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鉄道模型実験室  電圧降下の時間推移

■ はじめに

 先回報告した「トラクション・タイヤの有無を比較する (解析)」で課題となっていた、“電圧降下が発生している場所は・・・・・・・?” の問題について、やっと追加実験を実施した。 まず、牽引力特性図での疑問点から取りかかる事にしたが、新たに色々な事実が判明した。

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■ 牽引力特性図での疑問点から

 先回報告した「トラクション・タイヤの有無を比較する (解析)」で疑問点のなかで、牽引力特性図を見ていると、、供給電圧が高くなると電圧降下量が大きくなっているのが分かる。 それは牽引力が小さい場合にあてはまるのであるが、牽引力が大きい場合には、速度が速いからと言って電圧降下量が高いわけではない。 牽引力が小さく ( スリップ率が小さいのかも知れない) 電圧が高いほど電圧降下量が大きいのである。  この現象は不思議だなと眺めているだけで、解析の糸口がいまだにつかめないのである。
  そこで、この特性線図の全面を走査して、電圧降下の大小をマップの様に表示してみようと考えた。 その方法は、右のイラストに示すように、供給電圧と負荷(=傾斜台の角度)を変えて、測定して行こうと計画した。

 測定のスタートは、測定台が水平の状態(=無負荷の状態)で、高速走行(=供給電圧が高い状態)からスタートして、電圧を少しずつ下げて行き低速限界に近ずくと、傾斜を少し上げて、今度は少しずつ電圧を上げていく作業を実施した。 右のイラストの実線で示すパターンである。

 最大負荷に近ずくと、今度は負荷を減らして行く、下降パターンを実施して、無負荷状態に地被けて測定終了とする。 この下降パターンの時は、上昇パターンの時に負荷状態に重ならないようにせっていする。 

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 これは、時間の経過とともに電圧降下量が増加していく事も想定していたので、その様子も分かるかも知れないと考えていたのである。 

 この実験結果による、牽引力特性図を下に示す。

 この特性図を見ても、何にも分からないが、電圧降下量をプロット点の色で表示したのが、右上のグラフである。

    賢明な諸君はすぐに気が付きであろう! 

    やはり、時間によって電圧降下量は変化しているぞ!! 

                      ・・・・・・・・・・当然と言えば当然なことである。

 

 上の特性線図は、およそ1時間程度、連続走行させて測定していたが、この程度の走行ではレールや車輪はそんなに汚れないだろうと高を括っていたが、なんと、バッチリと影響が出ていたのである。

 この時の、電圧降下量と牽引力の関係を左のグラフに示す。 いつもの傘形のパターンであるが、同じ負荷でも、下りの場合、即ち測定後半では、値がかなり大きくなっているのである。 この電圧降下量を時間の経過としてグラフ化したものを、下左のグラフに示す。

 わが実験装置は、一周が290cm の楕円レールを周回させており、登り坂と下り坂で各要素を測定している。 従って1周すると2回測定データが得られうので、上記の実験では、420個のデータが得られているので、210周も周回した事になる。 この間に約1時間程度、連続走行しているが、時間と共に電圧降下量が増加しているのでわかるであろう。 そして、最初は少し上昇したものの、中間点までは電圧降下量は下がっているのである。 そして中間点を過ぎると、今度は急激に上昇している。 さらに、途中では周期的にアップしたり、ダウンしたりしているが、この様子を理解するために、この時の車速のデータや、実験で設定した負荷状態、即ち、牽引力の推移と、測定されたスリップ率の推移のグラフも示しておこう。



 これらのグラフより、色々な事が読み取れる。

などである。

 

■ 電圧降下の時間経過を観察する(無負荷状態)

 これはもう、一定の条件で走行させて、その時の電圧降下の状態をじっと観察するしかないと言えよう。

 最初に、無負荷状態、( と言っても測定車を牽引しているので、1.3グラムの負荷が常に掛っている ) で、黙々と周回させて、その時の様子を観察することにした。 走行条件は下記のとおりである。

 この時の電圧降下量などのグラフを右に示す。 「モータ端子電圧のD値」とは、測定車で測定したモータ端子電圧のアナログ値をデジタル値に変換して送信してきたデジタルデータ値をグラフ化したものである。 「無線通信モジュール XBee を使う 」を参照してください。  一回の測定で、10個のデータを送信してくるが、それらの値をプロットしたのが、右のグラフである。 これによって、平均値を計算した電圧降下量のグラフでは分からないデータのバラツキを知る事が出来る。

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 測定結果を見ると、時間経過と共に、電圧降下量は上昇している事がわかる。 最初の20周(測定点が40回)程度では、安定しているが、その後、変化して始めているが、意外と早期からダメージを受け始めているようである。 そして徐々に電圧降下が始まり、それにつれて速度も低下している。 またモータ端子電圧のD値をみていると、データのバラツキも次第に大きくなっているのが観察される。

 電圧降下量が2.5ボルトを超え、速度が100Km/h 以下になったので、実験を中止し、測定台のレールをKATOのユニクリーナでクリーニングした。 すると状況は改善されるも、思ったほど効果が無かった。

 そこで、さらに、レールと車輪の踏面の両方をクリーニングして実験を継続した。 それでも、最初の状態まで回復しななかったので、車両の台車部分を分解して、車輪のピポット軸受部をユニクリーナを使ってクリーニングした。その結果、やっと実験当初の状態まで回復させる事が出来た。

 また、スリップ率については、数%程度の値であり、殆ど変化がないようであったし、測定バラツキの方が大きいかったので割愛しています。 また、途中からヘッドライトのちらつきが発生し、レールと車輪をクリーニングしても改善されなかった。

 このことより、電圧降下を発生させる部分は、レールが大きな要因であるが、軸受部も影響は大きいと言えるようである。 拡大鏡で観察すると、軸受部は、車軸側よりも受け側の方が汚れが大きかった。 しかし、いちいち台車を分解する必要があるし、軸受は凹みになっているので、掃除が面倒な部分ですね。




 

■ 電圧降下の時間経過を観察する(負荷状態)

 もうひとつの観点として、負荷状態での経過を観察しよう。 

 上記の実験に続いて、条件を変えて実施した。 電圧降下量は、 0.8volt からやはり少しづつ増加を始めてたが、登り坂と下り坂ではその値が分離される現象が発生している。 右のグラフを参照。 レールクリーニング前の540回(270周)までの経過時間は、55分間で、この間連続させて走行させている。

 上り坂と下り坂は交互に通過するので、接触部の汚れ具合は同じなのに、電圧降下量が異なっているのは新発見である。

 動力特性の性質上、登りと降りの速度は変化するのであるが、この他に、動輪のスベリ状態も異なって来る。 このため、電圧降下量の違いは、速度が違うからかも知れないし、スベリ率が違うからかも知れない。 自分はスベリ率の違いではないかと思っているが、確証は無い。

 速度やスベリ率のグラフには登りと降りの説明を記入していないが、値そのものをみれば明白であるので、記入していません。 また、D値のグラフではそれを分離させるには、面倒なグラフ化処理を実施しないといけないので手抜きしています。

 全般的には、無負荷の状態よりも、悪化する状態は緩和されているが、これは負荷によって接触部がゴシゴシこすられるため、汚れの付き具合が少なくなっているからだろうと考えている。

 また、電圧降下とスリップ率について、牽引力との関係でグラフ化したものを下に参考として示します。

 実験中の観察によると、走行途中で突然停止する状態が数回発生しましたが、少し手を触れるとまた動き出しました。 また、グラフ上でも時々飛び出しているデータが有りますが、今回は明らかなデータ飛び以外はそのままにしています。 しかし、D値のグラフを見ても、無負荷の場合よりもバラツキが小さい様に見受けられる。

 動力車の車体は、室温より10℃程度高くなっていましたが、1時間近くも連続走行させていれば、熱くなるのも仕方がないことですね。 また、ライトのチラつきは、450回以降から見受けられた。

 今回は、540 回で中止し、レールのクリーニングを実施した。 その結果、電圧降下量と速度は、少し改善されたが、スリップ率が増えてしまっている事に注目しよう。 当初の値よりも大きくなっており、さらに、低下するのも早いのであるが、レールをクリーニングした時のユニクリーナーの液が残っていたのだろうか。 今回のデータも、レールだけのクリーニングでは、初期状態に復活しない事を示している。 

 そこで、ピポット部のクリーニングの代わりに、LOCO オイルを塗布してみることにした。 その結果、電圧降下量や速度は改善効果がはっきりと表れている。 しかし、スリップ率が倍以上になってしまっている。 オイルはピポット部にだけ塗布したつもりであったが、動輪の踏面まで広がってしまったようである。 これは、車輪のスリップはレールと動輪の間で発生する現象であり、ピポット部の接触具合は関係ないはずなのである。 もっと慎重にオイルを塗布すべきだったと反省している。




 

■ 電圧降下の時間経過を観察する(LOCOオイル塗布)

 しからば、最初からLOCO オイルを塗布してみるとどうなるだろうかと考えて実験してみる事にした。 LOCO オイルの塗布効果の有無と継続時間などが分かるかも知れないのである。

 同じ車両を使い、車輪にもLOCO オイルを塗布して上記の実験に続けて実験を開始しようとしたが、登り坂を登る事が出来なかった。 オイルで車輪が滑ってしまうのである。 そこで傾斜を少しゆるくして実験を開始した。 他の条件は上記の実験と同じである。

 実験結果を右のグラフに示す。 660回(330周)で実験を中止して、牽引力特性を測定する。 その後、無負荷状態で90回(45周)計測して、無負荷での様子を観察し、最後に再び牽引力特性を調査した。 この調査は、オイル塗布によって牽引力が低下している様子なので、その状態を見てみるためである。

 この牽引力特性の調査結果を下に示す。 牽引力が 12 グラムの場合が時間経過を観察した状態であり、速度を保つ限界のようである。 これは、オイル塗布前の 20 グラムからは、およそ4割の減少している。

 このEF81-81号機の特性データは、「トラクション・タイヤの有無を比較する (測定データ)」に示しているが、供給電圧が同じ6.5ボルトの場合と比較するとトラクションタイヤ無しの場合よりも、牽引力が低下しているのが判る。 しかし、速度は少し速くなっているようである。 これは電圧降下量が小さくなって、モータに有効に電力が供給された結果、モータ速度が速くなったためであろう。

 さて、時間経過のグラフを見ていると、不思議な現象に気が付くであろう。 最初の 100 〜 150 回までは、スリップ率が増加し速度も変化しており、電圧降下量はわずかながら低下しているようである。 そして、このピークを越えるとスリップ率はじょじょうに減少して行き、速度も次第に収束して行く。

 これは、車輪に塗布したオイルが、レールに段々と転写して行き、その転写が終わると、今度は次第に消滅してのではないかと考えられる。 スリップ率が増加すると、下り坂では速度は増すが、登り坂では逆に速度が落ちるのは理にかなった現象である。 でもピークなる時点がずれているのは何かの理由があるようである。

 走行中のヘッドライトは、チラツキは無く安定して走行していた。 モータ端子電圧のD値を見ると、バラツキの幅が小さく、飛び出しているデータも少ない。 これは安定した集電性能を発揮している事を示しており、LOCO オイルの塗布効果と言えよう。

 また、負荷状態と無負荷状態での違いを見てみると、やはり無負荷状態の時の電圧降下量が多少大きい様子を示している。 この現象は、電圧降下量と牽引力を示す下のグラフでもその事を明確にしめしている。 例の傘形パターンである。  スリップ率のグラフを見比べても、オイルによって車輪が滑ってしまうために牽引力が低下する事を証明していると言えよう。

   

■ 実施した道具類

 今回の実験で使用した道具類も紹介しておこう。 実験装置は、いつもの特性調査用の装置である。 収集したデータはパソコン上のEXCELに表示され、データやグラフを整理してからホームページに貼りつけている。

 動力車の動輪は、レールの上にティッシュペーパーをかぶせ、その上にクリーニング液を垂らしておく。 レール上に車両を乗せて、車体を手で保持した状態でレールに給電すると、動輪がクリーニング液がしみ込んだティッシュペーパー上で空回りして、車輪のクリーニングが実施される。 車体の前後を逆にして、前後の台車の車輪を綺麗にするのは当然である。 また、使用したアルク社の集電性向上剤 LOCOオイルも下右に示す。

 レールのクリーニング道具は、下の写真に示すような道具を作って使っている。 竹材の上に木片を取り付け、2種類の素材を取り付けている。 ひとつは鹿皮( 昔は本物の鹿の皮を使っていたようでしたが、今は人造品かも? )を使っている。 短い方の棒のもの。 これは車の洗浄後に水分をふき取るための柔らかい革製品で、それを帯状状に切り取って巻いてある物である。 これにクリーニング液を浸み込ませてクリーニングを実施する。 柔らかい革なので、直ぐに穴があいてしまうため、2〜3重に重ねて使用している。

 もうひとつの道具は、Mr砥ぎ出しクロスの3000番(アイボリー色)を巻き付けているものである。 この道具の場合はクリーニング液は使用しません。 ドライのままです。

 汚れがひどい時には、鹿皮にクリーニング液を浸み込ませて汚れを落とし、仕上げには砥ぎ出しクロスを使っている。

■ まとめ

 実験結果をまとめてみる。