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鉄道模型工学概論 動力特性の基本式 上り坂/下り坂

§1  動力特性の基本式

 大袈裟に鉄道模型工学と言うからには、それなりの理論的裏付けが必要となってくる。 そこで、自分なりの知識を駆使して解析してみることにした。

 ただし、今、自分が興味を持っているNゲージの鉄道模型に於いては定常運転で楽しむものであり、その加速状態や減速状態を取り上げる必要は殆んど無いと考えている。 そこで、理論といっても過渡応答などの非定常な運動を対象とするのではなく、定常的な運動を検討対象とする。 特殊な場合として、DCC制御を構築するには、模型車両の動特性が必要となるが、このDCCの分野にはまだ足を入れていない。このため、定常状態を考察する静特性に絞って検討していく。 勿論、ギクシャク運転は、振動問題として動的に解析する必要があるが、いきなりそのようなジャンルに突っ込んでも脱線するのが落ちである。 そこで、まず静的な定常運転状態をしっかり把握する方が、解析かつ理解しやすいと考えた。

 このため、ここでは速度一定の状態、すなわち定常状態での静的な性能特性を検討する。 また、新幹線の模型と言えども空気抵抗は影響がほとんどないため、この影響も無視するものとする。

§1.1  上り坂

 まず、蒸気機関車、電機機関車、あるいはモータ付きの電車など、動力をもっている動力車について、 その動力車に掛かる外部からの力に注目し、その上り坂を登っている状態の力関係を検討する。

 図1にその時の力関係を簡略化して示している。 また、車両が外部より受ける力は赤の矢印で示し、その力の方向は図に示す方向をプラス方向とする。

 車両重量をW0、駆動輪の軸荷重をw1、レールからの抗力をf1、従動輪の軸荷重をw2、レールからの抗力をf2とすると、

      
      
      

  

 w1とw2の比率は、重心の位置や車輪の数、配列、および台車とその支持構造によって決まってくるが、解析の簡素化のために、ここでは検討しない。 さらに、カプラーに掛る力 Fk についても、その高さ方向によって、車体にモーメントを発生させるが、これも簡素化して 駆動力や抵抗力と同一平面上で作用するものとする。

 駆動輪の駆動力をF1、従動輪の抵抗力をR2、カプラーに掛かる牽引力をFkとすると、力の釣り合いより、

     

 ここで、勾配をゼロ、即ち θ = 0 とすると平地走行状態を示し、牽引力をゼロ、即ち Fk = 0 とすると動力車の単機走行状態を示すこととなる。

§1.2  下り坂

 下り坂における力の関係を図2に示す。 上り坂との違いは、勾配の方向が反対となり、車両重量の分力W0・sinθが進行方向に作用し、車両を押す方向に働くことである。 しかし、下り坂の場合のθの値をマイナスで表現すれば、(4)式をそのまま適応することが出来る。

 また、一般に牽引されている車両も車両重量の分力が進行方向に作用するため、牽引力をFkも図とは反対方向に作用する。 この場合も、マイナス方向の力と表現すれば、(4)式をそのまま適応することが出来る。

 この結果、動力車の駆動力F1は、駆動力ではなくて、図とは反対方向に作用するブレーキ力、あるいは制動力として作用しなければ、力の釣り合い取れない。 自動車で坂を下り場合に、エンジンブレーキが必要となる状態と同じである。 そして、駆動力F1が制動力として作用している場合は、マイナス方向の力と考えれば、(4)式をそのまま適応することが出来る。

 これらの力関係は、θの値や抵抗力R2値の大きさによって左右されるのは当然である。 このため、θの値が小さく、抵抗力R2値が大きい場合には、駆動力F1は駆動側であったり、制動側であったりと変化するものと思われ、条件によって複雑な変化をするものと思われる。