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鉄道模型工学 粘着特性を測定しよう トラクションタイヤの無い車両での測定

 先回の報告で、トラクションゴムの影響をチェックしたが、一番疑っていたトラクションゴムの影響がこんなに大きいのかとびっくりしている上に、かえって疑問が増えてしまった。そこで、トラクションゴムを使用していないモデルを使って、検証してみることにしましょう。でも、結果は思わぬ方向に展開した。

 

■ トラクションタイヤの無いキハ35-68号機を測定する

 8番手として、トラクションタイヤを履いていないKATO製のキハ35-68号機を測定した。

 このモデルは、フラットな床面をしており、動力部はコンパクトに収められている。モータの回転センサは観測用として開けられている窓を使って、フライホイールの白黒マークを観測する。下左の写真。センサと重りをセットした状態を下右に示す。

      

 期待をもって測定を開始したが、上右のグラフのように見事に裏切られてしまった。車輪部分を観察しても異常なしである。

 てっきりトラクションゴムが原因だと思っていたが、こうなると頭が混乱ししてしまう。原因は別にあるのだ。そこで、いろいろな疑問と課題を整理することにした。

  1. ロードセルの換算値が変化していないか? ⇒ 再較正を実施しよう。
  2. レールが汚れいるのではないか?  ⇒ クリーニングの実施。
  3. 回転数センサにパルス飛びなどの異常はないか? ⇒ オシロなどを使って回転数測定方法をチェックしてみよう。
  4. すべり率の計算において、何かの要因が影響していないのだろうか? ⇒ すべり率の定義は実業界では定着しているが、小さなNゲージの特殊な領域でも通用するのだろうか。いろいろあがいてみよう。
  5. 車輪の踏面形状やレール断面形状による影響は? ⇒ この分野には手が出せない!
  6. Nゲージの滑走領域での現象はこんなもんなんだ。 測定方法に不具合が有るかも知れないが、測定データをそれなりに信用して、自分の力不足を認める形で諦める事にしよう。

■ ロードセルの再較正

 だんだん諦めの境地になってきているが、まず、疑問点を潰していこう。そこで、まず最初に、ロードセルの較正を再実施してみることにした。

 先回も使用した小道具を準備した。また、使用する秤についても、チェック用の分銅(100グラム)を使って確認した。ピッタリであり問題なし。

 重り用の籠を吊るす滑車は、レール端に取付糸を端まで伸ばした状態で使用する。糸はレールの中心では無かったが、これだけの距離があれば誤差以内と考える。

  

 較正した結果を右のグラフに示す。ゼロ点は、測定時にチェックしているので、直線の勾配値に注目する。先回のデータは、0.00007474 であったが、今回のデータは 0.00007351 で少し変化していた。しかしの割合は、 0.00007351/0.00007474 = 0.984 であり、わずかに、1.6 %の変化であり、これは誤差の範囲と考えます。

 即ち、ロードセルが原因では無いことが断定できました、

 

■ レールのクリーニングの実施

 つぎに、レール面の汚れや荒れの影響について、チェックしました。見た目には綺麗な状態ですが、クリーニングカーを走らせてクリーニングを実施しました。

 これだけでは不十分と考えて、#1500 のサンドペーパーを使って水研ぎを実施しまいた。

 

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■ キハ35-68号機の再測定

 レールのクリーニングの効果を調べるために、同じ車両を走らせて測定しました。その結果を右のグラフにしめします。赤丸のプロット点が測定データです。これより、レールの汚れや荒れが原因では無いことが分かりました。

 当初はやっぱり駄目かと諦めかかった時、操作ミスによって糸が滑車から外れてしまい、測定がストップしてしまいました。 そして、回復処置を実施後の測定データ見て、驚きました。

    データが正常に取れているのです! 緑丸のプロット点です。

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 何が起きたのかすぐには理解できませんでした。

 そうでした、糸の回復作業と共に、車両の状態も触っていました。車両を正確にレール上にセットした様でした。

 その後、測定を続行してグラフのようなデータを得ることが出来ました。復活したデータ部分(緑色のプロット点)です。以前測定したデータを立派に補間していますね。

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 そういえば、先回のEF510-1号機の測定の時、測定始めのデータがポンと飛び上げっている例がありました。この時は何だろうとは思ったのですが、その後のデータは低く連続していたので、変だなと思ってだけで、追及していませんでした。 今から考えるとこの最初のデータが正解で、そのあとは、台車の浮きなどによってどれかの車輪が脱輪していたのでは無いかと推定します。

 今となっては分かりませんので、台車の浮きによる脱輪防止のため、線路の途中にリレーラ線路を取り付けました。もし脱輪しておれば、この部分で発見できるし、自動修復もしてくれると期待しましょう。

 

 もし、この脱輪が原因としたら測定は安堵して実行できますので、N増しの確認を行って行きましょう。

 

■ クモハ313-3020号機の測定

 9番手として、同じくトラクションタイヤを履いていないKATO製のクモハ313-3020号機を測定しました。

 前回の測定では、回転数の測定を床上では無くて床下から測定していました。そこで、今回も同様の方法で実施した。

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 カプラーは蜜連形だったので新しく工作した。

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 今回の測定結果を右に示す。以前のデータとは違和感なく補完していることが分かる。

 やれやれである。滑走領域では大きくばらついているが、ほぼ一定値であるもの、少し凸形の傾向があるようにもみえます。

 

 走行後の車輪の様子を下に示します。特に異常は有りませんでした。

 

■ まとめ

 今回の実験により、ロードセルの較正値の変化やレールの汚れや荒れが原因では無いことが分かりました。さらに、トラクションタイヤを履いていない車両でも同じ現象が発生していたので、トラクションタイヤが原因では無いことが分かった。

 でも、測定中に偶然発見した現象より、困惑していた事象は、意外なことが原因でした。 でも、まだ断定できませんのでより多くの測定を実施していく必要があります。そして、測定データが想定よりも下回っている現象に対して、考えられる要因を新たに追加します。

  1. 車輪の脱輪による引張力の低下 ⇒ 大きな引張力によって台車のピッチングモーメントが大きくなり、このために浮き上がった車輪が脱輪する。すると引張力の低下や、走行抵抗の増加が発生する。リレーラ線路の追加で対応するが、測定中の観察注意力を高めよう。
  2. ロードセル上の滑車の抵抗増加による荷重の減少 ⇒ 滑車の回転に異常が発生した場合、その回転抵抗によって正確な測定が出来ない恐れが考えられる。これも測定中にチェックするようにしよう。

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 そこで次回は、新たな車両での測定を実施してみましょう。