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鉄道模型実験室 No.190  モータドライバとPWM制御 東芝製のTB6612

 コアレスモータをPWM制御で駆動すると、デューティ比と車速の関係がなぜ非線形になるのかと言う疑問に対し、こだわり屋の実験室長は、ショットキーバリヤーダイオードを持ち出して来て実験した。 その結果、モータドライバの種類によって状況が異なることが分かったので、今回は東芝製のTB6612についてさらに詳しく観察した。

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■ 油圧回路と電気回路の違い

 先回の独り言について、改めて考えた結果、電気モータに対して油圧シリンダーを比較の対象にするから混乱している事に気が付いた。 電気モータに対しては、タービンを持ち出せばよいのである。 タービンは流体が流れることによって羽が回転し、トルクと回転数が得られるのである。 その例として水力発電所の水車や、火力発電所の蒸気タービンを想定すれば良いのである。 また、この反対機能の発電機としては、回転によって流れを得る方法は船のスクリューを想定すればよいのである。 回転で得られた水流の反力として船は前に進むのである。 扇風機だって風といる流れを得ているのだ。

 しかし、タービン式の小さなアクチュエータやサーボモータは聴いた事が無い。 これは、羽の回りはすき間だらけなので、流体の漏れによる効率の悪さから、産業界では使用実績がないのであろう。  ちなみに水流式サーバーモータ(?)なるもののイメージを、右の図の様にイラストにしてみた。 出入口の四つのポートをそれぞれ制御すれば、サーボモータとして機能するであろうし、流体を流さなければタービンは回転しないのである。 また、出力軸から回転させれば水量を発生させることが出来るので発電機と同等の機能であることが分かる。 電気モータと同様な機能を有しているのだ。

 タービンを回すためには、水流の抵抗に打ち勝つ強い水流が必要となるが、これは水圧を上げて流量を増やすしかないであろう。 あたかも逆起電圧に打ち勝って電圧を掛けている様子と同じようである。 また、入口を閉じても今まで流れていた水流を急に止めることが出来ないので、何らかの手を打つ必要がある筈だ。

 そこで、この構造を念頭において、問題のモータドライバを考えてみよう。

 

 

■ 東芝製モータドライバTB6612の場合

 データシートの説明図から無断コピーして、先回の説明を補足しよう。 PWM制御のパルスがOFFの場合、ローサイドスイッチのQ2をON させているが、油圧システムでは禁じ手と思っていました。

 しかし、上記のように水流式サーボモータと想定すると、両側のOUTポートをオープンにすることで、タービンが回転を続けても、水流が流れ続けようとすることを邪魔する事はないはずである。 そして、結果としてタービン軸は抵抗なく回転する事ができるようになる。

 さらに、押し出した水流は反対側のポートから流入してくるので、グルグルと水を循環させていることになる。 トランジスタをONさせているので抵抗も少ないはずである。 ローサイドスイッチのQ2をON させている効果と考える。

 ところで、ハイサイドとローサイドのスイッチの役割をするトランジスタのタイプが異なっているのだが、これも深い意味があるそうだが、自分にはまだ理解できていない。 そして上記のイラストに描いた弁の構造に関係しそうだ。 例えば内側に開く弁なのか、外側に開く弁なのかとか・・・・・・・・・。

 

■ 再測定の方法

 さて、東芝製モータドライバTB6612について、動力車を走らせながらその走行速度を測定しつつ、オシロで波形を観察しました。 実験装置を下に示す。

 簡単な楕円型のレイアウトを卓上に作り、その直線部に速度を測定するビースピVを設置した。 電気回路は先回と同じである。 

 モータドライバの出力端とフィーダー線との間にダイオードを挿入して、その両端の電圧をオシロに取り込んでいる。

 

■ 測定の結果

 こうして、オシロの波形画面とPWMのデューティ比設定値、および車速を記録しながら実験を進めた。

◆ BトレEF65

 KATOのチビ凸用動力ユニット(品番:11-109)を搭載したBトレのEF65を走らせて、オシロで波形をコピーすると共に、車速を測定した。 ハードコピーした波形データを動画として取り込み、同じ物を5回繰り返す様に編集している。 同時に再生してショットキーバリアダイオードが有りの場合と無の場合を比較して欲しい。

  

ショットキーバリアダイオード無の場合                    ショットキーバリアダイオード有りの場合

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 動画を観察すると、ダイオードの有無にかかわらず、上流側の波形が殆んど同じであることに注目して欲しい。 ダイオードがあると綺麗な矩形波であるが、ダイオードを取り去ると少し形が崩れている点も注目して頂きたい。 この崩れはモータの影響と推察されるである。

 そして、設定した dt 値からデューティ比として換算し、速度計で測定した値をスケールスピードに換算した場合の特性を右のグラフに示す。 ショットキーバリアダイオードという余分の物を挿入しなかった本来の状態では、コアレスモータでありながら、デューティ比と速度は直線的に綺麗に比例するのである。

  これにはビックリである。

 ダイオード有りの場合に現れた青い線の特性が、非線形になる原因と憶測しているが、 しかし、ダイオードを取り外した場合にはその影響が表れないので、何処へ消えたのだろうか?

 ダイオードが無ない場合は、どこかに消えてしまったと推察すると、四方弁の出入り口から新たな流れが流入し、発生した何かを打ち消したものと考えられる。 流体で考えるならば負圧の発生が抑えられたと考えるのだ。

 即ち、両方の出口を開けて連通させることによって、水の流れをスムースな流れにしているためだと、自分は解釈したのだが、皆さんはどう思いますか?

 このことは、コアレスモータをPWM制御によって駆動させる場合、IN側のローサイドスイッチを開けることによって直線的な特性にすることが出来るということではないだろうか。 

 

◆ C56-144号機

 走らせる動力車をKATO製のC56-144号機に代えてみよう。 やり方は上記の場合と一緒である。

  

ショットキーバリアダイオード無の場合                    ショットキーバリアダイオード有りの場合

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 波形に様子は、上記のBトレEF65の場合とほとんど同じである。 デューティ比と車速の関係も右のグラフに示す。 非線形の場合のカーブの具合は上記の場合とは異なるが、ダイオードが無い場合は直線的な関係になる事が分かる。

 

◆ 負荷を掛けたBトレEF65

 次に、負荷が掛かった場合の挙動を観察しよう。 以前の実験では、特性が変化する事が観測されているのだ。 「パワーユニットを知ろう PWM制御とコアレスモータ」(2017/2/3)参照。

 動力車に負荷を掛ける方法として、走行抵抗が大きく、さらに消費電流の大きな麦球式の室内灯を取付けていた客車を牽引させた。 「バンダイの走行台車を使って室内灯を細工する」(2010/12/15)。 下の写真に示す様に4両が限界でした。 さらに尾灯まで加工していましたね。

  

ショットキーバリアダイオード無の場合                    ショットキーバリアダイオード有りの場合

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 少し負荷を掛け過ぎた感があるが、波形を見るとダイオード有の場合に現れる青い特性線の上昇が抑えられていることが観察される。 この線は逆起電圧線を示すと考えているのだが、順方向に流れる電流が大きいと、その影響が抹殺されるのだろうか。 その押さえられた電圧によって回転数の上昇が抑えられているのではないだろうか。 この辺は、自分でも理解できていない領域なのである。

 右に示す速度特性にもその結果が表れているだ。

 

■ データをまとめる

 上記の三つのケースについて、まとめてみました。 ダイオード有の場合は実際とは異なるので除外して整理しました。

 デューティ比と車速の関係は下左に示すグラフの様に直線的関係を示し、チビ凸用動力ユニットとC56 は殆んど同じとなっています。 負荷が掛かると、速度が落ちるのも納得出来る特性です。

  

 また、上右のグラフに示す様に、モータドライバ TB6612 に入力されたデューティ比信号と、出力されたデューティ比はまったくの直線的な関係となっており、非線形となる要素をモータドライバは有していない事を示しています。 以前報告した「マイコン式の運転操作台を作ろう コアレスモータ搭載小型SL車のレンジ設定」(2021/5/7)にて、同様のデータを紹介しました。 そのデータは、BD6231を使用したものであるが、どちらのドライバーも全くの直線的関係を示している。

 また、今回のデータより、小さなデューティ比領域でも確実に出力されていることも確認できた。

 次回は、ROHM製のフルブリッジドライバ BD6231について報告しましょう。

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 2021/5/19 作成