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フライホイール付きモータの特性解析 まとめ

■ はじめに

 Nゲージ鉄道模型の電気機関車に搭載されているフライホイール付きモータについて、その特性測定がある程度実施することが出来た。 さらにモデル化手法を使って、モータを構成する6個の定数を推定することも出来た。 そこで、これらの定数データを比較して、各モデルの違いなどを検討してみよう。

 対象とした測定データは、「モータの特性調査」に示す KATO と TOMIX の電気機関車に搭載されていたフライホイール付きモータである。 これらの測定データを使用して「モータ特性のモデル化 改良版」で紹介した方法で解析を実施した。

 

■ 解析結果の一覧

 解析結果を下の一覧表に示す。

グループ No. 搭載モデル 定数の推定値 特性線の勾配
Kt Rm λm Ra Ke Eb Nm-E I-E Tm'-Nm Tm'-I
KATO 第3初期 1 EF81-119 236.2 15.76 0.00047788 9.45 0.00025751 0.313 3615 0.007314 -0.006914 253.7
KATO 第3中期 2 EF65-511 220.1 22.1 -0.0000874 11.6 0.00025691 0.252 3963 -0.001574 -0.004787 216.2
3 EF65-1097 250.56 16.95 0.00044406 11.8 0.00027179 0.085 3416 0.006055 -0.006215 269.8
4 EF81-81 260.1 34.6 -0.0006791 11.6 0.00026968 0.193 4177 -0.010906 -0.005368 230.9
5 EF510-1 230.0 18.0 0.0003000 10.0 0.00024784 0.074 3833 0.005000 -0.006000 242.1
6 ジャンク3 240.5 8.2 0.0004695 12.5 0.00025000 0.000 3644 0.007115 -0.005280 264.0
KATO 第3後期 7 EF65-1124 228.7 29.3 -0.0004289 10.0 0.00025210 0.766 4285 -0.008036 -0.005337 211.7
8 EF58-60 239.3 17.8 0.0001588 14.4 0.00029054 -0.313 3332 0.002211 -0.004987 247.2
9 ED79-11 244.9 12.1 0.00015049 11.8 0.00031683 -0.454 3086 0.001896 -0.006726 250.5
10 EF64-1032 275.8 15.8 0.0002115 14.5 0.00027322 0.154 3517 0.002697 -0.005408 287.0
11 DE50-44 269.1 18.01 0.00032882 12.2 0.00027193 -0.067 3486 0.004260 -0.006327 283.9
12 ジャンク1 245.5 17.1 0.0002287 12.0 0.00026374 0.478 3637 0.003389 -0.005624 255.9
13 ジャンク2 235.0 13.9 0.0001748 12.5 0.00027420 0.078 3527 0.002624 -0.005330 243.0
KATO 第4期 14 EF15-79 442.5 17.0 0.0006967 25.3 0.00042837 0.286 2136 0.003363 -0.008189 483.6
15 EF510-510 412.7 14.5 0.0002761 18.8 0.00042108 0.559 2306 0.001543 -0.009520 425.0
16 EF65-1103 438.8 17.2 0.0002858 23.0 0.00042456 0.475 2275 0.001482 -0.008386 454.3
17 EF57-8 389.2 13.2 0.0003634 21.4 0.00046139 0.370 2077 0.001940 -0.008755 406.1
TOMIX 18 EF510-4 283.9 15.18 8.1471E-05 12.4 0.00035220 0.271 2811 0.000807 -0.008145 286.8
19 ED75-710 332.6 18.02 0.00051985 10.3 0.00033143 -0.074 2877 0.004497 -0.011222 348.8
20 EF210-109 277.6 11.73 0.00071517 10.4 0.00030186 -0.121 3043 0.007839 -0.008772 302.2

    各定数の単位は、 Kt:gf-mm/A、 Ke:volt/rpm、 Rm:gf-mm、 λm:gf-mm/rpm、 Ra:Ω、 Eb:volt である。

 数値だけでは良くわからないのでグラフ化した。 グラフの横軸は個別のモータを示す No. である。 まず、機械系の定数から見てみよう

 データがバラツイている項目もあるが、なんとかモデル毎の特徴を考えてみよう。

 トルク定数については、KATO製の第4期の小型化されたシリーズを以外は似かよった仕様と思われる。 第4期の小型シリーズでは従来製のものより、およそ2倍の設定となっている。 同じ電流に対して2倍の力が出ることを意味しているが、強力な磁石を採用した結果なのだろうか。

 摩擦損失については、その固定値である摩擦トルクが、ほぼ、10〜20 gf-mm の一定値を示しているが、これは 同じような構造を採用している為と考察する。 それにしても摩擦って大きいのだ!  速度係数については、右上がりを示す +0.0002 〜 +0.0004 を示すが、幾つかのモデルではマイナスの値を示している。 これは、測定値を見ても分かるように不思議な現象である。 原因はよく分からない。 通常は速度が上がると摩擦が増えてくると思っているのだが・・・・・・・。

 次に、電気系の定数を見てみよう。

 巻線抵抗も、トルク定数と同様な傾向を示している。 一般的には 10〜15 Ωの値の様である。 また、逆起電力定数も、同様な傾向である。 しかし、ブラシ部の電圧降下は、一部の測定データの報告でも述べたように、推定方法の誤差によってあり得ないマイナスの値も示すものがある。 従ってこの解析データはあまりあてにはならないが 0.5 ボルト以下であるようである。

 こうやって、いろいろなモータの定数を並べてみると、大まかな傾向が掴めてきた。

 

■ 特性としての比較

 モータ特性を構成する6個の定数は、「モータ特性のモデル化 改良版」でも述べたように、モータとしての回転数特性やトルク特性に複雑に影響している。 そこで、これらの特性上ではどのように比較できるのか検討してみた。

 その比較方法として、モータとしての4個の特性は殆ど線形を示しているので、勾配と X または Y 切片の値を取り出して比較した。

● 無負荷特性(回転数特性)のグラフ

 まず、回転数-電圧のグラフの一例として、EF57-8号機のグラフを下に示す。 そして、この様なグラフで表示される勾配と X 切片について、各モータ毎に計算して計算値をその右側に示す。

  

 この勾配のグラフは、コントローラのダイヤルの回し具合によるモータの回転数の様子を示している。 また、右の X 切片のグラフは立ち上がりの電圧を示す。 ただし、この立ち上がりの電圧は、一番左のグラフで示される特性のスタートポイントを単に示すものであり、静止状態からの立ち上がり電圧では無いので誤解の無いように。 静止状態からの実際のスタートでは、マグネットの力によって回転が阻止されているが、その力に打ち勝つと、初めてこの特性ライン上に乗ってくるのである。

 勾配を示すグラフより、やはり KATO製の第4期の小型化されたシリーズは、それ以前のモデルよりも、その勾配値が小さくなるように設計されている。 この値が小さい事は、コントローラのダイヤルを同じ様に回しても、回転速度の上昇具合が少ない事を示している。 即ち、のんびり屋のモータと言えよう。 また、スタートポイントは大体1ボルト前後となっているが、古いモデルは個体差が大きい様である。

 次に、電流-電圧のグラフの例と、このグラフの勾配と Y 切片を計算したものを下に示す。

  

 この勾配は、上記のモータ軸損失速度係数のλm と同じパターンを示しているので、 λmの影響比率が大きい事を示唆している。 また Y 切片は、電圧がゼロなのに電流が必要であるとの不思議な現象であるが、これも軸の摩擦抵抗に打ち勝って回転するためのエネルギーが必要であることをしめしているのか。 以前に報告した「動力車の調査」にてこの様子が分かる測定を実施しているので参考されたし。 Y 切片も小さく、勾配も小さい第4期のモータは、電流値が小さく、そして一定していることを示している。

 

● トルク特性のグラフ

 モータの出力トルクと回転数を示すグラフの例と、このグラフの勾配を計算したものを下に示す。 このトルクのグラフは、電圧をパラメータにして表示しているが、X 切片の切り出しはパラメータ毎に変化するので比較検討を保留している。 さらに、X 切片の値とは、すなわち負荷がゼロの場合なので上記の無負荷回転時のデータと同じ事であるため、あえて重複をさけている。

 勾配については、パラメータの値が違っても原理的には平行移動するはずなので、ここでは勾配だけを検討した。

     

 この勾配は、負荷が大きくなった場合の回転数の落ち込み程度を示すもので、マイナスの勾配となる。 そしてその絶対値が大きいモータは、その傾斜が立っている、すなわち負荷に対して回転数の変化の少ない、強い体格のモータを示している。 

 KATO製の第4期のモータは小型化されたものの、モータの体格としては強くなっているのが分かる。 TONIX製のモータについてもカンモータを採用しているが、小型であるものの体格としては強いのは、強力な磁石を使用しているためだろうか。

 次に、出力トルクと電流値を示すグラフの例と、このグラフの勾配を計算したものを下に示す。

    

 この勾配は、同じ電流変化でどれだけのトルクが出せるかを示しているが、KATO製の第4期のモータは大きなトルクを発揮していることを示している。 なお、入力された電流に対してどれだけトルクを発揮できるかを見ようとすること、すなわち効率を考える場合には、トルクゼロの時の無効電流を考慮する必要があるので、その比較は単純にはいかないのだ。 今後の検討課題としよう。

 

■ まとめ

 今回は、モータ毎に測定したデータを使用して特性解析を実施し、その結果より各グループの特徴を見出そうと試みた。 その結果を次に示す。

  1. フライホイール付きのモデルが登場したKATO 製電気機関車の第3期のモデルは、整流子の構造が古い形態の初期と、形状変更した中期、およびどこかを改良したと思われる青いマーキングのある後期と、三つに分類して比較したが、定数からはその違いを判読することが出来なかった。 巻線などの仕様はそのまま踏襲したようである。
  2. KATOの小型化した第4期のモータは、構造変更に合わせて大きく仕様を変更している。 サイズを小さくしたが体格としては強くなり、必要なトルクは確保しているものと判断する。
  3. TOMIX も小型化を実施しているが、その仕様は、KATOの第4期のモデルよりも、第3期のモデルの仕様に近い仕様であった。

 今後は、解析対象の範囲を広げて比較していこう。

 なお、モータ単体の性能が模型車両としての性能に直接関係しないことに留意しておこう。 モータから動輪までには減速機構によるトルクの増幅があり、動輪の直径によっても牽引力の違いが発生する。 従って車両としての特性は、モータと減速機構、および動輪の仕様を考慮して設定されているので、それぞれの設計方針の違いに配慮して置く必要があるのだ。

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■ おまけの検討・・・トルク定数と逆起電力定数の関係

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 専門書などによると、トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke は同じ値になるとの解説がなされている。 これは理論式でも証明されているが、それならば何故 同じ記号を使わないのかと不思議であった。

 今回の解析データを見ても、値的には同じではないのである。 でも、その単位が違うことに注意しよう。 ここでは、測定データやグラフとの関係で、普段使用している単位をそのまま使用している。 このため、測定データから計算されたトルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke の単位がマッチしていないのである。

 そこで、専門書などによる使用している単位に変換して比較してみよう。 まず、トルク定数 Kt の正式(?)な単位は N-m/A であり、逆起電力定数 Ke は volt・s/rad である。

 EF81-119号機の場合のトルク定数 Kt の値は、

        Kt = 236.2 gf-mm/A = 0.00231 N-m/A

 逆起電力定数 Ke の値は、

       Ke = 0.00025751volt/rpm = 0.00246 volt・s/rad

となって、値そのものが合致してくる!  やはりこの事実は正しいののである。 ちなみに他の場合も同様に換算して、グラフ化したものを右上に示す。 データから直線近似したものを赤色で示し、Y切片を 0.0 に指定した場合を黒色で示す。

 この「トルク定数 Kt と逆起電力定数 Ke は同じ値になる」と言う事を納得した次第である。