HOME >> 鉄道模型工学 > 台車の荷重移動 車輪の浮上り限界
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以前に紹介した「GM製コアレスモーター動力ユニットを名鉄2200系に装着 (1)」( 2019/7/18)において、動力ユニットを線路に載せるためリレーラを使ってセットしようとしても車輪が脱線してしまったり、高負荷時に車輪が浮いて脱線する現象を報告した。 これは、台車のピッチングモーメントによって車輪が浮いてしまうのが原因であるが、この現象は台車に掛かるモーメントによる軸重移動の問題である。 そこで鉄道模型工学の一環として、この現象を解析すべく進めてきた。
先回は、カプラーがボディーマウントの方式のボギー車について報告したが、ここでは、きっかけとなった車輪の浮上りについてまとめておくことにする。
■ 車輪の浮上り現象
上記の報告の中で紹介したビデオの一画面を右の写真に示す。 写真の様に、車体を手で移動させようとすると片方の車輪が浮き上り、脱線してしまうのである。
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この現象を解析するために、左のような簡単なイラストを作成した。 車輪が浮き上がる直前には、その車軸の軸重はゼロになっているので、片方の車軸に軸重が完全に移動している状態である。
この時の台車に掛かる力 F と車輪の摩擦係数μの関係を求める。 車輪、即ち動輪はウォームギヤによってロックされているので回転することが出来ない。 即ち、台車と一体化した一部分と化しているのである。 この場合の力関係を求めればよいのである。
力Fに対して摩擦力が小さければ、レールとの間で滑っていき、車輪の浮きが発生しない事は明らかである。 あるいは、摩擦力が大きくても、高さ H が、軸スパン L よりも充分に小さければ発生するモーメントが小さくなり、片方の車輪の浮上りは発生しないで、レール上を滑っていく。
この H と L とμの関係を求めればよいのだ。 そこで、点イ周りのモーメントに注目すると、
W・L/2 = μW・H
即ち、 μ = L/2H
となる。
このμの値は、車輪が浮く限界の摩擦係数を示しているが、その限界値は L/2H となるのである。 高さ H が L よりも充分に小さければ、浮上り限界のμが大きくなるため、通常では発生し無いこととなる。
ちなみに、GMのコアレスモータユニットでは、 L = 14.0mm、H = 15.6mm であったので、限界μ = 0.45 であった。
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■ 車輪の摩擦係数の測定
この場合の摩擦係数は、今まで測定してきたコロガリ摩擦係数との違いがあるのか無いのか、判断出来ない。 コロガリ摩擦係数の場合は車輪が回転している状態であるが、今回の場合は車輪の回転はゼロであるため、滑り摩擦となる。 そこで、スベリ率100%と考えれば、コロガリ摩擦と同等となるのかどうかが不明であったので測定してみることにした。
実験方法を右の写真に示す。 コアレスユニットの台車を取外し、さらに動輪を取り換えて、トラクションタイヤが装着されているかどうかの3種類の台車を作り、傾斜面を滑らせてみた。
状態 | 台車重量 | 摩擦係数 |
---|---|---|
トラクション無し | 3.8 | 0.26 |
トラクション1輪 | 3.7 | 0.32 |
トラクション2輪 | 3.7 | 0.36 |
台車の車輪はウォームギヤによってロックされているので回転出来ない。 そこで自重によって滑り始める高さを測定した。 そして、摩擦係数は、レール台のスパン L は、 L = 300mm なので、左右の高さの差 H を測定し、
μ= H/√(L~2 − H~2)
として計算した。
文献によると、動摩擦には相対運動の種類によって滑り摩擦と転がり摩擦の区別があり、一般に前者の方が後者より大きな摩擦力を生む。 との解説があるが、おおよその値として、コロガリ摩擦の滑り率100%の場合と同じと見ることができるのではないかと判断する。
しかし、上記で求めた限界摩擦係数μと比較すると、車輪はまだ浮き上がらないと判断できるが・・・・・・・・・・・・・・。
摩擦部材がゴムの場合、上からの力が掛かると変形して接触面に喰いつき、摩擦係数が大きくなってしまうのでは無いかとも考えられるが? ある文献によるとゴムの摩擦係数は1以上になる事もあるとの説明もあり、よく分からないので実情である。
実際にこの動力ユニットの場合、軽く手で押すと車輪は浮き上がらずに滑っていくので、求めた数値からほ納得出来るのであるが、急に動かそうとしたりする場合などでは車輪が浮き上がってしまうのである。
結論! よく解らない!
■ 各モデルの浮きの限界摩擦係数の調査
結局、よく解らないので他の視点から考えてみよう。 即ち、他のモデルの場合の設計寸法はどうなっているのかを調べ、比較してみることにした。
各モデルの台車を取外し、ボディーとの接続部を観察して測定した。 台車支持部の構造はいろいろな工夫がされており、明確な作用点を探るのに迷う部分もあったが、台車の動きから判断して決めて行った。
例えば、下左の写真に示す台車の場合、上下の荷重は集電子の先端と車体側のバネで受けたり、台座の部分で受けているが、進行方向の力は受けていない。 こちらは台車の上部に設けられたφ4.0mm の突起部分と車体の穴の部分で係合しており、進行方向での力を伝達でいているのである。
そこで、この突起部分のレール面からの高さを測定する必要がある。 どうやって測定するか? そこで急ごしらえのハイトゲージを作った。 下右の写真。 ノギスの裏側に金属板( 昔の3.5インチフロッピーの分解品なのだ。 )を貼り付けて腕を伸ばしている。
そして測定時の状態を下に示す。 レール面にはマグネ・マティックカプラーのチェック用金属板を使用している。
この調査結果を下の表に示す。主としてボギー方式の電車動力を測定した。 限界μは、μ = L/2H として計算している。
品番 | 車種or動力ユニット名 | メーカー | カプラー | トラクションタイヤ | L | H | 限界μ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
415 | 153系 | KATO | 台車 | 無し | 14.0 | 10.0 | 0.70 |
4449 | 313系 | KATO | ボディー | 無し | 14.0 | 9.4 | 0.74 |
6037-1 | キハ85系 | KATO | 台車 | あり | 14.0 | 9.4 | 0.74 |
4472-1 | E231系 | KATO | ボディー | あり | 14.0 | 8.9 | 0.79 |
6074-2 | キハ35系 | KATO | ボディー | 無し | 14.0 | 8.9 | 0.79 |
4016-5 | 153系 | KATO | 台車 | あり | 14.0 | 7.9 | 0.89 |
A0929 | モハ153-115 | マイクロエース | 台車 | あり | 14.0 | 9.6 | 0.73 |
鉄コレ動力ユニット | TOMYTEC | 台車 | あり | 14.0 | 7.5 | 0.93 | |
9142 | EF210電気機関車 | TOMIX | ボディー | あり | 17.0 | 13.5 | 0.63 |
4093 | 名鉄2200系 | GM | 台車 | あり | 14.0 | 11.0 | 0.64 |
5901-1 | 日車D型動力ユニット | GM | 台車 | あり | 14.0 | 11.0 | 0.64 |
5714 | コアレスモータ動力ユニット | GM | 台車 | あり | 14.0 | 15.6 | 0.45 |
この測定結果をグラフにして、次に示す。
KATO系は、年々限界μは向上しているが、昔から 0.7 以上の値を確保している。 TOMIXやマイクロエースでも 0.6 以上は確保しているし、鉄コレ用台車は 0.9 以上もある。 一方、GM では、古い動力ユニットや2モータ方式のユニットでも 0.6 以上確保しているのに、なぜかコアレスユニットだけは大きく落ち込んでいる。
高さH の差は4.6mm とかなりの数値であり、コスト優先の構造としたのか、あるいは無頓着に採用してしまったのか設計者の意図は不明であるが、この設定がマズかった事は明らかである。 せめて昔の構造を踏襲していた方が正解だった気がする。
■ まとめ
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GM製のコアレスモータ動力ユニットは新設計であるが、車輪の浮きに対する配慮が足りなかったものと思われる。
ユーザーとしての対応は、次の方策が考えられる。