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鉄道模型 動力車の調査   特性グラフの比較(2) コアレスモータを搭載したKATO製蒸気機関車

■ いきさつ

 コアレスモータを搭載したKATO製蒸気機関車の動力特性の調査として、幾つかのモデルを測定した。 これらの測定結果をグラフにて一覧表で表して横並びで比較することによって、測定方法上の問題や、データの整理方法の統一を検討すると共に、解析を進める上でのモデル間の特徴を事前に把握する指針にすることとした。 今回は手持ちのモデルの中で残っていたC56形2台と、C12形2台、およびC50形の測定データを一覧表にまとめた。

 今回は、C56形とC12形について同じモデルが2台ずつ揃いましたので、同じモデル同士の比較も観察できました。

 

■ 牽引力特性の比較

 各モデルの牽引力/車速、および牽引力/電流のグラウを下に示す。 ⇒ 拡大グラフ

 縮小した上の表は見にくいので、拡大図をご覧ください。

 まず、牽引力と車速を示す上の欄のグラフからは、小型機ではほぼ 10グラム程度の牽引力であることが分かる。 このグラフが示す重要な情報は、負荷が掛かった時の速度の落ち込み具合や、下り坂での増速具合なのです。 負荷による速度の変化具合を観察するのがこのグラフの主目的です。

 次に、下の欄のグラフは、同じ牽引力を発揮するのに必要な電流値を示しています。 モータの電流値はモータのトルクと比例していますので、見方を変えると、このグラフはどれだけのモータトルクが必要だったのかを示していることになります。 すると、動力伝達機構の効率を推察するデータになるのです。

 さらに、牽引力がマイナスであるグラフの下半分は、即ち制動状態にある時の挙動を教えてくれる貴重な情報なのです。 ゼロ点より少し下がった部分でグラフは折れ曲がっていますが、そのポイントを遷移点と呼ぶことにしましょう。 ここでは、ウォームギヤの噛合い状態が変化している重要なポイントなのです。 そして、この点より下に下がる方向も重要な情報です。

 上記の全てのモデルの場合は真っ直ぐに下に伸びていますが、これは「伝達機構ギヤ部への注油の影響」(2018/7/11)で報告したように、オイルの塗布状態が全てウエット状態であったためと考えています。 また、遷移点について、最後の C50-21号機だけが5グラムと大きい値であることが分かる。 この原因は個別の報告で説明しているが、このモデルでの問題といえるだだろう。

 

■ 電流特性

 先に求めたKATO製コアレスモータの計算モデルより、電流値からモータトルクを計算することが出来ます。 そこで、その電流値について注目してみましょう。 この電流値関係のグラフを下のようにまとめてみました。  ⇒  拡大グラフ

 使用したグラフは、単機走行時の電流/電圧のグラフ、空転特性での電流/電圧のグラフ、および、負荷時の速度特性のグラフです。 車速、あるいはモータ回転数によってどれだけのモータ電流、即ちモータトルク側必要とされたのかデータが、グラフとして示されています。 これはとりもなおさず回転摩擦抵抗のグラフなのです。

 単機走行時のグラフは牽引力がゼロの状態で ( 途中から重り車両を使用したので、その抵抗が僅かですが掛かっています。),の摩擦抵抗を示しています。 また最下段の負荷時の速度特性のグラフも同様です。

 まず、中段のグラフを見てください。 フレームに組み込まれたモータだけの状態で、電流/電圧特性を測定しています。 このグラフ上に、フライホイール付きウォーム軸を取り付けて測定したデータを重ねました。 この時の電流値の変化に注目しています。構造的には同じなのですが、値の大小とバラツキが大きい物があり、部品寸法やガタの具合、組み付け具合などの微妙な違いが影響しているものと推察する。 特に、C50-21号機のバラツキは気になります。

 次に、ウォームホイールなどのギヤを取り付けた状態や動輪とリンク類を組む付けた状態のデータを上乗せしました。 C56-149号機だけが上ずっているのが分かりますが、ロッド系の摩擦抵抗が大きいものと推察します。

 最下段の負荷時の速度特性のグラフは、近似曲線の性質を比較しようとしています。 1次直線での近似なのか2次曲線での近似なのか、また、その勾配は平行移動なのかどうかも重要です。 パラメータとしての牽引負荷の値は、測定上面倒だったので、統一していません。 従って、値の大小を比較しても無駄ですが、各測定値の勾配に注目してください。 黒線で示したほぼ無負荷時のデータに対して、平行移動しているのかどうかをチェックするのです。

 このグラフは横軸にモータ回転数を取っていますから、右上がりのグラフは、回転数と共に電流値、即ち回転抵抗が増加していることを示しています。 そして、動輪に負荷が掛かった状態では、その値の傾向がどうなるかを観察するのが重要なのです。 負荷が掛かると当然モータにはトルクが必要となり、電流値が増加します。 そして、この時の回転数による増加具合を見ておくのです。 もし、平行移動であれば、電流は負荷によって増加しただけと判断出来ます。 これは、速度による摩擦と負荷による摩擦は独立であることの証明なのです。 このことは、特性解析にとっては重要な要因なのです。

 今回示したデータは、平行移動していると判断できるので、速度項と抗力項は独立していると考えて良い事を示しています。

 

■速度特性

 速度とスリップ率、および摩擦係数に関するグラフをまとめてみました。 ⇒ 拡大グラフ

 上段は、単機走行時の車速のデータです。 供給電圧による車速の関係を示したもので、同じモータを使用していてもギヤ比や動輪の直径によってその勾配は異なってきます。 C56とC12は同じ諸元ですので、その勾配は同じと言えるでしょう。 C50は動輪直径が少し大きいので、やや速度が速くなっています。

 中段のスリップ率のデータと下段の動輪摩擦係数のグラフは、動輪滑る様子を表しています。 ある限界値に近づくと急激にスリップを始める事がわかりますが、トラクションタイヤの位置など同じような構成なので、だいたい同じパターンになるはずですが、微妙に違っている事が分かります。 C56-149号機は問題があったためトラクションタイヤを新品に取り換えています。 この影響で線路にしっかりと喰いついているようで、摩擦係数も大きく滑り具合も違っています。 同じモデルの2台の C12 もスリップ率のパターンが違ってきています。 何故なのか未調査です。

 

■ 電圧降下

 最後に、電圧降下に関するグラフをまとめてみました。  ⇒  拡大グラフ

 苦労してデータを整理する割には得るものが少なく、いつもガッカリしているグラフなのです。 今回も同様ですが、同じモデルでもこうも違うのかと感心してしまいます。 これは、モデルの構造に影響されるは当然ですが、それ以外にメンテナンス状態や組付け具合によって影響されるのだということを突き付けられたような気がします。

 集電部の電圧降下量は、バラツキが大きい物はその絶対値も大きくなっているという当然な現象を示しているが、逆にバラツキを少なくすれば絶対値を下げる事が出来るという期待をあるのである。 これは、メンテナンスをしっかり実施せよとの意味でもあるのかな・・・・・・!

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■ 横並びの観察

 先回の「特性グラフの比較(1)」のデータを含めて比較できるようにデータを紙に印刷し、右のように並べた状態で観察した。

 横にはモデルの違い、縦には表示特性の違いを見ることによって、特徴や問題のある部分を抽出することが出来るのだ。

 その結果、

  1. ウォーム軸が踊っていたC57-195号機の電流値は、この物だけが異常であり、やはり不具合品であったと判断する。
  2. C57-33号機の牽引力・電流特性において、他のモデルよりも電流値が大きいことが判明した。 組付け中にオイルを塗布していたのだが、ドライ状態だったのだろうか?
  3. 大中型機の負荷時の速度特性は、今回のデータと比較するために再測定が必要である。
  4. 空転時の特性について、表示方法が定まっていなかった。 何をチェックしたいかが不明確であったため、途中で表示方法を変更していた。 そこで内容を再検討することにした。
  5. C12-42号機の空転特性に現れたスキーのジャンプ台のような返りは、他の個体ではほとんど見られなかった。 この個体の特殊な状態ではないだろうか?

■ 空転時の特性の整理

 まず、このデータを取得した目的を振り返ってみると、伝達機構の無負荷時の回転摩擦抵抗を推測する事であった。 そしてこれは、摩擦抵抗に関する速度項と抗力項は互いに独立であるとの仮定のもとで解析を進める場合において、その速度項の特性を推定するためのデータとすることがねらいであった。

 まず、ウォームギヤが噛合う歯面を境として、モータ側の摩擦をチェックするのが第1の目的である。 これには、ウォーム軸を組み込んだ状態でのモータ電流を測定しておけば、モータのモデル計算よりトルクが計算できるので、ウォーム軸周りの摩擦トルクが速度、即ち回転数を関数とする計算式として求める事が出来るのである。 グラフより、その近似式を求めるのであるが、直線近似あるいは2次関数として近似させるのかが、一つのポイントとなるであろう。

 次に、動輪側の摩擦については、直接的に推定する方法がないので、単機走行時の電流データを活用することにしている。 「KATO製 C12-42号機の動力特性」( 2018/7/5 ) にて動輪系の回転摩擦の測定が可能であることを示したが、このデータは遷移点データからも求められるものの、極低速状態での値なのである。 そこで速度によって、どう変わるのかを補足するために、この単機走行時の電流データを使おうとするのである。

 データの整理は、

  1. グラフは、横軸にモータ回転数、縦軸に電流値を取り、モータのみ、ウォーム軸、ロッド付、および単機走行時のモータ回転数数と電流値を表示させる。
  2. モータのみの状態ではモータの回数数が測定できないので、モータ電圧と電流値を使用して計算式より回転数を計算しグラフの横軸とした。 ただし、C57-33号機とC59-123号機の場合は、測定初期のであったのでモータのみの測定は実施していなかった。 このため、モータ単体でのデータを使用した。
  3. データの比較のために、縦軸と横軸のスケールは統一した。
  4. ポイントとなるウォーム軸と単機走行時のデータには近似直線を当てはめている。
  5. C57-195号機は不具合品と断定してネグレクトしている。

 整理したグラフを下に示す。

 観察された内容を順不同で下に示す。

  1. 同じような構成のモデルであるが、これ程いろいろなパターンを示すとは驚きである。
  2. C59-123号機の空転特性の測定」(2018/5/22)で検討した動輪軸側の摩擦トルクの推定に於いて、摩擦抵抗は速度の二乗に比例すると仮定して近似させたが、この仮定は少し拙速であったようである。 他の個体はバラツキが大きくて、C59-123号機のような明確なパターンを示す個体は無かった。 式を単純化するためにも直線近似で代用するしかないであろうと判断する。
  3. 単機走行時とウォーム軸装着時のパターンを見ると、C50型、C56型、C12型は平行移動しているパターンなので、動輪系の摩擦抵抗は速度に依存する度合いが小さいと思われる。 固定項だけで良さそうだ。
  4. ロッド付の状態とウォーム軸の状態とが、殆ど同じ個体もあれば、大きくかけ離れている個体もある。 また、単機走行時に増加した個体もあって、頭が混乱状態となってしまった。 それぞれ原因があると考えられるが・・・・・・・・・・・・!

 以前も述べたように、これらの個体の走行状態を見ているとスムーズに走行しており、模型として楽しむ場合には何ら問題無いのである。

 

■ まとめ

 今まで測定してきたデータを横並びで見る事が出来た。 そして、全体の様子が分かって来たので、今後の解析作業の方向付けが出来たような気がする。

 

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  2018/7/19