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鉄道模型実験室 No.208  逆向き点灯の防止 CRローパスフィルタの特性実験

 逆向き点灯の防止対策を検討しています。 先回報告したように、KATOではこの逆向き点灯の防止対策(?)として、スナバ回路ではなくて、CRローパスフィルタを使った回路構成であることがわかりました。 そこで、この回路の特性を観察して、応用できないか考えてみることにしました。

 

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■ テスト回路を仕立てる

 このような実験にはブレッドボードでの実験が適しています。 まず、ライトユニットの回路構成を下図のようにして実験することにしましたが、使用する部品は実際に使用するチップ部品を使うことにしました。

 これは、セラミックコンデンサの直流電圧印加特性という影響を考慮して、できるだけ実際の部品を使ってテストするようにしました。 そして、ブレッドボードでもテストできるように右の写真のように細工しました。

 チップコンデンサは、22、10、1、0.1μFのものを持っていますが、それ以下のものは通常のセラミックコンデンサを使います。

 チップLEDは写真の左端にある部品で、電球色と赤色のチップLEDを逆向きに半田付けしています。 チップコンデンサは、上の3個の部品で、10、1、0.1μFを使って細工しており、テスト中の識別のために絵の具を塗っています。

 使用したチップ部品のリスト:

品名 仕様 サイズ 品番 VF IF
ウォームホワイト色チップLED *** 1608 OSMW1608C1A VF=2.6〜3.2v IF=5mA
赤色チップLED *** 1608 OSHR1608C1A VF=1.9v IF=5mA
チップ積層セラミックコンデンサ 10μF 25V 2012 GRM21BB31E106KA *** ***
チップ積層セラミックコンデンサ 1μF 50V 2012 CL21B105KBFNNNE *** ***
チップ積層セラミックコンデンサ 0.1μF 25V 2012 ECJKVB1E104K *** ***

■ チップLEDの静的特性

 実験の最初に、使用したチップLEDの電流・電圧特性を把握しておこう。 これは波形解析には欠かせない項目なのである。 実験道具は下に示すように安定化電源より直流電圧を回路に供給し、チップLEDの電圧をテスターで測定するmのである。 電球色と赤色のLEDは逆向きに並列接続されているので、測定点の位置を変えて測定している。

   

 直流電源で実験しているので、コンデンサの影響は無視できると考えて実験している。 最初に電球色LEDのテストは、上記回路図の(3)の点をGNDとし、(1)と(2)の電圧をはかり、その差圧から電流値を計算した。 抵抗は R=508.6Ωであった。  電圧(2)と計算した電流値を用いてグラフ化したものを右上に示す。 赤色LEDの場合は、供給電源の極性を反対にし、(1)をGNDにして(2)と(3)の電圧を測った。 そして同様に右上のようにグラフ化した。

 電球色と赤色LEDとは、点灯開始の電圧(立上り電圧と呼ぼう)が、1.9volt と2.6volt と大きく変わっている。 そして、供給電圧の増加によって多少は上昇するも、ほとんど同じ電圧と考えられる。 また、電流値は供給電圧に比例して上昇しているが、この勾配は抵抗Rによって支配されrことは今までの知見から納得できる。

 すなわち、LEDに流れる電流、すなわちLEDの明るさは、電流制限抵抗Rによって決めるのだ。 当然ですね。 従って、ローパスフィルタの特性はコンデンサCの容量で調整する必要があるのだ。

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 ちなみに、「CRローパス・フィルタ計算ツール」を使って、コンデンサ容量とカットオフ周波数の関係をチェックしてみた。 コンデンサ容量を小さくするとカットオフ周波数は高くなり、コンデンサを大きくすると周波数は低くなることが確認できたが、屁理屈上でも納得です。

 

■ 実験方針を決める

 抵抗Rは、LEDの明るさを調整する電流制限抵抗なので、使用するLEDの明るさに合わせた値に設定する必要がある。 このため、フィルタの機能を探るにはコンデンサの値を弄るしかないである。 よって、逆向き点灯の防止の探索は、コンデンサの最適容量をどうやって探るのかという方向で実験することにしよう。

 その方向として、

  1. スパイク電圧を吸収するために必要なコンデンサ容量の範囲は? 屁理屈としてコンデンサ容量が大きいほど吸収能力が値と思われる。 すなわち、カットオフ周波数は低い方がよいことになる。 モータ付き回路での電源遮断時に生じるスパイク電圧がどれだけ発生するのかを観察しよう。
  2. PWM制御との関係はどうなるのか? フィルタの上流への影響具合はどうか。 また、LEDの点灯具合はどうかなどを観察し、最適なコンデンサ容量を探ろう。

の二つの実験を実施しよう。 スナバ回路の場合と同じ実験方法となるのだ。

 

■ スパイク電圧の観察

 最初に、モータ付き回路での電源遮断時に生じるスパイク電圧を観察する。 実験の様子を下に示す。 先回の実験と同様な方法である。 「逆向き点灯の防止 スパイク電圧の測定」(2022/4/12)参照。

 今回の実験では、LEDの位置が異なるので波形の様子も異なっていた。 そして、抵抗値の値は決まっているので、コンデンサの容量を変えた実験を実施した。 この時の波形の変化をオシロ画面と共に紹介する。

 接続したモータは、鉄コレ用の片軸モータを使っている。 回路を構成する抵抗は R = 510Ω(実測値は508.6Ω)である。 CH1(黄色)は抵抗の上流部(回路図のまる1のところ)で、CH2(青色)は抵抗の下流(回路図のまる2のところ)の電圧を示している。 GNDはまる3に取っている。

  ◆ コンデンサなし。 スパイク電圧 = -2.0v        ◆ C = 0.0033μF  スパイク電圧 = -2.0v          ◆ C = 0.033μF  スパイク電圧 = 0.0v 

  ◆ C = 0.1μF  スパイク電圧 = 1.52v            ◆ C = 1.0μF  スパイク電圧 = ピークなし        ◆ C = 10μF  スパイク電圧 = ピークなし

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 抵抗の上流側、すなわちモータの両側には回路遮断による激しい逆起電圧がスパイク状に発生している。 しかし、接続されているコンデンサによって抵抗の下流側、すなわちLEDの両側では、そのスパイク電圧を見事に吸収していることが分かる。

 さらに、逆向き点灯を防止するためにはLEDの立上り電圧以下に抑える必要がある。 上記の波形より、コンデンサが無い場合や、 C = 0.0033μFの場合ではその電圧に達して頭打ちになっているので、逆向きのLEDが点灯することを示している。 そして、C = 0.033μF以上の容量になるとその落ち込みによって逆向きのLEDは点灯しないことが分かる。

 すなわち、この場合、逆向き点灯の防止には、C = 0.033μF以上のコンデンサが必要であることが判断できる。

 

■ PWM制御による影響

 つぎに、パルス制御方式のパワーユニッ トN-1001-CL を電源として実験した。 回路構成やプローブの接続場所は上記と同じである。

 実験方法は、指定のコンデンサを取り付けて、パワーユニットのダイヤルを回してPWM波形のデューティ比を変えて行き、その時の波形変化を観察した。 最初にKATO

に倣って、510Ω×1μFの組み合わせから実験することにした。

 

● コンデンサ容量 C = 1.0μF 場合

 デューティ比に応じた波形を下に示す。 平均電圧はCH2の値を示す。

  ◆ Duty = 6.8% 平均電圧 = 0.10v  LED未点灯    ◆ Duty = 12.7% 平均電圧 = 0.65v  LED未点灯     ◆ Duty = 25% 平均電圧 = 2.21v  LED未点灯

 ◆ Duty = 26.7% 平均電圧 = 2.41v LEDほんのり点灯 ◆ Duty = 40% 平均電圧 = 2.71v LED充分に点灯   ◆ Duty = 49% 平均電圧 = 2.8v LEDしっかり点灯

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 チャネル1のパルス波形の崩れがない事より、コンデンサによる上流のパルス波形への影響は無いものと判断できる。 よかった! また、チャネル2の波形はなだらか山形であり、デューティ比を上げていくとその平均電圧がだんだん上昇していくのが分かる。 そして、LEDの立上り電圧まで達するとやっとLEDは点灯するのである。 その時のデューティ比は、約30%まで上げる必要があるのだ。 そしてLEDを充分に光らせるには、Duty = 40%で、チャネル1の平均電圧は3.5ボルトに達している。

 この時に動力部のモータが回っているのかどうかを観察するのを忘れていだのだ。 これが常点灯機能の有無を判断する大切なチェックポイントであったことに気が付いたのだが、後の祭りであった。

 

● コンデンサ容量 C = 0.1μF 場合

 上記のチャネル2の波形から見ると、コンデンサの影響が十分すぎるぐらい効いているものと判断し、容量を小さくして実験してみた。

 ◆ Duty = 7.8% 平均電圧 = 0.18v  LED未点灯     ◆ Duty = 12.5% 平均電圧 = 0.62v  LED未点灯    ◆ Duty = 19% 平均電圧 = 1.491v LEDほんのり点灯

 ◆ Duty = 24.6% 平均電圧 = 1.83v LED充分に点灯   ◆ Duty = 36% 平均電圧 = 2.15v LEDしっかり点灯   ◆ Duty = 45% 平均電圧 = 2.35v LEDしっかり点灯

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 チャネル2の波形が変化したことが分かる。 とがった山型となり、LEDの立上り電圧に早く届きそうである。 そして、Duty = 19%にてその電圧に届きLEDはほんのりと点灯していることを確認している。 瞬間といえども点灯すれば、20KHzの高周波でまたたくので、人に目には残像効果によって連続点灯と見えるのである。 LEDの場合はパルスの平均電圧ではないのである。 さらに、Duty比を上げると、この山の頂上はなだらかになって行くが、これは上記で調査したLEDの電圧特性によるものである。

 

● コンデンサ容量 C = 0.056μF 場合

 コンデンサの容量を小さくすると早く充電されるのでチャネル2の山形の波形はより鋭くなり、低いDuty比でもLEDは点灯を始めると考えた。 そこで、0.056μFに落として実験を実施した。

 ◆ Duty = 4.3% 平均電圧 =-0.026v  LED未点灯    ◆ Duty = 12.7% 平均電圧 = 0.64v  LED未点灯    ◆ Duty = 14.4% 平均電圧 = 0.86v LEDほんのり点灯

 ◆ Duty = 20.1% 平均電圧 = 1.23v LED充分に点灯   ◆ Duty = 26% 平均電圧 = 1.46v LEDしっかり点灯   ◆ Duty = 39% 平均電圧 = 1.89v LEDしっかり点灯

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 チャネル2の波形はさらに鋭くなってきました。 このため、LEDの立上り電圧に早く到達しているようです。 Duty比が14%でも点灯を始めています。 LED点灯は平均電圧でなく三角波のトップの値できまるのです。 このため、コンデンサの容量を小さくすると、Duty比の低い値でLEDは点灯を始めるのです。 この三角波の立上りは、コンデンサの充電時は電源から素早く給電されるので、コンデンサの容量が小さい場合は素早く電圧が上昇すると考えるならば納得ですね。

 

■ まとめ

 以上の実験結果より得られた知見を整理しましょう。 

  1. LEDの明るさは、電流制限抵抗の値Rで決まる。 自分の使用したチップLEDには、510Ωが適切である。
  2. この場合、逆向き点灯の防止には、C = 0.033μF以上のコンデンサが必要である。
  3. 低速走行工時(すなわちDuty比の低い値の場合)の常点灯機能を確保するには、容量の小さなコンデンサの方がよい。
  4. このコンデンサ追加によるPWM制御への影響は無いようだ。
  5. 鉄コレ片軸モータの場合は、少し余裕を持たせて、R = 510Ω、C = 0.1μFの仕様がお勧めであると判断する。

 Bトレ用片軸モータについても同様の実験を実施したが、ほぼ同様の結論を得た。 今回は小型車両を想定して取り組んだが、大型車両やコアレスモータについては調べてみる必要がある。 ただし、その調査の前に、今回の知見をもとに、実際に小型電車に前照灯と尾灯を組み込んで最終確認を実施しようと考えている。

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 また、自分としてはスナバ回路よりも特性が理解しやすくて納得することが多いのだ。 そして、常点灯機能に対してはあまりこだわっていないので、照明ユニットの工作に対しては、このCRローパスフィルター回路を使って行こうと考えている。

 

 *********************  追記  (2022/4/22)  *********************

 下記の内容を追記します。

  1. 記事を投稿後、ネット上で、クローゼットの中の鉄道模型さんの「鉄道模型逆気電流対策コンデンサ容量変更について」(2016/1/18)の記述を見つけました。 その中で、小生と同じような結論を得ていたことを見つけて、自分が得た知見に自身が湧いてきました。 特に、0.033μFのコンデンサという言葉にびっくりです。 KATO製のようでしたから電流制限抵抗なども同じレベルだったので、同じような結論を得ていたのと思います。
     
  2. また、各製品毎にその最適な値は違ってきますとのコメントも同感です。 モータのLの値や、動力機構の摩擦抵抗、組付け具合やグリスの付き具合など千差万別なので、その影響で異なってくるものと考えています。 ご自分の持っている個体に合わせてチューニングをするしかないようです。 もし、一般的な対応をしたいのであれば、何かを犠牲にして、その限界値から少し安全を見た値を選択することになります。 KATOの場合は、それが1μFのコンデンサと言うことでしょう。
     
  3. 今回の検討によって得た知見では、最も重要な対策は、レールと車両のメンテンナンス、すなわちクリーニング作業であることを改めて感じました。 車両の給電回路の瞬断がなければ、逆向き点灯は発生しないのです。 パワーユニットのPWM制御の影響ではないのです。 この点を誤解しないようにしたいものですね。
     
  4. しかし、逆向き点灯防止の対策としてコンデンサを追加した場合は、PWM制御への影響が現れて、常点灯機能を妨害しているのです。

 

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 2022/4/20