当たらないので、 測定方法の改良を要す。” と述べていたもので、今回の測定方法を検証する原因ともなった車両である。

◆ 車速・電圧特性

 まず、車速・電圧特性から測定した。 この特性は、平坦路単機走行状態での特性であるので、傾斜を水平状態にし、機関車単体で走行させたものである。 この時の、供給電圧と電流、および速度を測定し、グラフ化したものが下のグラフである。 今回は速度計測の上限が無いので 8 Volt 近くまで上げて見た。 データを見るかがり、以前測定したデータを同等と判断している。 

 

◆ 牽引力・車速特性

 本題の牽引力を測定する。 以前のデータは 4 Volt で測定していたが、 速度計測の上限が無いこと、低速側のデータの余裕を持たせる事などから、全体の速度領域を少し上げて、無負荷走行が 100 Km/h 程度となる 4.5 Volt 一定で測定することにした。

 また、予備測定の結果、車速はモータの温度や走行状態などでかなりバラツキがあり、測定の目的によって測定方法を変える必要があった。 値のバラツキを見たい時は、測定条件をランダムにして測定する必要があるし、特性の傾向を見たい時は、連続条件で測定する必要がある。 今回は、後者の狙いをもって測定するため、牽引力が大きな状態から測定を開始し、マイナスの制動状態まで連続して測定した。

 また、単機走行だけでは狙い通りの負荷が得られないので、重り車両を併用している。 牽引力が15グラム以上と、制動力が25グラム以下では、重り車両を併用した。 中間部は単機走行状態である。 このブロック高さと負荷の様子を左のグラフに示す。 丸棒のスパン長さは、 862 mm であったため、ブロックの高さ 125 mm の時、147 パーミルの勾配が得られている。 この時の負荷は 31 グラムで、スリップ限界でもあった。

 結果はご覧の通りである。 制動領域でもバッチリと測定出来ている。 思っていた通りにS字カーブ的な特性を示しており、メカニズムを考えるヒントにもなると考えている。 電流値も制動領域で上昇しているのも、特徴と言えよう。

 この方式では、粘着領域での牽引力を測定出来ない。 なぜなら、車輪が空回りして車両が止まってしまうからである。 傾斜用のブロックは 10mm 毎に変化させたが、さらにこの上のブロックでは車輪が空転して坂を登れなかった。 グラフの値が上限と判断している。

 

■ まとめ

 傾斜台と簡易速度計測器を使用すれば、容易に車両特性を測定すること出来る。 この傾斜台方式では安定した走行状態で測定出来るが、台を傾斜させるためのブロックの出し入れが意外と面倒であり、測定時間も2時間近くも掛ってしまった。 もっと合理化が必要かもしれない。 そして、この傾斜台方式では粘着領域での牽引力を測定出来ないので、回転円盤方式との併用が必要である。 

 この方式は、制動領域での特性傾向を分析する道具として有用と判断されるので、いろいろな車両を測定することにしよう。 そして、動力機構の特徴とデータの分析を実施する事により、鉄道模型の知見を深めて行きたい。