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鉄道模型工学概論 動力特性の基本式 モータ特性

§1.4 モータ特性

 動力源となっているモータの特性を考える。  鉄道模型用のモータは一般的にDCマグネットモータが採用されている。 その特性の例として、図5に示す。 横軸にトルク、縦軸に回転数や電流を示し、トルクと回転数は電圧をパラメータにして表示している。

 特徴的なことは、特性が直線的であること、ゼロスタートできること、また、トルクと回転数の関係は、垂下特性と言われている右下がりの関係にあることである。 そして、そのレベルは電圧によってコントロールすることができることである。

 

【特徴1】 特性が直線的であること。

 このことは、特性を考える上で、解かりやすく、かつ制御がしやすい利点がある。 特に、電圧と比例しているため、コントローラのつまみを回すことにより、モータのスピードを滑らかに速くすること、即ち、鉄道模型の速度調整がスムースにできる事を示している。

 

【特徴2】 ゼロスタートができること。

 電圧をゼロにしているとモータは止まっている。 ここから少しずつ電圧をあげると、モータはゆっくりと動き出す。 これは内燃機関と電気モータとの違いであり、 例えば自動車と電車の違いとを考えると理解しやすいと思う。 自動車では、はじめにスタータでエンジンを回しておき、 クラッチをつなげて発進する動作が必要である。 また、停車中もアイドリング状態でエンジンを回しておかなければならないのである。 これは、内燃機関がゼロスタート出来ないからである。

 

【特徴3】 トルクと回転数の関係が逆比例していること。

 このことは、内燃機関との大きな違いのひとつに挙げられる。 図6は、自動車用エンジンの性能曲線図の一例であるが、軸トルクと回転数の関係は、ほぼフラットである。 多少は凸凹しているが、回転数を変化させても、トルクは比例していない。 内燃機関の出す力は、ガソリンの爆発圧力をピストンの受圧面積で受け、クランクによって回転トルクに変換している。 即ち、回転数には基本的に関係無いのである。

 また、このエンジン特性のグラフは、一般的に、フルスロットルの状態での性能を示しておりで、燃料を最大に供給している状態である。 スロットルを半分に絞ると、トルクは燃料の供給量に比例しておよそ半分になる。 しかも特性の形はほとんど変化せず、縮小された形となる。

 一方電気モータにおいては、種類によっていろいろな特性を持っているが、DCモータにおいては図5のように、 回転数があがるとトルクは低下する。 低速回転になるほど大きなトルクを発生することができる。 これは、モータ内部で発生する逆起電力の影響だそうである。

(注記)モータ屋さんが使用する特性線図は、横軸をトルクに取っています。  しかし、自動車屋や鉄道屋さんの使用する特性線図は、横軸に速度系の特性(回転数、車速など)を持ってきています。それぞれ理由があるようであるが、自分も交通工学系の慣例に従って、横軸を速度系にとって説明していきます。

 この違いの意味は意外と大きいと思われる。 自動車や電車などは、スタートから加速するときに大きな牽引力(トルク)を必要とする。 これは、重い車両を加速させるために必要な力である。 だんだんスピードが上げ、一定の速度に達するとこの加速力は不要となるが、 こんどは空気抵抗や路面抵抗が上がってくるものの、それほど大きな力は必要としない。 従って、このモータの特性は、願ってもない使いやすい特性なのである。

 内燃機関の場合、この欠点を補うため、変速機が必要となってくるのである。 ギヤ比の異なる幾つかの減速機構を順次切替て、ロー、セカンド、トップといった様に切替えていく “ 変速機 ” が必要なのである。 代表的な特性を図7に示す。

 昔は、クラッチと変速レバーとドライバーの技能を必要としたマニュアル・トランスミッションしか無かったが、 今では、オートマチックやCVTなど、自動的に変速する機器が発達した。 しかし、変速機が必要であることは変わりない。

 一方、電気モータを使用する場合には、モータの特性をマッチさせる “ 減速機構 ” はあるが、 “ 変速機構 ” は必要ないのである。 これによって、電車の駆動機構は簡素になり、新幹線のように各車軸毎にモータを付けて大馬力を発揮させる芸当が可能なのである。

  余談集2) 蒸気機関車SLの場合はどうなのでしょうか。?

  余談集3) 電車では、自動車の変速ギヤのように、
         ノッチで制御しているではないか?

 

 実際の電車のモータと、模型用電車のモータには、重要な違いがあります。 同じ直流用モータながら直巻式モータと分巻式モータでの特性の違いです。 この違いについては後で述べることにします。

 話がそれましたが、モータの特性を見て見ましょう。 自分は機械屋なので電気のことは詳しくありません。 このため、いろいろな解説本を参考にしてまとめてみた。

 基本特性として、モータトルクを Tm 、コイル電流を I 、トルク定数を Kt とすると、
    
で示される。 即ち、モータのトルクはコイル電流に比例し、直接的には外部電圧には依存しないのである。

 次に、逆起電力を e 、回転数を Nm 、逆起電力定数を Ke とすると、
    
となる。 トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke は、同じ性質の係数で、Si単位で表示すると同じ値になるとのこと。
 また、外部電圧を E 、巻線抵抗を Ra 、ブラシ接触部の電圧降下を Eb とすると、
    
そこで、式(14)に式(11)(12)を代入して整理すると、
    
となる。 この式を変形して回転数 Nm を求める式にすると、
    
となる。 この式より、モータの回転数 Nm はトルク Tm に逆比例し、電圧 E には比例することが分かる。Y 切片、即ち、Tm ゼロのときはモータが空転している時で、最高回転数にて回転することを示している。 また、モータ回転数 Nm=0 のときは、モータがストール状態であり、最大トルクを発揮している。

 

 ここで、モータ屋から“車”屋に立場をかえて、X軸とY軸を交換する。 即ち、
    

となる。

 

  この式で表わされるトルク・回転数の関係をグラフに示すと図8の様になる。

 モータ回転数が Nm=0 、即ちストール状態のときは最大トルク Kt(E-Eb)/Ra であり、 Tm ゼロのとき、即ちモータが空転しているときは、最高回転数 (E - Eb)/Ke にて回転することを示している。

 そして、電圧Eの大小によって、特性線図は左右に移動することが分かる。

 また、この式(15)は、 Tm や Nm の正負にかかわらず成立するので、図8に示すように座標の他の象限とも連続性を保っている。そして、トルクと回転数の方向によって、次の4っつの状態に分類される。

 第1象限: 正転のモータ領域
 第2象限: 逆転の発電領域
 第3象限: 逆転のモータ領域
 第4象限: 正転の発電領域 

 ただし、この特性はモータ自身の特性であり、供給される電圧と電流については、その電気回路の特性に制約される。 例えば乾電池による電圧供給の場合、電圧は一定でもバッテリーのように充電出来ないので、一定電圧での発電状態は維持できないのではないか?
   (メカ屋の小生には、よく分からないが、どうなるのでしょうね。)