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鉄道模型実験室  発進停止特性を測定する

■ はじめに

 先回の報告にて位置情報を距離センサでセンシングして車両の動きを把握する方法が可能になった。 そこでいよいよ実際の測定を実施してみよう。 今回は発進停止特性について検討してみたのでその結果を報告する。

 

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■ 発進特性として何を見れば良いのだろうか

 最初に、この命題について考えておこう。 走り出しのいろいろな特性を把握しようとするならば、過渡応答が最初に浮かぶ。 この過渡応答には、インパルス入力による応答、ステップ入力による応答、そしてランプ入力による応答が言われている。

 ◆インパルス応答
インパルス入力による応答は、パルス的な入力によってシステムの動きを観察する方法であるが、この様な電気ショック的な入力については、模型鉄道の世界ではお呼びではないと判断する。 動力車は・・・・・ピクリともしないで・・・・・知らん顔を決めつけているだろう。 少しぐらいは揺れるかな?
 ◆ステップ応答
ステップ入力による応答は、入力値(例えば電圧)を 0 からいきなり或る電圧、例えば 5 Volt を加えた時の動きを観察する方法であり、如何に素早く、かつ素直に応答するかを観察して、システムの優劣を評価する一般的な方法である。 しかしこれは、 “かっ飛び” スタートをテストするようなものであるので、模型鉄道には似合わない様な気がする。 しかし、一般的な評価とは逆の見方をして、“如何にゆっくりと、且つ、のんびりと応答するか” を見るのであれば、使えそうな評価方法と考える。 例えばフライホイール付き動力車の効果や、惰行運転の様子なども、数値として表わせるのでないかと期待しよう。
 ◆ランプ応答
ランプ入力による応答は、入力値(例えば電圧)を 0 からゆっくりと上昇させた時の動きを観察するものである。 これは模型車両の動き出しをチェックするには最適な方法と思われるが、意外と得られる情報はすくないのではないかと思っている。 走り出しの電圧とその前後の電流の動き程度で、フライホイールの効果がどこまで見極められるか疑問のような気がする。 動力機構の引っかかりなどは電流値を見ておけば何か判るかもしれない。

 こうような観点から、それぞれのケースについて実験し、どんなことが観察出来て、どの様に見て行くのか検討してみよう。

 

■ ランプ応答のトライ

 最初に、ランプ応答から見で行こう。 EF510-510号機を使って測定して結果を下に示す。

 左に示す横軸が時間のグラフには、電圧、電流、距離、および速度の4項目を表示している。 4項目を一度に表示させるために、距離と速度のデータについては左の電圧の目盛りを使用して、数値を変更している。 距離データは数値を 1/100 にしてmm で表示する。

 速度データは距離データの時間当たりの(msec)変化分から計算し、スケール速度(縮尺1/150)を計算して Km/h の値を 1/20 で表示している。 更にゼロ点を1.0にドリフトさせている。 即ち、1.0 目盛りで 20Km/h を示すことになる。

 また、電流と電圧の関係を何時もの様にグラフ化し、自動測定システムでは測定出来なかったゼロ点からの変化特性を表示させている。

 ここでは、速度データについてはバラツキが大きいので使用するには無理がある。 停車中でさえもバラツキが大きいので、このままでは使えないと判断する。 距離データとしては小さなバラツキであっても、その変化分を取ると目立ってしまうのである。 そこで、距離データについても、電圧や電流と同じ測定ループに入れて、測定結果を平均してみることにする。 これに依って測定時間の間隔が伸びるので、n = 50 を n = 40 に変更し、delay(50) も delay(40) 変更した。 測定時間の間隔は、0.054〜0.056sec にやや短くなった。

 この状態で取りあえず測定してみることした。 EF65-1097号機を使って測定して結果を下に示す。

 データの上にチェックポイントを記入した。 電圧値は、バラツキなく上昇しているが、電流値は回転を始めるとバラツキが大きくなっている。 これはモータの特性なので何ともし難い。 距離データと速度データからスタートタイミングを見つけ、その時の電圧、即ち発進電圧は 2.6Volt であった。

 距離データは綺麗に出ているが、その変化分から計算した速度データは、測定の平均値を取ってもバラツキはやはり非常に大きいのである。 停車中のデータさえもバラツイテいるので、距離測定の精度が速度計算には耐えられないと判断される。

 また、電流・電圧特性から、モータ回転時の平均線を引き、その線と発進前の電流値の交点を想定する。 これは停止時と回転時の特性の交点と考えたからである。 この交点の値と電流のピーク値との差は、モータが回り始めるまでの引っかかりのようなものであると考えて、オーバーシュート電流と見ることにする。 全くの独断と偏見であり、理論的裏付けは全く無いのである。 この電気機関車では 20mA と読み取れる。 また、このグラフのデータは、以前測定したデータよりも電流値がやけに上昇している。 少し心配になる現象である。

 次に EF210-109号機を測定した。 その時のデータを下に示す。 何とこの車両は動き出さなかったのである。

 電流は 100mA 近くまで上昇したが、それ以降ピタリとゼロになってしまった。 少し前にピコット飛び跳ねているのでここから何かおかしくなったようである。 前照灯は点灯するはずなので、電流値は少しは流れてもいいはずなのにゼロと言うことは、線路からの電気が途中で切れてしまったと解釈すべきであろう。 接触不良か?

 もう一度セットし直して測定したのが下のグラフである。 今度は動いた。 先回と同じ辺でピクリとしているが、その点を通過して 1.9Volt から動き出している。 オーバーシュートは15mA 強ありそうである。

 次にEF510-510号機を動かしてみた。 電圧が上昇中に不思議な現象が2ヶ所あるが、それを通過して 3.1Volt から動き出した。 先回はスムーズに動いたのに何故か今回は動きが悪い! オーバーシュート量も 30mA 近くもあるのでメンテナンス不良と考えるべきだろうか。 原因追求のための実験ネタになってしまった。

 

■ 発進時のステップ応答

 停止時のランプ応答については、トライするまでも無いと判断し、次のステップ応答を実験してみた。 EF65-1097号機を使って測定して結果を下に示す。

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 車両を電圧約 5Volt の状態で走らせておいて、スタート位置にてスイッチを切っておく。そして測定開始から約3秒後に、スイッチを入れる。 このスイッチは安定化電源のスイッチではなくて、電源と電圧電流測定モジュールの間に設けた測定台の上のスイッチであるので、安定化電源の立上がり特性は影響していない。

 16秒後にはスイッチを切っているが、この間の時間的経緯を示すデータを上左のグラフに示す。 距離は400mm を超えるとゲートの影響で一定値を示しているが、車両は既に姿を消している状態である。 速度データはご覧の如くバラバラのデータである。 また、スタート付近の時間を拡大したグラフを右に示す。

 このグラフを見ると、2.8 秒付近からいろいろのデータが立上っているので、ここがスタート時点と判断するが、どのデータが顕著に示しているだろうか。 ステップ応答はスタート時刻を確定しておく事が重要であると考えているからである。

 当初は速度データをあてにしていたが、それよりも電流値の変化が顕著であるので、このデータをよりどころにして判断することにする。

 さて、このデータから、何を読み取ろうかと思案のしどころである。 

 電気には詳しくないが、電圧特性は綺麗に測定されているし、電流特性もまあまあのデータが得られているので、電気的な解析は可能なようである。 しかし、模型車両として見るのであれば、やはり速度特性を綺麗に把握する必要がある。 “如何にゆっくりと、且つ、のんびりと応答するか” を見たいのである。 やはりこの距離センサーからでは速度データを得るのは無理なのだろうか。

 次に EF210-109号機を測定した。 その時のデータを下に示す。

 次にEF510-510号機を動かしてみた。 大体の傾向は同じである。

 測定した3両の車両は、フライホイールを搭載しているおり、似かよった車両重量であったのでそれぞれの違いはハッキリと出ていない様である。

 

■ 停止時のステップ応答

 次に、停車時のステップ応答を測定してみた。 車両が測定ゾーンに入ってくるのを見計らって、スイッチを切り、その時の各要素を同様に測定した。

 このデータも何を読み取るかである。 慣行距離を調べてみるのもフライホィールの効果を調べる手段かも知れない。 スイッチを切ってからの走行距離を読み取れば良いであろうし、それ以外にも読み取るべき特性があるような気がする。 カックンブレーキなのかゆるやかブレーキなのかも判断したい。

 でも、この時の電気回路はどのような状態にするのが良いのだろうか? 回路を完全に切断してしまうのか、あるいは電気ブレーキの様にある抵抗を挿入しておくのが良いのだろうか? 我が測定回路図を見ていると、電圧測定用の回路に 10KΩと 5.1kΩの抵抗が入っているのが判る。 停止時にはモータには逆起電力が働くといろいろな本に書いてあるので、スイッチ切断時でも、この電圧が作用しこの抵抗回路を通して電流が流れて行くのではないかと思われる。 そして、電流検知の抵抗を逆流してモータに戻って行く。 しかし、我が測定回路図ではマイナス方向の電流は検知出来ない! データを見ていると電流は早々とゼロに落ちている。 脈動防止のためのコンデンサも影響しているのかも知れない。 実際の電車の様にブレーキ時もノッチ抵抗が必要なのだろうか? いろいろな疑問が湧いてくる。

 測定を進めるにあたり、これらの疑問点を明確にしておく必要があるが、電気関係は強くないのである。 いろいろ実験してみて納得するしかないと考え、マイナス電流でも測定出来、ノッチ抵抗を変更できる測定回路を作って見ることにしよう。

 そして、速度をもっと確実に測定出来る工夫が必要である。 測定方法を変える必要があるのだろうか。 超音波方式ならもっと確実かも知れないと調べていたが、お風呂の中でふと気が付いた。 距離データはそれなりに測定されているので、このデータに合致する近似式を求め、その式を微分して計算すればバラツキの無い速度データが得られるのでは無いかと!

 でも、そう簡単では無かった。 近似式を求めるのに四苦八苦している。 その検討内容は次回にて報告しよう・。