HOME >> 動力車の調査 >  コアレスモータを搭載したKATO製のSLシリーズ その2

鉄道模型 動力車の調査   コアレスモータを搭載したKATO製のSLシリーズ その2

■ はじめに

 「新解析法の修正」(2018/8/5)にて報告した方法で、 KATO製コアレスモータを搭載した蒸気機関車のシリーズを、修正した計算モデルとEXCELの解析シートを使用して解析してきた。 先回は見かけの摩擦係数を使って解析したが、解析方法に行く詰まってしまったので、考え方を変えて抗力係数に注目して解析を実施した。 その結果の横並び比較として新しくまとめ直してみた。

 

■ 解析した個別データ

 個別調査の結果については、個々の調査ページを設け、そのリストを「動力車の調査」に掲載していますので参照ください。

 

◆ 測定データを解析して得られた定数

 個別調査の結果得られた新しい定数を一覧表にした。

車両番号 ウォーム軸速度項 動輪軸速度項 表歯面 Tk 裏歯面 Tk
Rw λw Rd λd λk Rk λk Rk
C56-149
0.05 0.000020 15.0 0.003000 0.694 -0.014 7.300 0.000
C56-144
0.13 0.000010 7.0 0.012000 0.704 0.023 2.969 0.017
C50-21
0.02 0.000025 25.0 0.000100 0.660 0.059 3.890 0.000
C12-42
0.45 0.000030 5.0 0.020000 0.634 -0.005 4.525 0.000
C12-46
0.25 0.000040 11.0 0.000010 0.702 0.013 -1.421 0.000
C11-174
0.10 0.000070 20.0 0.002000 0.723 -0.009 2.713 0.000
C57-33
0.40 0.000030 28.0 0.000100 0.766 0.036 3.145 -0.481
C57-195
-1.50 0.000290 30.0 0.000500 0.610 0.033 5.990 0.000
D51-498A
0.70 0.000050 7.0 0.030000 0.726 -0.030 1.347 0.015
C59-123
0.50 0.000040 23.0 0.010000 0.600 0.032 2.537 0.000
C62-2B
0.80 0.000100 18.0 0.010000 0.684 -0.114 2.145 0.000

◆ 抗力係数の比較

 これらの数値ではピンとこないので、一目でわかるようにグラフにした。 表歯面の数値を下左のグラフにしめすが、データはほぼ揃っているのでグラフをみても把握できる。 ここで、黄色の棒は1条ウォームのモデルを示しているが、抗力係数としては大差ない。

 しかし、裏歯面の数値は、計算のもとになったグラフに示すように縦軸を近接して展開しているので、縦軸に近づくに従って無限大になってしむのだ。 従って、した中央のグラフでは意味を為さないのである。 そこで、この抗力係数は勾配を示すものであるので、その様子をベクトルとして表示してみた。 下右のグラフ。 すると、1条ウォームのD51とC62 は右の方に位置し、C12-46 を除いた他の個体はほぼ固まっていることが分かる。

 なぜ、 C12-46 だけが飛び出しているのかはまだ未解析である。

◆ 摩擦損失の内容

 次に、摩擦損失の内容について個体毎の比較をグラフ化してみた。  色々な形のグラフを描いてみたが、どれもスッキリとしなかったが、とりあえず下記の形式で表現してみた。 牽引力がゼロの単機走行時と、牽引力が5グラム、10グラムの状態を示す。 いずれも車速は 80Km/h であり、動輪系の速度項についてはギヤ比を考慮して入力軸に換算している。 これは、ギヤ比分だけ小さく表示されていることを示している。 即ち、モータから見ての負荷と言うことになる。

 

 牽引力がゼロの単機走行の場合でも、自分の動輪を回すためやテンダー車を引っ張るための負荷が掛かっているので、抗力項が働いている。 そして牽引する負荷が大きくなるとそれが増加するのは当然である。

 これらのグラフを見ていると、ウォーム軸周りの速度項の影響度合いが極めて小さく、その代わりに抗力項の影響力が大きい事が分かる。

 この抗力項の実態については、まだその中身は未解析である。 車体の重さを支える車軸の回転摩擦の摩擦抵抗が考えられるが、これらはモータにとっては減速ギヤ比分だけ小さくなるので、その影響具合は緩和されるであろう。 その代わり、ウォーム歯車のスラスト力を受けるウォーム軸のスラスト摩擦力の方が大きいのではないかとにらんでいるが・・・・・・・・・・。

 また、同じモデルであるが個体が二つある C12 とC56 について、近似モデルと比較したグラフを右に示す。 ウォーム軸摩擦は同じモデルであればほとんど同じであるのに、抗力項と動輪系の速度項とは違ってきている。 個体毎のバラツキが発生しやすいのは、こちらの影響の様である。

 しかし、下に示す個別のグラフを見てもその違いは全体の様子を変えるほどの違いではなさそうである。

 

■ 考察

 今回の解析は、コアレスモータを搭載したKATO製の蒸気機関車について実施したものである。 他の蒸気機関車は、走行中のモータ回転数の計測が困難であるために手を控えているのだ。 また、以前に測定した電気機関車についてもいくつかのモデルで同様に解析を実施している。 そのデータは、「動力車の調査」に掲載していますので参照ください。 こちらのデータをまとめてみたいのであるが、測定データの追加なども必要とかんがえているので、この作業に少し意欲が萎えているのである。

 

 

 その理由は、現在の測定方法についていろいろな反省点と課題が浮かんできているからである。 例えば、

  1. 解析の基本となるモータ特性の測定と解析は、疑問が残らないように信頼度を上げておくこと。 データのバラツキが小さい事やモデルのマッチングが高いことなど。 理由は、解析中にモータトルクがマイナスになってしまった例が出て来てしまったのだ。 モータのトルクがマイナスと言うことは発電機になってしまっていることなので、電流値からモータトルクを換算するモデル式がアンマッチであることがバレバレなのだ。
  2. モータによっては個体毎のバラツキがあるので、その個体に使われたモータの測定データを使ったモデル式を立てておく必要がある。 ただし、KATO製のコアレスモータは特性が揃っていたので、標準定数が使用出来た。
  3. 車体を一度分解すると、慎重に再組付けをしたとしても元の状態を保つのが難しいようである。 このため、空転特性の調査など、特性解析にはズレを生じてケースがあるので望ましくないようだ。 原因調査には有効であるが、今回の様な解析には、組み付け状態が同じ状態にて測定できることが望ましい。 苦労して測定した空転特性の調査は無駄であったのだ。
  4. 集電回路の電圧降下量の測定は、モデルとしての全体像を把握する場合には必要であるが、動力機構の解析にとっては邪魔になるだけの要素である。 解析の信頼度を上げるためには、モータ端子に直接電力を供給するのが望ましい。
  5. 摩擦損失の速度項の測定方法を工夫する必要がある。 全体の摩擦損失から速度項を差し引いて抗力項の計算をしているので、今回の解析方法の信頼度は速度項の推定方法の信頼度に掛かっているのである。 そして、それは車体の分解作業無しで実施出来るのが望ましいのである。

 順不同で列挙したが、さてどうしたもんかと悩んでいるのである。 そのような中で浮かんできた測定方法の新しいアイディアを右のイラスト図に示す。

 このアイディアは昔の円盤式測定装置の改良版であるが、幾つかのポイントを説明しよう。

 とは言ってもまだアイディア段階なので、今後はこの装置の可能性を少しづつ検討して行こう。

ページトップへ戻る   


  2018/9/2