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動力車の調査  KATO EF510-1  その2

 

■03 モータ単品の速度特性とトルク特性の調査

 単品状態でのモータを測定する。 測定方法は、「モータのトルク特性を測定 その2」にて報告した方法で実施した。 測定状態を下記に示す。

 最初に、速度特性として、モータに負荷を掛けないフリーの状態で、電圧と電流、および回転数を測定した。

 

  

 負荷の掛っていない状態なので、モータのトルクはゼロのはずであるが、それは外部トルクがゼロであることにほかならない。 モータを回転させるためには、色々な内部抵抗によっていくらかのトルクを必要としている。 その内部抵抗としては、電気的な抵抗と共に、軸受やブラシ、あるいは空気抵抗などの機械的な回転抵抗もモータ内部には発生している。 このため、電流値が変化していると考えている。 その内容を解析するには、さらに色々な解析道具が必要なので手が出せない領域である。

 そこで、この状態を元にして、近似式を求め、モータの単品特性のひとつとした。 測定は安定した状態で計測されていたが、内部温度などは未管理の状態なので、バラついた値は少し破棄して近似式を求めたのが右のグラフである。 また、回転していない状態での値も除外している。 表計算ソフトEXCEL を使用し、いろいろな式を適用したが、対数近似がもっともらしかったので採用したものである。 モータの無負荷状態での電流と電圧の関係式は、

     y = 18.682ln(x) + 57.621  ・・・・・・・・・・・・ (1)式

とすることにした。 この式は、駆動系の損失トルクを計算するために使用することにしている。

 次に、負荷を掛けた状態で、トルク特性を測定した。 モータの端子電圧をパラメータにして、3、4、5、6Volt の状態を保って測定する。  近似式は直線近似としている。

データは少しバラツイているが、まあこんなものだろうと判断している。

 トルクと電流のグラフでは、電圧によっても変化しているが、これは回転数による抵抗の違いと想定している。 しかし、グラフの勾配、即ちトルクと電流の変化分を考えれば、これらの影響を無視して、その勾配は同じと考える事にする。 そして、電流値の差からモータのトルクを算出する係数とすることにした。 即ち、勾配の平均値である 0.2159 を使用して、モータの推定トルクTm' を

    Tm' = 0.2159 * I  ・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)式

とすることにした。 ここで、Tm' は gf-mm 、I は電流値で mA である。 これによって、電流値からモータのトルクを推定するのである。

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 次に、大胆な考えとして、摩擦抵抗などがゼロの場合には、どれだけの牽引力を発揮するだろうかを試算してみる事にした。 即ち、駆動部の伝達効率が 1.0 (η= 1.0 )とすると、モータの回転数を Nm [ rpm ] 、車体のスケール速度を V [ Km/h ] 、モータのトルクを Tm [ gf-mm ]、動力車の牽引力を Fk [ gf ]、動輪の直径を D [ mm ] 、 減速機構のギヤ比を i とすると、 N ゲージの縮尺は 1/150 なので、

     V = πD/i ・Nm ・ 60×150/1,000,000 = 0.0283 ・D/i ・Nm ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)式

     Fk = 2/D ・i ・Tm    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4)式

となる。

 上記の測定データを用いて車両特性に換算したグラフが下記のグラフである。

 なんと、 モータは 100 グラム以上の牽引力を発揮する能力を持っていることになる。

 

■04 駆動系の損失特性の調査 ウォーム部

 いよいよ駆動部の損失トルクを調査することにする。 まず始めにウォーム部を測定した。 ウォーム軸を軸受け支持体にセットする。 この支持体は台車にはめ込まれるので、台車内のホイールを取り去り、ウォーム軸だけが回転するようにした。 下の左の写真がウォーム軸をセットした状態で、右の写真は、モータとジョイントを組み込んで回転出来るようにしたものである。 ウォーム軸は両側共組み込んでいる。 また、モータへの電力の供給は、燐青銅製の薄板を細工した臨時の端子を利用している。

測定状態を下に示す。 モータ端子の電圧と電流を測定すると共に、フライホイールの白色マークを利用して回転数を測定している。 回転センサを木片に貼り付け、測定中は、左の写真の様にミニバイスを重りとして使用し固定している。

 この状態は、モータのフリー状態からウォームがプラスされた状態なので、その電流値の差からウォーム軸の回転摩擦損失を算出出来るはずである。 その測定結果を下のグラフに示す。

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 回転数は変化していないが、予想通りに電流値がアップしている。 そこで、測定された電流値と、フリー状態での電流・電圧の関係式、即ち(1)式から計算した電流値との差を求め、その差より、(2)式から損失トルクを推定することにした。

 (例) E = 3.6 Volt、I = 122 mA、N = 9,631rpm の測定点
   ・ 同じ電圧時のモータ単体の電流値を算定:  (1)式より I' = 81.55 mA
   ・この時のモータトルクを算出:  I と I' の電流差をもとに(2)式より 損失トルク = 8.7 gf-mm と計算  

 こうして求めた損失トルクをグラフ化するにあたり、横軸にどの特性を持ってくるのか検討してみた。 電圧では現象としてマッチしないので、回転数を横軸に取って損失トルクをグラフ化したのが、左のグラフである。 回転数、即ち速度によって抵抗が増えるのは、理にかなった現象であると考える事が出来る。 そして、速度の項は速度の2乗に比例する項も影響しているが、これは一般的に言われている事象とも合致しているので、鉄道模型工学概論を見直す必要があるかも知れない。 しかし、式が複雑になり過ぎるので、さらにデータが蓄積された後で、検討することにしよう。 それにしても、単にウォーム軸を組付けただけなのに、かなりのトルク、あるいは電流を食っているのだなぁ・・・・・・と思いつつ次の実験を行った。

 

■05 駆動系の損失特性の調査 台車のギヤ部 

 次に、ウォームホイールとアイドラギヤ、および動輪を台車に組み込み、モータから駆動させる状態にした。 今回は、動輪が回転するので台車の下に 5mm プラ板をかませて、動輪をフリー状態にしている。 前後の台車の駆動部分を回転させるので、この部分の損失トルクを算出する狙いである。

 測定データのグラフを下に示す。 モータ単体、ウォーム付きの状態、そしてギヤ付きの状態と負荷になる部分が増えていくので、電流値はそれ相応にアップするものと思って測定を続けていたが・・・・・・・・・・・・・、 なんとその期待は見事に外れてしまった。

 左のグラフに示す回転数の変化は殆んど無いと言っても良いが、右のグラフの電流値の値を見て、ハタと手が止まってしまったのである。 ギヤ付きの場合、ウォームだけの場合よりも電流値が下がってしまったのである。 摩擦抵抗が増えたはずなのに、負荷が減ってしまっているのだ。  温度の影響かと思って、実験装置をそのままにし、2時間後に再度測定すると、これまたさらに下がってしまった。

 一回の測定時間はおよそ10〜20分程度である。 そして、組直したのは台車にギヤを組み込んだ1回だけである。 当たりが付いてきたとも思えないので、組付けに発生したコジレが運転中に治ってのではないかとも思ってみた。 測定データのバラツキとは思えないし、測定方法が間違っているのか? とか、なんで? とか考えるものの、よくわからにので実験は立ち止まってしまったのである。 

 

■06 駆動系の損失特性の調査 再実施

 頭を冷やすために一日置いて測定を再開した。 今度は、ライト基板を組付けた状態で測ることにした。 理由はライトの点灯により、モータの回転方向をチェックするためである。 その状態が右の写真である。 

 そして、モータ単品状態で、かつ基板を組み込んだ状態にし、電気の極性を変えて測定すると共に、ウォームやギヤ類を組み込んだ状態と比較した。 その結果のグラフを下に示す。 ギヤ類を組込んだ状態では、回転数が低下し、電流値は上昇している。 そして前進と後退ではその差は無いようである。 また、今までに測定してきた車両の動力特性値とも合致しており、全く理にかなったデータとなっている。 

 なお、前進と後退の判別は、1エンド側のライトが点灯する場合を前進とし、その逆を後退としている。 いままで、新しい車両を最初に分解する時、組付け方向を覚えておくため、1エンド側には、部品毎に黄色のマーキングを薄く付けるようにしていた事が、ここでは役にたっているのである。

 この、単品状態との差は、ギヤ類が組込まれているかどうかの違いであるため、そのトルク差を求めれば、駆動系の損失トルクと言う事が言える。 そこで、上記と同じ様に、単品状態での電圧と電流から近似式を求め(下の左のグラフ)、その式を使って電流値の差を計算し、さらにトルクに換算したものが右のグラフである。

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 この損失トルクのグラフを見ていると、手の込んだやり方で求めたデータであるが、それらしき値ではないかと睨んでいる。

 その裏付けとして、左の写真のように、トレーラ車のコロガリ抵抗を測定する方法でレール側から摩擦抵抗を測定してみた。 その結果、ウォーム無しの状態で1.6 グラムの走行抵抗であり、動輪径、ギヤ比よりモータ軸回りのトルクに換算すると、0.23 gf-mm のトルクとなる。 これは殆んど 無視出来る程の小さな値となってしまうのである。  これらの値は、駆動系を伝わる力が自分の摩擦抵抗分しかない“無負荷状態”であり、損失トルクの基礎となる値であるが、そのほとんどは、ウォーム軸回りの摩擦トルクではないだろうかと考えている。

 駆動系に力が掛った場合の損失トルクは、実際に負荷を掛けて測定しなけらばならないので、特殊なな測定装置が必要となってくる。 あるいは、車両として実際に走らせた状態で牽引力を測定することになる。

 では、最初に測定した単にウォーム軸を組付け状態での負荷トルクは何だったのだろうか? 両者のグラフを比較しても疑問が湧くばかりである。 速度の2乗項の傾向も見当たらにし、まさに「狐につままれる」状態である。 こんな場合には再実験するのが本来ではあるが、おそらく再現しないだろうと思うのと、面倒だったので今回はパスしてしまった。 

 

 

■07 電気回路の電圧降下

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 次に、電気回路の電圧降下について調査する。 モータ単体での測定は出来るだけモータ端子、あるいはそれに近い場所に電気を供給し、その電圧を測定している。 でも、鉄道模型の場合には、レールから電気は供給されるので、モータ端子までの間の電圧降下を考慮しておかなけらばならない。

 極端な場合、レールや車輪の汚れによって、動かないと言う事は、模型ファンなら常識ともなっている日常茶飯事なのである。 これは、汚れによって接触抵抗が増し、電圧降下が大きくなったため、供給された電気がモータに伝わら無い事を意味している。 これほどに大きく影響する電圧降下をチェックしておく必要がある。

 まず、電気回路を構成する部品を並べて見たのが、左の写真である。 レールと車輪は転がりながら接触し、その車輪は集電子とピボット軸受部で接触している。 そして集電子は集電バネに接触し、その突起部を通してライト基板の裏側の回路に接触している。 そしてその回路を通って接触するモータの端子に電気は伝わることになる。

 これらの部品をクリーナで綺麗に掃除した後、再組付けして回路の抵抗を測定することにした。 その様子を下の写真に示す。 レールの端部 A にユニットから電気を供給する。 そして、テスターのプルーブをライト基板のスルーホール部 B と レール端部 A とで電圧を計り、その差をグラフ化したのが、右のグラフである。 測定前にレールのクリーニングは勿論実施し、測定中も、B 部で押さえながら車両を前後させながら測定するなどの配慮を行っている。

 最初は写真に写っているデジタルメータで、AB 間の抵抗を直接計測したが、表示データは安定せず、その値も大きく変化していたので、計測不安定としてあきらめた。

この様な場合は、アナログメータに限るので、アナログテスターで測定した。 それでも針の振れは発生しているが、その動きは読み取る事が出来る。 およそ、1から2Ωの間を行ったり来たりしていた。 車両を早くうごかしたり止めて見たりするものの、針の動きふらふらしていた。 そこで、電流を流してA と B の間の電圧降下量を測定したのである。

 アナログメータでのふらつく針を読んでいるため、0.1Volt 以下の値は信頼出来ないが、グラフに示すように、バラつきは大きい。 近似直線を求めて見ると、勾配は丁度0.003 となり、これは3.0Ω の抵抗値である事を示している。 往復で3Ω、片道で1.5Ωとすると、先ほどの抵抗測定値と矛盾は無い。

 それにしてもふらつきの大きいことに、あらためて驚いている。 室内灯などがチラチラするのも、このためだろうか。 モータに取り付けられたフライホイールもこのふらつき対策のような気がしてきた。