HOME >> 動力車の調査 > KATO EF510-1 その1 その2 その3
■08 車両での速度特性と牽引力特性の調査
車両を再組付けして、その速度特性と牽引力特性を測定する。 この車両について、以前の測定データをマイコレクションのEF510-1のページにも記載しているが、分解組付けなど車両をいじくりまわしているので、新しく測定しなおすことにした。 測定装置は何時ものように傾斜台方式を使用した。
まず、単機平坦路走行状態での速度特性についての測定結果を右のグラフに示す。 やはり、以前のデータと比べて、速度が少し遅くなっている様であるが、電流特性は変化無しと判断する。 以前のデータは回転円盤方式で測定してものであるが、その差はあまり吟味しないことにした。
次に、牽引力特性を測定する。 今回は、電圧パラメータを3ボルトから6ボルトまで変化させて測定し、特性パターンの変化に注目することにした。
その結果を次に示す。
今回の測定データを見ていて気が付いた点を列挙する。
■09 駆動系の伝達効率を考える
今回の調査の目的である伝達系の効率について考えることにする。 (03)モータ単品の速度特性とトルク特性の調査の項の最後で記述しているが、モータのトルクを基準にして、効率100%の場合の牽引力を分母にして、実際の牽引力を分子にしてやれば、伝達系の効率が計算される。 即ち、
分子= 牽引力実測値
分母= モータのトルクを元に効率100%の場合の牽引力の計算値
この分母となるデータは、既に(03)の項でグラフ化と近似式が求められているので、これを活用すれば良い(本心は活用するために求めたもの・・・) のであるが、(07)電気回路の電圧降下でのデータを考えると、その影響は無視できないし、牽引力・電流での電圧パラメータでの違いも無視できないと考えられる。
そこで、これらの影響を努めて考慮した計算モデルを構築することにした。
考え方として、線路に供給された電気は、車輪、回路、モータを流れて帰ってくるので、その電流値はどこを取っても同じであると認識する。 ただ、 ライト基板はモータと並列な電気回路を構成しているので、小さいと言えども分流分を差し引かなければならないのは当然である。 この分流分はしっかりと測定されているのでかなり正確に計算されるであると思われる。 この電流値を基本に、回路の電圧降下量やモータトルクを算出することにする。 この計算の流れる図示しておこう。
この流れで一番不安定なのは、電圧降下量の算出であろう。 そしてその影響はモータの回転数と車速に大きく影響するので、この系統の数値はあまり吟味しないことにする。 走行中のモータ端子電圧か、あるいはモータ回転数が測定出来れば、この不安を一気に解消できるのであるが、その手段をまだ得ていない・・・・・・・。
とにかく、ここで重要となってくる任意の電圧と電流値からモータトルクを計算する「モータの特性モデル」を作る必要がある。 それも、モータの実測値に沿ったものが望ましいのである。
■10 モータ特性のモデル化
前述のように車両特性を調査する上で必要になったので、このモータ特性のモデル化について検討した。 目的は、モータの端子電圧と電流値から、その時のモータの回転数と発揮しているトルクを計算で推定しようとするものです。
まず、概論で検討した式(6)のモータ軸回りの損失トルクをモータの内と外に分解し、モータ内のモータ軸損失と、モータ外側のウォーム軸損失に分けることにする。 その関係を右の特性図として修正する。
このモータ軸損失を含んだんトルク Tm' が実際に測定されたモータ単品トルクとなるのである。
ここで、この損失トルクは、速度(回転数)の2乗にも影響されると想定されるが、今回は1次項のみを取り上げることにした。 計算モデルは下記のとおりとなる。
Nm = ( E - Eb - Ra・I ) / Ke
Tm' = Kt・I - λm ( E - Eb - Ra・I )/ Ke - Rm
測定データをまとめた Excel の表を活用し、実測値の電圧と電流から計算したモータトルクと回転数を実際の値との比較を結果を下のグラフに示す。 勿論、計算に必要なそれぞれの定数は、測定データの色々な値から、おおよその当たりを付け、下のグラフ示す近似式の勾配が 1.0 にもっとも近くなり、データのバラツキが少ない値となるように修正しながら、探っていったものである。
例えば、 巻線抵抗 Ra は、回転が停止している時の電圧と電流の関係から 12.4Ωと仮定したり、トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke も、各電圧毎の値を平均しておくなどの準備をして実施したものである。
最終的には、Kt = 205、 Ke = 0.00028、 Ra = 8、 Rm = 15、 λm = 0.0005、 Eb = 0.2 の値に落ち着いた結果が下記のグラフである。 単位はVolt、 mA、 Ω、 mm 、rpm、 グラムを使用している。 電流値だけはグラフ表示が mA であるので、抵抗値や電圧を使用しての換算には注意を払ってmA 単位に換算しながら実施した。
巻線抵抗の Ra = 8Ω 、摩擦損失Rm = 15 gf-mm 、 ブラシ接触部の電圧降下 Eb = 0.2 Volt などの値については、その信憑性に自信は無いものの、結果としてのグラフを見ていると、シミュレーション結果は上出来と判断している。
■11 伝達系の効率
車両特性の測定データをもとに、前記のシミュレーション・モデルを使用して、伝達系の効率を求めることにする。
点イの測定データから点ロの計算値を求めるために、これも Excel の表を活用した。 その一部を右に紹介する。 計算フローは(09)に従い実施し、その結果を牽引力・車速特性と牽引力・電流特性のグラフに示したのが下のグラフである。 小さなプロット点とそれらを結ぶ近似直線で表現している。 牽引力の値は、グラフから大きく飛び出してしまうが、あえてそのままにしている。
モータモデルの係数は(10)で求めた値を使用し、電圧降下量やライト基板のデータも利用している。 しかし、6ボルトと5ボルトに於いて、車速の食い違いがチョット気になったので、電圧降下量を少し修正して速度のデータが右側に移動させている。 また、遷移点以下の制動領域では、その状態を完全に把握していないので、計算することを止めています。
このグラフを見ていても、あまり有難味を理解することが出来ないのではと思われますので、続けて効率の計算を実施致しました。 Excel の表の右に方に計算しているのがその部分です。 まず、牽引力については、計算値と実測値との差を求めて見ましたが、あまり意味のあるデータではありませんでした。 そこで実測値を計算値で割って比率を計算するものです。 牽引力のこの割合は、 いわゆる “伝達系の効率” を意味する値になると考えています。
この “伝達系の効率” をグラフ化したのが下のグラフです。 また、速度の場合は、歯車伝達機構であるため回転効率は100%ですが、車輪とレールの間でのスリップがあるため、動輪の回転数と車体速度にはズレが生じます。 そこで、実測値と計算値の差を計算値で割って比率を求めて見ました。 すなわち、この速度差の割合は “動輪のスリップ率” を表わしていると言えるでしょう。
この伝達効率のグラフを見た時、今までの苦労がいっぺんに吹っ飛んでしまいました。 最初は疑って見ていましたが、だんだん本当らしく思えてきました。
この鉄道模型の駆動機構の伝達効率は、20〜25%である!
と言う事をはっきりと示しているではありませんか。
また、牽引力の小さい領域では、150%とか200% などと言う値を示していましたが、そもそもの値が小さいため、計算誤差(モデル化の誤差)の割合が高くなていると判断し、5グラム以下の領域のデータは無視することにしました。 これは、モデル化の精度や実験精度の問題と思っています。
それにしても、効率の低いのには驚きです。 モータトルクの 1/5 〜 1/4 ぐらいしか有効に使用していない事になります。 やはりウォームギヤを使っているのが原因と考えます。
ウォームギヤは平歯車と違って、歯面を滑らせて伝達しているので、その摩擦損失が大きいものと思われます。 一般的に平歯車やはす歯歯車の効率は95%以上ありますが、ウォームギヤの場合は30〜60%程度と言われています。 精度良く作られ、オイルなどで充分に潤滑されている状態でもこの程度の効率ですから、鉄道模型に於いては、妥当な値と判断します。
次に、スリップ率のグラフを見て見ましょう。 速度関係のデータは、いろいろと都合の良い修正を実施していますので、あらかじめ “眉唾もの” として見て頂いても良いのですが、もし正確に測定出来るのであれば、この様なデータが得られるのであると言う事を理解して頂ければ幸いです。 横軸を車速にしたのが上のグラフで、牽引力を横軸にしたのが下のグラフです。 このグラフより、スリップは速度では無くて牽引力が影響し、粘着限界に近ずくに従って急激に滑っていく事が判ると思います。 これは、当然のことではありますが・・・・・・・・・・データ上でも証明していると言うことです。 それにしても3ボルトのデータは怪しいな! 牽引力が小さい時は数%であればもっともらしいのですが・・・・・・・。
■12 最後に
モータ単品のトルク特性が測定出来るようになってから、長年の懸案であった伝達機構の効率を一応は求める事が出来るようになった。 その信憑性はまだ多くの疑問が残っているが、今後はより多くのデータを集めることではないかと思っています。 その中から、もっともらしい事象を集めて検証を進めることにより、この鉄道模型工学の探求がより発展し、鉄道模型の知見を深めることを目指して行きたいと思っています。