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鉄道模型 動力車の調査   コアレスモータを搭載したKATO製のSLシリーズ

■ はじめに

 「新解析法の修正」(2018/8/5)にて報告した方法で、 KATO製コアレスモータを搭載した蒸気機関車のシリーズを、修正した計算モデルとEXCELの解析シートを使用して解析してきた。 そして、色々な観点からその結果をまとめてみた。

 

■ 解析した個別データ

 個別調査の結果については、個々の調査ページを設け、そのリストを「動力車の調査」に掲載していますので参照ください。 解析時の説明については、「KATO製 C12-42号機の動力特性の解析 解析説明付き」で説明していますので合わせて参考にして下さい。

◆ 諸元関係の定数一覧

 寸法等の諸元に関する定数を下記に示す。 mは歯車のモジュールを、Zは歯車の歯数を示す。 また減速ギヤ比については、「減速」はウォーム軸と動輪軸間の減速比を、「歯車」はホイール歯車と動輪歯車間の減速比を示す。

車両番号 品番 品名 ウォーム ホイール アイドラギヤ歯数 動輪 減速ギヤ比 ねじれ角 重量 グラム
m 外径 条数 大Z 小Z m 1 2 Z 直径 減速 歯車 tanβ deg 動輪 全重量
C56-149
2020-1 C56小海線
0.30
5.30
2
23
11
0.25
25
34
29
9.2
30.32
2.64
0.1277
7.28
27.9
46.1
C56-144
2020-1 C56小海線
0.30
5.30
2
23
11
0.25
25
34
29
9.2
30.32
2.64
0.1277
7.28
28.1
46.0
C50-21
2027 C50
0.30
5.25
2
26
11
0.25
21
34
29
10.6
34.27
2.64
0.1290
7.35
28.4
48.2
C12-42
2022-1 C12
0.30
5.10
2
23
11
0.25
25
34
29
9.1
30.32
2.64
0.1333
7.59
30.6
42.1
C12-46
2022-1 C12
0.30
5.10
2
23
11
0.25
25
34
29
9.1
30.32
2.64
0.1333
7.59
30.8
42.2
C11-174
2021 C11
0.30
5.25
2
26
11
0.25
21
34
29
10.1
34.27
2.64
0.1290
7.35
39.2
47.7
C57-33
2024 C57 1次形
0.30
4.70
2
23
11
0.25
25
25
36
11.4
37.64
3.27
0.1463
8.33
47.0
68.9
C57-195
2023 C57 4次形
0.30
4.70
2
23
11
0.25
25
25
36
11.3
37.64
3.27
0.1463
8.33
48.6
67.2
D51-498A
2016-1 D51 498
0.30
4.70
1
21
14
0.30
20
*
20
9.2
30.00
1.43
0.0732
4.18
50.1
73.7
C59-123
2026-1 C59 戦後形
0.30
4.70
2
23
11
0.25
25
25
36
11.4
37.64
3.27
0.1463
8.33
58.8
81.3
C62-2B
2017-2 C62 2北海道形
0.30
4.65
1
21
14
0.30
20
*
20
11.4
30.00
1.43
0.0741
4.24
63.4
87.7

 

◆ 測定データを解析して得られた定数

 個別調査の結果得られた定数を一覧表にした。

車両番号 ウォーム軸速度項 動輪軸速度項 電圧降下 見かけの摩擦係数μo スリップ率モデル式 駆動側 スリップ率モデル式 制動側
Rw λw Rd λd 表歯面 裏歯面 k p q a n k p q a n
C56-149
0.25 0.000020 17.0 0.003000 0.125 0.2290 0.1071 -0.00060 0.60 -0.01 0.10 3 0.0022 0.47 -0.01 0 2
C56-144
0.30 0.000010 8.0 0.012000 0.050 0.2568 0.1537 -0.00070 0.49 0.00 0.20 3 0.0022 0.40 -0.015 0 2
C50-21
0.10 0.000050 24.0 0.000020 0.125 0.2214 0.0955 -0.00070 0.49 -0.01 0.05 3 0.0017 0.42 -0.01 0 2
C12-42
0.50 0.000040 6.0 0.020000 0.140 0.1878 0.1269 -0.00008 0.41 0.00 0.20 3 0.0022 0.36 -0.02 0 2
C12-46
0.42 0.000040 11.0 0.002000 0.418 0.3080 0.0660 -0.00070 0.43 0.00 0.20 3 0.0022 0.38 -0.015 0 2
C11-174
0.50 0.000066 16.0 0.002000 0.069 0.3087 0.1365 -0.00060 0.52 0.00 0.05 3 0.0017 0.40 -0.01 0 2
C57-33
0.40 0.000035 28.0 0.000100 0.317 0.4585 0.2451 -0.00060 0.55 0.00 0.05 3 0.0017 0.43 -0.01 0 2
C57-195
-1.50 0.000300 38.0 0.000100 0.482 0.1707 0.1568 -0.00060 0.50 0.00 0.05 3 0.0017 0.44 -0.01 0 2
D51-498A
0.20 0.000050 17.0 0.000500 0.443 0.1969 0.3151 -0.00060 0.58 0.00 0.05 3 0.0017 0.47 -0.01 0 2
C59-123
0.60 0.000050 20.0 0.006000 0.247 0.2106 0.1806 -0.00090 0.53 0.00 0.05 3 0.0020 0.39 -0.01 0 2
C62-2B
0.80 0.000100 18.0 0.025000 0.275 0.1282 0.1337 -0.00060 0.47 0.01 0.05 3 0.0017 0.41 -0.02 0 2

 

■ 考察

 データの一覧表だけではその特徴を掴むのが難しいため、グラフに表示してみたが、適切の表示方法を模索中である。 グラフから容易に見つけられる特徴はあるものの、なかなか把握できない項目もあった。

 

◆ 電圧降下量について

 レールから給電されてモータ端子までに発生した電圧降下量は、その特徴や傾向を掴むことが出来なかったので全データの平均値を取って電圧降下量としている。

 その値を右のグラフに示す。 但し、測定データのバラツキが大きいので意味が無い平均値であるが、バッサリと判断して電圧降下量が多いのか少なないのかなどの、大、中、小のレベルで判断してください。

 

◆ 摩擦損失の速度項について

 モータが発生した力は、動輪の駆動力までに伝達される過程で摩擦による損失によって失われが、その摩擦損失には、今までの調査の結果より、速度あるいは回転数に比例しているものと、伝達する力に比例するものとに分けれることが分かっている。 前者の損失を速度項と呼び、後者の損失を抗力項と呼んで解析を進めてきた。

 ここではまず、速度項について見てみよう。 速度項は、固定項に加えて、回転数と比例するもの、あるいは二乗に比例するものとがあるが、今回は固定項と比例項だけを使って近似させてきた。 さらに、ウォームギヤの接触歯面を境として、モータ側と動輪側に分けて考え、モータ側をウォーム軸速度項とし、動輪側を動輪軸速度項とした。 そしてそれぞれの回転数は、前者をウォーム軸、即ちモータ回転数とし、後者は動輪軸回転数を採用している。

 その固定定数と比例定数の値を上の一覧表に示すが、これをグラフにして下に示す。

 C57-195号機は、ビデオでも紹介したように回転軸が踊っていた問題の個体である。 さらに特性は2次曲線を描いており、1次式で近似させるの無理でもあったのだ。 しかし、この個体だけ特別なのかは未調査なので、今後の課題としておこう。

 上のグラフも見にくいグラフである。 そこで、スケールスピードが 80km/h 程度で走行する時のモータ回転数として10,000rpm 時に限って、その時の摩擦損失を計算してグラフにしてみた。 下左のグラフ。 そして、その時の動輪回転数として300rpm として動輪側の摩擦損失も計算してみた。 下中央のグラフ。

 この二つのがラフを見ていると、両方とも高いものがある一方で、どちらかかが高くなっている個体も見受けられる。 このコアレスモータシリーズは構造は少しずつ異なっているものの、同じような構成であるので同様の傾向と見ていたのであるが、個体差が出ているのである。 同じ品番のC12 とC56 の二つの個体は同じような傾向なので構造の違いの影響も大きいようである。

 そして、もう一工夫してみた。 動輪軸速度項トルクを見かけの摩擦係数を活用してウォーム軸側に換算し、ウォーム軸速度項と合わせてモータ電流に合算して、グラフ化してみた。 上右のグラフ。 モータに供給された電流がトルクとして作用するものの、モータ自身の回転摩擦、ウォーム軸周りの回転摩擦、そして動輪軸周りの回転摩擦によって損失したトルクの比率を表している。

 損失の大きい個体は、動輪周りの損失が大きい傾向があるようだ。

 

◆ 摩擦損失の抗力項について

 摩擦損失の抗力項は、作用した力によって生ずる摩擦抵抗であるので、摩擦係数と同類と考えている。 そして、速度項のように、ウォームの歯面の前後に分けて測定することが出来なかった。 むしろ、歯面に掛かる前後の力の比率、即ち歯面の摩擦係数、それも各軸のスラスト力による軸受け摩擦も含めたどんぶり勘定の見かけの摩擦係数 μo しか計算出来なかったのである。

 しかし、この定数はモータからの力を動輪に伝える伝達機構の効率を決める需要なファクターであり、摩擦係数が小さいほど損失が少ない事を示唆していると考えているのだ。 そこで、ウォームギヤのねじれ角βのtanβと合せて下左にグラフ化してみた。 tanβと合わせて表示させる理由は先の「新解析法の修正」にて紹介したベクトル図を参照してください。

 この見かけの摩擦係数を求めれば、摩擦損失の中の抗力項が容易に求められると漠然と考えていたが、ハタと手が止まってしまった。

速度項と比較できるようにするには損失トルクの具体的な値が必要であるが、どうやった計算するの?             

 ウォームギヤの歯面の摩擦係数にこだわって来たのだが、解析の方向が違っていたようである。 そこで、「車両の静的特性のモデル化と特性解析 その2」や、「C59号機のデータを使っての解析検討」などの、昔の考え方に振り返って検討してみた。 試しに試算した例を下に示す。

● C12-46 号機の場合:

 以前の考え方で求めた摩擦損失の抗力項を下左に示す。 さらにこのグラフの横軸を入力側のt1に変更したのが下右のグラフである。 遷移点前後、即ち表歯面と裏歯面での状態が綺麗に分離され、さらに供給電圧の差、即ち速度の差も吸収して、一直線に並んでしまうのである。 グラフよりこの勾配を求めれば、t1に対する比例定数が容易に求められるのでモデルとしての数式化が簡単に可能である。

 一条ネジのC62-2B 号機の場合でも計算してみた。

 抗力項の実際値を求めるには、この方法で簡単に求められることが分かった。 以前と比べて、速度項の解析具合が向上したので、抗力項の内容も向上したと考えている。 見かけの摩擦係数を求める事は、抗力項の内容を知るうえで無駄ではないので、両方の解析を実施しておくことにする。

 上記の方法での解析は、他の個体でも実施して、その結果を追って報告することにしよう。

 

◆ 動輪のスリップ率モデルについて

 線路と動輪の関係は、モデルや個体によって変化しないであろうとの考えは、もろくも崩れてしまったことは先に報告した。 トラクションタイヤの状態、動輪に掛かる荷重配分などの影響によるもと考えている。 そこで、駆動側について、各個体でのパターンをグラフにしてみた。 下左のグラフ。

      

 多くの個体は中央部に固まっているが、外れていいる個体も見受けられる。 空回り状態に近いスリップ率 0.6 の場合の摩擦係数を計算して右のグラフにしてみた。

 C56-149号機はトラクションタイヤがへたっていたので新品に変えた状態です。 D51も動輪の数が多いので安定しているのかも知れません。 動輪の状態が揃っている電気機関車の場合はどうだろうかと興味が湧きます。 今後注目したいテーマですね。

 

■ まとめ

 遂には自己満足の領域にどっぷりと漬かってしまっている。 一人で鉄道模型工学学会なるものを意識して発表しているようなものである。 でも、財力も知力も乏しい小生にとってはなかなか楽しいホビーなのである。

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  2018/8/12