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鉄道模型実験室   C56の動力特性を調べる

 

 2012年10月末に、KATOより小型蒸気機関車のC56が新規発売された。 最新技術が詰め込まれた評判の機種とのことで、ミニレイアウトでSLを走らせている小生としても、見逃せない車両であった。 今回、苦しい財政事情の中で、奮発して2台も購入してしまった。 MOCRO製と合わせて4台となったC56の動力特性を比較してみよう。 形状の比較や内部構造については、既に他のサイトで報告されているので、ここではまず牽引力などの測定結果を報告しよう。


 左から MOCRO の C56-125、 C56-160、 KATO の C56-144、 C56-149 である。

車番 C56-125 C56-160 C56-144 C56-149
メーカ  MICRO ACE  MICRO ACE  KATO  KATO
品番  A6302  A6308  2020-1  2020-1
入手日  2010年2月21日 新品入手
 2007年7月24日 新品購入
 2012年11月2日 新品購入  2012年11月1日 新品購入
全重量  62.9 グラム  62.0 グラム  46.1 グラム  46.1 グラム
機関部重量  42.8 グラム  42.3 グラム  30.4 グラム  30.5 グラム
測定電源  N-1001-CL  N-1001-CL  N-401とダミーのモータ  N-401とダミーのモータ

 

■ 動力特性の測定方法

 動力特性の測定は、いつもの傾斜式測定装置を使用した。 但し、傾斜リフト部をネジ式に改造して測定している。 また、今回トライした工夫として、供給電源回路にダミーのモータを並列に挿入し、コアレスモータの電源変動を少しでも押さえて測定中の電源安定の対策としたが、多少は効果が有ったようである。 このダミーのモータは電気機関車に使用されていたKATO製のフライホイール付きモータを無負荷で使用している。 しかし、電源電圧を一定値に保持しながら負荷状態を変化させることは、電圧保持がなかなか難しく、どうしてもデータがバラツイてしまうのである。 この辺の事情は「KATO C62 2 とパルス制御式パワーパック 」にて説明しているので参考にして下さい。 尚、このダミーのモータの使用はMICRO製の車両測定には使用していません。

 

 

■ 速度特性の測定

 単機平坦路走行での車速・電圧特性、および電流・電圧特性を測定し、そのグラフを下に示す。 まず KATO 製のC56 の特徴として、コアレスモータ採用により、その消費電流が非常にい小さい事が挙げられる。 そして、微低速での走行が可能であることも特徴と言えるであろう。

 

車番 C56-125 C56-160 C56-144 C56-149
速度勾配 30.0 27.0 15.7 15.9
走り出し電圧 約 2.3 ボルト 約 2.5 ボルト 約 1 ボルト 約 2.5 ボルト
走り出し車速 約 25 Km/h 約 30 Km/h 約 10 Km/h 約 15 Km/h

 まず車速・電圧特性より、電圧の低い時の走行具合とその後の増速具合をみることによって、その車両の使い勝手を知ることが出来る。

 MICRO製のC56は、今までの一般的なSLと同様に、2.5ボルト近くから走り出し、そのまま急速に速度を上げて行く。 なお、速度を下げてきた場合には、かなり低速まで走行可能であるので、グラフ上ではそのデータもプロットされていること。 また、走り出し速度の測定は、停車状態から徐々に電圧を上げて行くのですがバラつきも大きいため、走り出しのデータはあまり厳密ではありません。

 一方、今回のKATO 製のC56-144号機は、1ボルト近くからゆっくりと走り出し、7ボルトに達してやっとスケール速度100Km/h に達している。 速度と電圧の関係を示す速度勾配がMICRO製のおよそ半分であるので、速度調整がゆるかになっている。 これによって、小型蒸気機関車のゆったりとした走行性能を醸し出しているようである。

 但し、 KATO 製のもう一台のC56-149号機は、2ボルトを超えてから動き出しているが、その走り出し速度と、その後の増速具合はC56-144号機と同じ傾向である。 グラフ上は、電圧が横にずれて表れている。 しかし、コントローラのダイヤルを回して行く時、電圧計を見ているわけではないので、その違いには気が付かないであろう。 原因は動力機構の摩擦抵抗が異なっているものと思われる。 電流値のデータでも摩擦抵抗の増加によって電流が大きくなっていることが判る。 このC56-144号機が良品と考えると、C56-149号機は外れ品と見る事が出来るが、並列走行や重連をさせない限り不具合は感じられない。 このため、合格品として出荷されたのであろう。

 電流・電圧特性より、消費電流見ることが出来るが、KATO 製のコアレスモータ採用品の消費電流の少なさが一目了然である。 省エネと言えばカッコ良いが、これによるメリットはあまり感じないのだが・・・・・・・・・。 尚、この車両は前哨灯を点灯しての電流値であるので、モータの消費電流はさらに小さいと見れるであろう。

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 次に牽引力特性を見て行こう。 この牽引力特性は、ひとつのグラフにする事が困難であるので、各車両毎に説明し、最後に5ボルト時の状態を比較してみよう。

◆ C56-144 の牽引力特性

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 まず、KATO 製のC56-144号機の特性を測定した。

 パワーユニットの出力可能な電流値に比べて、車両の消費電流が少ないので、安定した電圧で供給出来るのかと思っていたが、大間違いであった。 電流のふらつきは勿論、負荷によって電圧もかなり変化するので、四苦八苦した。 この結果は、下に示すグラフにも現れている。 プロット点がバラバラしているのは、走行状態がギクシャクしている訳ではなく、電圧を一定値に保とうとコントローラのダイヤルを微妙にいじっているからである。

 さて、牽引力・車速特性から、粘着領域の牽引力は約9グラム程度と読み取れるる。 小型蒸気機関車として、妥当な性能であろう。 牽引力と速度の勾配から推察すると、モータのトルクはまだまだ余裕が有りあそうであるので、動輪の粘着摩擦力を増やせば牽引力はさらに大きく出来る事を示している。 しかし、そのためには重量アップか、トラクションタイヤの増設が必要であるか、実行不可能の様である。

 また、牽引力・電流特性からウォームギヤに掛る力が逆転する遷移点を読み取ると、2〜3グラムであり、ロッド系の摩擦抵抗も小さいものと思われる。

 

 

◆ C56-149 の牽引力特性

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 次に、KATO 製のC56-149号機の特性を測定した。 傾向としては、144号機と同じであるが、特異な電流特性を示している。

 

 粘着領域の牽引力は、やはり約9グラム程度と読み取れ、遷移点も2〜3グラムであり、144号機と同等と言えるであろう。

 しかし、電流特性は趣きを異にしている。 4〜7Volt のデータを示した下のグラフでは良く分からないので、5Volt のデータだけを右に示してみた。 駆動側と制動側に断層が生じているのである。 単機平坦路走行での特性より、消費電流が大きい事は読み取れているが、さらに不思議な現象が発生している様である。 駆動側だけ内部の摩擦抵抗が大きいのではないかと推察すのだが、ウォーム軸の支持方法に何か原因が有りそうである。 分解調査が楽しみであるが、電気機関車でトライ中の調査方法を、蒸気機関車に応用するには、まだ時間が掛りそうである。 今後の研究テーマとしよう。

 

 

◆ C56-125 の牽引力特性

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 次に、MICRO ACE 製のC56-125 号機の特性を測定した。

 この車両は従来型の一般的な直流マグネットモータを搭載しているので、牽引力・車速特性は見慣れている様相を示しているが、牽引力の速度に対する勾配は、電圧によって変化しており、電気機関車などの今までの経験とは異なっているので、注目しておく必要がある。 さらに、粘着領域の牽引力は、14〜19グラムと電圧によって変化しており、解せない現象である。 これらの要因調査も今後の研究テーマとなり得る。

 また、KATO 製のC56 と比較して、機関部の重量比(1.4倍)以上の牽引力を発揮しているのは、トラクションゴムの配置が影響しているのだろうか。 

 次に、牽引力・電流特性を見て見ると、遷移点は7グラム付近で、KATO 製よりも大きいのはリンク系の摩擦が大きいのではないかと推察する。 また、電圧が変化しても電流値が殆んど変化しないのは、なぜ? 下にしめすC56-160 号機と異なっているので、個体差のようであるが。 前記の平坦路単機走行での電流・電圧を見ると、特性が山形になっており、4〜7ボルトの間では変化が小さくなっているのも、プロット点が重なってしまった現象と符合する。 これも研究テーマか。

 

 

◆ C56-160 の牽引力特性

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 最後に、MICRO ACE 製のC56-160 号機の特性を測定した。

 特性は、125号機と同じ様であるが、牽引力・電流特性では電圧によって電流値が変化しており、個体差が表れている。 また、4と5ボルトの粘着領域での牽引力のパターンが少しことなっているが、測定後に片方のトラクションタイヤが外れていたのを発見する。 測定データを採用するためには、どこに影響するのか解明するのが本当であるのだが、面倒なのでパスしてそのままのデータを記載している。 横着なり。 その後、ゴムがゆるゆるだったので、車輪の溝にゴム系接着剤を付け、6と7ボルトを測定したがトラクションタイヤの外れは発生しなかった。 KATO か TOMIX の部品で代用しても良かったかも知れない。

 

◆ 牽引力特性の比較

 供給電圧が5Volt の場合について、4台のC56を比較してみよう。

 

 それぞれの個体差はあるが、KATO 製とMICRO ACE 製は大きく異なっていることが判る。 粘着領域での牽引力はMICRO 製が1.5倍と大きいが、速度は2倍近くも早く、両車を同時に走らせる「重連」は無理であることが判る。

 もし重連させた場合には、両車の牽引力の合計が総合的な牽引力となる。 例えば負荷車両が無い場合、両車の合計の牽引力がゼロになる点の速度で走ることになるので、およそ 80Km/h で走行することになるだろう。 そして、 MICRO 製が10 グラムの牽引力を出し、KATO 製がマイナスの10グラム、即ちブレーキ力を発揮して抵抗するであろう。 この時のKATO 製のC56はスリップ状態であり、前補機に居たら後ろから押されているだろうし、本務機であれば引っ張れているであろう。 動輪がスリップ状態で走っているので、ギクシャク運転やポイントでの脱線などを覚悟しておく必要がある。 負荷が増えると状況は少しずつ改善されるが、あまり期待できないであろう。

 この時の電流値は、お互いが引張やっこをしているので、引張やっこのための200mA以上の電流が無駄に消費され、モータの発熱となって表れるであろう。 どうしても重連させたければ、一方のモータを取り外すのが賢明と言える。