HOME >> 鉄道模型工学 > 速度項を見直した新解析法の検証
■ いきさつ
先回の報告で述べたように、速度項に関する新たな知見を得る事が出来たので、この考えを取り入れて動力特性を表すモデルを修正するkとにした。 そして、そのモデルを使って、C59-123号機の測定データと比較し、モデルのマッチング具合を検証してみよう。
■ モデルの修正
まず、摩擦損失の速度項について、修正する。 ウォーム軸側の摩擦トルクについては、速度係数 λw、 固定項 Rw、 モータ回転数 Nm (rpm)とすると、
ウォーム軸の摩擦トルク = λw・Nm + Rw ( gf-mm )
とする。 また、動輪軸側の摩擦トルクについては、速度係数 λd、 固定項 Rd、 動輪回転数 Nd(rpm)とすると、
動輪側の摩擦トルク = λd・Nd^2 + Rd ( gf-mm )
とする。 測定データより判断し、摩擦の速度項は、ウォーム軸側の摩擦トルクは比例的とし、動輪軸側の摩擦トルクは速度の二乗に比例するモデルとした。
この関係をブロック図に入れ込んだ修正版を下に示す。 ⇒ 拡大図
なお、スリップ率の記号はねじれ角βと重複していたので、ζの記号に変更している。
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また、今回の修正によって、EXCELを使って計算する場合、循環参照の部分がまた一つ増えてしまった。 モータ部分では、Nm 項が該当していたが、今回はNd 項が関係するようになった。 いままでは、知識が無かったので、この様な場合は逐次近似方法で実施するしか無いと思っていたが、EXCEL では循環参照を許可および使用する裏技があるのですね。 何しろ循環参照と言う言葉も初めてでした。 「循環参照を修正または使用する」 EXCELサポートより。
■ C59-123号機での検証
この新しい数式モデルを使用して、C59-123号機の特性を計算してみることにした。 まず、今までの解析結果で得られた定数をリストアップする。
寸法関係 | 度輪直径 D | 11.4 mm | 全減速ギヤ比 i | 37.64 | ウォームのピッチ円 d1 | 4.1 mm | リード L | 1.8850 mm |
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動輪荷重 Wo | 61.4 gr | 動輪系減速ギヤ比 i0 | 3.27 | ホイールギヤのピッチ円 d2 | 6.9 mm | ウォームリード角 tanβ | 0.14634 | |
モータ関係 | ke ( volt/rpm ) | 0.0004878 | Ra ( Ω ) | 39.2 | Eb ( volt ) | 0 volt | ||
Kt ( gf-mm/A ) | 472.5 | Rm ( gf-mm ) | 0.99 | λm ( gf-mm/rpm ) | 0.0000796 | |||
損失関係 | 電圧降下 | 0.25 volt | ウォーク軸速度係数 λw | 0.0000505 | ウォーム軸固定項 Rw | 0.558 gf-mm | ウォーム摩擦係数 μ | 0.195 |
テンダー等摩擦 R2 | 0.3 gf | 動輪軸速度係数 λd | 0.0001 | 動輪軸固定項 Rd | 17.0 gf-mm |
単位は測定時の便宜を図って、電圧は volt 、電流は mA、回転数は rpm 、車速はスケールスピードの Km/h 、抵抗はΩ、長さはmm、重さはグラム gf を使用しているが、どうゆう訳かトルク定数の Kt は電流の単位を mA ではなく A を使ってしまっているので混乱しそうである。 今更修正を実施する自信が無いのだ。
また、スリップ率 ζ の近似式は、今回の計算途中で不具合があったので、 「スリップ率を整理する」の報告に追加して修正を実施、今回はその修正式と定数を使用して計算した。
◆ 計算結果
上記の数式モデルをEXCELの計算シート上に構成し、上記の定数を設定して静的動力特性を計算した。 計算を始めるための変数は、測定データに倣って、供給電圧 E と 有効駆動力 F2 を適切に設定して、ブロック線図の流れに沿って計算を進めた。 新たに発生した循環参照については、自信が無かったので従来どうりに、逐次近似を4回まわして求め、車速と電流、および回転数を求めた。 なお、特性の測定は、照明回路は取り外して実施しているので、照明回路は無いものとして計算している。
EXCELの計算シートの一部分を下に示す。
結果を下のグラフに示す。 赤線が計算結果である。
計算結果は嬉しくなるぐらい、ピッタリと合致していることが分かる。
単機走行時の車速や電流値、およびモータ回転数もピタリと一致するようになった。 これは、摩擦損失の速度項を修正した結果と判断している。 また、駆動力・速度特性のカーブ具合も、納得のいくマッチング具合である。 そして、駆動力と電流値の関係において、遷移点の様子を観察したいために右のグラフのように拡大したが、駆動側と制動側の交点が遷移点を示していると判断する事が出来る。
そして、これだけピタリとマッチングしているので、何よりも心配した抗力項は必要ないと判断している。 抗力項が影響していないのでは無くて、ウォームギヤの摩擦抵抗を推定した時に、既にその影響が含まれていると考えているのだ。
例えば、先回求めた摩擦係数の推定検討では、ウォーム軸のラジアル力を考えて場合、軸受けに働いているスラスト力によってウォーム軸に摩擦抵抗が発生している筈であるが、歯面からのラジアル力と軸受けからの摩擦力を一緒にしてしまって計算していることが言えるのだ。 厳密にはこの二つの力を分離して測定しなければ、歯面での摩擦係数は測定出来ないのである。 しかし、そのためにはよほど精密な測定装置を作って測定する必要があるので、ホビーの領域では絶対に無理な話しなのだ。
即ち、先回求めた摩擦係数は、純粋な歯面での摩擦だけで無くて、ギヤの軸受けを含めて、摩擦係数として推定されたものと考えることが出来るのだ。 従って新たに抗力項を考えるのは不要であると結論付けた。
■ まとめ
今回修正した計算モデルと推定した定数は、実際の様子にピタリとマッチングしているので、これらの推定が正確とは言わないまでも、いい線まで行っていると言えるであろう。 そして、推定した定数をいろいろなモデルで求めて行けば、そのモデルの特徴や欠点を明確に示す道具になり得ると思っている。
これで、中断していた動力特性の解析を再開する準備が出来たので、今後は測定装置の再稼働のチェックを実施した上で、SLモデルの解析に取り組むことにしよう。