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小型のターンテーブル式実験装置を作ろう 動力特性の測定方法

 小型のターンテーブル式ジオラマを作っていますが、ジオラマ工作として一区切り出来たので、当初のねらいのように「特性解析 今後の課題」に記したアイディアを追って行くことにしました。そこでまず、動力車の測定方法について昔のレポートを振り返って整理します。

 

■ 実際の動力車両での測定方法

 まず、測定方法の参考として、現実的に実施されている実車の動力特性の測定方法について、述べておこう。

 

1) 蒸気機関車の定置試験台

 一番注目している測定法は、大正3年に国鉄の大井工場の中に設置された蒸気機関車の定置試験台である。この内容は、「鉄道模型工学概論 動力特性の測定方法」(2010/12/15)で紹介しているが、再掲載してみよう。元資料は、鉄道ファン(交友社)1981年7月号(243号) P100 - 106 横掘 進氏/木村 修氏の紹介記事である。さらに、鉄道総合技術研究所の出版物であるRRRの、2012年6月号 Vol.69 No.6 鉄道総研の技術遺産 のP34 「鉄道総研の技術遺産 車両試験台物語」(PDF)でも同様に紹介されている。

 ここでは、鉄道ファンの紹介記事より、画像を無断借用して説明しよう。

 蒸気機関車の各動輪は、ブレーキ装置付きの支持車輪の上に玉乗りになっている。そして、車体後部は引張力測定用油圧ダイナモメータを介して固定されている。各装置は時代とともに改善されていたようであるが、測定原理は同じである。

 動輪で発生した牽引力は、車両後部の引張力測定器で計測され、車速は支持車輪の回転数によって計測される。動輪にて発生した牽引力は、支持車輪を回転させる回転モーメントとなり、この軸に連結されたブレーキ装置、即ち動力吸収装置によって動力が吸収されるのある。

 そこで、このブレーキ力を調整、即ち、抵抗力を調整すれば動輪に発生する牽引力を調整できるのだ。説明によると、「オルデン式ブレーキ装置」とあるが、ドイツ製の水を使った動力吸収装置のようである。おそらく、大学や企業の研究室やテスト部門で、いろいろなエンジンやモータの大型ベンチ試験用として用いられていた動力吸収装置であったと推察される。

 この動力吸収装置がこのような試験機の要となり、現在は電気的に処理でき、構造が簡素となった発電モータ式の動力吸収装置となっていると、部外者の小生は憶測している。

 

2) 現在の鉄道車両の試験装置

 新幹線や電車など、新開発の車両では、同様な定置試験台を使われているが、構成的には上記と同じであり、動力吸収装置として発電機を使用して制御を自動化しているようだ。上記の鉄道ファンでも、「今日の車両試験台」として、紹介されているし、鉄道総合技術研究所では「高速車両試験台」としても紹介されている。

 

3) 自動車分野での試験装置

 鉄道と同じように車輪で駆動する自動車においても、同様な試験装置が用いられている。それはシャシダイナモと言われる装置で、公益財団法人日本自動車輸送技術協会(JATA)の「技術解説ーシャシダイナモメータによる車両評価」などにて、説明されている。

 装置は、大きな回転円筒の上にタイヤを乗せて、その回転円筒に掛かる回転力を電気動力計(ダイナモメータ)で調整しながら動力を吸収させて試験を実施するもので、測定原理は上記の鉄道車両の場合と同じである。

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 このように、鉄道車両や自動車など、車輪を使って駆動する動力車の試験装置は、同じ原理によって実施されていることが分かる。車輪の駆動力を円筒や円盤に伝え、そこに連結されている動力吸収装置によってその駆動力を調整しているのである。また、発生している駆動力(牽引力)は車体を固定する部位で容易に計測できるのだ。

 

■ 実験装置の模索

 鉄道模型工学と銘打って始めた屁理屈であるが、自分の考えが正しいのかどうかを証明しておく必要があると考えていた。このためには、動力特性を把握できる実験装置を作る必要があったのである。こうして始めた実験装置の手作りであるが、動力吸収機構をどのように構成するか、一筋縄には行かなかったのである。

 そして、今回の取り組みが、その原点復帰になっていることに気が付いたので、今までの苦労の足取りを整理しておくことにした。

 

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1) 坂道方式での実験

 最初に始めたのが長さ180cmでの直線登坂路での速度計測であった。負荷は坂道抵抗を利用するので、簡単な構成で実験可能である。

 測定結果は、大まかな特性は把握できたものの、往復運転のため作動が停止してしまい、連続運転状態とは言い難く、手間のかかる実験方法であったので、すぐにあきらめた。「動力特性の測定方法」(2010/12/15)を参照下さい。この時の測定データを右のグラフに示します。電圧 4.0volt、6.0volt、8.0volt によって特性が右に移動していることが良く分かる。特性は予想どうりの傾向を示しており、理論式の自信を強くした最初の実験データでもあった。

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2) 円盤方式での実験

 ベニヤ板を円盤状に切り抜き、回転可能に支持したうえで線路をひいて、実際の試験装置をまねて工作した。左の写真。

 しかし、円盤の回転抵抗が大きく、Nゲージの動力車ではこの円盤を回転させることすら出来なかった。まして負荷調整などもできなかったのである。ここからが泥沼に入り込む入口だったのである。「動力特性の測定方法」(2010/12/15)を参照下さい。

 

3) 円盤をモータで強制的に回転させる方式の課題

 でも、まてよ、模型の駆動力で線路装置を回転させるのではなくて、強制的にモータ等で回転させて測定出来ないかと考えるようになった。「動力特性の測定方法」(2010/12/15)を参照下さい。そして、四苦八苦しながら改良を加えたが、この測定方法には、一つの不安があったのである。

 自動車のシャシーダイナモや蒸気機関車の定置試験装置は、車輪を載せ、道路の代用としたローラや、レールの代用とした円盤にブレーキとしての負荷を掛け(専門家は動力吸収というそうだ)、その反力として生じる車体の牽引力を測定する方法である。この方法での試験装置では牽引力と速度の特性は問題なく測定できるのある。 しかし、別の駆動源を使って強制的に回転させる場合には、様子が異なってくるのである。

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 今まで実施した動力車特性の測定結果より、牽引力と車速との関係は、供給電圧が一定の場合、一般的に右のイラストに示すような特性を示します。縦軸Y の上側(プラス側)が駆動状態で、マイナス側が制動状態です。横軸V は車速を示します。

 無負荷走行時のイより、牽引負荷が大きくなると動輪の粘着力限界のロに達し、動輪が空転してハに至ります。一方、マイナスの牽引力、即ち制動状態では変異点ニを経由して、ブレーキ側の粘着力限界に達し、動輪は回転するものの、それ以上に車輪が滑ってしまって、車速が増加してしまいます。

 このような、クランク状の特性を有する場合の測定方法は、一筋縄では行きません。測定誤差や特性の不安定さを考慮し、より安定したバラツキの少ない測定方法を採用する必要があるのです。

  1. 供給電圧を一定にし、牽引力に相当する負荷を与え、その時の車速を測定する。・・・・・・ 図のX測定法
  2. 供給電圧を一定にし、車速を一定にし、その時に発生する牽引力を測定する。・・・・・・・ 図のY測定法

 線路装置を強制的に回転させて、一定位置にとどまっている車両の牽引力を測定する方法、即ち、Y測定法は可能である。 しかし、この状態では、ハロ間の特性は容易に測定できるが、ロイ間やイホ間では、負荷すなわち牽引力がばらついたり不安定となり、測定出来ない恐れがある。 わずかな速度設定の違いにより(あるいは測定誤差により)、ロ点からホ点のどこに位置するかが、大きく変わってしまうからである。 

 この間では逆に、負荷すなわち牽引力をある値に設定して、車両が一定位置に留まるように、線路装置の回転速度を調整し、その時の速度を測定すれば、安定的に精度良く測定できる。 即ち、X測定法である。

 もし、この二つの方法をうまく使い分け、かつ同一の装置で容易に測定できれば、線路装置をモータで強制的に回転させ、摩擦抵抗を気にすることなく、ホビーでの手造り実験装置でも測定出来ることとなるのである。

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4) やじろべえ式負荷を備えた回転式実験装置

 この方式は、モータにて駆動される円盤上で動力車を走らせるのだが、動力車には一定の負荷を与えるものの、その走行位置はある一定の場所に留まるように回転円盤の速度を調整するのである。走行位置への自由度を保ちながら負荷を与える方法として、滑車を介して重りを吊り下げる方法もあったが、やじろべいの機構を用いて構成した。「定置実験装置の製作」(2010/12/15)を参照下さい。

 

  この方法にて、より詳しい測定データが計測できるようになったが、測定精度などの疑問があり、実験装置の改善が求められた。「まとめ」(2010/12/15)を参照下さい。

 

5) 円盤式傾斜台を使用した測定方法

 やじろべいの機構の改善として、回転円盤台を傾斜させ、重力による坂道負荷を与える方式を検討した。「円盤式傾斜台を使用した測定方法」(2011/7/31)参照。制動域での挙動など新しい発見はあったものの、より信頼性のあるデータにする必要があった。

 

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6) 傾斜台式測定法

 測定台を少しずつ傾斜させて重力による負荷を車両に掛け、走行速度は車両自身が決めるので走行上の不安定性が解消されるのではないかと考えた。調整可能な傾斜台に長円形の線路をひき、走行させるのであるが、登坂では牽引力、下り坂では制動力が同時に測定できるのである。

 負荷としての駆動力は、動力車と重り車両の重量を測定しておき、傾斜角より計算で求める。車速は線路上に設けた速度計測ゲートの通過時間にて計測する方式である。この方法では安定したデータが取得で出来るようになったが、上記のX測定法なので、粘着領域での計測には限界があった。「傾斜台式測定法」(2011/8/13)を参照下さい。

 その後、Arduinoマイコンを活用して測定の自動化を実施し、測定作業を効率化すると共に、データの信頼性を向上させた。そして、静的特性ながら解析した理論特性に照らし合わせ、取得したデータの内容を理解することが出来るようになった。その内容については、「特性線図から何が読み取れるか」(2014/7/8)を参照下さい。

 

 

7) スリップ率と電圧降下の測定

 理論特性とデータを比較する中で、スリップ状態での挙動をさらに解析する必要に迫られた。このためには、モータ単体での特性測定や、動輪のスリップ状態と走行中のモータ端子電圧の測定は求められた。 モータ単体の特性測定装置を工夫すると共に、動力特性実験装置でも工夫した。モータの回転数と端子電圧を測定すれば良いのあるが、何しろ走行中の模型車両からどうやってデータを取り出すかが問題なのである。

 

 その方法として、動力車にモータ回転数を計測するセンサを取り付けて、パルス信号として赤外線通信による送信し、モータ端子電圧はアナログ信号として無線通信で送信する測定車を工作した。右上の写真。詳細については「テスト車両を走らせる」(2014/11/18)などを参照ください。

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 そしてこの方法で計測できることが判明したのであるが、やはり課題があったので、有線でデータを送信する方法に変更した。有線を使う場合は、通信線のねじれが問題であったが、走行路を8の字にすることによって、この問題をクリアーさせた。

 

 これによって、動輪のスリップ率とか給電機構の電圧降下現象などをとらえることが出来るようになり、モータ単体での測定結果と合わせて、動力特性の解析が、理論と実験での検証を進めることが出来たのである。

 上のグラフは、数式によって組み立てられたモデル式の係数を実験データから求めて式の同定を行い、実験データと比較したものである。これによって、式を構成する摩擦などの係数が妥当であることが判断でき、この係数を使ってそれぞれの車両を比較すれば、その模型モデルの特徴が明らかになるのである。

 詳しくは、「鉄道模型工学 目次」、「鉄道模型工学 目次 再編集版」、「第4次特性解析 抗力係数に注目して解析する」(2019/6/26)などを参照してください。

 

8) 新しい動力測定装置を作る

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 鉄道模型の動力特性について、理論と実験での検証が完成したと判断していたので、暫くの間お休みしていました。そしてKATOの86モデルが発売されると言うことなので、それまで未測定だった車両を含めて、測定を再開したのですが、装置が正常に作動しないことに気が付きました。

 それは、リアルタイム処理のExcelのデータ処理がおかしい事と、測定データが2重になることでした。「動力測定装置がおかしい?」(2020/8/27)を参照。

 このため、測定台の改良がやはり必要と断定し、今の測定台に手を加えるよりも、新規に制作する方が確実であると判断して作り直すことにした。そして

  1. 測定項目は基本特性だけに絞ろう。
  2. 測定台は剛性のあるしっかりした台にしょう。
  3. 測定の自動化をもう少し進めよう。

の三つの方針を決めて工作を実施した。

 「新しい動力測定装置を作ろう」(2020/9/15)を参照下さい。完成した装置の内容については、「新測定台のまとめ」(2020/10/21)を参照下さい。

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 その後も、EXCELのマクロが機能しないトラブルが発生したため、代わりになる処理方法を検討した。EXCELのマクロの代わりに Pythonを使う という新しい流れを活用しました。「リアルタイム表示トライ」(2022/6/15)などを参照下さい。

 

■ 今回の取り組み

 さて、前置きが長くなりましたが、自分なりにいろいろやって来たなー!という感想です。そして、まだまだ課題が残っている事も事実ですが、もう探究する気力が失せていました。

 ところが、先回から始めた「小型ターンテーブル式のジオラマを作ろう」のプロジェクトを進めるうちに、モータ駆動部とターンテーブルの間に、ブレーキ装置などの動力吸収機構が盛り込めれば、シャシーダイナモの様な測定ができるのではないかと考えるようになったのである。

 これは取りも直さず、動力車の特性実験装置の原点復帰なのである。そのポイントは、動力吸収部分をどのように作り込むかにあるのです。今までのような大きな装置では無くて、400mm×400mm のコンパクトな装置であり、測定対象はBトレなどの小型車両であるので、気負うことなくのんびりと工作を楽しんでいくことにします。

 

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2023/9/10