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鉄道模型工学概論 円盤式傾斜台を使用した測定方法 その3

§5 測定結果について

 牽引力測定装置として、回転円盤式の傾斜台方式による測定を実施してみた。 今回は従来の牽引力計を用いた測定結果と比較しながら、測定方法の問題点を探る事にする。

 測定の対象車両は、シンプルながら力のある電気機関車を選んだが、制動側領域での挙動にも興味があるので、ヒステリシスでは? と疑っていた車両でも測定してみた。

 

  

■ KATO 3031 ED79 11号機

 特性に大きな問題のない ED79 11号機を選び、測定を実施した。 その結果を下のグラフに示す。 

 供給電圧は E = 4.0 volt で測定し、測定台のスパンは 760mm あるので、高低差 H = 120 mm は勾配θ= 9.1°、H = 90 mm はθ= 6.8°である。  最初は120mm の高低差で測定していたが、牽引力計とのデータが違いすぎるので、角度を小さくした。 データを見ると、全体の傾向は同じであり、さらにその値は誤差範囲と判断し、二つの測定法での違いは無いのではないかと判定する。 我が測定技術の実力は、まあ、こんなもんかな。

 

■ KATO 3028 ED75 1001号機

 今度は同じED系ながら、制動領域でのデータにヒステリシスの存在を疑っているED75-1001号機を測定して見た。

 供給電圧は E = 4.0 volt で測定し、高低差 H = 90 mm はθ= 6.8°である。  牽引力計ではデータが暴れて測定出来なかった制動領域でも測定することが出来ている。 しかし、期待していたヒステリシスを示すデータを得ることは出来なかった。 ヒステリシスは測定手順の行きと帰りで値が違う場合に見られるもので、速度を上げていく時と下げていく時で連続的に測定する必要がある。 このため、低速回転から初めて、また戻ってくる手順を取ったが、さらに工夫が必要と思われる。 また、垂直特性に移行する特異点(制動力 Fq ) を考察すると、牽引力計でのデータの方が理屈に合っているようであり、どうもデータに疑問を残す結果となっている。

 なお、このED75 1001号機は2010年に中古品をオークションで入手したもので、同封されていた取扱い説明書の作成年は、1999年となっており、番号は003-1333-9908である。 上記のED79 11号機は、2008年4月に新品を購入したが、取扱い説明書の作成年は2007年で003-1333-0705であった。 品番からすると、同年台に設計されたものと視察されるので、ED79 11号機は再生産品と思われる。 そして、両車両を分解して見ると構造は全く同じであった。 車体や屋根は少し異なるのは当然として、やっと見つけた違いはライトユニットであった。 チップLEDの変わっていた。

 このため、動力特性はほとんど同じになっても当然である。 しかし、速度だけは30Km/h 近くも違うのは製品の個体差なのだろうか。 疑問に思って、2台並べてレイアウトを5分も走行させていると、だんだん速度差が無くなって来て、最後には仲良く一定距離を保って走行していた。 発熱の影響だろうか? ゴミを噛みこんでいたからだろうか? これで再実験するとまた違う結果となるのだろうと思う。 狐につままれたような気持である。

 なお、分解して気が付いたが、動力部の構成は、先の報告した「KATO EF65の新旧比較」で述べている構造と少し違っていた。 長手方向が短いのであるが、EF65-1124と違って、モータ軸とウォーム軸の間にジョイントが入っていないのである。 これはEF58 60号機でも観察した構造で、この時期のEF65 (3代目のEF65か?)も同じような構造をしていたのでは無いかと推定する。

 

■ KATO 3002-2 EF65 70号機

 次に力持ちの車両を選定し、高負荷領域での検証を試みることにした。

 供給電圧は E = 4.0 volt で測定し、高低差 H = 110 mm は勾配θ= 8.3°、H = 140 mm はθ= 10.6°である。 低負荷領域では勾配を緩くして測定し、高負荷領域になってから勾配を上げて測定した。 牽引力計でのデータと良くマッチしており、制動領域でも安定したデータを取得することが出来た。 それにしても古いタイプの動力構造ではあるが、力持ちである事とすっきりとした特性には感心する。 低速での円滑な走行には疑問があるが・・・・・。

 

■ KATO 3035-1 EF65 1124号機

 次に、右上がりの特性を疑っていた EF65 1124号機を測定した。

 供給電圧は E = 4.0 volt で測定し、高低差は、 H = 110 mm と H = 90 mm を使用した。 そして、バランスするゾーン毎に分けて表示してみた。 制動領域では、(2)のゾーンでも、(3)のゾーンでもバランスする場合があった。 よく分からないが何故だろうと疑問がまた増えてしまった。 まあ、とにかくもこの右上がりの特性を持つ制動領域が測定出来る事は判明したが、しっくりとしない結果となってしまった。

 このようなS字カーブを描く特性については、先回の「KATO EF65の新旧比較」のレポートで述べているので省略する。

 

§6 まとめ

 牽引力測定装置として、回転円盤式の傾斜台方式による測定は可能である。 そして、右上がり特性でも測定出来る事を確認する事が出来た。 しかし、疑問点も新たに出てきておりまだまだ検証が必要と思われる。

 振りかえって考えるに、 円盤を強制的に回転させ、走行速度とバランスさせることにより速度を測定する方法は、やはり限界があるようである。 今まで以上の信頼性のあるデータを確保しようとすると、「動力特性の測定方法」で悩んだ時点に戻るしかないのであろう。

 次に、アイディアBとして示していた、傾斜台を使用した測定台を検討してみたい。 円盤を強制的に回転する方法の見直しとして、傾斜を利用して車両の負荷を掛ける方法を考えられる。 車両に掛る負荷に応じて、車両自身が速度を決めるので走行上の不安定性が解消されるのではないかと考える。 まず速度計測方法を検討していたら、手ごろな測定器を見つけてしまったのだ。 理化学ショップの「BeeSpi(ビースピ) -簡易速度計測器-」である。 乞うご期待!