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鉄道模型実験室   KATOのC56-149号機の断層特性

 

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■ いきさつ

 コアレスモータを搭載した最新モデルであるKATOのC56-149号機について、動力特性の測定中に不思議な現象に出くわした。 それは、牽引特性における駆動側と制動側の「断層」である。 ⇒ 「C56のバック走行を調べる」 参照。

 その原因として、牽引力がプラスの駆動状態と、マイナスの制動状態では、動輪系の力の掛り具合が反転しているので、この力が反転する遷移点を境に摩擦抵抗が大きく変化しているものと推測していた。 そこで、最近実施した分解調査に合わせて、簡単な実験を実施し、その要因を探ることにした。

 

■ 分解途中での実験

 分解調査は、マイコレクションの C56 149 の中で報告しているが、動力ユニットを分解途中で、モータの電流値を測定することにした。 実はこの実験を思いついたのが、動輪を分解した後であったので、止むなく動輪無しの状態で実験することにした。

 測定状態を下左に示す。 電源とテスターなどの状態を下右に示す。

 測定回路中に電極を逆転する回路がないので、電極のクリップを差し替えて、プラス側を右フレームや左フレームに当てて電流値を読み取ってみると、あまり変化がなった。 ウォーム軸に触ると、前後にガタがあり、軽く動くことが分かる。 そこで試しに車体を傾け、フライホィールの重さがを利用してウォームに掛る力を変えてみると、電流値が変化することに気が付いた。 そこで、下記の様な実験パターンを設定して、電流値を測定することにした。

想定動作 電極の接続状態 水平に置く 前側を上に向ける 前側を下に向ける
前進走行状態 右のフレームにプラス電極を接続 右プラ水平 右プラ上向き 右プラ下向き
後退走行状態 左のフレームにプラス電極を接続 左プラ水平 左プラ上向き 左プラ下向き

 まだ、分解していない状態での測定結果を下左に示す。 電圧は電源ユニットの表示値を読み、電流値はテスターの表示値を読み取ってプロットしている。 このグラフより、「右プラ下向き」の状態がもっとも電流値が多くなっている。 水平状態では、前進走行状態でも後退走行状態殆んど変化ないが、上向き状態ではやや負荷が大きくなり、下向き状態ではさらに負荷が大きく掛っている事が判る。

 要因の解析には、動力ユニットを分解して内部の構成を知る必要があったが、組付け状態が変化する恐れがあるため、ウォームの歯面と軸受部にオイルを点滴して、再度測定を実施したのが、下右のグラフである。 データを見て、なんだか拍子抜けしてしまった。 潤滑不足か! 

 コジレている部分の摩擦が低くなったとも考えられるので、結論を出すのはまだ早いと思ったが、これ以上の追求の知恵が浮かばなかったので、分解作業を進めることにした。

 

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■ 構造の観察

 動力ユニットの構成部品を観察した。 その内容は、 C56 149 の中で報告している。 構成部品の組合わせ状態とイラスト表示を下に示す。、

 ここで、前進状態での回転方向と、駆動状態での力の方向を考えて見よう。 駆動力は第1動輪や第2動輪でも発揮しているが、その力は連結されているサイドロッドによって伝達しているので、第3動輪に集中していると考える事が出来る。

 その駆動力は線路側を蹴っていく力となり、車体を推進する力となるが、その力を F1 とする。 その力は動輪の半径 D/2 を掛けることにより、駆動トルクとなるが、動輪ギヤの歯面では、そのピッチ円上での力と釣り合っている。 ここで、軸受けの摩擦損失等はゼロとして考えると、

    F2 = F1 × D/mZ = 1.27 F1

 アイドラギヤでは、同じピッチ円上で噛み合っているので、

    F2 = F3 、 F3 = F4

である。 ホィールギヤは2段ギヤとなっており、ピッチ円が異なるので、

   F5 = F4 × 11*0.25/23*0.3 = 0.40 F4

となる。 即ち、

   F5 = 0.40×1.27×F1 = 0.51 F1

と計算出来る。 これは、駆動力のおよそ半分の力がホィールギヤの歯面に掛り、その反力がウォーム軸の軸受けにスラスト力として作用することになる。 F6 = F5 である。

 以前の測定により、この車両の牽引力はmax で10グラム程度であるので、スラスト力はその半分の5グラム程度と計算出来る。 平歯車の効率は高いので摩擦損失は無視しても良いと考えている。 ( 蛇足: ウォームギヤの効率を下げているのは、ウォームの歯面の摩擦抵抗であるので、ウォーム軸トルク、即ちモータの駆動トルクはこの摩擦抵抗をしっかりと考慮する必要がある。)

 フライホールとウォームは一体になっており、その重さは3.3グラムであった。 従って上記で述べた分解途中での電流測定の実験では、動力ユニットを垂直に立てた状態で動かすと、フライホイールの重量がそのまま軸受に掛った状態で回転することになるが、上記の計算より、3.3÷0.51 = 6.5 グラムの牽引力状態を再現している事になる。

  水平状態では、歯車類を空回りさせている状態なので、その摩擦抵抗は非常に小さいと見ている。 従って前進状態でも後進状態でも殆んど変わらないと思われる。 ウォーム軸にスラスト力を掛けた状態での測定結果として、モータの電流値がアップするのはスラスト力による回転摩擦が発生しているためと考える事が出来る。 そして、前方に押される時の方が、後方に押される時よりも摩擦抵抗が大きいことをデータは示している。

 どうもウォーム軸がこじれている様な気がするが、動輪から力が掛った場合とフライホイールの重量が掛った場合では、歯面での力F5 の値が異なるので、上記の実験と実際の状態は一緒とは言えない。 さらに、ウォームの歯面には圧力角が付いているので、歯面の抗力がウォーム軸のこじれにどの様に影響しているか不明である。

 

 だんだん頭が混乱してきたので、結論を急ごう。 要するに油を滴下したら摩擦係数が下がり、たとえコジレが発生するような機構でも、摩擦力が小さくなったのでモータの電流値が下がったのであると推定することにした。

 

■ 再組付け後の動力特性

 部品を観察した後、再組付けを実施した。 軸受部分や歯面には、少量のオイルを滴下したのは当然である。 組付けの際に、調整の必要がある個所は無かったので、問題無く組付けられたはずである。 また、ウォーム軸は後から組付けることが出来るので、ロッド類の動きを充分に確認しながら組付けることが出来た。 左右のロッド類の干渉をチェックするも、問題は無かった。

 単機平坦路走行での速度特性を下に示す。

    

 「C56のバック走行を調べる」での測定結果と比較すると、この動力特性がバッチリと改善されている事が分かる。 前進と後退での速度差が無くなったこと、電流値も差が少なくなり、その絶対値もグーと小さくなっている。 オイルを滴下した効果なのか!

 次に牽引力特性を測定した。 前進走行と後退走行での速度・牽引力と、電流・牽引力のグラフを下に示す。

   

   

 安定化電源を使用した自動測定システムで測定を実施しているが、上段の前進走行と下段の後退走行での特性パターンの形とバラツキに注目して欲しい。

 1) 以前のデータで見られた駆動側と制動側の「断層」は認められない。 これは、正常状態に戻ったと言えよう。

 2) 前進走行と後退走行で特性の傾向は同じであるが、特性パターンの形状が微妙に異なっている。 これは何故なのだろうか?

 3) データのバラツキ具合や凸凹具合より、走行は後退走行の方が安定している。

 分解再組付けによって・・・・・(もっともオイル滴下の効果かも知れない)・・・・特性は改善されたが、内包する構造的要因が有りそうである。 それが何なのかは分からないが、ウォーム軸回りの非対称構造ではないかと推測する。 片持ち構造の軸支持方法とか、軸受部とウォームの噛合い位置とか・・・・・・・・・・。 それが特性パターンの形状が異なっていることにつながっているような気がする。

 

■ 結論

 KATOのC56-149号機の動力特性に表れた断層のような特性は、動力伝達機構の摩擦抵抗によって生じたものと推定するが、どこのどの様な摩擦なのかは特定することは出来なかった。 対策として、軸受部や歯面にオイルを滴下することによって特性は改善され、この「断層」は見られなくなった。 僅かな摩擦現象と思われるが、潤滑油の必要性を改めて認識した。