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鉄道模型実験室   トレーラ車の特性を測定する

● トレーラ車の特性

 機関車の牽引力をいろいろ測定して模型車両での実際の値がわかってくると、今度はトレーラ車両の走行抵抗など、牽引される側の値が知りたくなってしまうのは、こだわりの性格なのだろうか。 負荷側の実際の値を把握しておくのも、模型工学を追求する者としては必要と思っている。 そこで、これらトレーラ車の特性を測定することにした。

 

 まず、模型車両の寸法諸元としては、長さ、幅、高さなどが一般的であるが、今後活用したくなる諸元を重点に、特性値として測定することにした。 諸元の名称は、参考にした資料によって異なっていたが、自分なりに右の図の様に定義することにした。

 なお、これらの測定方法で測定されたデータは、各車両のリストに一覧表で記載している。

 連結面間距離
この値を集計することによって、編成した列車の全長を計算する事が出来る。 模型のカタログにも記載されているが、取り付けたカプラーの種類によって寸法が変化するので、自分で測定することにした。
 軸芯距離
曲線走行時の走行軌跡を知るために必要で、ミニカーブを使用したレイアウトでの走行可否を知る目安となる。
 軸距離
これも曲線走行時の走行可否を知る目安となるが、ボギー車よりも二軸貨車の場合に活用できるであろう。
 全軸距離
この値は現実の車両諸元表には記載されているが、今のところ活用する場面を思い付かないので、今回の測定から外した。

 次に、本命とする走行抵抗について考えて見よう。

 走行中に、機関車の負荷となるトレーラ車の抵抗 (列車抵抗とも言うらしい) としては、主に走行抵抗と勾配抵抗がある。 動き始めの出発抵抗、加速するための加速抵抗、トンネル抵抗、高速走行時の空気抵抗などの抵抗は、Nゲージでの定常運転状態 (静特性状態)を考える時には、無視あるいは除外できるであろう。 また、模型での曲線抵抗はかなり影響があると思われるので考慮すべきではあるが、把握し難いので今回は除外する。

 走行抵抗は、軸受の摩擦や車輪のコロガリ摩擦抵抗に起因する抵抗である。 模型車両を軽快に走らせるには、非常に重要な値である。 室内灯装着のための集電方法によっては、大きな抵抗となって力の強い動力車を必要としたり、ひどい時には脱線を引き起こす場合もある。

 また、勾配抵抗は勾配区間を登る時の重力による抵抗で、勾配角をθとすると
           勾配抵抗 =  車両の重さ × sinθ 
で表わされる。 勾配の角度が小さい場合には、sinθ=tanθとみなされ、パーミルなどで表現されている勾配の値をそのまま用いる事が出来る。  即ち、30グラムの車両が40パーミルの勾配を登る時の勾配抵抗は、30×0.04=1.2グラム の勾配抵抗となる。

 

● 牽引力余力

 模型による編成を考えた場合、直線路坂道での機関車に必要な牽引力は、

      機関車の牽引力 > 機関車の勾配抵抗 + トレーラ車の勾配抵抗の合計 + トレーラ車の走行抵抗の合計

 ここで、登坂中の機関車において、重量のある機関車自身に掛る勾配抵抗も無視出来ない大きな値を示す。 そこでトレーラ車を牽引する力として作用可能な力、即ちカプラーで負担できる余力を 「牽引力余力」 と勝手に定義することにした。 即ち、

     機関車の牽引力余力 = 機関車の牽引力 − 機関車の勾配抵抗

であり、勾配区間を登坂するには、

     機関車の牽引力余力 > トレーラ車の勾配抵抗の合計 + トレーラ車の走行抵抗の合計

が必要である。 ここで、どの様な勾配であるかは、明記しておかなければならない。

 Nゲージ鉄道模型の標準的な勾配として、KATOとTOMIXの場合をみて見よう。

メーカ 直線レールの標準長さ 勾配橋の単位高さ 勾配
KATO
248mm
10mm
0.040
TOMIX
280mm
10mm
0.036

 よって、標準勾配として 「40パーミルの勾配」 と考えることにしている。

 

● 特性の測定方法

◆ 軸芯距離と軸距離の測定

 この寸法はノギスを使用して測定する。 ノギス自身には5/100の精度まで測定出来るが、測定には目視の場合もあるので 0.5mm 単位での測定で良しとしている。

 

◆ 連結面間距離

 ノギスでも測定出来るが、カプラーとの接触面が一定しないので簡単な測定具を使用する。 下にその道具を示す。

  

   .

 TOMIXの直線レール、30cmの物差し、スタンダードゲージ(KATO:11-716)を丁度良い大きさの角材に両面テープを使って張り付けた測定台を作りました。 この線路上にGM 製の台車を乗せ、その側面には直径0.5mmの銅線を使って適当な指針を作り、物差しの目盛りに合うように細工したものです。

 スタンダードゲージのカプラーと台車のカプラーを直接連結した状態で、物差しのゼロ点を合わせて固定します。 微調整は銅線を曲げて調整しました。 右の写真の様にゼロ点を確認して、測定開始です。

 測定は上の写真の様に、中間に測定車両を乗せ、台車を軽く引っ張って、カプラーのガタをつめた状態にし、その時の指針の目盛りを読み取ります。 測定値は0.5mm単位で読み取っています。

 測定が終了すると、両面テープで固定しただけですので、各部品を分解して本来の使用に戻すこともできます。

 カプラーの種類が異なると、そのたびにカプラーを交換してゼロ点調整をやり直す必要があるのですが、幸いにも当方はカトーカプラー党なので、スイスイと測定できています。

 

◆ 重量の測定

 この測定は、何ら問題ありませんね。 測定器は A&D CO.,LTD のHJ-150 で、最大150グラムまで、0.1グラム単位で測定できます。 データの校正用として 100グラムの分銅もついていますので、我が測定器類のなかでは、一番信頼出来る計器と思っています。

 

◆ 走行抵抗の測定

 この測定も、下に示すような簡単な道具を使用しています。

 

     

 TOMIXの直線レールを長さが約 32cm の板に貼り付け、裏側には直径 3mm のプラスチック丸棒を両側に貼り付けています。 丸棒間の距離は、300mm ピッタリに設定してあります。 さらに、線路とは直角になり、高さも同じになるようにと気を使って細工しました。 また、下右の写真の様に、色々な板厚のプラ板を組合せ、1mm 毎の階段を作りました。 階段の高さはノギスで確認し、線路に於いても、水準器を持ち出して水平状況をチェックしているので、道具としての精度はまずまずと思っています。

  .

 測定方法は、左の写真のように階段部品を丸棒の下に噛ませた状態にします。 そして、車両を線路の右端に乗せ、その妻面を軽くつついた時に左端まで転がっていく状態を探します。 傾斜が緩いと途中で止まってしまいます。 この左端まで転がっていく時の勾配を求めて、この車両の走行抵抗を計算します。 この時の階段高さを h mm 、勾配角をθ、車両重量を W グラム 、走行抵抗を R グラム とすると、

    sinθ=h /300  、  R = W sinθ = W ・h /300

として、計算出来ます。

 車輪や軸受けの汚れ具合や線路の汚れ具合によって影響されますので、事前にメンテナンスしておく必要があります。 しかし、一番影響が大きい台車や軸受けの歪み具合は目視と車輪を手で回してみるなどの方法でチェックしても万全ではありません。 線路上で軽く押した時の走り具合で判断するしか有りませんし、また、バラツキも大きいと覚悟しなければなりません。 このため、走行抵抗の測定誤差やバラツキは大きいものとして、測定値の値の丸め方に迷いましたが、現在は計算した値を 0.01 グラムまで記録しています。 本当は、±0.1 グラム程度が良いところではないかと思っています。

 

◆ 走行中の走行抵抗と速度の関係

 走行中の走行抵抗は、走り出しの場合や速度が速くなった場合などでは変化するものと考えるべきですが、その実態を把握するのはなかなか困難です。 以前に2度、この測定に挑戦しているが問題を残したままである。 その時のレポートをピックアップしてみた。

 

1) 鉄コレ動力を使用した12m級機関車の走行抵抗の測定

***** 2011.2.22 作成の「抵抗挿入による特性の改善」から転記し、再編集する。 ******

 回転円盤を使用して走行状態を作り、カプラー部から糸で引っ張って荷重計に乗せた重りと結び、その荷重変化で走行抵抗を測ることにした。 測定状態は下記の写真に示す。 円盤は上から見て左回りに回転させ、回転計でその速度を読んでいる。

  

 また、速度ゼロ相当の状態は、上記の写真のように、いつもの傾斜装置で転がり出す傾きを調べて、微低速での走行抵抗とした。

 その測定データを右に示す。 走行中の抵抗が2から4グラムと、大きく振れ、こんなに振れるのかと驚いてしまった。 線路の継ぎ目の影響なのか、線路の設定状態が均一でないのか、あるいは、台車の状態なのか、車輪の軸受けの影響なのか、いろいろ疑問がわいてくる。 とにかく荷重計のデジタル表示値を読み取るのに苦労した。 とりあえず最大値と最小値、および中央値らしき値を、エイヤーと読み取っている。

 とにかく、色々な車両のデータを測定する必要がありそうである。 また、宿題が出来てしまった。

 データを眺めていると右上がりに上昇している様にもみえるが、速度の影響は少ないようである。 しかし、トレーラ車の走行抵抗と比べて大きく、ひとケタも違っている。 それは減速部の歯車の影響が大きいのか、車輪に掛る荷重が大きいからなのか、不明であり、ここにも課題が残ってしまた。

 

2) 重り車両の走行抵抗の測定

**** 2011.8.1 作成の 「円盤式傾斜台を使用した測定方法 その2」 から転記し、再編集する ***

§4.3 重り用の車両の製作

  鉄コレのシャシーの上に水草の重りをペタペタと貼り付け、セロテープでぐるぐる巻きにしている。 重量は 101.2グラムとなった。

  

 100グラムもある重さなので、その走行抵抗も考慮する必要があり、その測定を実施した。 その方法は、「鉄道模型工学/抵抗挿入による特性の改善」での減速部と車輪の走行抵抗で実施した方法と同じである。 でも、そのバラツキに再び戸惑った。 今回の状態は、単純な台車なので、車両側の要因とは考えられない。 良く見ていると線路の継ぎ目で小さなショックがあり、継ぎ目部分をペーパーで磨くもその効果は無かった。 もともと走行抵抗の小さい鉄道模型では、小さなショックでもその影響が大きいことが伺える。 継ぎ目の無いロングレールが必要なのか。

 速度ゼロの時の抵抗は傾斜法で測定したもので、この値は信頼出来ると思う。 そこで、継ぎ目などのショックで飛び出すのは瞬間的であると想定し、低い位置での値が正しいのだろうと勝手に決め付け、重り車両の走行抵抗を、 2.0 グラムと言う事にして、あとは測定誤差とする事にした。 なんと大雑把なことか。

 

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 この実験結果より、より正確に観察するには、継ぎ目の無いロングレールを円盤上に設置するか、あるいは、歪み計式の荷重計とオッシロ等などの瞬間荷重が計測可能な測定機を使用するなど、高度な計測方法が必要がある。 フレキシブルレールを使用すればロングレールの設置も可能性があるが、 そこまでして測定する価値があるか戸惑っている。

 しかし、これらの測定データを見ていると、走行時の抵抗は、速度ゼロ ( 本当は微速状態である ) の時の値とほとんど変わらないようであるので、単純な測定法で良しとしている。 そして、

Nゲージでのトレーラ車の走行抵抗は、走行速度によらず一定である。                 

と勝手に仮定して、データを測定することにしている。 

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