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鉄道模型工学  実験装置 傾斜台のさらなる改良

■ はじめに

 鉄道模型工学の要となる性能測定装置について、改善と工夫を積み重ねて来ましたが、なんとか安定的に計測出来る装置となってきました。 しかし、だんだんと慾が出て来て、もっと簡単に測定出来ないだろうかと考えるようになりました。 その方法として、計測データを目で読むのではなく、自動的に計測したデータをパソコンに転送できれば、測定作業の手間が省け、かつ測定時間も短くなります。 そこで、あれこれ調べた結果、 Arduino を使用したら自動化出来そうなので、今年の目標としてチャレンジしてみることにしました。

 この自動計測を前提に考えると、現在の測定装置を改善しておかなければならない点が幾つかあり、手始めとしてこの測定装置の改良から取りかかることにしました。 

 

■ 現在の測定装置

 性能測定装置として、改良版の傾斜台式測定台について、「傾斜台の改良」(2011.9.15) で報告しましたが、その後に、傾斜リフト機構を変更しております。

 写真に示すように、ネジ式のリフト機構に変更し、傾斜台の上げ下げを連続的に、かつ自由にできるように改造しました。 このネジ方式は有効であったが、それを支える腕や保持部が不安定であったため、傾斜台の支持台を見直すことにした。

■ 支持台の構想

 支持台を作り直すにあたり、自動化測定を前提として構成を考えた。 その設計方針をまとめて見る。 勿論、自動化測定システムが完成するまでは、いままで通りの目視、読み取りで計測出来るようにしておくことは当然である。

 ◆ 傾斜台は片流れ構造とする。
小判形のレイアウトを一周する中で、一方の直線部が登り坂となるならば、他方の直線部は下り坂になるのである。 このため、一周する間に、駆動状態と制動状態になるので、両方いっぺんに測定出来る。 今までは、データを読み取って記録する時間が必要であったため、この芸当は不可能であった。 測定を自動化すれば可能となる。 即ち、測定台は一方だけを持ち上げれば良いので、片流れ構造で良い事になる。
 ◆ 供給電圧は疑似的に一定とする
動力車両は、登り坂では駆動状態となり、下り坂では制動状態となる。 これに従いモータの負荷も変化するので、電力を供給するコントローラの電圧も少し変動することになる。 今までは、この変化をいちいち調整して「電圧一定」を確保していたが、レイアウトを一周する間に、その調節を実施していては追っつかないのである。 5m以上もあるレイアウトでは可能であろうが、1mそこそこの小判形レイアウトでは不可能である。 そこで、平坦状態での走行時に、コントローラの電圧を設定したら、その後はダイヤルを動かさないことにする。 即ち、疑似的に供給電圧は一定と呼ぶことにする。 高低差のあるレイアウトで走行を楽しむ場合、登り坂でダイヤルを上げ、下り坂でダイヤルを戻すようなこだわりの操作をしている人はいないと思う。 登り坂ではスピードが落ち、下り坂ではスピードがアップするのは自然の成り行きであるので、コントローラをいじらない事にするのも悪くはない。 本来の鉄道では車両特性でこの様な状態となるのであるが、鉄道模型の場合は、コントローラの特性も影響してくるのである。 顕著な例として、コアレスモータの動力車とPWM方式のコントローラの組み合わせに見る事が出来る。 そして、この電圧変動を少しでも押さえるために、パルス制御式のパワーパックではなくて、KATO の Standard S を使用することにする。 電圧状態は使用するコントローラに影響されることを許容することにする。
 ◆ 登り坂の手助け
急な登り坂ではスピードダウンして最後には車両は止まってしまい、測定限界となる。 駆動側の粘着限界である。 しかし、下り坂では逆に段々スピードがアップして何処までも走らせることが出来る。 制動側の粘着限界を超えても走るのである(いわゆるブレーキが利かない状態である)。 今までの測定データを見ると、この制動側の粘着限界を超えても少しは測定して於いた方が良いと思われるケースが多くあった。 しかし、この状態での測定を実施するには登坂限界を超えた傾斜にする必要があり、動力車が上の峠まで登ってくれないのである。 そこで、この様な時に、傾斜台の下側を手で持ち上げ、登り坂を走行する場合には、傾斜を緩くしてやる必要がある。 峠の上に登ってしまえば、もとの急勾配の下り坂に戻せば良いのである。 このため、この様な操作が出来る傾斜台構造にしておく。
 ◆ 自動化計測のための検出方法
自動化計測する項目は、供給電圧と電流、車速、傾斜角の4項目である。 電圧と電流は電気回路で対応し、車速は直線部の終端でフォトセンサーを利用して2点間の通過時間を計測する。 そして傾斜台の傾斜角はリンクを使用して可変抵抗の回転角を計測することにする。 一番悩んだのは、上記の「登り坂の手助け」時はどうやって計測するのかであったが、傾斜台を手で持ち上げた時は、キャンセルスイッチが働いて、計測を一時中断させればよい事に気が付き、問題は一気に解決した。 なお、計測された項目は、パソコンに取り込み、表計算ソフト EXCEL で計算してグラフ化させるので、非線形な検出方法であっても EXCEL 上で修正したり、校正し直せば良いと考えているので、簡易な構成でも良い事にする。

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■ 製作過程

 次に製作過程を紹介しよう。

 今までの傾斜台式測定台の土台部分を分解し、上側のベースはそのまま利用する。 また、ネジ式のリフト部品と12×120×600mmのベース板2枚もそのまま利用する。 そして、新たに、12×45×910mm、25×45×910mmの角材を何本か購入してきた。 右の写真にこれらの部品を示す。

 この様な木工工作は、、随分と慣れて来ており、道具類も揃ってきたし腕も上達してきた様に思うが・・・・・・・・自己満足かな。 組立ては、今後の分解の事を考え、木ねじによって組立てて、接着剤は使用しないようにしている。

 

 まず、中間のアームとなる枠を組立てる。 角部を有り合わせのベニヤ板で補強する。 大きさは 900×450mm である。

 

 今回作成している台枠は、3重構造の台枠で構成されており、さらに、折りたたむとコンパクトなるように工夫している。 その状態を右の写真に示す。

 一番外側の台枠は、下の台を構成するもので、床と接する台枠となり、リフト装置の下を固定する支持部となる。 中間部の台枠は、傾斜台の勾配を決める枠となり、リフト装置の上の部分を固定する。 一番内側の台枠は、線路を設置しているベース部分を乗せる枠で、ベースのベニヤ板とは木ねじで固定される。

 これらの三つの台枠は、蝶番で連結され、それぞれの端部をヒンジとして開く事が出来るようになっている。 即ち、電車のシングルパンダのように、Z形に展開する構成にしている。 下左の写真は、中間枠を傾斜させた状態で、通常はこの状態で使用する。 下右の写真は、さらに内側の台枠を持ち上げた状態で、登り坂の手助け時の状態である。

 

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 二か所のヒンジ部は、蝶番を使って下の写真の様にしている。

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 次に、リフト装置を取り付ける。 中間の台枠にベニヤ板を追加して、角材を使って左の写真のように、支持部を作った。 そしてこの部分にリフト装置をネジ止めする。 その方法は、角材の下側から長めのM4 mm のボルトを出し、蝶ナットで固定する。 これは、収納時には取り外すためである。

 下の写真は、リフト状態を示している。 このリフト装置のネジは M6 mm 、ピッチは1.0 mm なので、レバーを一回転させれば 1mm リフトする事になる。 勾配はおよそ 200 パーミルは可能である。

 この後、線路を設置しているベース部分を乗せ、内側の台枠と木ねじで固定した。 そして、リフト状態の安定性をチェックしたが、傾斜台が少しぶるぶるする感じで、支持台の強度が不足していた。 原因はリフト支持部とみて、30×30mm の角材で支持部を作り直した。 下の下の左の写真に示す。 この手直しによってかなりカッチリとしてきた。まだ少し横揺れが残っているが、性能測定には影響ないと見た。  このリフト部を上から見た写真を下の下の右に示す。

 

 完成した新しい傾斜台式測定台を下に示す。 リフト部を右に配置し、右上がりに傾斜台を傾けて測定する。 コントローラはKATO 製を使用し手前に設けたターミナル部に接続する。 ここに、電流計と電圧計に接続するための端子を設け、ここからさらに中央部まで配線し、ここから右上と左下の線路まで配線する。 車速計測部近くの2ヶ所で給電させるためである。 勾配計測は、左のヒンジ中心線の延長に目印線を引き、勾配計測の原点とし、そこから900mm 離れた右方向にリフト量測定点の目印線を設け、物差しで高さを計測する。 傾斜角はパソコン上でsinθとして計算する。 自動化計測時には、台の側面にリンクを設けて回転角を可変抵抗で計測するつもりである。測定データの校正もこの物差しで実施出来ると考えている。

 下左の写真は、急勾配状態であり、下右の写真は登り坂時に手助けする場合の、ベース板を持ち上げた状態を示している。 この写真ではパソコン台に引っかけあるが、測定時は手で持ち上げる予定である。

 下の写真は、ターミナル部とリフト量測定点を拡大したものである。

 また、傾斜台は右上がり状態で使用し、車両は右回転で走行させる予定である。 このため、駆動状態の登り坂は奥の部分で、制動状態の下り坂は手前の部分で速度を計測することになる。 当面は下の写真のように速度計を置き換えて実施する。

 

 ■ 今後の予定

 測定台の改良は概ね完成したと考えている。 そこで、今までどうりの手動計測を実施しながら、供給電圧の設定方法の確認と共に、自動計測へのアプローチを開始することにする。