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測定装置の製作 動力特性の測定方法

 鉄道車両の動力特性を測定方法について考えて見よう。 自分の考えた理論が正しいのかどうかを検証しておく必要がある。 また、実際の鉄道模型車両について、その特性を把握しておくとことは、蒸気機関車などの動力車の多重連走行を楽しむ喜びが増えると思われる。

 測定項目としては、電圧と電流の他に、牽引力と速度を調べる必要があり、また、大切な模型車両には切ったり張ったりする工作を一切加えず、そのままの状態で測定できる事を大前提とする。 このような模型車両の動力特性を測定する道具は、今まで市販されていないと思われる。 それは、そのニーズが無かったのと、商売にはならなかったためではないだろうか。 このために、このような装置は自分で製作する必要があった。

 

■ 鉄道における実車両の定置試験方法

 製作するにあたって、実際の車両の試験方法を調べてみた。 小生は鉄道関係は詳しくないのでインターネットで調査した。 その結果、幾つかの紹介例あったが、一番興味があったのは、 蒸気機関車の定置試験台 : 横掘 進/木村 修  鉄道ファン(交友社)1981年7月号(243号) P100 - 106 の資料であった。 大正3年、国鉄の大井工場の中に、この機関車定置試験台は設置され、C571号機や C581号機などがこの試験台に乗せられたとのこと。 昭和34年に閉鎖されたとのことであるが、その後、このような試験方法は、新幹線の車両開発でも応用されている。

 この定置試験台について、やはり興味があるのは、車輪の支持方法であり、動輪と同じくらいの直径の円筒を用いてレールの代用とし、駆動力の反力をブレーキ装置で受けている様である。 そして、機関車は引張力測定油圧ダイナモメータに連結され、動かないように固定されている。 想像するに、機関車が発生する大きな牽引力を油圧シリンダーで受け、その油圧を測定して牽引力に換算したものと思われる。 実際の試験中は、蒸気と騒音が大変だったろうと想像する一方で、高速走行試験時のロッドの豪快な動きを真近で見ることが出来たと思うと、鉄道ファン、いや、SLフアンなら是非とも一度は見てみたかったと思わざるを得ない。

 

■ 鉄道模型における定置試験方法

 鉄道模型における車両の試験方法はどのようなものがるか、先人達の工夫を追ってみた。 その中で、 Giants of the West さんの2006年11月25日付けブログ(http://blog.livedoor.jp/dda40x /archives/2006-11.html)の中で、機関車の効率の話があった。 その内容で興味があったのは、 『NMRAの会報中、一番興味があった記事は、Robert E.Higgins氏の連載記事で、 Motive Power Performance Review" 動力車実力測定報告とでも訳すのだろうか。 ありとあらゆる機関車の性能分析が10年くらい続いた。 起動電圧、最高速、牽引力、効率、騒音、スケール・スピードが測定され、簡単な感想とともに纏められていた。』 の記述でした。
 そこで、その関連記事をインターネットで探したが、何もわからず諦めるしかなかった。 ブログに記載されている図を見る限り、傾斜を調節可能にしているレールに、速度計測用の光りセンサーかマイクロスイッチが細工され、電圧、電流などを計測しているように想像される。

 

 自分が考える鉄道模型用の定置試験装置の条件として、車輪と接するレールをどうするかが最大の課題である。

  1. 鉄道模型では、車輪との摩擦係数が重要なファクターであるため、形状や材質、表面処理など、模型用のレールと同等であること。 このためには実際の模型用レールを使用するのが望ましい。
  2. 模型車両には車輪支持部のイコライザーを設けていないので、レール面は平面であること。 即ち、円筒形状など上に凸となったレールでは、車輪ごとに円筒を設けるなどの工夫が必要となる。 このため、Nゲージではまず不可能であろう。
  3. レールはエンドレスで連続測定が出来ることが望ましい。

 この条件を満たす実験方法とその装置を検討することにした。

 

■ 定置測定装置の検討(1) 直線坂路方式での実験

 まず、上記の1と2の条件を満たす坂路方式で実験トライした。 坂路の長さは 180cm で、直線線路を敷いた。 中央付近に 1m の間隔のしるしをつけ、手動で往復運転をさせた。動力車には鉄コレのトレーラ用台車を牽引させ、台車には重りをのせて牽引用の負荷とした。 測定は、定点間の走行時間を計測し、車両重量、勾配、走行時間から特性を計算した。 その後、TOMIXの自動運転ユニットを使用して往復運動させるなどの工夫をしたが、その面倒さに負けてこの方式を放棄した。

 その時のデータの一例を右に示す。 電圧 4.0volt、6.0volt、8.0volt によって特性が右に移動していることが良く分かる。 しかし、負荷を変えるために運転をいちいち止める必要があること、往復運転のため、作動が停止してしまい、連続運転状態とは言い難いなどの課題も残っている。 でも、その特性は予想どうりの傾向を示しており、理論式の自信を強くした。

 

 

■ 定置測定装置の検討(2) 円盤方式での実験

 次にトライしたのが、円盤形状の路盤に曲線レールを設置した定置実験装置をである。 ベニヤ板製の直径 740mm の円盤を作り、KATOのR348-45°の線路を張り付けてエンドレスの線路とした。 中心軸は M10 のボルトと M12 のナットを用いた。 円盤はキャスター付きコロと固定コロを使用し、円盤を水平に受けるようした。 動力車の駆動力を受ける抵抗部材として、模型のモータを発電機として回せば負荷が調整出来ると考え工作した。 線路への給電は、集電機能のあるトレーラ車を用いて線路に給電する方法を取っている。 牽引力の測定は、プラ棒で片持梁式にし、そのたわみを図って力を計測すると言う原始的な方法を取ってみた。

 しかし、これらの負荷抵抗の調整方法は見事に失敗した。 円盤が回らないのである。 小さな鉄道模型が発する牽引力はわずか数グラム、力の強い車両でも30グラムから、40グラムしかない。 この小さな力では、製作した円盤を回すことすら、出来なかったのである。 まして、負荷抵抗の調整など出来るわけがなかった。

 すなわち、線路装置を回転させる円盤装置の無負荷の状態は、グラム以下の摩擦で回転させなければならない。 これはまさに精密機器の範疇となり、とてもホビーで手の届くものではなかった。  でも、模型の駆動力で線路装置を回転させるのではなくて、強制的にモータ等で回転させて測定出来ないかと考え駆動モータを取り付けた。

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■ 定置測定装置の検討(3) 回転円盤方式での実験

 円盤式エンドレスレール装置は、連続運転も可能であり使えそうである。 そして、被測定車を一定の位置に留まるように回転を調整し、その時の円盤の回転速度を測定すれば、被測定車の車速として測定出来る。 円盤の回転抵抗は大きいので他の駆動源によって駆動させる。 牽引力の測定のため、一定の負荷を掛ける方法として、いろいろアイディアを検討した結果、やじろべい方式に行き着いた。 その他、あれこれ作っては壊しの連続であったが、なんとかデータが取れるようになった。 その内容を紹介する。

◆ 動力車測定装置の製作

 基本構成として、

  1. レールは鉄道模型で使われているNゲージ用のレールを使用し、円形のエンドレスとする。
  2. レールを固定する円盤をモータで回転駆動させ、牽引力と共に制動力も連続して測定出来るようにする。
  3. 牽引力計は一定の負荷を掛ることが出来る 「やじろべい方式」 とする。

の構想をもとに、製作を進めた。

 まずはじめに、装置全体を右の写真に示す。 畳半畳程度の大きさで、ほとんどが手作りである。 中心部に円盤を置き、手前には操作機器と計測装置を配置している。

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 得られた特性データをEXCELを使ってグラフ化した例を幾つか紹介する。 鉄道模型工学として考えてきた性能特性を証明するデータが得られたことで、今までの苦労が報いられたと思っている。

 しかし、この装置は完成と言い難い。 またまだ多くの課題を抱えたままである。 改善してみたいと思っている個所はあちこちにある。 

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