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鉄道模型実験室   マイクロのC56-160号機のバック走行特性

■ はじめに

 さる10月14日に「C56-160号機の特性を測定する」を報告した。 この中で、マイクロのC56-160号機を測定するも、自分で言い出した諺である「MICRO-ACE製C56はバック走行で坂道を走らせよ!」が嘘であるとの測定結果が出てしまった。 以前測定した結果とは異なるデータを前に、原因が解明できないまま、混乱中であった。

 その原因として、重り車両の連結位置の違いや、トラクションタイヤの変更なのを疑っていたが、今回これらを検証してみることにした。

 

■ いきさつ

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 MICRO ACE 製のC56形は、トラクションタイヤを第一動輪に履いている。 通常は最後の動輪か一つ前の動輪にトラクションタイヤを履かせる場合が多いのに、何故か知らぬが、これは荷重配分から考えると不利なように思われる。 坂道において、機関部の重心が高いと、重量配分は後ろの方に移動するし、カプラーに掛る牽引力は、そのモーメント作用により前輪を浮かす方向に作用する。 小生の牽引力測定装置は傾斜を利用して測定しているので、その影響が出るのではと考えており、MICRO製 C56-160 号機のバック走行を測定してみることにした。 ⇒ 「C56のバック走行を調べる」 を参照下さい。  その報告日は2012/11/30である。

◆ C56のバック走行の測定結果

 その測定結果を右に再掲載する。 前進走行ではおよそ15グラム前後の粘着牽引力であったが、後進走行では、30グラムにも達していた。 この時の測定状態を再現したのが下の写真である。

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 この結果より、前進で登れない様な急坂はバック走行で登れという昔の自動車の常識にならい 「第1動輪にトラクションタイヤを履いたマイクロのC56はバック走行で坂道を走らせよ」 と言い出したのである。

◆ C56-125号機の動力特性

 その後、自動測定システムを使用して蒸気機関車の動力特性の再測定を進める中で、同じマイクロ製のC56-125号機の動力特性を調査した。 この時は前進時と共に後進時の特性も測定した。 その結果は、「C56-125号機」の動力特性の調査結果に示すが、下に再掲載する。 測定実施日は2013/10/4である。

 

 この結果より、「第1動輪にトラクションタイヤを履いたマイクロのC56はバック走行で坂道を走らせよ」の諺は生きている事を証明していると考えていた。

◆ C56-160号機の動力特性

 しかし、その次に測定したC56-160号機では意外な結果が出てしまった。 測定実施日は2013/10/14である。  同じくその結果を下に再掲載する。

 

 上のグラフに示すように、粘着牽引力が小さくなっており、バック走行は前進とほば同じ値になっている。 同じ車両なのに・・・・。 分解・再組付けなどでいじくり回したのが原因だろうか? 動輪の滑り始めも明確ではないし、通常の蒸機と何ら変わらないのである。 なぜ?

 

■ 検証実験

 疑問が生じた時は徹底して追求しておくのが我がモットーである。 いろいろ考えた追求のアイディアを検証して行こう。

◆ 重り車両の連結位置の違い

 まず最初に疑った事として、車体に掛る力やモーメントの違いが影響しているのでないかと考えた。 昨年11月の測定時は、上記の写真のようにテンダー側に重り車両を連結してバック走行にて坂を登っていた。 このため、動輪のある動力部には、ドローバーを通して負荷が掛ることになる。 一方、先日の測定時には重連カプラーを工作しているので、動力部のフロント側に重り車両を連結してバック走行にて坂を登っている。 負荷はカプラーを通して動力部に直接掛ることになる。

 ドローバーを通して負荷を掛る場合には、その作用点の高さが少し低い様なので、モーメントとしては小さいはずと思いながらも、まずは実験する事にした。

 

 この測定時の状態を上に示す。 供給電圧が 5.0volt の状態で牽引力特性を測定したが、その結果を下に示す。

 

 重り車両を前に連結しても後ろに連結しても、牽引力-速度特性ではピッタリ一致している。 変化無しである。 牽引力-電流特性を見ると前に連結した場合にはやや電流値がアップしている様なので、負荷が少し多めに掛っているとも推測される。 しかし、今回の疑問に対する回答では無いと判断した。

 即ち、重り車両を前に連結しても後ろに連結しても 「影響無し」 と結論付けることにした。

 

◆ トラクションタイヤの変更

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 C56-125号機とC56-160号機とは何処かが違ているのではないかと、二つの車両をを裏返して並べ、動輪部分を観察した。 違う!・・・・・・・・。  トラクションタイヤの様子が異なっているのである。 純正品のタイヤを履いているC56-125号機と、代替品を履いているC56-160号機とでは右のイラストに示すような形であった。 純正品の場合は溝に隙間があり、縁のリムの部分よりも高くなっているのである。 ノギスで当たって見ると、直径でφ9.5mm もあり、0.3mm も大きいではないか。

 このため、ゴム製のトラクションタイヤを変更した事が影響しているのではないかと考えて、もともと装着されていた純正品のトラクションタイヤを取り出し、再装着をする事にした。

 代替品を取り付けたいきさつは、「C56の動力特性を調べる」(2012.11.26)で動力特性を測定中にトラクションタイヤが外れるトラブルが発生し、ゴム系接着剤で応急処置を実施したものの、その後の分解調査時に、KATO製のZ02-1575 トラクションタイヤφ7にを交換している。 マイクロ製のタイヤはゆるゆるであったため、緊迫力のあるタイヤに交換し、車輪径も他の動輪と同等であることを確認している。

 ちなみにトラクションタイヤの寸法は、マイクロの純正品(最初に装着されていたもの) がφ9.0×0.7×0.3mm であり、KATO製のZ02-1575はφ7.5×1.0×0.3mm である。動輪の溝は、溝底径がφ8.8 、溝のリム径がφ9.2 、溝幅が0.9mm であった。 これらはノギスで測定したものであるので多少の誤差はご容赦下さい。

 再装着に際しては、溝の部分にゴム系接着剤を少量塗布してからトラクションタイヤを装着した。 そして測定した結果を下に示す。

 

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 データは予想通りの傾向を示しており、粘着牽引力は30グラムに達していた。5volt 、6volt と測定を続けていたがどうも腑に落ちないないのである。 トラクションタイヤの形や直径が少し違うからと言って、牽引力が2倍近くもアップするのか?  こんな疑問を抱きつつ測定していたが、ハッと気が付いた。

      ・・・・・・・ へまをやらかした様である。 ・・・・・・・・・

 そこで、「マイクロのC56を加工する」(2013.10.5)にて工作したバック走行専用の貨車を持ち出し、機関車と重り車両の間にこの貨車を連結して 7.0volt のデータを測定した。 グラフに示された如く、粘着牽引力は20グラム強なのである。 この10グラム分の差は?   ・・・・・・それは測定方法のミスなのです。

 ここで使用していた重り車両は、鉄コレ用の台車を使用し、カプラーはカトーカプラーN を使っています。 ご存じ様に、この台車のカプラーポケットは台車とスライド可能な方法で装着されているため、その高さを変えることが出来ます。 この構造を活用してC56のカプラーの高さに合わせて連結させていましたが、測定中にズレて来て自然解放をたびたび発生していた。 そこで、今回の測定時には、機関車と重り車両のカプラーを細く切ったセロテープでぐるぐる巻きにして固定していたのです。 しかし、測定中にカプラーポケットがズリ落ちてくると、重り車両の重量がカプラーを介して機関車の前端に掛ってしまい、機関車を押しつける事になったと想定します。 これによって第1動輪に掛る荷重が増加し、粘着力が増えたものと判断しています。

 専用貨車を間に連結することによってこのトラブルを回避する事が出来るので、7.0volt のデータは本来の牽引力を示していると結論付けました。 この状態で改めて測定した結果を下に示します。

 

 

 バック走行はやや不安定の走行を示し、ふらつく場合もありましたが 20グラム強の粘着牽引力を示しています。 前進走行の 15グラム前後の牽引力とは3割もアップしている事になり、バック走行が得意である事が再び証明されたと考えています。

 前進時の牽引力データを見ていると、駆動側の牽引力は早くに頭打ちになるのに、制動側では倍以上の負荷でも頑張っています。 バック走行では駆動側と制動側ではほぼバランスの取れた状態になっています。 レイアウトでは一般にエンドレスに設定されており、登り坂があれば当然下り坂があります。 その勾配もなるべくなら同じ様になるように設計すると思います。 このため、駆動側と制動側での粘着牽引力は同じになるように設定するのが妥当と思いますが、如何でしょうか。

 また、純正品のトラクションタイヤの場合、細くて飛び出しているので、ゴム部分がレール面から外れてしまい、走行中に引っかかりが発生しているのではないかと疑っています。 測定中に曲線路で、なぜか突然停車してしまうことがたびたび発生しており、不安定な走行の原因ではないかと思っています。 ノギスで第1動輪のトラクションタイヤの位置をあたってみると、確かにレール面から外れる場合があった。 そこで、この動輪をマイナスドライバでこじり、車輪幅を少し広げています。 バックゲージを広げていることになります。

 

■ まとめ

 今回の検証により、

     自分で言い出した諺である 「MICRO-ACE製C56はバック走行で坂道を走らせよ!」 は嘘では無いと言える。

 しかし、通常の走行状態での牽引力を犠牲にしてまで、トラクションタイヤを第1動輪に履かせたのは、何故なのだろうかと言う疑問は解消されていません。 もしも、一般的なモデルのように、第3動輪にトラクションタイヤを履かせたらどうなるのだろうか、前進走行時の粘着牽引力がアップするのではと想定しているのですが・・・・・・・・・。

 また、このモデルのように、車輪の踏面よりもはみ出したトラクションタイヤは、本当に問題無いのだろうかとの疑問もあります。 他のメーカーの動輪を見ていると、踏面と殆んど面一(つらいち:段差のない面のこと)になっているのが多いと見ているのですが。