HOME >> 鉄道模型工学 > 動力特性の概要 車両特性

動力特性の概要 車両特性

■ 車両特性

 車両として特性は、各要素の関係式を統合すれば整理できる。 しかし、その関係は複雑となり、全体像が把握し難くなる。 そこで、その関連を容易に理解するために、関係式をブロック図として表示してみる。 ブロック図はエネルギーフローの概念を取りいれ、要素ブロックを4端子ブロックで表示し、 要素としては、集電回路、照明回路、モータ部、減速機部、車両部の部分に分けてブロック化している。

 電源から電圧×電流として供給されたエネルギーは、集電回路や照明回路によって電力が分散されたのち、モータによって回転数×トルクと変換され、減速機と車両によって、車速×牽引力となり、負荷に伝達される。 そして、途中で色々な損失によって失われるが、最終的には負荷によってエネルギーは消費される。

 そして、供給側の電圧と電流と、消費側の車速と牽引力の関係は、そのブロック図の線図をたどっり、関係するそれぞれの関係式を結んでいけばよい。 特性を決めるそれぞれの定数が、どの変数に影響するかもビジュアル的に追っていくことも出来る。

  ただし、集電回路と照明回路については、今回の解析では対象外にしているため、省略して解析をすすめている。 したがって、ブロック図で示した供給電圧Es は端子電圧E と同じとし、供給電流 Is も同様にモータ電流 I と同じとして解析を進めます。

 

■ 速度特性

 最初に、動力車の速度特性を検討する。 これは、動力車単体で平坦路を走行している時の状態を示すもので、車両を最初に手にした時など試しに走らせてみる場合に該当し、車両がスムースに走るのかどうか、期待をもって恐る恐る走れせる鉄道ファン期待の時なのである。

 しかし、その鉄道モデルの特性を知る上でも重要な特性を含んでいるので、チェックしておきたいと特性項目である。

 ◆ 速度・電圧特性

 平坦路で牽引する車両がない単独走行のため、sinθ=0 、Fk=0 としていままでの関係式を整理し、車速 V と電圧 E の関係を下記のように整理できる。

       (21)

 この関係式は、車速 V と電圧 E は直線的な関係があり、その勾配がA1であり、Y切片が - C1 であることを示している。 車速 は、Eo 点から右上がりに一直線に上昇しているが、実施にはスムースには発進しない。 電圧 E がEo よりもある程度上昇した時点で初めてモータは回り始め、車両は動き始める。 これを走行開始点としてグラフに示しているが、DCマグネットモータでは、一般的に生じる現象であり、強力磁石を用いた高性能モータでは、特に顕著に見られる。 これは、鉄道模型でのラビット・スタートの原因ともなっている。

 この速度特性は、同じ電圧でどれだけ速度差があるかを明確にすることが出来いるので、重連連結を楽しむ場合の重要なファクターとなっている。

 一般的にはコントローラの操作具合と走らせるスケールスピードは、モデルが違ってもほぶ同じ程度になうように設計されている。 モータ仕様は勿論であるが、ギヤ比と動輪直径も直接的に関係してくるので、模型メーカーの設計意図を推察することも出来る。

 

 ◆ 電流・電圧特性

 同じ条件で、電流 I と電圧 V の関係を求める。

      (22)

 この電流 I と電圧 V の関係も上記と同様な直線的な関係を示している。 ただし、モータが回転するまでは、逆起電力が発生せず、巻線抵抗を単なる抵抗と見なしてオームの法則が成り立つ領域である。 これはモータが電気的には単なる抵抗体、いや、電熱器といっても過言ではない。 発熱、発煙、さらには発火に至る要注意の危険ゾーンである。

 モータが回転している場合の電流は、ある一定値から少し右上がりの傾向で増加する。 回転数による摩擦抵抗の増加が原因となっている。 また、全体の大きさは、モータのタイプや仕様によって大きく異なっており、それぞれのモデルの特徴を表している。 ちなみに最近のコアレスモータなどは、今までのモータよりも一桁も電流値が小さくなっている。

 また、同じモータ仕様でも、減速部のコジレなどによる摩擦抵抗が増加すると大きな電流値を示すので、動力車の健康状態をチェックすることも出来る。

 

■ 牽引力特性

 この牽引力特性は、動力車の特性を決定付ける重要な特性である。 力が強いのか弱いのかは勿論であるが、牽引力 Fk は、正の場合は駆動状態、負の場合は制動状態を示しており、多くの興味ある特徴も示してくれる。

 ◆ 牽引力・車速特性

 電車や自動車などの動力車の性能を表す一番大切な特性である。 動力車の特徴をはっきりと示していると言えよう。 電車、ディーゼル車、蒸気機関車、ガソリン自動車、電気自動車など比較してみるのおもしろいであろう。

 さてNゲージの鉄道模型では、牽引力Fk と車速 V の間には次のような関係式が導かれる。 ここで、電圧項は、電車で言うノッチの役割であり、自動車ではアクセルの役割でもあるるスピードや牽引力を制御する運転操作のための制御項目である。

    (23)

 この牽引力 Fk は、速度によって減少する垂下特性を示すと共に、電圧によって比例的に増加する。 また、各種の摩擦損失などによってモータで発生したトルクが失われると共に、坂道においては自分の重量による勾配抵抗も大きく作用する。

 この牽引力の様子を知るためには、この特性をグラフ化してみると理解しやすい。 右の図は、横軸に車速 V 、縦軸に牽引力 Fk とし、 ある一定電圧 E と仮定して式(23)を象徴的にグラフ化したものである。

 即ち、式(23)の特性は、へ点を Y切片とする右下がりの垂下直線となる。 この直線の勾配は、速度項の係数で決まるが、式(23)に示すごとく一定の値である。 即ち、勾配は変化しない。 電圧 E は、この直線を平行に移動させる電圧項で、グラフ化に際してはパラメータとして示すことが出来る。

 そして、牽引力がゼロの状態、即ち、単機での走行時にはイ点の状態となる。 その時の車速を無負荷走行車速 Vo とする。 この通常走行状態では式(23)が成立しており、ウオームギヤの状態は(A)の状態である。

 他の動力車から押されたり、下り坂などで自重を含めて後ろから押される場合には、この動力車には負の牽引力が作用する。 動力車は、これに対応して制動力として作用し、車両の暴走を抑えているのである。 この場合はイ点から下にさがるが、ロ点までは、動輪や従輪の摩擦抵抗で対応するため、依然として式(23)が成立している。 従って、直線上を変化していく。 しかし、それ以上の力が要求される場合には、力を保持しながら回転する(B)の状態に突入し、そして、式(23)はもはや成立しないと考えるべきである。 この場合は、ギクシャク運転のような不安定状態になっていると推察される。 ここでは、垂直な直線で表現しておく。

◆ 車輪のスリップ状態について

 次に、より高い牽引力を必要とする場合には、イ点より上方に移行し、モータのストール状態であるヘ点に向けて車速を減少しながら移動していく。 しかし、車輪とレールとの間の粘着力には限界があり、ハ点以上は車輪が滑って力を発揮することが出来なくなる。 そして車輪のスリップ状態であるハ点とニ点間に突入し、場合によっては車速ゼロの状態まで落ち込んでしまう。 そしてモータはハ点だが、車体はニ点にあるという車輪の空回り状態が(C)の状態と言える。

 

 この粘着限界での不安定な状態の牽引力が、一般に言われている 牽引力 であり、もはや式(23)は成立しない。 また、その時の車速を規制する要素は、不確実であるため、ハ点とニ点の間はバタバタした状態となろう。

 一方、制動側には粘着限界が存在し、ロ点から制動力を大きくするとその限界点ホに達する。そして車体は、車輪の回転数以上にレールの上を滑って行くことになる。

 さて、駆動側の粘着限界と制動側の粘着限界は、同じ値になると思われるが、車輪の回転状態が異なるので実験してみないと分からない。

 ここで、粘着限界Foは、粘着係数をμとすると、

       (24)

で表わされる。 従って、車両重量 Wo を重くすると動輪に掛かる力 W1 も増加し、駆動力 Fo を大ききすることが出来る。 これはモータ特性とは無関係なので、車体に重りを付け足すなどの加重を実施して、(C)状態の線を上方に引き上げることによって駆動力 Fo を大ききすることと共に、通常状態の(A)の範囲を広くする効果も生まれる。 ただし、車両重量を重くすることは、自分自身の勾配抵抗を増やすことであり、坂路の多いレイアウトでは考慮が必要である。

 車両重量ではなく、粘着係数μをアップさせることによっても駆動力を向上させることが出来る。 鉄道模型に於いては、動輪にゴム環を履かせてμをアップさせたり、動輪の数を増やしたりして車両重量を有効に使用する方法など、駆動力を大きくする工夫がされている。

 スリップ現象に対してもう少しせ説明しておこう

 実際の鉄道車両や自動車に於いては、駆動力を得るためにわずかな滑りが発生している。 これは鉄道模型でも同様である。 自動車分野と同様に、実際の鉄道分野でもスリップ率と摩擦係数μとの関係を示すμカーブが測定されており、安定した走行性能を得るための重要な特性として位置づけされている。 詳しくはその解説書を参照ください。

 さて、鉄道模型ではこの動輪のスリップによって、右の特性図のように、車輪の回転数から換算した車体の速度よりも少しずつ遅くなっていく。 摩擦係数μが最大になる点であるハ点は、直線部の交点であるリ点より少し下がって近辺にあると推定する。

 ここで注目したいのは〔C〕状態の中間点である。 車速 Vx の時、 モータの駆動力により、点チの駆動力を発揮しようとする。 しかし、 粘着限界により Fo の力しか牽引力として発揮出来ない。 すると、モータは負荷の下がった分だけ回転数を上げ、点リの状態となる。 車輪は点リの状態で回転し、車体は点トの状態で走行していることなる。 この速度の差は、車輪のスリップとなり、 レールと車輪の間をゴシゴシと擦っていることになる。 このゴシゴシ状態での走行が、登坂や重連時に発生しているのである。

◆ 粘着限界は安全弁 

 この粘着限界は、鉄道模型の安全弁と考える事が出来る。 モータの設計で注意することはその焼損対策が重要であると聞いたことがある。 巻線が“電熱器”となって発熱・発火して、やけどや火災になる恐れがある。 鉄道模型と言えどもモータが熱くなる事はご存じの通りであり、焼損してしまったと言う話も聞く。 もし火災となれば製造者責任を問われかねない。

 一般に、小型モータでは制約されたスペースの中で、最大限の力が発揮できるようにぎりぎり設計が求められる。 このため、1分定格とか、3分定格など、短時間での使用を想定した設計方針が取られる事が多い。 この場合には、タイマーとか、熱センサーでモータを監視しつつ、モータを駆動する制御が施されている。 また、ヒューズブルリンクなどの安全機構が取り入れられている。

 では、我々の鉄道模型では、どうだろうか? モータは何分定格なんて明記されていなし、使用状態を考えると “連続定格” が求めれれている。 ヒューズは? パワーユニットにはあるようだが車両にはその配慮は見当たらない。 では、不安全か?  いや、この粘着限界が安全弁となって作用してくれるのである。 モータの異常な発熱の恐れがあるヘ点のストール状態を回避してくれているのが、(C)状態の存在である。

 また、駆動ギヤについても、駆動力を(C)状態に抑えてくれるので、ギヤに掛る力を制限してくれることににもなっている。 このため、やたらに重りで車両重量を増やしたり、ゴム動輪を増やしてして粘着力を大きくすることは、この安全弁を緩めていることになる事を認識しておこう。 でも、ぎりぎり設計をしている様には見えないので、そう心配することも無いと気楽に考えている。

 

◆ 牽引力・電流特性

 次に、前記の牽引力・車速特性を牽引力と電流との関係から整理したのがこの特性である。 上記の牽引力・速度特性と同じ状態で同時測定できる。 

 牽引力Fk と電流 I の間には次のような関係式が導かれる。

  (25)

 

 この特性式を縦軸を牽引力、横軸を電流としてグラフ化して示す。

 牽引力が無負荷状態の単機走行状態はイ点で示される。 このイ点より下方は制動状態に入るが、車輪系の摩擦抵抗で対応するため、モータの負荷が減少し、その結果として電流も減少していく。 

 さらに制動力が要求されるとウオームギヤ部の状態が変化し、(A)状態から(B)状態へと変化する。 その後のモータの負荷状態はよくわからない。 ここでは、一定負荷の状態で回っていると仮定している。

 イ点より負荷が大きくなった場合、牽引力の増加に合わせて電流も増加していく。 そしてモータのストール状態のヘ点へ達する前に粘着限界ハ点に達し、この(C)の状態を保持するものと思われる。

 また、スリップ率βもこの特性には関与していない。 また、一般的にはモータのトルク、即ち牽引力は電流と比例すると言われているが、その傾向はあるものの、様子が少し異なっている。 興味の湧く現象が潜んでいそうである。

************  動力特性の基本式 車両特性 (2011/2/21) を再編集 ********