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鉄道模型工学  トラクション・タイヤの有無を比較する (新)

■ いきさつ

 スリップ率の測定にある程度の確信が持てるようになったので、以前からねらっていたトラクション・タイヤの効果を数値化することに挑戦した。 データをまとめる段になった、そう言えばと思いだして以前の報告を見ていると、同じような事をやっている事を見つけた。 もう・・・・・・・ボケが始まっているようである。

  しかし、その1年前のデータと今回のデータを比べてみると、より詳しく測定できていたので、自信をもってここに報告しよう。 そして、実験に使用したモデル車両も同じだったのには驚いてしまった。 考えることは一緒だということか、手持ちのモデルが少ないと言うことか・・・・。

 

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■ テストの準備

 トラクション・タイヤの有無を比較するためには、動輪の構成が簡単で、かつ均等に荷重が作用しているモデルがベストである。 そこで、中古の動力ユニットを入手していた古いEF64 の動力ユニットを使用することにした。 そして、不足する動輪は、同じシリーズと思われるEF81-81号機から動輪を拝借することにした。 この組み合わせは、先回と同じであるが、中古の動力ユニットを主体にして測定した点が違っていた。 

 部品の分解組み付けは、古い菓子箱の蓋を活用し、部品が無くならない様にしている。 下の写真。

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 最初に、トラクションタイヤを4輪に増やした。 ギヤの位置が中心からズレているので、車輪を車軸から取り外して、交換している。 そして、トラクション車輪が交互に配置するようにした。 上の写真参照。

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 そして、不要な部品は外し、モータの回転センサとモータ端子電圧の測定子を取り付けた。 測定ゲートの光を遮る遮蔽板は、右の写真に示すように、しっかりと固定出来るプラスチック片を取り付けた。

 トラクション・タイヤの有無を比較するためには、動輪の摩擦力を測定して見るのが良いと考えているのであるが、そのためには、動輪にかかる荷重が重要であると判断する。 さらに、その荷重は均等に掛って欲しいので、イコライザーのような機能が必要である。 幸いにも電気機関車のモデルは、フレームの重量が前後の台車にほぼ均等に分散し、さらに台車の車軸にも均等に分散されていると考えられるのである。 前の台車は、44.9グラムで、後ろの台車は45.1グラムであった。

 次に、センサの機能チェックを実施した。 専用のオシロシールドを使用して、モータ回転パルスを観察した状態を下に示す。

 モータの回転パルスは、1回転当たり4個のパルスを発するようにマーキングしている。

モータ回転数 ≒ 1,100 rpm
モータ回転数 ≒ 3,100 rpm
モータ回転数 ≒ 5,800 rpm

 センサからのパルス電圧は 1.5volt 程度であるが、プリアンプにて綺麗な矩形波パルスに整形しているのが確認できる。

■ テスト その1

 さっそく測定を開始した。 今回の実験では、供給電圧は適当な値でも良いのであるが、およそ5ボルトに設定して走行させた。 しかし、制動側でのデータが不安定であったり、駆動側のスリップ領域でも不安定なデータを示した。 次のグラフの “メンテなし” のデータである。

   

 どうも様子がおかしので、車両を観察した。 まず、注目するトラクション・タイヤについて、へたっている様子であったの取り外した。 そして、純正品と思われる Z03-0016の部品と交換した。 

 上左の写真は、その交換した古いタイヤと新品のタイヤを比較した物である。 見た目にも径が違っているのが分かるであろう。 以前の報告にもこの件は述べているが純正品が未入手であったため、古いタイヤを使っていたのである。

 また、スリップ率や電圧降下量のグラフより、線路の状態も怪しいと判断して、ユニクリーナでの汚れ落としだけでなく、#1500 番の耐水ペーパーで磨いてみることにした。こうしたメンテナンスを実施した後に測定したデータが “メンテ実施” のデータである。  このメンテナンスは正解だったようで、綺麗に揃ったデータを提供してくれた。

 測定実施後に、再び車輪を観察したが、その時の状態を下左に示す。 ゴム製の黒いタイヤが金ぴかに光っていたのである。

 車輪を取り出して並べたものを上右に示す。 左の2軸は、タイヤ面をユニクリーナで拭いてあり、右の2軸はそのままである。 この金色の物体は線路の材料と判断するが、耐水ペーパーで磨いた時の粉が付着したのか、あるいはスリップ時に線路をこすった時に削れたものなのかは判断できない。 

■ テスト その2

 上記のような問題があったが、今度はすべての車輪をトラクションの無い車輪に取り換えて、同様に実験を実施した。 下に示すグラフの中で、 “無” はトラクションタイヤの無い状態であり、 “無” はテストその1での “メンテ実施” のデータである。

   

 先回の報告では、粘着係数と呼んでいたが自分には馴染みが薄い。 いつの間にか摩擦係数と呼んでいるのである。 自動車系に長年住んでいたせいであろうか。 用語での混乱は許してもらう事として、この摩擦係数(≒粘着係数)について、近似式を当てはめてみた。 

   

 先回ではスリップ率のグラフで近似式を当てはめたが、今回は摩擦係数でのグラフで実施した。 EXCELの場合、当てはめる近似式の種類が少ないのであるが、対数のパターンがマッチしそうであったので、対数近似にしてみた。 上左のグラフ。 また、この対数近似ではゼロやマイナスの値が有ると近似出来ない無いので、制動側のデータはプラス側に移動し、さらにゼロやマイナスとなったデータをカットして表示したのが、上右のグラフである。

 トラクション・タイヤの有無によって明確な差が表れているので、この方法で比較することにした。 さらに、駆動側と制動側では、同じ摩擦係数を示すと言われているので、これらのデータを合体して評価してみよう。

 また、テスト後の車輪の状態を見ると、全輪ともピカピカの状態であり、何ら問題ないと判断した。

■ テスト その3

 テストその1で気になっていた、金ぴかタイヤについて、後悔の内容に再度測定することにした。 今度は、ペーパーで磨いた後の線路を湿らせた鹿革で綺麗に拭きとり、トラクションタイヤ面はユニクリーナで拭いた状態にして測定した。 “無” で示したデータは、その2のトラクション・タイヤの無い状態のデータのままである。

   

 再測定の結果はやはり正解だったようであり、牽引力は少しアップしていた。 そして、トラクション・タイヤの有無の比較が充分可能な綺麗なデータが得られた判断する。

  

 そこで、プラスデータへの変換と、駆動データと制動データを合体し、トラクション・タイヤの有りと無しの場合の摩擦係数の対数近似式を上右のグラフにて示す。

 有りの場合のスベリ率の大きな領域では、プロット点よりかなり離れているが、これは、制動側のデータを合体したために、スベリ率の小さい場合のデータに影響されているものと推察される。 さらに、スベリ率の大きな領域では、実際に使用されることはまれであり、この状態で鉄道模型を走れる事は過酷で可哀そうである。 線路磨き装置ではないのである。

 そこで、スベリ率が25%程度の実用域での摩擦係数として再整理して表示したのが下左のグラフである。

   

 このグラフを見ていても良く分からないので、その倍率を求めることにした。 その方法は、グラフから求めた対数近似式をもとに、同じスベリ率の場合の摩擦係数を計算し、その倍率を算出してグラフ化したものが上右に示すグラフである。

  これならば、トラクション・タイヤの効果は、無い場合の 1.6 倍である と言えるであろう。

 一年前のデータによると、2輪だけトラクション・タイヤを履かせた場合の牽引力はおよそ 25%アップする事が測定された。 また、トラクション・タイヤでは2倍の牽引力を発揮していることになるとも計算されたが、今回の結果はどうであろうか。 

 4軸8輪の動輪の中で、トラクション・タイヤを4本履いた状態とゼロ本の場合とでは、1.6倍の摩擦係数、即ち摩擦力が発揮される。 6割増しとなるのである。 比例的に考えるとトラクションタイヤが2輪の場合では3割増しとなり、8輪全部では12割増し、即ち 2.2倍となるのである。 おおよそ合致するではないか!

 そこで、トラクション・タイヤの効果係数なるものを考えてみよう。 効果係数を K 、全ての動輪の数をN 、 トラクションタイヤを履いた動輪の数を n とすると、
効果係数 Kは K = ( ( N - n ) + 2.2 * n ) /N  と計算することが出来る。 即ち。

  トラクション・タイヤの効果係数 K =  ( N + 1.2 * n )/N

 ・・・・・・・・・・・・・・ ほんとうかな? ・・・・・・・・・・・・・・

 なお、測定後のタイヤ面を観察すると、やはり金ぴかのタイヤ面であった。 従って、金ぴかの付着物は、ペーパーで磨いた残り粉が付着するのでは無くて、線路をこすった時に出る摩耗粉が付着するものと推定する。 いずれにしろ線路やタイヤ面は常に綺麗にしておくことは必須であろう。

■ まとめ

 結論が出たとこで、まとめに入ることにしよう。

 まず、新しい測定方法は、何とか安定した測定が出来るようになった。 このため、何か新しい知見が得られるかも知れないと期待しながら、手持ちのモデルに対して順次展開して行こう。

 そして、トラクション・タイヤの効果について、数値的な裏付けを得ることが出来た。 車輪の種類によって異なって来るとは思われるが、また機会があったら最近のスリムな動輪に対しても、同様な実験を実施してみたいものである。