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鉄道模型実験室 No.196  ライトユニット3101のコンデンサの影響

 今回の調査は、我がブログの「危ない! モータドライバが過熱する」にて報告した件がきっかけとなって、ネット内をいろいろ調べました。 そして今まで無頓着であったライトユニットのコンデンサについて、改めて認識する事ができました。

 

■ いきさつ

 今回の調査は、「危ない! モータドライバが過熱する」(2021/6/3)にて報告した件がきっかけとなって、いろいろ調べました。 そのきっかけとなった現象を説明します。

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 コアレスモータ搭載車にも対応したマイコン式運転操作台を作って楽しんでいました。 ミニレイアウトでも走行可能と言うことで、KATO製の「アルプスの氷河特急」基本セット3両 (品番:10-1145)を入手して走らせていました。 機関車はGe4/4 V-644号機で、パノラマ1等車と2等車を牽引する)。

 すると、走行途中に電車が突然停止し、暫くするとまた走りだすのです。

 不思議に思いないがらも走らせていましたが、待てよ!安全装置が働いている? と思って操作台の蓋を開けて、回路をチェックしました。 見た目にはどこも異常はありませんでしたが、試しにモータドライバに指をふれると・・・・・アッチチーーー!
 非接触式の温度計で測定してみると50℃以上もありました。過電流が流れてドライバの安全回路が作動したものと推測しましたが、何故なの? アルプスの氷河特急の説明書をみると、下のような注意書きがありました。

 パワーパック ハイパーD を使用する場合は、ライトユニットのコンデンサを撤去せよとのことです。 そこで、指示されたとうりにコンデンサを撤去して対応しました。

 コンデンサ撤去後の車両は、「スタンダードSXとN-1001-CLの比較」(2021/6/10)などでも調査したように、問題なく走行できるようになりましたが、ここでいろいろな疑問が沸きだしてきました。

 パワーパック ハイパーD は確かPWM制御だったはずである。 ここではハイパーD しかリストアップしていないが、我が自作のマイコン式運転操作台もこのPWM制御だったので、アウトになったものと推察する。 しからば、PWM制御を採用している他のコントローラは対象外なのだろうか? 例えば、TOMIXの N-1001-CL や、KATO の新しいパワーパック スタンダードSX は?

 海外製品の安全仕様にあわせるためだって?!  だったら国内で販売しないで欲しい! もし、焼損事故などが発生すると製造者責任問題になるのでは? 海外ではパルス式ユニットを使っていないのだろうか? 日本だけなの?  などの疑問が次々と沸き上がります。

 そこで、今まで関心の無かった分野の領域について、ネット情報を集めると共に、撤去したコンデンサを再びハンダ付けして、手持ちのパルス式コントローラで実験することにしました。

 

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■ 実験方法その結果

 まず、再びハンダ付けしたコンデンサの様子を右の写真に示します。 すこし傾いてしまっていますが問題ないでしょう。

 簡単な実験装置は先回と同様です。 ダイヤル回りに書き込まれた目盛より、その位置をデータとしてメモって行く原始的な方法を使いました。 モデルの速度計測は、簡易速度計測器 ビースピV を使用しました。 また、オシロによって波形の状態に異常がないかも同時にチェックしました。

 実験結果を下に示します。 先回実施したコンデンサ無しの同一車両のデータと重ねて表示しています。

 なお、実験途中や実験後、車両とコントローラをチェックしましたが、特に異常はありませんでした。 ただ、すっ飛び走行は許せませんが・・・・・・・・・・・。

   

 操作性に関しては、赤い点と線で示したように、コンデンサ付きの車両では、どちらのコントローラもアウトですね!  パルス信号が悪さをしていると考えると、やはりハイパーD だけでなく、パルス制御するコントローラは全滅と思われます。 KATOの最新式であるスタンダードSXでも低速が効きません。 でも説明書には何もうたっていません。 焼損するほどの危険性は無いし、注意して使えば走らせることが出来るので製品化合格としたのでしょう。

   すると、昔のハイパーD はよっぽど悪かったのだろうか・・・・・・・・?

   TOMIX製とKATO製のコントローラも微妙に違っていますので、何かの工夫があるのでしょうか?

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 疑問だらけですね。

 

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■ アルプスの氷河特急 Ge4/4-644号車のライトユニット

 現象を理解するため、問題のライトユニットを調べてみることにしました。 アルプスの氷河特急 Ge4/4-644号車のライトユニット(品番:3103)には、下に示すイラストのように、二つのコンデンサが取り付けられています。

  

 このユニットの配線を追って行くと、右に示すような回路であることが分かりました。 問題となっているコンデンサ2は、モータと並列に配置されています。 また、前照灯用のLEDのそばに設置されているコンデンサ1は、二つのLEDと並列に配置されて、抵抗560Ωとは直列に配置されている事が分かります。 これは、コンデンサの設置目的が異なる事を示しており、コンデンサ1の使用は、電気機関車のライトユニットなど、多くのモデルで採用されている用法と理解しています。 こちらの使用法はここでは問題ないと判断します。

 従って、コンデンサ2の使用が、これらの悪さの原因と推測します。 そこで、このコンデンサの特性を調べることにしました。 モータドライバに過大な電流を流すような特性が、このライトユニット単体に有るのだろうか・・・・という疑問に対する検証です。

◆ ライトユニットの特性を調べよう

 この様なコンデンサの回路特性を測定する方法は、電気知識の乏しい小生にはよく分りません。 そこで、パルスON 時の状態を模擬して、その応答を観察する事にしました。 流れる電流の様子を観察し、その大きさと時間を見てみようとするものです。

 回路の構成は、12V、1.5A用のACアダプタを電源としました。 マイナス側には 0.2Ω のシャント抵抗を配置して電流を測定し、プラス側は 10KΩのプルダウン回路としており、この部分を電源のプラス側とジャンパー線で接続させてパルスON 時の状態を発生させます。

 パルスOFFの状態はこの回路では無理だったので実施していません。 プルアップ回路も考えましたが抵抗が邪魔して 12volt を作ることが出来ませんでした。 LED回路に電流が流れるため、電圧降下を起こしてしまうからです。 そこで、蓄電の場合でも、放電の場合でもプラス・マイナスが逆になるだけと考え、パルスOFFもON時と同様な現象が起きていると推論する事にします。 

 パルスONを模擬した状態のパルス波形を下左に示します。 右側はモータドライバを過熱させた時の波形です。

    

 左に示す今回の実験では、時間軸は一目盛2.5μ秒に設定し、一発トリガで計測しています。 電流を示す青色のCH2では、0.2Ω のシャント抵抗での電圧降下が850mV ですから、 電流=850mV÷0.2Ω= 4.25A と計算されます。 やっぱり、瞬間的に大電流が流れるのだ!

 その時間は、2目盛として 5μ秒ぐらいです。 キャリヤ周波数 20KHz とするならば、一周期が 50μ秒ですので、デューティ比に換算すると10%相当に該当します。 すると右の画面の時の電流状態とその様子が合致します。 さらに、放電時も同様なカーブが逆転して表れているのが確認できるので推論が合っているようです。

 でも、ACアダプタの電流容量は 1.5A なのに、なんで 4A もの大電流が流れるのだろうか? 瞬間的なら出力されるのだろうか? あるいは測定方法がまちがっているのだろうか? よくわかりませんが、モータドライバが過熱していたのは確かです。

 

◆ コンデンサを撤去した場合の追加実験

 このコンデンサを撤去すると本当に大丈夫なのだろうか? との疑問を確かめるために、問題のコンデンサを再び撤去した状態にし、同じ方法で波形を観察した。

   

 左側の画面は、上記の場合と同じセット状態で観察したもので、全く綺麗な立ち上がりである。 電流はなにかゴソゴソしている様子なので時間軸を拡大して測定したのが右の画面である。 一目盛が 50 ナノ秒である。 何やら振動している様子であるが 1A 程度で問題ないであろう。

 すなわち、コンデンサ1が装着されていても、コンデンサ2さえ撤去すれば問題無く走行できることを示していますね。 電源側も影響されないでしょう。

 

■ 自分の結論

 これらの実験結果より、自分なりに考えた結論をまとめておこう。

  1. コンデンサは、モータと並列に配置されているので、電源とコンデンサ間の過大電流の状態は、電源のユニットには過大負荷となるものの、モータには影響しないと考えるが・・・・・・。 
  2. しかし、電源の制御回路の構成によっては、コンデンサに蓄電された電力の逃げ場が無くなり、モータ側に流れてしまう現象も起きている可能性がある。 特に TOMIXのパワーユニットの場合、コンデンサのプラス側はプルダウン回路になっているので、パルスがOFFの場合はプルダウン抵抗を通らずに、モータを通って放電すのでは無いかと考えます。 このため、OFF時でも回生電流を助ける方向に働き、すっ飛び走行になるのではと思われます。
  3. 自作のマイコン式運転操作台の場合は、コンデンサのプラス側はGNDに通じるパワトラがONになるので、ここに電流が流れるものと思われます。 従って、ブリッジを組んでいるモータドライバに過大な負荷が掛かるものの、モータには影響せず、低速走行でも素知らぬ顔で走っていたのでは無いかと思われます。
  4. などと考えると、電源側の制御回路の構成方法によって、同じようなパルス制御の影響が、それぞれ異なってくるのではないだろうか。
  5. その影響の仕方は、電気関係の専門家しか解らない領域なので、考察はここまでとします。
  6. また、マイコン式運転操作台で使用したモータドライバのメーカーは、産業用やホビーなどの駆動用やサーボ用モータの駆動用として提供しているので、これらの使用はモータをダイレクトに駆動するものと考えている筈です。 従って鉄道模型のようななコンデンサ付きモータの使用を、はなから考えていないと思われ、今回のケースは、完全に自己責任の問題と判断します。
  7. もし、考えるとするならば、モータドライバの上に温度センサーを取付け、異常温度の時は、「この動力車は使用できません」とのアラームを発するように工夫すべきでしょうか。

 結局は、例え指摘されていないコントローラでもパルス方式を使う可能性があるので、メーカーの説明書に従って、このようなコンデンサは撤去して置くことにします。

 

■ パルス式コントローラについて

 このジャンルでの知識を深めるために、ネット関係で調査した内容を整理しておこう。 PWM方式以外の方法もあるかも知れないのでパルス式として調査している。

メーカー 名称 品番 発売時期 制御方式の解説や、ユーザーさんの調査結果などの情報
KATO コントローラ KC-1 22-060 2周波数PWM制御、50Hzと20KHz。 電流遮断式保護回路? 低速が効くコントローラとして人気らしい。
ハイパー D 22-013 2010年11月 PWM制御、20KHz 。
ハイパー DX 22-017 2015年12月 起動電圧を調整可能? パルス幅を常に変動させる? コンデンサ搭載車もOK?
スタンダード SX 22-018 2017年12月 低周波と高周波の2周波数のPWM制御回路。100Hzと100KHz? 高度なアナログ技術を投入?。普及品のスタンダードSの後継機。
TOMIX TCSパワーユニット N-1000-CL 5502 1996年 PWM制御
TCSパワーユニット N-1001-CL 5506 2009年 PWM制御、20KHz
自作 マイコン式運転操作台 --- 2021年 PWM制御、20KHz。  ArduinoUNO とモータドライバ を使用。

 自分は、KATO製のコントローラとしては、もっぱらスタンダードSを使用していましたので、昔からパルス式コントローラを発売していたことを知りませんでした。 それも人気のある製品だったとか。 低周波と高周波の2周波数のPWM制御回路も、永年、追い求めてきた技術の様です。 スタンダードSXで完成領域の達したのだろうか。

 

■ 日本のコントローラはガラバゴス化?

 上記の様に、日本の鉄道模型に於いては、普及型のコントローラまでもがパルス式コントローラになっているようです。しかし、この方式では海外仕様の鉄道模型を満足に走らせることが出来ないと言う問題を含んでいますので、欧米諸国には普及しない製品ではないだろうか。 この事は、製品やサービスが独自の方向で進化し、その結果国際標準からかけ離れたものとなっている状態、即ち、ガラバゴス化に進んでいるのでは無いだろうか? 

 常点灯機能という一瞬高機能化と思えるジャンルに踏み込んでしまったこの業界は、世界の情勢を睨んだ企業戦略を考えている様には思えません。 これは携帯電話でのガラケイと同じ道のような気がします。 でも、鉄道模型は個人で楽しむニッチな世界でもあるので、心配無用かも知れません。

 欧米では標準電源となりつつあるDCCは、日本ではまだ、普及途上と言うのか、リッチなユーザー対象であり、ささやかな一般ユーザーには手が出せません。 このDCC なのか、常点灯機能なのかの両立が可能となる日が来るのを待つことにしましょう。

 

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■ 追記

 KATOさんのホームページを見ると、この様な場合にはコントローラと線路の間に、電気ノイズキャンセラー、品番が22-092(¥3,300.-)を挟んで運転せよとのことらしいです。  PWM制御がノイズなのかな?

 

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 2021/6/13 作成