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鉄道模型実験室   KATO C62 2 とパルス制御式パワーパック

 

■ いきさつ

 KATO C62 2号機 北海道形がさる2011年11月25日に発売されました。 外回りは、C62東海道形と同じようにディテールもしっかりしています。 自分が興味を引いたのがD51 498 (品番: 2016-1)に準じた新規の動力ユニットを採用している点です。 モータがコアレスモータを採用しているとのこと(まだ分解はしていません)と、重連時の下り坂での走行がスムースになったとKATOのホームページで宣伝している点でした。

 そこでさっそく特性を測定してみましたが、今までとは異なる点に気が付きました。 電圧の変化が大きいことです。 鉄道模型のパワーパックは、一定の電圧を維持してくれている一種の 「定電圧」 電源装置 であると認識していたのでしたが、違っていたようである。 これでは模型車両の速度を操作する 単なる「速度操作」付きの電源装置 であるとの認識に代えねばならない様である。 ダイヤルを回せば速度を変更する事が出来るが、坂道に来た場合や重い車両を牽引する場合には、そのたびに速度を調整して下さいと言う事であり、当然と言えば当然なのかも知れない。 説明書などには、どこにも一定の速度を維持しますとは書かれていないのである。

 なお、このとき使用していたパワーパックはTOMIXの N-1000-CL でした。 そして、手持ちの他のパワーパックでも走行させてみましたが、この様な状態が発生していないので、世に言われているコアレスモータとパルス制御式パワーパックの相性の問題ではないかと気が付き、さらに調査することにしました。 

 

■ 測定装置と測定データ

 最近改良した傾斜式の測定台を使用して動力特性を測定した。 まず、単機走行状態での測定を行った。 モータ単品での電流・電圧特性はまだ分解していないので測定していない。

 およそ 4Volt でスケール速度が 80Km/h と標準的な設定となっている。 低速では、驚く事に 1Volt 前後から動きだしているのである。 そしてゆっくりと、かつスムースに走行していのは感激である。

 

 次に牽引力特性を測定した。 粘着領域での牽引力はおよそ 20 グラムであり、制動領域ではS字特性を示していた。 消費電流も小さく、安定したデータを示している。 何時もこの特性を測定する時の条件として、電圧を一定にすることを条件としてきたので、何時ものようにパワーパックのダイヤルを微調整していたが、今回はやけに変化が大きい事に気が付いた。

 なお、ギクシャク走行の原因は、このS字特性ではないかと考えていたが、今回のデータで、直接的な原因ではない事がはっきりした。 S字特性の部分でギクシャク走行が発生しているのは確かであるが、それが原因ではない様である。

 

 追加の実験として、パワーパックのダイヤルの微調整を止めた場合の測定を実施してみた。 一度設定したダイヤルをそのままにして、牽引側から制動側までの負荷を変更し、電流と速度と共に、電圧も測定したのが、次のデータである。

 .

 およそ15グラムの牽引力状態での速度を40Km/hにダイヤルをセットして、傾斜台の角度を変えていった。 すると、平坦路状態では、130Km/h、下り坂状態では、160Km/hものスピードとなってしまった。 この間、電圧は最初の 4Volt からグングン上昇し、160Km/hのスピードが出た下り坂状態では、7.7Voltまで上昇している。

 また、S字カーブの間は、速度がダウンするのに合わせて電圧も低下するが、その後速度が再び上昇するのにもかかわらず、電圧は低下を続けている。 これは、非常に興味のある現象である。

 電流は、一定電圧の場合と少し異なるが、似たような値を示している。 これは、モータのトルクは電流と比例するとの事象を証明している様である。 この電流と電圧の動きを見ていると、S字カーブの間の動作メカニズムを解明するヒントとなりそうである。

不思議に思ったこと:
車両を線路にセットする前に、ダイヤルを調整して電圧を 4 Volt に設定し、DIRECTIONスイッチを中立に戻して車両を線路上にセットした。 そして、前進側にスイッチを入れた途端に、車両は猛然と走り出してしまった。 電圧がはね上がっているのである。 あわててダイヤルを戻したが、この現象について、はじめは理解できなかった。 パワーパックは定電圧装置という頭があったのである。 この現象について、追加実験をしているので、このページの最後をご覧ください。

 この測定の最初から最後までの状態は、エンドレス線路をひいている傾斜台測定装置を一周する間でも再現する事が出来る。 手前の登り勾配を登れば、向う側の下り坂を下らなければならないのである。 従って傾斜状態の測定台を一周する間に電圧は、上記のグラフに示したように変化しているのである。

 その様子をビデオで撮影したので紹介しよう。

 勾配の設定は40パーミルに設定してる。 電圧計と電流計はアナログテスターを使用し、測定レンジは、電圧計では max 10 Volt 、電流計では max 300 mA にセットしている。 速度計は簡易速度計測器ビースピVを使用し、 cm/sec の表示設定である。  スケールスピードに換算するには、Nゲージであるから縮尺を 1/150 とし、1cm/sec = 5.4Km/h として計算すれば良い。 パワーパックはTOMIXの N-1000-CL(品番:5502、JG01917) である。

 走行中の状態として、前半は、4.5 Volt 〜 7Volt の間を変動し、その間14.7 cm/sec = 79 Km/h から、26.5 cm/sec = 143 Km/h と変動している。 速度変化はおよそ2倍近くにも達している。

 映像の後半では少しスピードを絞ったので、2 Volt 〜 4.5 Volt と変動し、5.3 cm/sec = 29 Km/h から、16.3 cm/sec = 88 Km/h と速度が変動している。 しかし、このスムースなスロー走行は見ていると頼もしい感じがする。 ちなみのこの登坂時の牽引力は7.4 グラムである。 まだまだ、力には余裕ある領域である。

 この走行で、電圧の変化と、それによる速度の変化具合を理解して頂けたと思う。 そして、傍にあった他のパワーパック N-1 (品番:5504、 DJG30637) で走行させた場合は、電圧変化はほとんど無いことも報告しておく。

 

 

■ 実際の影響

 では、この現象が実際のレイアウト走行ではどの様に影響するのであろうか考えてみよう。 高低差のないレイアウトでは、機関車に掛る負荷が殆ど変化しないので影響は無いと思われる。 しかし、高低差のあるレイアウトでは、登り坂があれば必ず下り坂があるので、その速度変化が現れる。 上記のダイヤル固定で測定したデータをもとに計算してみよう。

 C62 に牽引させる車両として旧型の客車を7両牽引すると想定してみた。 手持ちの43系車両の重量と走行抵抗を測定した結果の平均値は、重量が32グラム、抵抗が0.7グラムであった。 C62の重量は87.7グラムである。 40パーミルの勾配を想定すると、

となる。 この値を上のグラフに当てはめると、おおよそながら

で走行することになる。 実際に走行させてその様子を見てみる事にしよう。 右のビデオをご覧下さい。 設定によっては下りのS字カーブをやや暴走気味に下っており、幾度か脱線を経験している。

 

■ 原因を考える

 このままでは、鉄道模型工学を探求するオタクとしては引っ込みがつかないので、メカ屋の自分として、つたない電気の知識を駆使してこの原因を検討してみよう。 電気的な現象なので、まず、各要素を電気回路の要素として考えることにする。

 パワーパックの回路を知らない(否、教えてもらっても理解できないであろう ) 素人考えなので間違っているかも知れないが、ご容赦頂きたい。

 パワーパックについては、直流電源装置なのであるが、一定の電圧を保っている一般のパワーパックを電池に例えて表示することにする。 また、パルス制御のパワーパックは、直流ではあるが、PWM制御などのパルス幅制御がされているため、ゼロ電圧と一定電圧を繰り返す交流電源と見る事にしよう。

 そして、コアレスモータは、電線を巻いているコイルと考える。 そして通常の鉄芯入りのモータは、同じく鉄芯入りのコイルと考える。 コイルは、低周波成分は良く通すが、高周波成分は逆起電力によって抵抗すると認識している。 その傾向は鉄芯入りのコイルほど顕著である。 即ち、鉄芯入りのモータは高周波変動にはついていけないと考える。

 次に、この組合せを考えると右の状態となる。 (1)は一般のパワーパックと鉄芯入りモータの組合せであり、定電圧の電源装置である電池から電力が供給されるため、負荷が変動しても、電流が変化するだけで電圧の変化はほとんど無い。

 鉄芯入りモータの場合、パルス制御のパワーパックを使用した(2)の状態でも、パルス制御の高周波成分は、鉄芯入りのコイルによって遮断され、直流成分しか通電しないので、負荷が変動しても、電圧の変化が少ないと考えられる。

 しかし、パルス制御のパワーパックとコアレスモータを使用した(3)の場合は、負荷の変動に従って電流が変化すると、高周波成分が影響してコイルの両端の電圧も変化し、電源部の電圧も変化してしまうようである。 なぜそうなるのか、残念ながら自分にはこの辺の現象が理解できていない。 コアレスモータやPWM制御などの技術や製品化は、かなり以前からあったので、問題点などは何らかの対策が実施されているはずと思うのであるが。 このパワーパックの回路が特殊なのだろうか。 何だか共振回路に似ている様にも思えるが・・・・・・・・・・。

 つぎに、一般のパワーパックを使用した(4)の場合は、電源が「電池」なので、コアレスモータと組み合わせたとしても電圧は変化しないと考えると分かりやすい。

 さてさて、この素人考えは正しいのかどうかは保障し難い。 間違っているのかもしれないが、自分なりには納得している。

 

■ 対応策

 この様な状態でも、現実的だと言えば現実的である。 急な山道で、速度をグーと落とし、重い客車を喘ぎながら登って行くのも現実的で、かっこいいかも知れない。 しかし、下り坂では注意が必要である。 暴走気味に坂を下るとカーブやポイントなどで脱線する危険性が増加する。 特に軽い先輪が脱線しやすいのでSLの場合には注意が必要である。

 

 とは言っても、出来たら一定の速度で走行して欲しいと思う一方で、重連状態でもうまく走行出来るのだろうかとも心配となってくる。 重連時の下り坂での走行がスムースになったとKATOも保障しているが、競争相手のパルス制御式パワーパックとの相性まで検証してのことだと考えたいですね。

 勿論、高低差の無いレイアウトを選択するのも対策であるし、TOMIX製を使用しないのも方策であるが、自分のレイアウトの状態を考えると、それでは面白くない。 この重連状態を考えるうちに、ふとグッド・アイディアが浮かんだ。

 まず、同じC62を重連させた場合には、同じコアレスモータなので、左の図の(5)の様な状態であり、電流は増加するも、現象としては同じと思われる。 しかし、(6)のように、鉄芯入りモータ車両と重連させた場合にはどうであろうか。

 高周波成分が追従出来ずに直流状態となり、電圧変動は少なくなって、その結果速度変化も少なくなる、となればうまくいくのであるが・・・・・・・・。

      実験してみよう!。

 

 鉄芯入りモータ車両ならなんでも良かったのであるが、右の写真のように、手持ちのマイクロエース製モハ153-115号機を持ち出した。 ボギー台車なので重連部分の脱線が少ないであろうということ、うまく行けば車体をスハ44などの客車に取り替えて編成させれば、見た目にもおかしくないであろうと考えたからである。

 走行結果を左のビデオで紹介しよう。 結果は図星と言える。 電圧変化は 0.5 Volt 以内で、見事に一定値に保っている。 レイアウト上でも非常にスムースに走行しているのが分かる。

 牽引力は倍増し、速度変化も少なく、何よりも下り坂の暴走を防止しているので安心して走らせる事が出来る。 一石二鳥のグッド・アイディアと思っているが、さて、どうやってこの「隠れ補機」を仕上げようか、思案のしどころである。

 ついでながら、コアレスモータのD51にも応用出来そうなので、貨車式の「隠れ補機」もありのようである。

 あるいは、単品のモータをテンダーの中に押し込み、モータを空転させながら高周波成分の吸収装置として作用させるのはどうだろうか? 否、何も車両に組み込むことは無いのではないか、線路わきに風車を作ってモータを回転させておけばよいのでは? ・・・・・・・・・・・・・・・・冗談はこれくらいにしておこう。

 ただ、この方式で問題は無いのだろうか? どこかで異常発熱することは無いのだろうか。 安全性はまだ未確認である。

追記: 鉄芯入りモータ車両としてマイクロのC62-2号機を持ち出し、重連させてみた。 重連カプラーはKATOのC62にしか設定出来なかったので、KATOのC62を本務機、マイクロのC62を前補機として重連させたが、本務機の方が足が速いため、後ろからツンツンと押しまくり、本務機の先輪がたびたび脱線する現象により、NGとなってしまった。

 

■ 追加実験

 パワーパックは定電圧装置では無い事を思い知らされた実験を紹介しよう。

 最初にパワーパックのダイヤルを調整して、電圧を 4.0 Volt にセットする。 このとき電流は当然ゼロである。 その後、車両を線路上に乗せて走行させる。 このときに変化した電圧と電流を読み取る。 平坦路単機走行の条件で走らせた。 パワーパックは家中の物を引っ張り出してきた。

メーカ パワーパック名 KATO C62 2 マイクロ モハ153 C62とモハ153
電圧 Volt 電流 mA 電圧 Volt 電流 mA 電圧 Volt 電流 mA
TOMIX N-1001-CL
7.3
27
2.7
100
2.5
110
N-1000-CL
7.2
27
3.0
102
2.8
115
N-401
3.6
15
2.9
95
2.9
110
N-1
3.4
14
2.9
95
3.1
110
KATO Standard S
4.6
18
3.3
105
3.3

120

 結果はご覧の通りである。 TOMIXのパワーパック (いや失礼、TOMIXはパワーユニットと呼んでいましたね) とコアレスモータのC62の組合せに於いて、電圧は 4.0Volt から 7.3 Volt に跳ね上がっている。 KATO の Standard S も少しアップしているが、他の組み合わせでは全て電圧はダウンしている。

 負荷が掛ると電圧は下がるのが常識と思っていたが、逆に 跳ね上がってしまうのは驚きですね。  これでは、定電圧電源装置と思っていはいけないのだ。

 では、なぜこのような現象が起きるのだろうか? 電気回路での共振現象なのだろうか。 共振して振幅が大きくなってしまっていると考えると納得いくのだが。