HOME >> 鉄道模型実験室 > モータのトルク特性を測定 その2

鉄道模型実験室   モータのトルク特性を測定 その2

 

 モータのトルク特性の測定方法について、失敗した第1回目の実験に引き続き、負荷を掛ける方法を改良して再度実験することにしました。 今回もネットで報告されている方法のひとつで、モータの回転軸に糸を巻きつける方法である。

 

● 実験装置の説明

 実験装置の全体を下の写真に示す。 回転計、秤、パワーユニットやテスターなどは先回の実験で使用したものと同じです。 モータの測定部分は変更しています。 今回も、窓からの光が邪魔して反射式回転センサーがセンシング出来なかったので、写真の様にボール箱を被せています。 また、回転物はモータ単品だけなので、アクリル台の防護台は使用していません。

 測定装置部分を下の写真に示す。 モータの回転数は、前回と同様に非接触による計測装置を使用し、フライホイールのすぐそばに設置した。 そのフライホイールの外側にあるジョイント受け部の外側に糸を巻き付け、その糸の片方は100g の分銅に括り付けて秤の上にのせている。 糸の反対側は、滑車を介して簡単な重りを括り付け、糸に張力が掛るようにしている。 この張力はモータ軸にかかる摩擦トルクを調整するものなので、糸の張力調整のために重りの重さを変更する必要がある。 そこで、ナットなどのやや重みのある部品をいろいろ使用し、何種類かの重りを作成した。そして、それそれその重さを測定しておき、間違わないようにその重さを部品に記入しておいた。 なお、ジョイント受け部の外形は、直径が 3.1mm であった。 また、滑車はタミヤのミニ4駆アップグレードパーツ「プラリング付アルミベアリングローラー」GP.251/19mm を使用した。 この部品は、外形のリングを取り外すと糸のガイドにもってこいの溝が現れるし、軸部は小さいと言えどもベアリング付きなので、実験用の滑車として重宝している。

 測定は、張力調整用の重りをいろいろ取り替えて実施し、分銅の重さが軽くなる方向にモータを回転させた。 また、モータ軸(ジョイント受け部)に巻き付けた糸は、とりあえず1回巻きとして測定した。 分銅の重さと、張力調整用の重りの重さと、測定された荷重計の値からモータ軸に掛る接戦力を計算し、軸の半径を掛けてモータトルクを算出した。 糸を巻き付け無い時は、まさにトルクゼロの状態が測定出来る。 空気抵抗やモータ内部摩擦は無視しているが・・・・・。

● 測定結果

 測定結果をグラフ化したものを下に示します。 回転部分がモータ単品だけなので、比較的安定した状態で測定出来た。 トルクと回転数の関係は直線的に近似出来そうだし、トルクと電流の関係は電圧とは無関係に直線近似出来そうである。 しかし、高速回転時やモータ発熱具合によっては、時々回転数がおかしい場合が発生するので、無理をしないようにした。 試しに他のモータで測定した場合には、モータの回転が色々変化してデータがバラついた例があり、N増し(測定例を増やす事)を実施して、ノウハウを蓄積していく必要があるようである。

 ちなみに、先回の測定データと重ねてみると、トルク・回転数の関係では勾配がやや変化するものの、線上に並ぶ事が判る。 また、トルク・電流の関係も然りである。 そして、これらのデータは先回の反省に立ち返り、欲しい範囲のデータが測定出来ていることを示している。

 

 視点を変えて推察してみよう。 モータと動輪の間には、ギヤ機構を介して連結され、その動輪の回転は、車体の速度と牽引力に関係している。 ここで、摩擦抵抗がゼロで、動輪のスリップも無い理想的な状態を考えると、モータの回転数から車体の速度、およびモータのトルクから牽引力が数式を使って算出する事が出来る。

 先回の報告と同様に、モータの回転数を Nm [ rpm ] 、車体のスケール速度を V [ Km/h ] 、モータのトルクを Tm [ gf-mm ]、動力車の牽引力を Fk [ gf ]、動輪の直径を D [ mm ] 、 減速機構のギヤ比を i とすると、 N ゲージの縮尺は 1/150 なので、

     V = πD/i ・Nm ・ 60×150/1,000,000 = 0.0283 ・D/i ・Nm

     Fk = 2/D ・i ・Tm

となる。 このカニ24の場合は、動輪が 5.7 mm で、ギヤ比が 11 であったので、このモータ単品の測定データを上記の換算式で車体の速度と牽引力に換算して、効率が100%の場合の動力特性をグラフ化してみよう。

 なんと、わずか 3 Volt の電圧で 100 Km/h のスピードを出せて、120mA の電流で 50 gf の牽引力が出せる事になる。 と言うことは、各部の摩擦や電圧降下などで、かなりのパワーを失っていると言えよう。 そこで、車両状態での測定結果と比較してみることにした。 上のグラフを、補助動力車 カニ24 の追加実験 で得られている車両走行時のデータに重ねて見たのが下のグラフである。 調整ボリュームは、高速側の max 状態であるが、その前後の抵抗でモータ端子電圧とレールに供給された電圧との間にかなりの電圧降下があると考えるが、理想状態と実際とはこんなにもかけ離れているとは思ってもみなかった。 当初は測定の間違いではないかとか、換算式の間違いではと疑ったが、どうやや間違いではなさそうである。

 牽引力と電流のグラフを見ていると、縦軸の差によって摩擦抵抗の大きさが見えてくるが、横軸の差は電気回路において分岐による電流損失(テールライトの回路)も考慮しなければならない。 牽引力と車速のグラフでも縦軸と横軸のズレの原因を見ていかなければならない。 この違いを一つづつ解析していくことが、動力機構の損失要因を明らかにしていくことになると思っているので、だんだん面白くなってきた。

 

● まとめ

 モータ単品でのトルク特性の測定方法はなんとかめどを付ける事が出来た。 このデータと車両での状態とを比較することにより、動力機構の損失要因を明らかにし、その関係式を明確化していくことも可能と考えている。 これは鉄道模型工学の探求の一環と言えると思う。

 しかし、測定にあたっては、今まで以上に注意を払っていく必要を感じている。 わずかな電圧降下の要因でも結果に影響しそうである。 たとえば、ヘッドライトやテールライトの回路の電流損失を無視していたが、これも明確にしていく必要があり、部品を取り去って影響のない状態で測定するか、あるいは実測値で修正するなどの考慮が必要のようである。 レールや車輪も含めて集電回路中の抵抗による電圧降下も吟味しないといけないかも知れない。

 今後は効率などの観点を取り入れて、本格的な解析を進めて行きたいと思っている。