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鉄道模型実験室   2モータ式EH10 の不調原因をさぐる

 

■ はじめに

 2011年2月、名古屋の鉄道フェスタ2011でマイクロの EH10 型電気機関車の中古品を入手した。 EH10 はKATO製を4台も買って、3台潰してしまっているので、もう要らないと思いつつも、2モータ式であることに興味を持ってしまって、ついに手が出てしまった。

 早速レイアウト上で走らせて見ると、様子がおかしい。 例のギクシャク運転である。 連結部を外して走らせると前車はスイスイと走っていくも、後車はもたもたと走っている。

 不良品に当たったと一瞬思ったが、すぐにピンと来た。 重連問題の恰好の実験材料であること、後車はどこかの摩擦抵抗が大きいために、遅くなっており、原因を突き詰めれば手直し可能かも知れないと思った。 走行後、後車を手で触ってみると、ほんのりと暖かい。 モータが発熱しているのだ。

 そこで、重連問題としての観点から特性を測定し、原因の探求と手直し後の改善状態をここに報告する。

 

 

■ 車両特性の測定

 不具合状態を把握するため、前車(1エンド側)と後車(2エンド側)を単独で走行させ、その後、お互いを連結させた状態でも測定した。 マイクロのEH10 は、それぞれの車両にモータを持っており、専用のカプラーでしっかりと連結されている。 これは、いわゆる「重連状態」と同じである。

 まず、単機走行状態での特性を測定した。 その測定結果を右に示す。

 車速・電圧特性で示すように、後車がおよそ 30Km/h 遅くなっている。 連結状態でも、後車に引きずられてその速度で走っている。 消費電流は、明らかに後車の方が大きいし、連結状態では、前車と後車の合計値よりも大きくなっている。 前車と後車は、寸法や構造は全く同じである。 同じ性能であるべきものであるのに、この違いはなにか?

 

 次の、牽引力特性を調べてみた。 電圧は E = 5.0 Volt 一定状態で測定した。

 前車と後車の牽引力は、約30Km/hの差で左右にずれている事が分かる。 また、連結時の牽引力・車速特性を見ると、特異な線図を示している事が分かる。 しかし、“重連特性を考える” の重連時の牽引力・車速特性図に示した特徴と照らし合わせると、重連時の特徴を明確に示している事が分かる。 牽引力の小さい領域、即ち、80Km/h の近辺で、前車と後車がお互いに引張やっこをして走行しており、前車は粘着限界に近い状態であり、後車は制動領域での走行となっている。 その状態は、+10 グラムから -10 グラムの範囲で発生しており、さらに、消費電流は、前車と後車を加算したものよりもさらに大きな電流を食っていることが分かる。 真中あたりで右に膨らんでいるのだ。 外から見ると牽引力はゼロか小さな値なのに、内部では引張やっこして電流を無駄に消費していることを電流値からも証明している。  前車が引張役を、後車がブレーキ役としてお互いに喧嘩しながら走っているのである。

 この状態が、速度の異なる二つの車両の重連運転状態と言える。

 

■ 分解調査と手直し

 問題の後車を分解して見た。 分解途中もモータを回転させ、その電流値を見ながら実施した。 台車のこじれや、ギヤ部の不良などが考えられるからである。 しかし、モータ単品状態にしても、電流値は大きいままだった。 即ち、原因はモータにある事を突き止めた。

 モータ単品でも電流が大きい事は、モータの軸回りのこじれや、ブラシの折損などが考えられる。 あるいは電気系統かも知れない。 そこで、勇気をもってモータを少しばらしてみた。

 モータの分解:

  

 まず、両側のブラシを取り外しブラシをチェックするも異常なし。 次にハウジングと軸受部を結合している4ヶ所の爪をマイナスドライバで起こし、ウォームがあるので完全には取りだせないが、軸受部が自由に動けるようにした。

 ブラシを再び組み付け、この軸受部軽く手で押さえた状態でモータを回してみると、軽く動くではないか! 電流も前車の状態と同程度の値で回転している。 やはり、モータ軸のこじれが原因であると特定した。

 爪をゆるい状態にして組み付けてみるのだが、電流値はすぐに上昇してしまうので、製品の精度が微妙に狂っているようである。 そこで強引に軸受けの当たりを付けることにした。

 そこで、当たりをつける研磨剤として、タミヤのコンパウンド(仕上げ目)を持ち出した。 両側の軸部に少量塗布し、軸をスライドさせて軸受内部にしみ込むようにする。 爪は起こした状態にすると軸受部がスライドできる。 再びブラシを組み付け、電流を流してモータを回転させる。 このときに電流値も見ながら作業した。 その時の装置は右の写真の通りで、ここでも電流・電圧測定装置は活躍している。

 最初はあまり効果が無かったが、コンパウンドの塗布作業を繰り返す事3回目で、その効果が出てきた。 爪をしっかりかしめても、電流値は正常品(前車のモータ)並みに仕上げることが出来た。  やったー・・・・・・・・・作戦大成功 !

 外にはみさしたコンパウンドをふきとり、軸受部にオイルを垂らして仕上げとした。 コンパウンドが多少残っていても良しとした。 モータの回転方向に注意しながら再組付けを実施し、走行テストを実施する。 スタートからスムーズで軽やかに走っており、車両も嬉しそうな顔をしているように見えた。

 

再度特性を測定した結果を次に示す。

 速度特性は、前車、後車、連結状態ともピッタリ一致したデータを示している。 電流値では、前車がやや高いのは前照灯が点灯しているためと推察すれば、同一と判断される。 連結時では、その合計値とピッタリと一致している。

 次に牽引力特性を見てみよう。 電圧は、スケールスピードが80Km/h となる E = 4.0 Volt で測定した。

 速度や電流との関係を見ても、測定した自分自身が、ほれぼれとするデータを示してくれた。 前車と後車はほとんど同じ値を示し、連結時にはその合算状態を示している。 電流の膨らみも無い。 引張やっこは無さそうである。

 

  これはまさに理想的な重連状態である。

 前車の制動領域に原因不明のやや乱れがあり、改善の余地がありそうであるが、その影響は少ないようである。

 なお、牽引力がやや小さ目なのは、車体重量が 51 グラムと軽いからである。 シャシーは亜鉛ダイカストで作られているものの、隙間が多いのが要因である。 でも連結状態で牽引力が35グラムもあれば、一般的には充分である。

 

■ まとめ

  1. 今回入手したマイクロのEH10 は、一方の車両においてモータ軸がこじれており、この抵抗により消費電流が増加すると共に、回転速度が遅くなっていた。 さらにその影響は重連状態の前車にも影響を与え、速度不一致による前車と後車間の引張やっこによって前車に余分な負担がかかり、さらに余分な電流を消費させるとともに、その運転状態を不安定にさせていた。
  2. こじれを発生していたモータ軸の軸受け部において、当たりを付けることにより抵抗を低減させると、前車と後車の速度特性はピッタリと一致し、牽引力の干渉もなくなり、連結状態での円滑な運転をもたらした。 さらに、電力の余分な消費を抑えることも出来た。
  3. この様な2モータ式の連結車については、前車と後車の連結を外して一緒に単機走行させ、その速度差を観察すれば容易にその良し悪しが判断できる。
  4. 今回は、前車と後車が全く同じ構造である車両が2両有ったため、それぞれを比較することによって不具合原因を解明することで出来たことはラッキーであった。 もし、車両が1台の場合や、特性が異なる車両の場合には、何が正常かを判断するのが難しい。 電流が一般的な値よりも大きい場合には容易に判断できるが、モータ仕様によっては正常値かも知れないのである。 今回のように、モータをばらしてみなければ最終的には判断できないかも知れない。 一つの方法として、走行後の車体を触ってみて、その温度が高くなっているかどうかで判断するしかないであろう。
  5. 今回の不具合は使用中に悪化したとは思えない。 出荷時からの不具合であったと推定する。 中古品なので、メーカでの検査ミスなのか、手抜きなのか、あるいは不合格品の横流しなのかは判らない。 自分としては修理することが出来たので、実験と工作を楽しませてもらったと共に、安い買い物をしたと喜んでいる。
  6. 今回の調査で、正常な重連状態と不具合のある状態の比較をする事が出来た。 まさに我が屁理屈の通りであり、意を強くした次第である。

 

■ 今後の予定

 このマイクロのEH10は、KATOのEH10(品番:3005-1)と同様に、R140mm のミニカーブでは連結部の制約で脱線してしまう。 このため、修理出来たとしても使い道が限られている。 そこで、当初の予定どおりS系車両用の動力台車として活用しようかとも思っているが、迷っているのである。 ショーティ化するなら、その候補の一つが「カシ釜」なのだ。

 なんと、そのボディーとカプラーセットは既に入手しているのだ。 カシオペアのBトレはまだ発売されていない様だし、何時発売されるのかも分からない。 機関車だけ作っても意味ないし・・・・・と思っている時、RM MODELS 188号にコンテナ列車の特集が出ており、その中で、「カシ釜」がコンテナ列車を牽引している記事が出ていた。 コンテナ牽引もありなのだ。 でも、ショーティ化するには屋根が複雑そうだし、切断場所と星の位置の問題もあるし・・・・・・・・。

 どうしようかな?