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動力車の調査  KATO EF64-1032  その1

 

 動力車調査の第4弾として、KATOのEF64-1032を選び分解調査することにした。 このモデルはEF81型から始まったフライホイール搭載動力ユニットの最終段階に再生産されたタイプのひとつで、このタイプの動力ユニットの完成型として、その動力特性を調査することにした。

■01 車両の概要

 性能測定の前に、このモデルの概要と分解調査の結果を報告する。

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このモデルの詳細は、マイコレクションの EF64-1032 を参照して下さい。 重複記載あり。
模型車両の特徴:  ・ヘッドライト点灯  ・フライホイール搭載動力ユニット など。

メーカー KATO 商品名 EF64 1000 一般色
品番 3023-1 車両番号 EF64-1032
発売日 1996年発売     2010年 9月 16日 (再生産)
入手日 2011年6月23日 再生産品の新品購入

 

 ◆ 構造を理解するために、車体を少しずつ分解していきましょう。 部品に付けられた黄色のマークは、再組付けの時に参考とする1エンド側を示すマークです。

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 主な部品の分解状態を上の写真に示します。 ダイカスト製のフレームは一体的に作られているタイプであり (左右あるいは上下に分割されていない)、型番の刻印は 3010 であった。 この番号は品番 3010 を意味していると推定すると、その車種は1989年に新規に発売されたEF81 を意味することになり、 この車種と同一のフレームを使用しているものと考えられる。 初期のEF81のフレームと比較しても、運転台のシースルー化の追加加工が施されている他は、パーテイションの位置など同じである。 どうやら共通使用している様である。

  

 次に、モータとジョイント、およびウォームを右の写真に示す。 緑色のカップリングやモータ支持部材などは、初期のフライホイールモデルと同じ形状と思われるが、モータ端子はやや短くなり、ライト基板との接触方法も変更されている。

 このモータは、フライホイール付きで、2ポール5スロットのスキュー無しマグネットモータであるが、形状的には端子部が短くなったこと以外は昔のままである。 しかし、巻き線の仕様等は変更されている可能性があり、マグネット端部は青色と白色の色付けがあり、設計変更を示すマーキングを思われる。 外観寸法を下に示すが、 EF510-1 等と形状的には同じである。

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 また、 ウォームの軸受けは当初のモデルと同じダイカスト製のフレームに直接はめ込む方式である。 

  

  動力台車の全体を右の写真に示す。 歯車ケースの品番は 3010 で、台車の下のカバーの刻印は3023であった。  この3010品番を使用している車種は、前記のようにEF81であり、3023品番を使用している車種は、新規発売のEF64である。 すなわち、歯車ケースはEF81と共通使用で、台車の下のカバーはEF64専用の部品と思われる。

 歯車の構成は、第2弾で説明したEF65-511と同じ構成で、ウォームは m = 0.4 の1条ネジで、ウォームと噛合うホイールは Z = 19 である。 このホイールは2段歯車となっており、アイドラギヤを介して動輪につながる歯は Z = 17 であるが m = 0.3 で作られているので外形はかなり小さくなっている。 そして、動輪の歯車は Z = 17 であるので、動輪とホイールの回転は同じとなり、動輪を1回転させるためにはウォームを19回回転させる必要があるので、減速ギヤ比は i = 19 のギヤ列を構成していることになる。

 動輪径は、φ7.4mm で、内側の片方の動輪にトラクション・ゴムを履いている。 その他の諸元として、車体重量は 100.7 グラム、前後の台車の動輪に掛る荷重はそれぞれ 44.0 グラムであった。

 

■02 ライト基板の特性調査

 まず、電気回路上、モータと並列に挿入されているライト基板の特性を調査しておこう。

 

 この基板は、EF66-51 と殆んど同じ形状をしており、表側と裏側に回路が形成され、スルーホールを通して導通されている。 両端には前後のライト用のLED が半田付けされており、 このLED と直列に記号が 561 のチップ抵抗も半田付けされている。 ライト基板の品番は、3021-7Gであるが、基板に印刷されている 品番は3051 で、EF510-1と同じである。 形状的には、チップLED 部分の回路が複雑になっており、その形状は、一種のコンデンサを形成しているのではないかと思われる。 また、EF66-51とは、チップLEDの設置部が裏表逆となっていおり、このEF64-1032では、基板の表側に半田付けされている。

 この中央付近の導線部をクリップで挟み、電圧を掛けながら電流を測定したのが右のグラフである。 2 Volt 近くになるとLED が光り出すと共に、電流は一直線状に上昇する。 極性を反転しても同様な傾向を示し、対称な特性であることが判る。 電流の上昇勾配は 1.83 mA/Volt である事から、約 550 Ωとなり、チップ抵抗の規定値と合致する。 電流の立ち上がりはおよそ 1.8Volt で、それまではわずかに電流が上昇しているが無視出来るであろう。 この特性はEF66-51と比較して同じである。

 

■03 モータ単品の速度特性とトルク特性の調査

 単品状態でのモータを測定する。 測定方法は、測定台へのモータの取り付け方法を改善した「EF66-51 その3」にて報告した方法で実施した。 最初に、速度特性として、モータに負荷を掛けないフリーの状態で、電圧と電流、および回転数を測定した。

 

 モータに負荷を掛けないフリーの状態での測定であるので、モータ出力トルクはゼロである。 この時、多くのモータと同様に、電圧を上げると(回転数の上昇に従って)電流値も増加している。 これは、回転数が変化すると、モータ内部の回転抵抗も変化する事を示しているのではないかと視察する。

 次に、負荷を掛けた状態で、トルク特性を測定した。 モータの端子電圧をパラメータにし、かつ、電圧一定の条件を保持するようにして測定した。 とは言っても厳密には行かないので、±0.1volt 以内に収まるようにしている。 データ群としては、 3、4、5、6Volt の4種類の状態を測定した。 測定データを下に示す。

 データ数はさほど多くはないが、かなり綺麗にそろったデータと考えている。

 

■04 モータ特性のモデル化 

 モータ特性の計算モデルは、モータの端子電圧と電流値から、その時のモータの回転数と出力として発揮しているトルクを計算で推定しようとするものである。 その解析方法は、今までの方法と新たな見解を追加して整理し、現在執筆中の「モータ特性のモデル化」にて説明予定であるが、このEF64-1032では、そのトライ編として実施してみた。

  

1) 電圧系定数の推定

 まず、外部電圧、電流、回転数のデータより、Ke 、Ra 、Eb の定数を推定する。

 負荷と無負荷状態の外部電圧、電流、回転数の全データより、次の二つのグラフを作成する。

 ひとつは、測定された電圧 E と電流 I より、次の式を使用して回転数Nm を計算し、実測値との計算値の比較グラフを作成する。

    

 もうひとつは、デルタ電圧δと勝手に名づけた数値を下記の式で計算し、回転数を横軸にしてグラフ化する。

    

 この時、Ra の定数を今までのデータを参考にして、仮の値を設定し、
  δ = E - Ra・I
の計算により、左のグラフを作成する。 このデルタ電圧δの特性の勾配を Ke、Y切片をEb として、Nm を計算して右上のグラフを作成する。

 この( Ke 、Ra 、Eb )の定数セットを用いて右上のグラフにおいて、計算値と測定値の関係が、 y = 1.0000x ±0.00 により近ずくように、Ra を修正しながら適切値を求めて行く。

 このグラフの状態での定数の数値は、 Ra = 13、Ke = 0.0002633、Eb = 0.16 となった。

 

2)トルク系定数の推定

 

 

 同様に、回転数 Nm 、電流 I 、出力トルクTm’のデータより、Kt 、Rm 、λm の定数を推定する。 負荷と無負荷状態の外部電圧、電流、回転数の全データより、次の二つのグラフを作成する。

 ひとつは、測定された電流 I と回転数Nmより、次の式を使用して出力トルクTm’を計算し、実測値との計算値の比較グラフを作成する。

     

 もうひとつは、モータ軸損失に対応する数値を下記の式で計算しグラフ化する。

     

 この場合も上記と同様であり、Kt の値を今までのデータを参考にして、仮の値を設定し、
  モータ軸損失 = Kt・I - Tm’

として計算し、左のグラフを作成する。 このモータ軸損失の特性の勾配をλm 、Y切片をRm として、Tm’ を計算して右上のグラフを作成する。

 この( Kt 、Rm 、λm)の定数セットを用いて、右上のグラフにおいて計算値と測定値の関係が、 y = 1.0000x ±0.00 により近ずくように、Kt を修正しながら適切値を求めて行く。

 

 このグラフの状態での定数の数値は、 Kt = 257、Rm = 16.213、λm = 0.0006406 となった。 

 それぞれの推定された定数をまとめると右の表のようになる。

 

 

 今回の方法では、作業は意外と簡単で、細かい数値まで推定出来そうであるが、もともとの測定データの精度もあるので、ほどほどのマッチング具合で良しとすべきであろう。 さらに、これらの推定した値を用いて、他の特性値でも測定値と計算値がマッチング状態を見ておく必要があろう。

3) 無負荷特性とモータ特性のマッチング具合

 実測データのグラフの上に、推定した定数を用いて計算したデータを赤線で示す。 

 モータ特性では、もう少しと言う感じがしないでもないが、実測値と計算値は良く合致しており、モータのモデルとしては充分に活用出来ると言える。