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鉄道模型実験室   2モータ化の効果を検証

 

■ はじめに

 

 EH系の電気機関車は、2車体連結式で強力な牽引力を誇っています。 模型の世界でも、各メーカから発売されているが、その牽引力はと言えば、不満を持っている方も多いのではないだろうか。 ネットによると、愛好家の中ではモータを追加して2モータ化の工作も紹介されている。

 最近では、TOMIXのEH500 を2モータ化して牽引力の増大を図ったとの記事を見受けたが、 鉄道模型工学を学ぶ小生としては、やや疑問を持っている。 本当に牽引力はアップするのだろうか? 粘着限界領域での牽引力は、動輪に掛る荷重と摩擦係数できまるので、モータのトルクは寄与しないはずである。 そこで実際に組み付けてみて、その特性を測定することにした。

 

  

■ 鉄道模型の牽引力について

 ここで、鉄道模型における牽引力の特性について、復習しておこう。

 我が持論の「鉄道模型工学概論 動力特性の理論と測定」の、「§1.6 牽引力・車速特性について」で記述しているように、電圧一定の場合には、一般には右に示す図9の様な特性を示す。

 単機走行時は牽引力がゼロなので、点イの状態であり、坂道や他の車両を牽引している場合には、その負荷によってその速度は徐々に低下していく。 即ち、A状態である。 そして、車輪とレールの粘着限界に達するとスリップを始めて車速は殆どの場合にゼロに落ち込み、牽引力の限界に達する。 C の状態である。

 点イの速度 Vo 、 A状態の勾配、C の状態の牽引力 Fo の値は、これらの特性を決める重要な値であるが、これらの値がどの様な要素で影響されるか、考えておこう。

 なお、供給電圧の影響は、モータ特性のパラメータとして図表化されているように、A状態の勾配を維持したままで車速を増減させる。 即ち、図9で特性線図を左右に移動させるのみである。 電圧が低いと車速が低い値に移動し、電圧を高くすると線図全体が右の方向に移動していく。 粘着限界は、一定のままであることは言うまでもない。

 

■ 対象とした車両

 2モータ化の実験対象として選んだ車両は、TOMIXの EH500 ( 品番:2142) である。

 この車両を選んだ理由は、ネットでも話題となったこともあるが、一番の理由は、TOMIXさんが部品としてモータ単品でも供給しているので、容易に入手できるからである。   この部品は、「S系電気機関車の改造工作」でも使用しており、もう1個余分にストックしておいた物を使用することにした。

 特性の測定は前記の「鉄道模型工学概論 動力特性の理論と測定」で述べた定置実験装置を使用して測定した。駆動部等はその後の改良を実施した状態である。 そして、同じ車両を使用し、下記の3種類の状態に組み付けてそれぞれ測定を実施した。

 

◆Model 1:  オリジナル構成のもの

 この構成は、メーカが提供するオリジナルな状態で、1エンド側車両(前車)に、ウォーム付きのモータが搭載され、4軸の動輪を駆動している。 また、2エンド側(後車)には、モータの付いてないウォームシャフトが装着されており、動力伝達シャフトによって前車のモータ軸からトルクを伝達されている。 そして、このウォームシャフトからギヤ機構によって後車の4軸の動輪を駆動している。 即ちひとつのモータによって、全部の車軸が駆動されていることになる。

 また、各台車には1輪ずつゴム輪の車輪が交互に設定されているので、後車でも充分に駆動力を発揮する。 そして、車体を連結するカプラーは通電機構が組み込まれているので、集電機能も万全な構成である。 また、前車と後車は、設計と部品の共通化が図られているおり、その違いは、上記のウォームシャフトとモータの違いと、車体の1と2の表記違いだけの様である。

 車両重量=118 グラム。 構造上、車体の重量は各動輪にほぼ均等に掛っているものと思われる。

 

◆Model 2:  オリジナル構成のものに重りを追加したもの

  

 後車のシャシーは、前車と同じ部品であるため、モータを組み込むための空洞がぽっかりと空いている。 この空間に愛用している水草の重りを詰め込み、加重することにした。 その状態を右の写真に示す。

 これは、2モータ化によって牽引力を向上させる方式ではなくて、簡単に車両重量を増やすことで、どのように牽引力が向上するのか確かめるために実験してみた。

 車両重量=139 グラム。 21グラムの増加。18%アップ。

 

◆Model 3:  2モータ構成

 2エンド側(後車)のモータの付いてないウォームシャフトを取り外し、ウォーム付きモータを装着させた。 まさにポン付け作業である。 この専用のモータは、M-5(TYPE5・ウォームギア付、品番:0615)であり、1エンド側車両(前車)に使用しているものである。 通販サイト 通販サイトテックステーションで容易に入手出来る。 定価は \1,575 なり。

 2モータ化したとは言え、車両間のモータ軸を連結する動力伝達シャフトは重要である。 二つのモータを一体化するためにも、必ず装着しよう。 ギクシャク運転防止には必須である。

 車両重量=126 グラム。  ウォーム付きモータ(10.0gr) - ウォームシャフト(1.8gr)=8グラムの増加。 7%アップ。

 

■ 速度特性

 さて、はじめに車両の速度特性を比較してみましょう。

 この測定は、平坦路を単機走行状態で測定したものである。 停車状態から電圧を少しずつ上げていき、電圧と電流、および車速を測定したものである。 Model2 は重量増加による摩擦抵抗の変化が予想されるものの、大きな変化はないものとして、測定していない。

 Model3 に於いて、同じ電圧でも速度が落ちている。 これは摩擦抵抗などが変化したものと推定している。 一方、電流値について、モータが増えたことで増加するのは止むをえないことと判断するが、2倍にはなっていない。 走行抵抗や減速機構の摩擦など、負荷が同じなので、1個当たりのモータの負荷が減少したものと考える。 モータが回転を始める前の「電熱器」状態では、ほぼ2倍の電流を消費しているのは理屈通りである。

 ちなみに車両分解時に、モータ単体の無負荷状態での電流値を測ってみた。 5 Volt 時、Model1で使われていたモータでは 90mA 、Model3 で追加したモータでは 95mA であり、殆ど同じと考えてよいであろう。 でも、ASSY状態では単純な足し算では説明出来ないので、疑問を残したままである。

 

■ 牽引力特性

 次に、牽引力特性を見てみよう。

 電圧は、E = 5.0 Volt 一定状態でそれぞれ測定した。 粘着限界領域の状態を広げて観察するために、いつもの条件より電圧をアップして測定してみた。

 まず、牽引力・車速特性を見ると、3モデル共に大きな変化は無い。 電流特性では2モータ化したModel3 が50mA以上も増加しているのが分かる。 つぎに、さらに詳しく観察してみよう。

 Model2 は Model1 と比べて、特性は殆どおなじであるが、粘着限界領域では牽引力が10グラム弱増加しているのが観察される。 これは車両重量の増加による効果と判断している。 電流特性は全く同じである。

 次に、Model3 と Model1 を比べて見ると、Vo 点がやや下がっているが(上記の車速・電圧特性でもその事を示している)、速度に対する牽引力の勾配は立っている事が分かる。 このA状態においては、二つのモータのトルクが加算されて駆動力として発揮されるので、この勾配は2倍となるはずである。 2モータの協調作動がうまく行っている領域である。 その結果として、坂道において牽引する負荷が増加した場合での速度ダウンが少ない事が予想される。 重い貨車を牽引しても坂道を涼しい顔をして登っていくだろう。 でもオリジナル構成でも速度ダウンは多少は大きいものの坂道はやはり登るのである。

 この坂道を登りきれるかどうかは、粘着限界領域での牽引力で決まる。 Model3 は Model1 を比べてやや増加しているものの、Model2 程ではない。 2モータ化の効果はここでは現れないのである。

粘着限界領域での牽引力の測定は、不安定でデータが大きく振れる。 これは車輪が滑っている状態であり、レールの継ぎ目などに来ると、レールに引っかかるために力が変化するのではないかと推察する。 継ぎ目なしのロングレールが欲しくなる。 また、速度ゼロの時はレールの同じ部分で空回りしているので、比較的安定はしているが、データはふらついている。 従って、この粘着限界領域での牽引力データは、その信頼性は薄いと見ておく方が良いだろう。 自分は5グラム程度はバラツクと考えている。
また、実際の走行時は、粘着限界領域の中間速度は保持出来ないと考えている。 車輪が滑り出したら車速は一気にゼロまで落ち込むであろう。 自動車を運転する方はご存じの通りで、雪道などでタイヤがスリップした時と同じである。 しかし、重連時には重連特性を考察したごとく、この状態に陥る場合があり、ギクシャク運転の原因ともなっているのである。

 

■ 2モータ化のメリットは何か?

 振りかえって考えてみると、この2モータ化のメリットは何であろうか?

 1)長編成の貨車を引いて悠々と坂道を登っていく。
・・・・・ 否、速度の差はあるだろうが、牽引力の増加はあまり期待できないと考える。 
 2)低速での走行が滑らかになる。
・・・・・ これを実証する実験方法が分からないので、観察するしかない。
2モータ化によってフライホイール効果が出るかも知れないし、起動時に他方のモータの起動を助ける事も考えられる。 でもその現象を確認できていない。
 3)満足感を得る。
・・・・・ これは小生も同感である。 模型をいじる工作屋として、工作を楽しむと共に出来上がりが上々であれば嬉しいものである。 動力伝達シャフトを組み込む限り、二つのモータの同調運転は保障されているので、走行はスムーズのはずである。 そして、何よりも力強く走行しているように思えるのである。
   ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐   自己満足でも充分ではないか!  ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 さて、皆さんの意見はどうでしょうか。

 

■ 2モータ化の雑談

 2車体連結式のEH系電気機関車は、この他に EH10 や EH200 などがある。 メーカではTOMIXの他にKATOやMICO ACEでも製品化している。

  KATOの EH10 は新旧共所有しているので、その構造を観察すると、TOMIXのEH500 と同じ構成であるが、後車にはトラクションタイヤを装着していない。 また、モータ単品では供給していないので、動力ユニットのASSY供給となり、 トラクションタイヤ付きの動力台車欲しくなるので、合計\4.800. の出費となる。  それだけの効果があるのかどうかは疑問である。 ASSY表で見ると、 EH200 も EH500 も同じ構成であるので、事情は一緒と考える。

 MICO ACEの EH10 は、「2モータ式EH10 の不調原因をさぐる」で記述したとおり、最初から2モータ仕様である。 しかし、動力伝達シャフトで二つのモータ軸を連結する設計にはなっていないので、最初から重連状態の車両となっている。このため、モータの特性が合わない場合にはギクシャク運転などの不具合を起こし、ユーザーの信頼を落とす事になるだろう。 よっぼど製品品質への自信がないと採用出来ない構成と思います。

 この失敗をしてしまったのが、GMの2モータ式新動力ユニットである。 モータ間の連結をやめてしまったのは良いが、モータの特性が合わず不具合となってしまったようです。 公開特許公報2005-318967によると、コスト低減のために採用したとのことです。


■ まとめ

 2車体連結式のEH系電気機関車において、KATOやTOMIX製に見られる動力伝達シャフトを有する1モータ構成の車両を、単に牽引力アップを目的として2モータ化としても、その効果は疑問であると思われる。