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鉄道模型工学概論 動力特性の基本式 減速機

§1.3  減速機

 次に車両内部の機構に目を向けよう。 Nゲージ模型では、一般的にDCモータとウオームギヤによる減速機構を採用している。 また、モータ軸をモータの両側から取り出したり、歯車を色々組合わせて、複数の車輪で駆動出来るように工夫されている。 しかし、動力性能を考える場合には、これらを単純化して、ひとつの動輪に集約して考えることにする。

 モータの回転トルクを Tm 、回転数を Nm とする。また、動輪における回転トルクを Td 、回転数をNd とする。 ウオームギヤ部や途中の歯車部を含めて、モータ軸と動輪軸間の減速比を i とすると、

      

 つぎに、トルク損失については、取付こじれ、伝達部の歯車の摩擦、蒸気機関車ではロッド類の摩擦抵抗など、 いろいろ考えられるが、機械的な摩擦等による一定の損失トルクと共に、回転速度に比例する損失項も考慮することにする。 当初は一定の損失だけを考慮して式を構築してきたが、測定データが蓄積されてくると、どうも速度項も関与している傾向を示しているからである。

 そこで、モータ軸と駆動輪の周りに速度項が関与する損失項をそれぞれ設定する。 即ち、モータ軸回りの速度に比例する損失係数をλm、駆動輪回りの速度に比例する損失係数をλdとすると、トルク損失は、

   

となる。 ここで、モータ軸回りか駆動軸回りかは、構造上から厳密に定義するものではなく、測定上、ギヤ比 i を境にしてどちら側に含めて考えるとデータが整理しやすいかを考慮して設定すれば良いと考える。

  

 また、トルクや力に応じてこれらの損失抵抗も比例する場合もあるが、それらは主にウォームギヤ部で発生すると推察し、ギヤ効率に含まれるとしてその効率を考慮することにする。 すなわち、モータの回転トルクを Tm 、ギヤ部のギヤ効率を η とすると、駆動輪の回転トルク Td は、

       

となる。

 動輪が発揮する回転トルク Td は、レール面との接触による粘着力により、駆動力 F1 として作用することになる。 動輪の直径を D とすると、

     

となる。 

 また、車両の車速を V とすると、駆動輪の回転数 Nd との関係は、

     

となる。 ここでは、車輪とレールとの間のスリップ率は考慮していない。 この式を(5)式に代入すると、

     

となる。

 

 ≪動輪からモータを駆動する場合≫

 ここまでは、モータから駆動した場合を考えているが、次に動輪からモータを駆動する場合を考えてみる。 §1.2でも記述したように、制動力が働く場合に相当する。

 電車や電気機関車、あるいは電気自動車などでは、車輪からモータを駆動させ、モータを発電機として使用して電気ブレーキ、 あるいは回生ブレーキとして作用させている。 しかし、鉄道模型の場合、減速機としてウオームギヤを採用しているため、逆から回すことが出来ない。 逆効率がゼロなのである。 このため、車輪から回そうとしてもロックして回転させる事ができないのである。 鉄道模型にとって、このことがメリットであったり、デメリットでもある。

 ここで、ウオームギヤの接触面における状態を見てみよう。
 図4の(A)の状態 が通常の回転状態である。 ウオームが左回転すると歯面はウオームの軸方向を図の右方向に進み、接触面を押しながらホイールを右回転させる。 ホイールに負荷がかかっている場合には、常にウオームから押されているため、 接触している歯面は離れることはない。
 図の(B)の状態 はこの逆の場合を図示したものである。 ホイールは車輪からの回転トルクによって回転方向に回ろうとするが、ウオームの歯面が邪魔して回転できない。 この力がウオームを回す力となれば逆方向からの回転が可能となるのであるが、一般には摩擦力によってロックされてしまいう。 これはネジが緩まないのと同じ原理である。 しかし、ウオームはモータによって回されているから、モータの回転トルクによって回転することが出来る。 ウオームの回転によって歯面は右方向に移動するのでホイールも右回転することができ、ホイールは力を保持しながら回っていることになる。

 すなわち、(A)の状態は力で押しながら前に進む状態であり、(B)の状態は力を保持しながら後に下がっている状態であると言える。 そして、(B)の状態でのモータの回転トルクは、歯面の摩擦抵抗に打勝つだけのトルクで充分であり、ホイールに掛かる大きな制動力に対抗する必要はない。 とは言っても歯面の摩擦抵抗はホイールのトルクに比例するので、何割かは関係するものと思われる。 そして、力の関係式である(6)あるいは(7)は成立せず、新たな関係式を検討しなければならない。

 また、(B)の場合、ホイールの摩擦、例えば図3の Rd が大きくなると、 回転が止まってしまい(A)の状態に移行してしまう。 すると、モータのトルクで回転することになる。 即ち、(A)と(B)を行ったり来たりすることになり、動きがギクシャクしたものとなる恐れがある。

 即ち、車輪が駆動状態にあるときは、(A)の状態を保って回転するが、 制動状態にあるときは、(A)と(B)を行ったり来たりする状態が発生することがある。 ある程度の大きさの制動状態にあるときは、(B)で回転すると考えられるが、運動としては不安定な状態である。 このような動きについて、模型歴3年目の小生にとっては経験不足であり、実際の模型で観察しなければ本当かどうかはわからないと考えている。

 

   余談集 1) 鉄道模型におけるウオームギヤ減速機構のメリットとデメリット