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鉄道模型実験室 No.147  伝達機構ギヤ部への注油の影響

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■ はじめに

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 先日、動力特性の測定結果を報告したKATO製 C12-42号機(品番:2022-1)の僚機であるC12-46 号機についても、同様に測定を実施すべく分解を実施した。 分解してみると、動力伝達機構であるギヤ部は、オイルが付着していないメーカーで組み付けられたままのドライの状態であったのだ。 そこで、ハタと手が止まってしまった。 先回のまとめで考察した時の疑問について、格好の実験材料ではないかと・・・・・・・・。

 そこで、このドライの状態とオイルを塗布したウエットの状態を比較することにした。

 

■ 実験方法

 まず、空転特性として測定して来た方法を使って注油有り無しを比較する。 これは、動力伝達部を分解して、ウォーム軸、ホイールギヤ、減速ギヤ、動輪とリンク類を取り付けながらモータの電流を測定していく作業なのだ。 モータのトルクは電流に比例するので、機構部の摩擦抵抗を推定する事が出来るのだ。 「KATOのコアレスモータのデーをタ整理」 を参照ください。

 次に、モデルを走行できるように組み上げ、負荷がゼロに近い速度特性の測定と、負荷状態での牽引力特性を測定して、特性パターンを観察する。

 注油方法は、右の写真に示す様に、KATOのユニクリーンオイルを使用し、外径がφ0.5mm のステンレスパイプの注油 口を持った油さしに移し替え、この油さしを使って一滴ずつ可動部にオイルをさしていく。 注油部は、ウォーム軸の軸受け、ギヤ部の軸部分、ギヤの側面が接触する部分、動輪の軸受け、そして各ギヤの歯面に摘下していく。 そして慣らし運転後に電流を測定するのだ。

 以下に測定データを示すが、注油をしなかったドライの状態、オイルを摘下したウエットの状態、比較として僚機のC12-42号機のデータを比較して下に示す。 C12-42号機のデータは 「KATO製 C12-42号機の動力特性」 のデータを流用しており、一部比較のために表示スケールを変更している。 状態はウエット状態である。

 また、 C12-46号機での実験順序は、ドライ状態での空転特性測定し、その後、車体を組立てて、速度特性と牽引力特性の測定を実施する。 この牽引力特性測定時に、スリップ率が大きかったので、ウエット状態を測定する前の分解組付け時にトラクションタイヤを新品に交換した。 古いトラクションタイヤは、外径がφ9.0mm であり、緊迫力がほとんどゼロの状態であった。 その後、ウエット状態での各種測定を実施した。

 

■ 空転特性の比較

 まず、空転特性から比較する。 下に示すグラフより、ウエットの状態の方が特性が安定しており、かつ値が小さくなっていることが分かる。 これは、オイル潤滑によって可動部がスムースに接触していることを示している。

 また、C12-42号機とC12-46号機とは同じウエット状態であるので殆ど同じである。 そして、ギヤ付きやロッド付と部品が増えて行ってもその抵抗の増加分はわずかである。 しかし、ドライ状態では抵抗がどんどん増えて行っているのだ。

 でも、モータのみの状態からウォーム軸 の状態(フライホイールも一体となっている)と、軸を連結させるだけで抵抗がグーと増えているのは何故だろうか。 そして、その増え具合は、ドライでもウエットでも同じ程度なのだ。 さらに、速度を上げると速度に比例して大きくなっているのである。

 オイルはギヤだけに効果があるの? ウォーム軸の軸受け部にも注油したはずなのに?  速度に比例するので空気抵抗が影響するの? よく分からない。 速度によって抵抗が増えているのでネジポンプのような作用が発生しているのかな? 不思議だ!

 

■ 速度特性の比較

 次に車両として走行出来る状態にして、速度特性を測定したが、その比較を行おう。 まず、電圧に対する車速の特性を見てみよう。

 この特性は、オイル潤滑の有無にかかわらず、同じであると言えよう。 次に電流値を見てみよう。

 空転特性と同様な傾向が見られる。 この速度特性は、測定上の都合により重り車両を牽引しているが、平坦路を走行させているの走行抵抗はほとんど無い。 しかし、この動輪により車体を支えているので、約30グラムの荷重が動輪軸受けに掛かり、その影響による摩擦抵抗が大きくなっている筈である。 この軸受けの摩擦抵抗が、上記の空転特性時の抵抗との差なのである。

 そこで、モータのみ、ウォーム軸を取り付けた状態、車体を浮かしているロッド付、動輪荷重を掛けている単機走行時のデータをひとつのグラフにまとめてみた。

 このグラウから、ウォーム軸を取り付けた状態では、ドライでもウエットでもほとんど変わらないが、ギヤ類やロッド類を組付けた状態ではドライ状態とウエット状態では明確な差が出ている。 オイル潤滑があると摩擦抵抗がかなり少なった事が分かる。 そして、動輪軸受けに荷重が掛かった状態ではドライの場合の値のバラツキが大きくなっているものの、値としての増加具合はあまり変化がなさそうだ。

 このことより、オイルの使用は、ギヤ部の潤滑に効果があり、ウォーム軸周りや動輪軸受けにはほとんど影響がないことが分かる。 しかし、これは牽引力がほとんどゼロの場合であって、牽引力が大きい場合は、ウォーム軸にスラスト荷重が掛かってくるので、何らかの差が出てくるのではないかと考えておくべきであろう。

 

● 参考として電圧降下の値も下記に示しておこう。 ドライとウエットの差では無くて、モデルの個体差と考えられる。

 

■牽引力特性の比較

 牽引力特性のグラフを下記に示す。 ここで、C12-46号機でのドライとウエット状態ではパターンが少し変化しているが、これはトラクションタイヤの交換の影響があると考えている。 本来なら、C12-46号機でのウエット状態はC12-42号機のパターンに近づいてくれれば文句は無いのであるが、疑問の残るデータとなってしまった。

 とは言っても、一番期待していたデータは下記のグラフなのである。 

 ドライとウエットの差が明確に出ているデータと考えていますが、如何でしょうか。

  1. ドライ状態では、同じ牽引力を得るのにより多くの電流を必要としている。 これは、伝達機構の途中での摩擦損失が大きい事を示す。 納得です。
  2. 制動領域での尻尾の振り方が違っている。 ドライでは電流が大きくなる(右下に伸びている)のに、ウエットではほとんど変わらない(下に伸びている)か、あるいは減少している(左下に伸びている)のだ。 
  3. 電圧パラメータの違い、これは車速の違いと考えられるが、その違いによるデータのドリフト具合は、ウエットの場合は非常に小さい。

 この現象を理解するには、「新解析法の検討」( 2018/5/16 ) に示した、ねじれ角と摩擦角の関係を解析する必要があると判断する。 なんだか面白くなってきたのだ。 オイル塗布の効果がこのような形で表われるのであれば、2条ネジ採用のモデルではオイル塗布を推奨する方が良いような気がする。

 制動時に右下に伸びるパターンはギクシャク走行に関係するのではないかと睨んでいるであるが、まだ証明されていないのだ。

 

● 参考として他の特性も比較しておこう。

 電圧降下に対しての影響要因は未だ、何もつかめていないのだ。

 スリップ率に対しては、同じモデルなのに微妙に違っている。 C12-46 wet 状態では新しいトラクションタイヤに交換したので、C12-42号機のパターンに近づくと思ったのに、期待が外れてしまった。 第1と第2動輪のサスペンション状態の違いなのだろうか。

 この現象は、摩擦係数として計算したパターンにも言えることである。

■ 負荷時の速度特性

 負荷が掛かっている状態(牽引状態)で速度を変化させた場合の電流値のデータを比較した。

 パラメータとして負荷状態を揃えることが出来なかったが、黒線で示した単機走行状態(負荷がほとんどゼロの場合)と比較して、平行移動なのか、あるいは勾配が付いているのかを知りたくて測定したデータなのである。 平行移動であれば、摩擦抵抗として、速度項と抗力項が独立していると理解すればよいのであるが、勾配が変化していると、摩擦抵抗が相互に関係しているとして解析を進めなけらばならないのである。

 幸いに、ウエット状態では、平行移動のパターンであるので、独立している要因として考えて行けば良いことになる。 

 

■ まとめ

 たかが一回だけの実験で、あれこれ判断するのは危険であるが、とにかくオイル塗布のないドライの状態と、オイルが塗布されたウエットの状態では、その摩擦抵抗に差があるのは当然であり、それによって影響される特性の傾向を掴むことが出来た。 牽引力と電流値の関係も期待していたような結果を得たので、この考えを今後の解析に生かしていく事にする。

 でも、オイル無しでも走行はスムースだし、低速からの発進も問題ないよと思われれる方々が多いと思います。 そうです、多少電流が大きくても何ら問題無い上に、制動状態で抵抗が増加しても、直ぐにはギクシャク走行にはならないのです。 その上、走行を楽しむ上では、オイルを注油してベタベタにする方が問題なのです。 ゴミやほこりを巻き込み、走行不良になる危険性の方が高いのです。 ですから、本報告はオイルの注油を推奨するのでは無い事をご理解ください。

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 2018/7/11 作成