HOME >> 鉄道模型工学 > C59-123号機の空転特性の測定
■ いきさつ
先々回の「C59号機のデータを使っての解析検討」で説明したよう、必要となった追加実験を実施した。 動力車を負荷をかけない空転状態にし、動輪やギヤなどを外して行って最後にはウォーム軸だけを回転させて、その時のモータ電流を測定するものである。 これによって、速度項の様子がよくわかって来たので、その結果を報告する。
■ 測定方法
まず、測定方法を説明する。 これに類した実験を昔実施したことを思い出し、その時のメモや記録と共に、その時の実験装置などを引っ張り出して来た。 報告は「モータの無負荷回転特性を測定する」である。 そして、これらの装置とスケッチ、およびEXCELファイル等をセットした。 実験装置の様子を下に示す。
使用したモデルは、予告した KATO のC571次形では無くて、先回調査したC59-123号機を引き続き使用している。
C59-123号機のキャブやボイラを外して、ウォーム軸の回転数を測定するセンサをセロテープを使って取り付けた。 フライホイールに付けられた白黒のマーキングも前回の測定時に実施したものをそのまま使用した。
まず、動輪やロッド類を付けたままの状態で車体を浮かせ、空転状態から計測を始めた。 動輪には車体の荷重が掛かっていない状態なので、動輪の軸受けの荷重はゼロと考えられる。 しかし、ロッド類は動くので、この負荷状態が測定できるであろう。
そして、動輪とロッド類を取り外した状態でも測定した。 KATO の最近のモデルは、サイドロッドが分割方式であるし、シリンダ部分の含めてセット状態となっているので、容易に、かつ気楽に分解組付けが出来るのは非常にありがたい事である。 第3動輪だけがギヤ駆動であり、第1動輪と第2動輪はリンク駆動であるので、動輪の再組み付けは容易であり、まさにポン付けなのだ。 動輪を外した測定状態を下に示す。
そして、二つ割になったシャシーを分解してギヤ類を取外し、ウォーム軸とモータを組付けた状態を右に示す。 この状態で最後の測定を実施した。
■ 測定結果
測定は、前回と同様にArduino から送られてくる、電圧、電流、および回転数情報をシリアルポートを通してパソコンに取り込んでいる。 回転数情報は、設定したパルカウントに要した時間を送信してくる。
このシリアル通信による情報をEXCELがリアウツタイムに取り込み、所定の計算を実施してグラフ上に表示させる筈であったが、なぜだかEXCELが反応してくれなかった。 また、ややこしい問題に遭遇してしまったが、原因究明とその対策を実施する心の余裕が無かったので、シリアルモニタにデータをそのまま表示させる手段を選んだ。
シリアルモニタには、測定毎のデータが表示されて行くので、50個以上のデータが蓄積された時点で、測定を中断し、メモ帳にデータを転記した。 そのファイルをEXCELに取り込み、測定結果の整理を実施した。
今回実施した測定は、ロッドを付けた状態での空転状態、動輪とロッド類を取り外した状態、そして、ウォームホイールを取り外した状態を測定した。 また、モータ単体と単機走行時のデータは以前の測定データを流用して、これらを同時にグラフ化した。
データ解析のために、横軸をウォーム軸の回転数とし、さらに測定した電流値からモータモデルを使ってモータトルクを計算したグラフを下に示す。
右のグラフには、先回求めた遷移点でのトルクも重ねた見た。 これらのグラフより観察できる内容を整理しておこう。
■ 測定結果の解析
当初の目的に沿って、得られた測定結果をもとに解析して行こう。 目的は摩擦抵抗に対する速度項の影響具合を推測する事である。
◆ ウォーム軸側の摩擦トルクの推定
まず、上右の遷移点を示したグラフより、ホィール無しの場合、即ちウォーム軸での摩擦抵抗について、この測定値を表現する近似式を推測してみよう。 プロット点は直線的に推移しているので直線近似が最適であると判断する。 そこでEXCELの近似式をグラフより求めると、
y = 0.00005051 x + 0.55789420
と示された。 この近似式より有効数字を3桁とすると、ウォーム軸の摩擦トルクは、
ウォーム軸の摩擦トルク = λw・Nm + Rw ( gf-mm )
速度係数 λw : λw = 0.0000505 固定項 Rw : Rw = 0.558 モータ回転数 Nm (rpm)
と推定することにする。
◆ 動輪軸側の摩擦トルクの推定
次にこの近似式を使って、単機走行、ロッド付き空転、ロッド無しの各データからウォーム軸の摩擦トルクを差し引いた値を計算して、グラフ化したものを下に示す。 左のグラフに示す値は、ホイールギヤから動輪までの摩擦トルクを示唆しているのである。 しかし、表示している値は、ウォームトルク t1 としての値なので、ホイールトルク t2 に換算する必要がある。
この換算のために、「新解析法の検討」で示した t1/t2 の関係式を使って t1⇒ t2 に換算した場合のグラフを上右に示す。 摩擦抵抗は小さいと言えどもウォームギヤにとっては駆動状態にあるので、駆動時のモデル式を適用している。 勿論、換算する場合に必要な定数、即ち、βやμの値は先回の解析時に使用した定数を活用している。 さらに、このホイールトルク t2 をギヤ減速部のギヤ比を使用して動輪軸周りの摩擦トルクに換算し、グラフ化したものを下左に示す。 この時、単機走行時のデータは、テンダー車などの摩擦トルクを含んだデータのため、この分を差し引いて計算している。
ここで再び遷移点に関するデータも重ねて表示してみた。 しかし、今回のデータはピタリとは行かなかった。 少し残念!
この単機走行時のデータは、動輪周りの全摩擦トルクを表しているので、この近似式を求めることにする。 上右に示すように、横軸を動輪回転数 Nd に変換したグラフを作成し、そのデータに対してEXCELの近似式をいろいろ対応させてみたが、どうもしっくり行かなかった。 そこで自分で式の形を作り、その誤差具合によって係数を模索した。 式は、 y = ax^2 + b の形がしっくり行くので、その係数を探った。 その結果、
動輪側の摩擦トルク = 0.00014Nd^2 + 17 ( gf-mm )
の近似式を得た。 摩擦抵抗は、速度の二乗に比例する と言われていることにもマッチしているので、妥当な結果と判断した。 でもこの摩擦抵抗は何処で発生しているのであろうか? 動輪の軸受け部分が怪しいような気がするが・・・・・・・・。
■ まとめ
単純な測定ではあったが、納得のいくデータと解析結果を得る事が出来た。 これによって、速度に依存する摩擦抵抗の影響具合を設定することにする。 もうひとつの課題である抗力項に関する影響度合いは、この無負荷状態での測定では表れてこないので、牽引力特性のデータを活用するしかないのであろう。
次回は、この測定結果をもとにモデル式を修正して、再度解析を実施する事にしよう。